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みえない変化
待ち切れない朝
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パチリと目が覚めた。
今日もぼくの目の前に広がるのは、白一面の──。
おや、今日はどっちなんだろうと手をのばしてみる。手が届かないことを十分に確認してから、ぽつりとつぶやいた。
「知ってる天井だ」
ここはいつものぼくの部屋で、ぼくのベッドの上にちがいない。どうやら今日はちゃんと上を向いて目が覚めたようだった。
いつの間にか眠っちゃっていたようだ。昨日は遅くまでなかなか寝付くことが出来なかったのだ。それもそのはずだった。
なにを隠そう今日は調理実習の当日だ。まるで遠足が楽しみで眠れなくなってしまう子どものようにワクワクとしながら、ぼくは夜中まで謎を考えていたのだった。
置き時計をちらりと見やる。すこし早い時間ではあるけど、もう朝を迎えていると言ってもいい。途中で寝ちゃったせいで謎はまだ未完成。何も思いついてやしない。
予告状の、『頂きに参上いたします』もなにを頂くのかがまだ未定のままである。余白の空いている予告状はまわりの綺羅びやかな装飾と相まって、なんとも間が抜けてみえるものじゃないか。
まったく、困ったものだよ。
首をコキリと曲げてから気付いた。あまり良く眠れたとは思わないけれど、なんだか妙にスッキリとした目覚めだった。たまにある、短時間の睡眠でも疲れがとれるというアレがきているのだろうか。
頭はすっかりと冴えわたっている。
こうなったらもうしょうがない。すこし早いけど学校に行って、なにを頂くことにするのかは現地で決めるとしようかな。
急にそう決めたものだったから、とうぜん朝ごはんの準備がまだ終わっていない。ゆで卵を茹ででいた母さんには文句を言われつつ、ぼくはこそっとパンをかじった。
母さんはぷりぷりとしていたけど、茹でていた鍋から玉子を取り出して急遽スクランブルエッグを作ってくれた。これが三文の徳だったのかもしれない。ありがたやとパクついておく。
学校に行くための準備をササッと手早く済ませ、リビングを通り過ぎようとしたところでばったり、父さんと出くわした。
「おっ。今日も美味そうだな。なにか手伝お──、なんだ。今日はもう学校に行くのか。ずいぶんと早いじゃないか」
いつもの定型文を口にしながらあらわれた父さんは、ぼくがもう制服に着替えているのをみて面食らったようだった。二度、時計を見直しては時間を確認している。
ちょっとばかし失礼な話である。
ぼくにだってまじめに取りこむことがあるんだ。学校に早く行きたくなる時があってもおかしくないだろうさ。残念ながら、勉学の方を向いてないだけじゃないか。
ぼくのこのワクワクした気持ちは、天井知らずに大きくなっていく。きっと遠足を目の前にした子どもよりもワクワクとしていたことだろう。
逸る気持ちを抑えられず足早に、
「行ってきます」
とだけ伝え、ぼくは玄関に向かった。
「怪盗になってくるよ」
とは、さすがに言えないものね。
勢いよく玄関を飛び出したところで忘れものに気付いたので、勢いよく引き返す。
おっと、新聞を忘れずに持っていかなきゃいけない。すこし脅迫文ぽくなってしまうのは否めないけれど、もう予告状を仕上げる時間は残されていないだろうから。
怪盗がなにを頂くのかは、切り抜きの文字を貼り付けるとするしかないだろうな。まさか、筆跡からぼくだとばらすわけにもいかないからね。
新聞を漁っていると父さんに、
「何に使うんだ?」
と問われたので、
「授業に使うんだよ」
と返す。
まあ、嘘ではない。
「大変だな、学生も」
「うん、大変だよ」
と言い残し、家を出る。
父さんの視点からみれば、真面目な学生にでもみえただろうか。ぼくの視点からはそうはみえないけどねと、ひとり笑う。
視点かと思い、グルリを見回してみる。
すこし早く家を出ただけなのに、街の景色がまた違ってみえてくるから不思議だ。行き交う人々や、交通量が違うからなのかもしれない。なんだか新鮮な感じがする。
