228 / 290
追憶の黒幕
(鬼柳)(守屋)犯人は
しおりを挟む
──♡11
つぎの日、全校生は朝から体育館に集まっていた。朝礼はいつもどおりに進行されて、校長先生のお話もあったけれど、職員室の割れた窓ガラスについては触れないみたいね。
つづいて生徒会長交代の説明になったけど、家庭の事情だからと、軽くひと言で済まされてしまった。んー、くわしくは説明しないのかな。
そしていま壇上には副会長があがり、新任の挨拶をしている。どうやら副会長が、生徒会長代理を兼任していくみたいだった。
古越さんからの挨拶はとくにないようで、壇上に彼女の姿は見当たらなかった。そしてわたしは途中で気が付いた。もうひとり、その姿が見当たらないことに。
守屋くんがいない。
朝、登校してとなりの席に座るのはみたけれど、この朝礼の列に彼の姿がないように思う。見間違いかと思って何度かふり向いてみても、やっぱりいない気がする、かな。
朝礼が終わり体育館から教室に戻ると、守屋くんの席には恵海ちゃんが座っていた。いつもなら、もう授業が始まるよとあきれるところだけど、今日はちがう。きっとわたしのお願いをきいてくれたんだと思う。
わたしが近付くのに気付き、
「ちゃんと呼び出しましたの」
と可愛らしい笑顔を投げかけてくれた。
「ありがとね、恵海ちゃん。ねえ、守屋くんみなかった?」
「帰りましたわ」
「え」
言われてみると、たしかに机にはカバンが掛かっていない。
「朝礼の前に帰るのをみましたの。忘れ物をしたとか言ってましたわ」
「忘れ物?」
恵海ちゃんは不思議そうに首をかしげる。
「三年ほど忘れてたそうですの」
どこまで取りに帰る気なのよ。
軽く頭を押さえる。まあ、いいや。教室を出ようとしたら、
「わたくしも行きましてよ」
と恵海ちゃんがついてくる。
「もう授業、始まるよ?」
「みほ先輩こそ、ですのよ」
と口をとがらせた。
それも、そうねと頬がひきつる。
「急ごう、チャイムが鳴る前に」
以前、守屋くんに教えてもらったひとの来ない場所。屋上へつながる上り階段へ向かう、そこにはもう彼が待っていた。恵海ちゃんに呼んでもらったその子に声をかける。
ううん、探偵ポーズは恥ずかしいからしないの。
「呼び出してごめんね」
そっと目を閉じて、考えたことを確認する。うん、だいじょうぶ。
パッと目を開き、
「古越悠斗くん。あなたが犯人ね」
そう言った。
──♧13
通勤、通学のラッシュが終わった後に、制服で街を歩くのはなんだか背徳感があって高揚してしまうね。思わず、ハマってしまいそうだよ。
ぼくは学校を抜け出して、トボトボと歩いていた。はて、もう朝礼は終わった頃だろうか。
そろそろぼくのサボタージュがバレたかもしれないね。鬼柳ちゃん辺りはあきれてるかもしれないなと思うと、口もとが緩んでしまう。
遠目ながら懐かしい建物がみえてきた。あまりの大きさに当時は圧倒されていたけれど、今となれば、すこし小ぢんまりと感じるものだね。
懐かしき我が学び舎、『鱈夢小学校』だ。まさかふたたび訪れる日がこようとは思わなかったな。もう授業が始まっているのだろうか。校庭のグラウンドには、人影ひとつなかった。
こちとら中学校をサボタージュしてきた身だ、中に入っていくわけにもいくまいて。ぐるりと学校の塀周りをトボトボと散歩していく。学校のすぐ脇にあった公園には、すくないながらも遊具があった。
ちいさなシーソーに、ジャングルジム、クルクルと回る謎の遊具は使用禁止の貼り紙がしてあった。楽しい遊具なんだけど、危険とみなされたのかな。時代だね。
そして、ブランコには見知った顔がひとつ。うつむき加減にゆらゆらと揺れている。なんとなく、ここにいるんじゃないかとは思っていた。
ぼくが近付くと顔を上げ、その視線はみるみるうちに鋭くなった。
「……守屋っ」
苦々しく放たれる言葉に、ぼくも思わず苦笑いになってしまう。
「小学校をみにきたのかな?」
返事はない。
ひと呼吸おく。探偵ポーズをすれば怒るだろうね。やめておこうか。
そして浅く息を吐き、
「古越芽生さん、きみが犯人だね」
そう言った。
つぎの日、全校生は朝から体育館に集まっていた。朝礼はいつもどおりに進行されて、校長先生のお話もあったけれど、職員室の割れた窓ガラスについては触れないみたいね。
つづいて生徒会長交代の説明になったけど、家庭の事情だからと、軽くひと言で済まされてしまった。んー、くわしくは説明しないのかな。
そしていま壇上には副会長があがり、新任の挨拶をしている。どうやら副会長が、生徒会長代理を兼任していくみたいだった。
