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みえない変化
開演間近
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スキップはさすがにしなかったけれど、いそいそとご機嫌なまま登校をすませる。すぐさま上履きに履き替えるものの、教室にはまだ向かわなかった。
さっそくだけど、怪盗の出没場所である家庭科室を覗いてみることにしようかな。
小走りに廊下をすすむ。ひょっこりと家庭科室を覗こうとすると、なにやら中でうごめいている人影がみえた。おや、こんな朝も早よからいったいだれかいな。
ドアの陰にひっそりと身体を滑りこませる。ぼくの他に怪盗候補でもいるのかい?
思わぬライバルの登場に驚きながらも、中の様子を盗み見てみる。するとそこには丸山くんの姿が。そしてもうひとり、見知らぬ生徒の姿もおなじく確認する。
家庭科の寺本先生と向かい合っているのがみえたところで、ああと思い出す。そういえば家庭科係は準備のために早くあつまるようにと言われていたのだった。もうひとりの生徒は、A組の家庭科係だろうか。
「それじゃあふたりとも。この具材を班の数だけ、等分にしてもらえるかしら」
先生は冷蔵庫からビニール袋をとりだして、用意してきた具材をどんどん調理台の上へと置いていく。玉ねぎ、人参、ジャガイモ、ニンニク、ネギ、玉子、牛乳。それから各種調味料と調理道具。
あっという間に調理台の上はいっぱいになってしまう。どうやらあらかじめ大まかな具材を班毎に分けて、まとめる作業をしているようだった。スムーズな授業の進行のためには欠かせないのかもしれない。
大きなお肉のパックが取り出されるのをぼくは食い入るように眺めていた。もうすこしであれがハンバーグになるんだなと想像するだけで、お腹が空いてきてしまう。
お腹の音でバレやしないだろうかなと、すこし身体を縮こまらせておく。
「分量は黒板に書いていますので、それを参照にして分けていってくださいね」
テキパキと動くA組の家庭科係とは対照的に、丸山くんの動きはすこし鈍かった。なんだか顔色が優れないようにもみえる。あまり朝が得意じゃないのかもしれない。
「あっと、これは後にしましょうか」
そう言って寺本先生は玉子のパックを手に取り、冷蔵庫の中にさっさと片付けた。まあ、玉子は割れちゃうといけないか。パックのまま保管する方が安全なのだろう。
うんうん、と外野のぼくが納得を示す。
それからちょっとばかし丸山くんの動きを観察していると、なんだか所々で怪しい動きをしていることに気が付く。
あれは、──ひょっとして。
はて、と考えを深めてみると、ピンと閃くものがあった。ふぅん。そっかそっか。おそらくたぶん、そういうことなんだね。
丸山くんが今までにみせたあの奇妙に映る数々の行動は、そういう理由があったからかとひとつひとつ思い出しては頷く。
それじゃあ、ぼくはどうしようか。
あれをこうすれば派手にみえるんじゃないかなと、頭の中でパズルをパチリパチリと組み立てる。カバンから新聞を取り出して予告状に使うキーワードを探していく。
あいにく目的のものはみつからなかったけれど、それに代わるものをみつけた。広告欄にあった美容のなにかだった。乾燥、小ジワ、ハリ不足を解消し、潤いを取り戻してくれるらしい。綺麗なお姉さんがこちらをみてほほ笑む写真がとても印象的だ。
最後のピースがパチリとはめ込まれる音が聞こえた。謎の完成に、ぼくはお姉さんに向けてにやりとほくそ笑む。
早起きはやっぱり三文の徳だった。ぎりぎりになっちゃったけど、ようやく怪盗がなにを頂きに参上するのかが決まった。
ladies and gentlemen、長らくお待たせしちゃったかな。もうすぐにでも開演できそうだよ。そうだね。今回の演目のテーマは、『開けてびっくり玉手箱』かな。
さっそくだけど、怪盗の出没場所である家庭科室を覗いてみることにしようかな。
小走りに廊下をすすむ。ひょっこりと家庭科室を覗こうとすると、なにやら中でうごめいている人影がみえた。おや、こんな朝も早よからいったいだれかいな。
ドアの陰にひっそりと身体を滑りこませる。ぼくの他に怪盗候補でもいるのかい?
思わぬライバルの登場に驚きながらも、中の様子を盗み見てみる。するとそこには丸山くんの姿が。そしてもうひとり、見知らぬ生徒の姿もおなじく確認する。
家庭科の寺本先生と向かい合っているのがみえたところで、ああと思い出す。そういえば家庭科係は準備のために早くあつまるようにと言われていたのだった。もうひとりの生徒は、A組の家庭科係だろうか。
「それじゃあふたりとも。この具材を班の数だけ、等分にしてもらえるかしら」
先生は冷蔵庫からビニール袋をとりだして、用意してきた具材をどんどん調理台の上へと置いていく。玉ねぎ、人参、ジャガイモ、ニンニク、ネギ、玉子、牛乳。それから各種調味料と調理道具。
あっという間に調理台の上はいっぱいになってしまう。どうやらあらかじめ大まかな具材を班毎に分けて、まとめる作業をしているようだった。スムーズな授業の進行のためには欠かせないのかもしれない。
大きなお肉のパックが取り出されるのをぼくは食い入るように眺めていた。もうすこしであれがハンバーグになるんだなと想像するだけで、お腹が空いてきてしまう。
お腹の音でバレやしないだろうかなと、すこし身体を縮こまらせておく。
「分量は黒板に書いていますので、それを参照にして分けていってくださいね」
テキパキと動くA組の家庭科係とは対照的に、丸山くんの動きはすこし鈍かった。なんだか顔色が優れないようにもみえる。あまり朝が得意じゃないのかもしれない。
「あっと、これは後にしましょうか」
そう言って寺本先生は玉子のパックを手に取り、冷蔵庫の中にさっさと片付けた。まあ、玉子は割れちゃうといけないか。パックのまま保管する方が安全なのだろう。
うんうん、と外野のぼくが納得を示す。
それからちょっとばかし丸山くんの動きを観察していると、なんだか所々で怪しい動きをしていることに気が付く。
あれは、──ひょっとして。
はて、と考えを深めてみると、ピンと閃くものがあった。ふぅん。そっかそっか。おそらくたぶん、そういうことなんだね。
丸山くんが今までにみせたあの奇妙に映る数々の行動は、そういう理由があったからかとひとつひとつ思い出しては頷く。
それじゃあ、ぼくはどうしようか。
あれをこうすれば派手にみえるんじゃないかなと、頭の中でパズルをパチリパチリと組み立てる。カバンから新聞を取り出して予告状に使うキーワードを探していく。
あいにく目的のものはみつからなかったけれど、それに代わるものをみつけた。広告欄にあった美容のなにかだった。乾燥、小ジワ、ハリ不足を解消し、潤いを取り戻してくれるらしい。綺麗なお姉さんがこちらをみてほほ笑む写真がとても印象的だ。
最後のピースがパチリとはめ込まれる音が聞こえた。謎の完成に、ぼくはお姉さんに向けてにやりとほくそ笑む。
早起きはやっぱり三文の徳だった。ぎりぎりになっちゃったけど、ようやく怪盗がなにを頂きに参上するのかが決まった。
ladies and gentlemen、長らくお待たせしちゃったかな。もうすぐにでも開演できそうだよ。そうだね。今回の演目のテーマは、『開けてびっくり玉手箱』かな。
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