ふぅん、たまには視点を変えてみるのも悪くはないものなんだね。なんだか今日は良い謎が生まれてきそうな気がするよ。
今日もぼくの目の前に広がるのは、白一面の──。
おや、今日はどっちなんだろうと手をのばしてみる。手が届かないことを十分に確認してから、ぽつりとつぶやいた。
「知ってる天井だ」
ここはいつものぼくの部屋で、ぼくのベッドの上にちがいない。どうやら今日はちゃんと上を向いて目が覚めたようだった。
いつの間にか眠っちゃっていたようだ。昨日は遅くまでなかなか寝付くことが出来なかったのだ。それもそのはずだった。
なにを隠そう今日は調理実習の当日だ。まるで遠足が楽しみで眠れなくなってしまう子どものようにワクワクとしながら、ぼくは夜中まで謎を考えていたのだった。
置き時計をちらりと見やる。すこし早い時間ではあるけど、もう朝を迎えていると言ってもいい。途中で寝ちゃったせいで謎はまだ未完成。何も思いついてやしない。
予告状の、『頂きに参上いたします』もなにを頂くのかがまだ未定のままである。余白の空いている予告状はまわりの綺羅びやかな装飾と相まって、なんとも間が抜けてみえるものじゃないか。
まったく、困ったものだよ。
首をコキリと曲げてから気付いた。あまり良く眠れたとは思わないけれど、なんだか妙にスッキリとした目覚めだった。たまにある、短時間の睡眠でも疲れがとれるというアレがきているのだろうか。
頭はすっかりと冴えわたっている。
こうなったらもうしょうがない。すこし早いけど学校に行って、なにを頂くことにするのかは現地で決めるとしようかな。
急にそう決めたものだったから、とうぜん朝ごはんの準備がまだ終わっていない。ゆで卵を茹ででいた母さんには文句を言われつつ、ぼくはこそっとパンをかじった。
母さんはぷりぷりとしていたけど、茹でていた鍋から玉子を取り出して急遽スクランブルエッグを作ってくれた。これが三文の徳だったのかもしれない。ありがたやとパクついておく。
学校に行くための準備をササッと手早く済ませ、リビングを通り過ぎようとしたところでばったり、父さんと出くわした。
「おっ。今日も美味そうだな。なにか手伝お──、なんだ。今日はもう学校に行くのか。ずいぶんと早いじゃないか」
いつもの定型文を口にしながらあらわれた父さんは、ぼくがもう制服に着替えているのをみて面食らったようだった。二度、時計を見直しては時間を確認している。
ちょっとばかし失礼な話である。
ぼくにだってまじめに取りこむことがあるんだ。学校に早く行きたくなる時があってもおかしくないだろうさ。残念ながら、勉学の方を向いてないだけじゃないか。
ぼくのこのワクワクした気持ちは、天井知らずに大きくなっていく。きっと遠足を目の前にした子どもよりもワクワクとしていたことだろう。
逸る気持ちを抑えられず足早に、
「行ってきます」
とだけ伝え、ぼくは玄関に向かった。
「怪盗になってくるよ」
とは、さすがに言えないものね。
勢いよく玄関を飛び出したところで忘れものに気付いたので、勢いよく引き返す。
おっと、新聞を忘れずに持っていかなきゃいけない。すこし脅迫文ぽくなってしまうのは否めないけれど、もう予告状を仕上げる時間は残されていないだろうから。
怪盗がなにを頂くのかは、切り抜きの文字を貼り付けるとするしかないだろうな。まさか、筆跡からぼくだとばらすわけにもいかないからね。
新聞を漁っていると父さんに、
「何に使うんだ?」
と問われたので、
「授業に使うんだよ」
と返す。
まあ、嘘ではない。
「大変だな、学生も」
「うん、大変だよ」
と言い残し、家を出る。
父さんの視点からみれば、真面目な学生にでもみえただろうか。ぼくの視点からはそうはみえないけどねと、ひとり笑う。
視点かと思い、グルリを見回してみる。
すこし早く家を出ただけなのに、街の景色がまた違ってみえてくるから不思議だ。行き交う人々や、交通量が違うからなのかもしれない。なんだか新鮮な感じがする。
ふぅん、たまには視点を変えてみるのも悪くはないものなんだね。なんだか今日は良い謎が生まれてきそうな気がするよ。
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