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正義の心
驚いた物
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如何にぼくが働き者。もとい、なまけ者だったのかをお聞き願おうじゃないか。
「昨日の話なんだけどね」
と前置きをし、話しはじめる。
わざわざ前置きする辺りが、ぼくの働き者たる所以なのは言うまでもないことだ。
「その不思議な本に気付いたのはね、書架整理をしていた時のことなんだよ」
「書架整理?」
こくりと頷いて、カウンター席の中に溜まった本の山を手でうながす。山となっているのは、ぼくがなまけ者たる所以だ。
「貸し出した本の片付けは、どうしてなのか図書委員の仕事になっているんだよ」
本の返却はカウンター席に持ってきてもらい。返却の証として図書カードに捺印の後、ぼくら図書委員が本棚へと片付けることになっている。ただ、借りていない本についてはその限りじゃないのであった。
「中にはね、借りて行かずに図書室で読むひともいるじゃないか。そして残念なことにね、きちんと元あった場所に戻してくれるひとばかりじゃないんだよ」
きちんと戻す派なのか、
「そうなの?」
と鬼柳ちゃんは小首をかしげている。
図書室の本を読まない派のぼくは、
「そうなんだよ」
と、大仰に頷いておく。
働き者なぼくは、委員の時間は謎作りに没頭するものと決めているのだった。本を読んでいる暇などあろうはずもない。
鬼柳ちゃんはちょいと背伸びをし、大きく目を開いて近くの本棚をながめている。本当かどうかを確かめているのだろう。
まあ。本棚の乱れを知らなかったとしてもそれは無理からぬことだ。図書委員でもなければ普通はとくに気にするものでもないだろう。鬼柳ちゃんの背がちいさくなるのを待ってから話をつづけていく。
「本のジャンルが正しいところにあれば、まだ上出来な方かな。並び順もとなると難しいね。合ってる方が、稀かもしれない。それをぼくら図書委員が直すんだけどさ」
これもひょっとしたら委員しか知らないことなのかもしれないと思ったので、かるく説明しておくことにする。
「鬼柳ちゃんは請求記号ラベルって知ってる? 並び順とかを分かりやすくする物なんだけどね。ほら、見たことないかな」
「どんなのだっけ」
と、さっきとは逆の方向に向かって小首をかしげはじめた。
烏の濡羽色のようなボブヘアが揺れる。その素振りがなんだか首振り人形みたいだなあと思いながら、説明する。
「カタカナと数字の書かれたシールだよ。学校の本にはだいたい貼ってあると思うんだけどね。うちの学校も例外じゃないよ」
「ふーん」
首振り人形はなおも揺れていた。
あまりパッとは来てないみたいだった。たまたま手元にあった普段なら無いぼくのなまけ者の一部を手に取り、背を見せる。
「ほら、これだよ」
『913、カ』と、印刷されたシールを指差してみせる。シールは三段に区分けされていて、それぞれがどんなジャンルの、誰が書いた、何冊目かを表している。これを目安に並び順を正していくことになる。
ラベルの意味をかいつまんで教えると、
「へえ、知らなかった」
と驚きの色を隠せないようだった。
ぼくのなまけ者も時には役立つものだ。口を開けたままあまりにも驚くので、よせやい褒めるなよと照れくさくなってくる。
「守屋くん、ちゃんと図書委員なのね」
驚きの色はあせないようだ。
「それでね、整理していく内にさ。そのラベルが貼られてない物が混ざっていることに気付くんだ。そこには学校の管理してない本が並んでいるんだよ。不思議だよね。知らない間に本が増えているんだから」
「それが小人の仕業なの?」
鬼柳ちゃんは目を丸くしている。
「そうさ、夢があっていいよね」
のほほんとした気持ちで言った。
「守屋くんが夢を見ていなければ、起こらなかったと思うんだけど」
とほほんとした気持ちになった。それはまあ、ごもっともな意見だったから。
「昨日の話なんだけどね」
と前置きをし、話しはじめる。
わざわざ前置きする辺りが、ぼくの働き者たる所以なのは言うまでもないことだ。
「その不思議な本に気付いたのはね、書架整理をしていた時のことなんだよ」
「書架整理?」
こくりと頷いて、カウンター席の中に溜まった本の山を手でうながす。山となっているのは、ぼくがなまけ者たる所以だ。
「貸し出した本の片付けは、どうしてなのか図書委員の仕事になっているんだよ」
本の返却はカウンター席に持ってきてもらい。返却の証として図書カードに捺印の後、ぼくら図書委員が本棚へと片付けることになっている。ただ、借りていない本についてはその限りじゃないのであった。
「中にはね、借りて行かずに図書室で読むひともいるじゃないか。そして残念なことにね、きちんと元あった場所に戻してくれるひとばかりじゃないんだよ」
きちんと戻す派なのか、
「そうなの?」
と鬼柳ちゃんは小首をかしげている。
図書室の本を読まない派のぼくは、
「そうなんだよ」
と、大仰に頷いておく。
働き者なぼくは、委員の時間は謎作りに没頭するものと決めているのだった。本を読んでいる暇などあろうはずもない。
鬼柳ちゃんはちょいと背伸びをし、大きく目を開いて近くの本棚をながめている。本当かどうかを確かめているのだろう。
まあ。本棚の乱れを知らなかったとしてもそれは無理からぬことだ。図書委員でもなければ普通はとくに気にするものでもないだろう。鬼柳ちゃんの背がちいさくなるのを待ってから話をつづけていく。
「本のジャンルが正しいところにあれば、まだ上出来な方かな。並び順もとなると難しいね。合ってる方が、稀かもしれない。それをぼくら図書委員が直すんだけどさ」
これもひょっとしたら委員しか知らないことなのかもしれないと思ったので、かるく説明しておくことにする。
「鬼柳ちゃんは請求記号ラベルって知ってる? 並び順とかを分かりやすくする物なんだけどね。ほら、見たことないかな」
「どんなのだっけ」
と、さっきとは逆の方向に向かって小首をかしげはじめた。
烏の濡羽色のようなボブヘアが揺れる。その素振りがなんだか首振り人形みたいだなあと思いながら、説明する。
「カタカナと数字の書かれたシールだよ。学校の本にはだいたい貼ってあると思うんだけどね。うちの学校も例外じゃないよ」
「ふーん」
首振り人形はなおも揺れていた。
あまりパッとは来てないみたいだった。たまたま手元にあった普段なら無いぼくのなまけ者の一部を手に取り、背を見せる。
「ほら、これだよ」
『913、カ』と、印刷されたシールを指差してみせる。シールは三段に区分けされていて、それぞれがどんなジャンルの、誰が書いた、何冊目かを表している。これを目安に並び順を正していくことになる。
ラベルの意味をかいつまんで教えると、
「へえ、知らなかった」
と驚きの色を隠せないようだった。
ぼくのなまけ者も時には役立つものだ。口を開けたままあまりにも驚くので、よせやい褒めるなよと照れくさくなってくる。
「守屋くん、ちゃんと図書委員なのね」
驚きの色はあせないようだ。
「それでね、整理していく内にさ。そのラベルが貼られてない物が混ざっていることに気付くんだ。そこには学校の管理してない本が並んでいるんだよ。不思議だよね。知らない間に本が増えているんだから」
「それが小人の仕業なの?」
鬼柳ちゃんは目を丸くしている。
「そうさ、夢があっていいよね」
のほほんとした気持ちで言った。
「守屋くんが夢を見ていなければ、起こらなかったと思うんだけど」
とほほんとした気持ちになった。それはまあ、ごもっともな意見だったから。
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