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探偵見習い

情報収集

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 噂というものには、それ相応に押さえておかねばならないポイントがあるものだ。根源にはひとの意図や思惑があるだけに、いつでもなんでも流行るわけじゃない。

 流行り廃りがあるのだ。 

 どうがんばっても大きな噂がある間は、小さな噂が流行るべくもないのが必然だ。流行る隙がないとも言えるのかな。だから噂を流すタイミングが重要になってくる。

 そして変わらないままの噂は、すぐに飽きられてもしまうもの。尾が生えるからこそ、ひとは興味をもってくれる。尾が生えたんだよとひとに伝える気にもなるんだ。

 噂は流れるあいだに勝手に変化していくだけのものじゃない。変化したからこそ、その噂は広まったんだとも言える。

 つまりは、噂を広めてくれるひとを楽しませてあげる必要があるということ。楽しませ方はじつに様々だ。それは明るく朗らかなものから、暗くあさましいものまで。

 加えて、その噂をだれが流したのかも重要なポイントになってくる。よく噂話をしてくれるとされている友達の友達は、本当に存在するのかどうかすらあやしまれる。よく吟味して考える必要があるだろう。

 悩み抜いた末に導きだしたぼくの答え。

 卵焼きをぱくりとひと口。追って白米。うん、美味しいね、と舌鼓を打った。

 ただ今、昼休み中なのである。

 昼休みはもっとも噂が飛び交っているとされる時間帯。それは、放課後とはちがって生徒は学校内に留まっておかなければならないという厳格なルールがあるせいだ。

 いつもと同じ顔ぶれでの会話は、いつしか話題も枯れていくのが自然の理だろう。そこから行きつく先はそんなに多くない。たいがいは同じ場所へとたどり着く。

 だれからともなくはじまる、ひとの噂話に花を咲かせるのがせいぜいといった所。

 と言ったわけで、目下情報収集中なのである。ぼくの思いどおりの噂を流すためには、まず噂を知っておかないといけない。

 もっと目の前の卵焼きに集中していたい所だけど、学友の話にも耳を傾けることにしようじゃないか。さてと、いまはどんな噂が学校内をさまよっているのかなっと。

 お箸を置いて、ゆっくりと卵焼きを味わいながら周囲の話にそっと耳を澄ませる。大手を振って調べ周るわけにはいかない。

 ぼくはあくまでも秘密裏に。ひっそりと目立たぬように。そして黒幕らしくだ。

「それでさ、昨日言いそびれてた芸能人の話なんだけどな」

 いっしょにお弁当を食べていた小林くんは、ぼくの見知らぬ芸能人のスキャンダル話を口にしはじめる。うん、やっぱり楽しそうだ。余程、話したかったのかな。

 こういう時におしゃべりな友人がいてくれるのはとても心強い。どこからともなく噂話をかき集めてきてくれる。うんうん、と相槌を打ちながら噂話をたずねていく。

 芸能人の話はそこそこにしておいて、ぼくが知りたい学校内の噂話をしてもらう。根を掘り、葉を掘り、細部までをよりくわしく。やがては全貌がみえてくるまでに、噂の主の顔が透けてみえるようにと。

「これは聞いたか? なんか、バスケ部で揉め事があったらしいぞ。先生に食って掛かったやつがいたらしいんだ」

 運動部のいざこざ。

「あとはな、俺の友達がみたんだってよ。あれ絶対いじめだって言ってた。学年? さあ、そこまでは知らないな」

 いじめらしき騒動。

「となりのクラスの大木、三年の先輩に告ったんだってさ。しかもOKもらったんだってよ。羨ましいよ。でも意外だったな。あの先輩、よくモテるっていう話なのに」

 同級生の色恋沙汰。

「そうそう、告白といえばよ。サッカー部のキャプテン。そう、あの女の子取っ替え引っ替えしてるって噂のイケメン先輩だ。なんでも、振られたって話らしいぜ」

 先輩の失恋話。

 この話にはぼくも内心スカッとしたな。ふぅん、イケメンでも振られることはあるものなんだねえ。よく覚えておくことにしようかなと、ほほ笑んだ。
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