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憧れの探偵

調査ごっこ

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 二つ返事でその依頼を引き受けたよ。

 おやおや、ふぅん。鬼柳ちゃんはぼくをチョロい子どもだったと思っているみたいだね。まあ、舞いあがっていたのは事実だったから強く否定もできないのだけどさ。

 でも、そうだね。きっと、田中さんは子どもをのせるのが上手いひとだったんだ。なんて言うのかな。操るというか、こう、上手く心を誘導していくんだよ。

 田中さんはね。父ちゃんにサプライズを考えていると言ったんだ。その準備のためにも普段見せてない顔を知りたいと。色々と調べて報告して欲しいと頼んできた。

 父ちゃんには内緒で行う身辺調査だ。

 この探偵らしい、如何にもな依頼には流石のぼくもね。品行方正、質実剛健、剛毅木訥を信条にしているぼくを以てしても、探偵心をくすぐられてしまったものだよ。

 あら、やっぱりチョロいのかな。

 こうして密かな調査ごっこが始まることになった。なにせ初めての依頼だったからさ。おばかな子どものぼくが、ついついやる気を出しちゃうのは想像に容易いよね。

 なあに、心配はご無用さ。こう見えてもぼくは腕に覚えがあった。こんな事もあろうかと思って、常日頃から友達相手に練習してきた甲斐があるってもんさ。ちょいとばかし、調査には手慣れているのだよ。

 と、自信もたっぷりだった。

 まあ、そうは言ったもののだよ。ぼくが今まで勝手にやってきた調査ごっことは、やっぱりどうしても勝手がちがうものだ。なにせ、今回は依頼人がいるんだからね。

 相手の知りたい情報を調べて報告をしないといけなかった。そして困ったことに調査する内容は、父ちゃんが普段は見せない顔というあやふやとした物だった。

 それにはどんな情報が必要になるのか、ぼくには正直よく分からなかったんだよ。だから、分かりうるすべてのことを報告していくことにした。もうそれこそ思いつく限りのことを思いつくたびに、逐一ね。

 それからもずっと田中さんからは定期的に電話がかかってきていたし、幸いなことに家の中はぼくひとりだけだったからさ。ひとりの時間がたくさんあったことだし、なんの造作もない。

 ぼくの調査は、順風満帆だった。
  
 何をすればいいのか詰まることもなく、ちゃくちゃくと進展していったものだよ。流石のぼくだった。と言いたい所だけど。

 冷静にいま考えてみるとだね。田中さんはひとを使うのが上手かった、というだけの話なんだろうな。

 まずは褒めてくれるんだ。最初ぼくはそれこそまるっきり見当違いの報告をしていたんだと思う。それでもね、とりあえず褒めてくれるんだ。そして次回の改善点をひとつだけ、そっと教えてくれるんだよ。

「次はアレを調べてみようか」
 とか、
「コレをお父さんに聞いてみようか」
 とか、
「ソコには何があるのかな」
 っていう風にね。

 言われたひとつひとつを丁寧に調べていくとさ、次にはまたその進展があってと。

 まるでぼくが主人公である推理小説を読んでいるような、わくわくとした気分にもなっていった。ページを捲る手はね、止まることを知らなかった。どんどん調査は楽しくなって、より夢中になっていったよ。

 え、両親にはバレなかったのって? 

 うん、それはね。大丈夫だったよ。ぜんぜん問題なかった。きっと弛まぬ努力が、きびしい練習の成果が実を結んだのかな。探偵はとても優秀な腕を持っていたのさ。

 調査の結果ね。開けっぱなし、出しっぱなしを注意される事はままあったけど、調査には犠牲が付き物だというじゃないか。だから、ぜんぜん問題はなかったと思う。

 まあ、それもあるし。

 いくら推理小説好きの父ちゃんだって、まさか自分の息子が探偵になっているなんて超展開、推理しやしないだろうからね。警戒している素振りはなかったよ。

 されなくて当たり前だけど、ね。
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