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見ていたのは
浮かんだ妙案
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ふぅむ、と腕を組む。
この一件、もし手早く終わらせたいとするのならじつは簡単な方法がなくもない。本物のラブレターを高橋杏奈に渡せばいいのだ。それで片が付く。そうすれば、とりあえず何かしらの終わりを迎えるだろう。
でもちょっと待てよと思いもする。はたしてこのまま、彼女にラブレターを渡してしまってもいいものかなと悩んでしまう。
だって他人のラブレターをぼくから渡す自然な理由が、はたと思いつかないのだ。それこそ拾ったからとか。頼まれたからとか。さすがにそれは不自然にも程がある。そんな嘘はすぐにバレちゃう事だろうな。
それで済むのならいいけれど。たぶん、それじゃあ済まないのだろう。きっとあらぬ疑いを持たれるのがオチじゃないのかなと思う。ぼくが恋泥棒に疑われたりしたのなら、それはたまったものじゃないな。
だからといって。
彼女の下駄箱に戻すっていうのもどうなんだろう。ぼくには下策に思えてならなかった。恐れることもなく盗みに入る、あの執念を目の辺りにしたあとだったから。
そんなことをする根本先輩がどこで見張っているのかわからない中で返しにいくのは、鴨が葱をしょって鍋の中にいくのといっしょだった。エノキも咥えてるかもね。
とするとやっぱり。
ラブレターを書いて出した、張本人に返すというのが無難なところじゃないかな。その後、もう一度渡すもヨシ。根本先輩に邪魔されるもヨシ。ぼくのあずかり知らぬところなら思う存分やってもらっていい。
それに、ここまでやって来たのだから。いったいだれがラブレターの送り主なのか、ぼくもすこし興味が湧いてきていた。
「守屋くんは今日、どれくらいのひとに会ってるの?」
背後から突然さす声に、どきりとする。
ふり返るとそこには鬼柳ちゃんがいた。ぼくに気配を読む能力なんてないけれど、それにしたってなにも気が付かなかった。ぼくを驚かそうと、忍び足で近付いてきたんじゃないのかと勘繰っちゃうくらいだ。
疲労困憊のぼくとはちがって、鬼柳ちゃんは息一つ切らしていないようである。
ぼくがきょう会ったひと、か。その中にラブレターの差出人がいるのだと、根本先輩はそう言ってたんだっけ。
アゴに手を当て、
「そうだなあ」
と記憶を探る。
「クラスのみんなに、鬼柳ちゃん。あとは──。んん。はて、だれに会ったんだったかな。移動教室はこの体育が初めてだよ」
アテになるようでならないような。そんなあやふやな記憶の中でも、容疑者は結構いるものだなあと感心する。
「……多いのね」
鬼柳ちゃんもちいさく息をつく。
書かれたその文字だけで判断すれば、差出人は女子だろう。クラスの半分が女子だと考えるとして、それだけでも容疑者は数十人。多いといえば、やっぱり多かった。
犯人は女子、か。そう言えばと、手近な容疑者から取り調べてみることにした。
「まだ聞いてなかったんだけどさ、鬼柳ちゃんはちがうんだよね?」
おや、反応がない。まさかの灯台下暗しだったりするのかい。なるほど、鬼柳ちゃんがラブレターの差出人だったのなら、まるっこい文字をそっくりに書けたのも納得するところではある。
「意外なひとが犯人の方が盛りあがるとはぼくも思うけどさ。まさか、犯人は──」
じりっと後ずさって芝居がかった声を出す。大げさにたじろぎもしてみるけれど、鬼柳ちゃんはちらと視線を向けてくるだけだった。
「んー、なにか方法はないのかな?」
ほっぺに手をあて、首をかしげている。
とうとう無視されてしまったよ。それは気持ちのいいほどのスルーっぷりだった。なんだい、ちょっとした確認じゃないか。
とは言え、鬼柳ちゃんもラブレターを返そうと考えているようでホッと安心した。
その時、ぼくにある妙案が浮かぶ。
容疑者は絞らなくてもいいじゃないか。ちょっと乱暴な方法ではあるけれど、本人に取りにこさせてみるのはどうだろう。