古越さんからの挨拶はとくにないようで、壇上に彼女の姿は見当たらなかった。そしてわたしは途中で気が付いた。もうひとり、その姿が見当たらないことに。
守屋くんがいない。
朝、登校してとなりの席に座るのはみたけれど、この朝礼の列に彼の姿がないように思う。見間違いかと思って何度かふり向いてみても、やっぱりいない気がする、かな。
朝礼が終わり体育館から教室に戻ると、守屋くんの席には恵海ちゃんが座っていた。いつもなら、もう授業が始まるよとあきれるところだけど、今日はちがう。きっとわたしのお願いをきいてくれたんだと思う。
わたしが近付くのに気付き、
「ちゃんと呼び出しましたの」
と可愛らしい笑顔を投げかけてくれた。
「ありがとね、恵海ちゃん。ねえ、守屋くんみなかった?」
「帰りましたわ」
「え」
言われてみると、たしかに机にはカバンが掛かっていない。
「朝礼の前に帰るのをみましたの。忘れ物をしたとか言ってましたわ」
「忘れ物?」
恵海ちゃんは不思議そうに首をかしげる。
「三年ほど忘れてたそうですの」
どこまで取りに帰る気なのよ。
軽く頭を押さえる。まあ、いいや。教室を出ようとしたら、
「わたくしも行きましてよ」
と恵海ちゃんがついてくる。
「もう授業、始まるよ?」
「みほ先輩こそ、ですのよ」
と口をとがらせた。
それも、そうねと頬がひきつる。
「急ごう、チャイムが鳴る前に」
以前、守屋くんに教えてもらったひとの来ない場所。屋上へつながる上り階段へ向かう、そこにはもう彼が待っていた。恵海ちゃんに呼んでもらったその子に声をかける。
ううん、探偵ポーズは恥ずかしいからしないの。
「呼び出してごめんね」
そっと目を閉じて、考えたことを確認する。うん、だいじょうぶ。
パッと目を開き、
「古越悠斗くん。あなたが犯人ね」
そう言った。
──♧13
通勤、通学のラッシュが終わった後に、制服で街を歩くのはなんだか背徳感があって高揚してしまうね。思わず、ハマってしまいそうだよ。
ぼくは学校を抜け出して、トボトボと歩いていた。はて、もう朝礼は終わった頃だろうか。
そろそろぼくのサボタージュがバレたかもしれないね。鬼柳ちゃん辺りはあきれてるかもしれないなと思うと、口もとが緩んでしまう。
遠目ながら懐かしい建物がみえてきた。あまりの大きさに当時は圧倒されていたけれど、今となれば、すこし小ぢんまりと感じるものだね。
懐かしき我が学び舎、『鱈夢小学校』だ。まさかふたたび訪れる日がこようとは思わなかったな。もう授業が始まっているのだろうか。校庭のグラウンドには、人影ひとつなかった。
こちとら中学校をサボタージュしてきた身だ、中に入っていくわけにもいくまいて。ぐるりと学校の塀周りをトボトボと散歩していく。学校のすぐ脇にあった公園には、すくないながらも遊具があった。
ちいさなシーソーに、ジャングルジム、クルクルと回る謎の遊具は使用禁止の貼り紙がしてあった。楽しい遊具なんだけど、危険とみなされたのかな。時代だね。
そして、ブランコには見知った顔がひとつ。うつむき加減にゆらゆらと揺れている。なんとなく、ここにいるんじゃないかとは思っていた。
ぼくが近付くと顔を上げ、その視線はみるみるうちに鋭くなった。
「……守屋っ」
苦々しく放たれる言葉に、ぼくも思わず苦笑いになってしまう。
「小学校をみにきたのかな?」
返事はない。
ひと呼吸おく。探偵ポーズをすれば怒るだろうね。やめておこうか。
そして浅く息を吐き、
「古越芽生さん、きみが犯人だね」
そう言った。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
男子中学生から女子校生になった僕
葵
大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。
普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。
強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!
「学校でトイレは1日2回まで」という校則がある女子校の話
赤髪命
大衆娯楽
とある地方の私立女子校、御清水学園には、ある変わった校則があった。
「校内のトイレを使うには、毎朝各個人に2枚ずつ配られるコインを使用しなければならない」
そんな校則の中で生活する少女たちの、おしがまと助け合いの物語
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる