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探偵見習い

身辺調査

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 委員長の号令に従い、みんなゾロゾロと廊下に移動する。廊下に男女が一列ずつ、身長の順番に並んで向かうのが決まりだ。ぼくは中程の中、列のど真ん中へと並ぶ。

 全員が並び終わると大名行列よろしく。下に下にと、体育館への大移動がのっそのっそとはじまる。全クラスが一斉にそうするからかなり長い行列になることだろう。

 富良庵ふらいおり中学校。変わった名前をしているけれども、ごくごく普通の公立中学校だ。生徒の数はだいたい八百人くらいはいるんじゃないかなと思う。少子化の煽りを受けてなのかどうかは知る所じゃないけれど、三つの小学校から生徒があつまっていた。

 ぼくのクラスは、二年B組。

 進級も無事に終わって桜も散り数週間。そろそろクラスメイトの顔と名前を覚えきった頃だ。はて、この子はどんな子なのかなとお互いに探りを入れる頃合いだった。

 自分のクラスでそんな具合だったので、となりのクラスにまで気を回しているような余裕がぼくにはなかったのだと思う。

 鬼柳きりゅう美保は、二年A組。

 なんと驚いたことに、あの空から降ってきた女の子はお隣のクラスにいるらしい。この大名行列においては、きっとクラスの先頭を仰せつかっていることだと思う。

 仮にひと学年まるっと引っくるめて身長の順番に並び直した所で、やっぱりトップを張る結果は変わらないんじゃないかな。トップ争いができるのは格好良いことだ。

 でも、奇妙な事がひとつ。

 いっしょのクラスになったことはないけれど、ひと学年を近くで過ごしたはずだ。だけど不思議なことに、彼女に関する印象をぼくはまるで持ち合わせていなかった。

 いままでにもすれ違うくらいはしてきたはずなんだけどな。という素朴な疑問はすぐに解消されることになる。

 なぜなら、調べたから。

 はたして彼女はぼくの理想の探偵に足る者なのか、否か。というわけで、あれからじっくりと観察してみることにしたのだ。

 探偵としての必要な能力。

 それはすなわちとっさの推理力であり、犯人に屈することのない負けん気であり、謎の為に身を打つ思い切りのよさである。

 出会ったあの時には素晴らしい才能を持っているとぼくは感動すらしたけれど、日を増すごとによくわからなくなってきた。

 普段の彼女からはそれらを一切感じることができなかったからだ。ちらりちらりとその小さな姿を目で追ってみた結果、彼女のことがすこしずつだけどわかってきた。

 もともとが小柄なせいだろうか。

 あんまり目立つような女の子ではない。物理的にすぐひとの中に埋もれてしまい、よくその姿を見失う。気付いた時にはまったくべつの場所にいることもしばしばだ。

 ひょっとしたら彼女は、神出鬼没のテレポーターなのかもしれない。

 精神的にも目立つ方ではない。

 ずいぶんと大人しい子だという印象だ。声を荒げるようなこともまったくなくて、一歩身を引いているようにさえ思える。

 ぼくの脛を蹴飛ばしていった女の子は、たまたま転びそうになってぶつかっちゃっただけのドジっ子だったのかもしれない。

 誘われたら断れない性格だ。

 それは性分なのか、休み時間の度に女子に連れられていっしょにトイレへ向かっている。帰ってきたと思ったら、べつの女子に誘われて三往復している事もあった。

 女子はひとりでトイレに行けない呪いにかかっているのか。あのトイレはもしかして花子さんが出没するのかもしれない。

 芯があるひとに見えたけども、ぼくの勘違いだったのか。ひとに流されやすくて、その姿はおおよそ探偵らしくはなかった。どうりでろくな印象が残ってないはずだ。

 まあ、それもそうだよなと肩を落とす。探偵然としていたのならだ。今までぼくが彼女の存在に気付かなかったはずもない。

 この間の彼女は大事なものを盗られて、ただ頭に血が上っていたに過ぎないのか。かなり好意的にみれば、普段はわざと力をセーブしているようにも取れなくはない。

 でも、そんなことってあるかな。

 そんなことをする理由がどこにもない。謎を前に、探偵がおとなしくできるとはぼくには想像すらできない。まさか、三分しか推理できないとも言いださないだろう。

 ふぅむ、彼女の本性はどこにあるんだ?
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