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見変える

焦りの色

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 はたしてこれは、ぼくの創造した謎なのかしらと首をかしげてしまいたくなるものだった。まあ、ナイフが出てくる以外なら概ね計画通りではあったのだけれども。

 あとは鬼柳ちゃんとの謎あそびを楽しみながら解きつ解かれつ、盛大なるフィナーレを迎えるはずだったというのに。まさか犯人である坂本くんが犯人は他にいて、自分はやってないと言いだしてくるとはね。

 はて、どうしてこうなっちゃったのか。

「どうしてだと思う?」
 と鬼柳ちゃんに相談するわけにもいかないので、ひとり悶々としておく。

 その隣では、坂本くんがちいさな探偵の問い詰めを必死になって弁明していた。

 どちらにせよ、坂本くんは言い逃れできそうになかった。時間の問題だったろう。じつはぼくの計画でも、坂本くんが咎められることはおり込み済みだったのである。

 動機があって怪しい人物を犯人とするのなら、もっと動機を隠す為の工作が必要になってくるというのは知っていた。でも、ぼくはそうしなかった。最初から隠し通せるような計画は立てていなかったのだ。

 そもそも。いや、だからこそナイフなんて物は使わない。使っちゃいけなかった。あくまでもイタズラで済む方法でボールを隠すけれど、坂本くんの犯行は露見する。

 そして彼が犯行に至った理由がまわりに知れ渡る。その兄弟愛に訴えかけてバスケ部の練習量を一度、学校側に見直させる。

 ──はずだったんだけどな。

 ナイフね、と口を曲げる。そんなものを残していったらどうなっちゃうのかはわかりそうなものだ。冗談じゃすまなくなる。
 
 この犯人は何をあせっていたのだろう。

 まるで余裕がないように思えてくる。結果としてはぼくの望んだ形に近くもあるんだけどナイフなんて使うものだから、あわや警察沙汰になる所だった。

 どうにも、謎への美学がたりてないね。どんなものが謎たるものかと、ぼくが手ほどきをしてあげないとダメかもしれない。まだ見ぬ犯人よ、観念しておくがいいさ。
 
 鬼柳ちゃんは腰に手をあて、言った。

「もう観念しなさい」

 ──はい、観念します。

 と、うっかり背すじを正してしまった。どうやらピシャリと放たれた言葉は、ぼくに向けられたものじゃなかったようだ。

「なにを見たのか、くわしく教えて」

 鬼柳ちゃんのまっすぐな瞳に圧されたのだろうか、坂本くんはおずおずとその日あった出来ごとを語りはじめていく。

 彼の話を聞くかぎりでは、ぼくの想像を超えてやしないんだけどな。

 坂本くんはその日の部活のあと、体育館の二階に身を潜めてある時を待っていた。彼は卓球部だったからどこに潜めるのかはきっと熟知していた。卓球部の活動場所はなにを隠そう体育館の二階だったから。

 そして時間は過ぎていき、やがては待ち望んだ通りに明かりが落とされる。坂本くんはこっそりと体育倉庫に向かった。

 彼が言うには、その時にはまだボールは倉庫にあったらしい。さて、と犯行に至ろうとしたその瞬間。パッと体育館に明かりが灯されてしまったそうだ。

 そして島田先生が体育館に入ってきた。

「だれもいないはずだったのに」
 と坂本くんは慌てふためき動揺して、隠れることもままならなかった。

 そんな風だったから先生にはすぐ見つかってしまったそうだ。体育館を追い出されてしまうけれど、まだ目的を遂げていなかった彼はそのまま外で様子をうかがうことにした。チャンスを待っていたらしい。

 しばらく覗いていると、高野先生も体育館の中へと入っていくのが見えた。こんな時間にバスケ部の顧問ふたりがこそこそ集まって何をする気なんだと、坂本くんは気になったそうだ。

 バスケ部の事だったのならば黙って見逃すわけにはいかない。中の様子をうかがい見てみると、ふたりは何やら言い争いを始めてしまったらしい。

 くわしい理由はわからないけれど、
「これはチャンス」
 とその隙に、彼はふたたび二階へと潜み直すことにした。
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