口元を緩めながらに言う。
「こういうのはどうかな。授業中にね──」
この一件、もし手早く終わらせたいとするのならじつは簡単な方法がなくもない。本物のラブレターを高橋杏奈に渡せばいいのだ。それで片が付く。そうすれば、とりあえず何かしらの終わりを迎えるだろう。
でもちょっと待てよと思いもする。はたしてこのまま、彼女にラブレターを渡してしまってもいいものかなと悩んでしまう。
だって他人のラブレターをぼくから渡す自然な理由が、はたと思いつかないのだ。それこそ拾ったからとか。頼まれたからとか。さすがにそれは不自然にも程がある。そんな嘘はすぐにバレちゃう事だろうな。
それで済むのならいいけれど。たぶん、それじゃあ済まないのだろう。きっとあらぬ疑いを持たれるのがオチじゃないのかなと思う。ぼくが恋泥棒に疑われたりしたのなら、それはたまったものじゃないな。
だからといって。
彼女の下駄箱に戻すっていうのもどうなんだろう。ぼくには下策に思えてならなかった。恐れることもなく盗みに入る、あの執念を目の辺りにしたあとだったから。
そんなことをする根本先輩がどこで見張っているのかわからない中で返しにいくのは、鴨が葱をしょって鍋の中にいくのといっしょだった。エノキも咥えてるかもね。
とするとやっぱり。
ラブレターを書いて出した、張本人に返すというのが無難なところじゃないかな。その後、もう一度渡すもヨシ。根本先輩に邪魔されるもヨシ。ぼくのあずかり知らぬところなら思う存分やってもらっていい。
それに、ここまでやって来たのだから。いったいだれがラブレターの送り主なのか、ぼくもすこし興味が湧いてきていた。
「守屋くんは今日、どれくらいのひとに会ってるの?」
背後から突然さす声に、どきりとする。
ふり返るとそこには鬼柳ちゃんがいた。ぼくに気配を読む能力なんてないけれど、それにしたってなにも気が付かなかった。ぼくを驚かそうと、忍び足で近付いてきたんじゃないのかと勘繰っちゃうくらいだ。
疲労困憊のぼくとはちがって、鬼柳ちゃんは息一つ切らしていないようである。
ぼくがきょう会ったひと、か。その中にラブレターの差出人がいるのだと、根本先輩はそう言ってたんだっけ。
アゴに手を当て、
「そうだなあ」
と記憶を探る。
「クラスのみんなに、鬼柳ちゃん。あとは──。んん。はて、だれに会ったんだったかな。移動教室はこの体育が初めてだよ」
アテになるようでならないような。そんなあやふやな記憶の中でも、容疑者は結構いるものだなあと感心する。
「……多いのね」
鬼柳ちゃんもちいさく息をつく。
書かれたその文字だけで判断すれば、差出人は女子だろう。クラスの半分が女子だと考えるとして、それだけでも容疑者は数十人。多いといえば、やっぱり多かった。
犯人は女子、か。そう言えばと、手近な容疑者から取り調べてみることにした。
「まだ聞いてなかったんだけどさ、鬼柳ちゃんはちがうんだよね?」
おや、反応がない。まさかの灯台下暗しだったりするのかい。なるほど、鬼柳ちゃんがラブレターの差出人だったのなら、まるっこい文字をそっくりに書けたのも納得するところではある。
「意外なひとが犯人の方が盛りあがるとはぼくも思うけどさ。まさか、犯人は──」
じりっと後ずさって芝居がかった声を出す。大げさにたじろぎもしてみるけれど、鬼柳ちゃんはちらと視線を向けてくるだけだった。
「んー、なにか方法はないのかな?」
ほっぺに手をあて、首をかしげている。
とうとう無視されてしまったよ。それは気持ちのいいほどのスルーっぷりだった。なんだい、ちょっとした確認じゃないか。
とは言え、鬼柳ちゃんもラブレターを返そうと考えているようでホッと安心した。
その時、ぼくにある妙案が浮かぶ。
容疑者は絞らなくてもいいじゃないか。ちょっと乱暴な方法ではあるけれど、本人に取りにこさせてみるのはどうだろう。
口元を緩めながらに言う。
「こういうのはどうかな。授業中にね──」
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