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追憶の黒幕

(鬼柳)生徒会長の弟くん

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──♡07

 わたしだけぽつん、と生徒会室に取り残されちゃった。ちらりとみた会議机に目が奪われる。

 ふーん、三脚の机を寄せ合って、長方形の大きな机にしているのね。そおっと上座の真ん中、いちばん偉そうな席に座ってみる。

 両肘を机につき、手を組んで口元を覆《おお》い隠す。ぐるりを見渡し、オホンと咳ばらいをひとつしてみた。

 ふふ、一度やってみたかったの。

 満足した所で、この席を棒に振ってしまった古越さんの事を考える。古越さんずいぶんと怒っていたな(涙を浮かべるほどに、ね)。

 あんなに守屋くんをこき下ろしていたのに、頑《かたく》なまでに、何をされたか言わないのはなんでだろう。

 ひどい事をされたのなら、むしろ話したくなると思うんだけどなあ。守屋くんに遠慮するようにもみえなかったし、うーん。

 古越さんにもなにか、後ろ暗いところでもあるのかな?

 守屋くんに話を訊ければ、話は早いんだけどなあ。守屋くんはなあ。んー、きっと話してくれないよね。

 前もそうだったもの。

 推理して分かったことは素直に認めるのに、それ以外のことは頑として話してくれないのだ。普段はあんなにぺらぺら話すのにね。

 探偵が訊いちゃいけない、とか言うんだよ。謎にひたむきというか、なんというか。

 もう一度ぐるりを見渡し、こっそりとスマホを取り出す。守屋くん宛にひとつメッセージを送った。

『カマイタチが出た時、守屋くんは探偵にあこがれていたの?』

 これなら答えてくれるかな?

 返信を待つ間、恵海ちゃんが話したカマイタチのうわさを思い返す。

 鱈夢《たらむ》小学校の文化祭当日、あるクラスの作った大きな塔がビリビリに壊されていたのよね。その犯人がカマイタチだとうわさになっている。

 何人ものひとからそう聞いた、と恵海ちゃんは言ってたな。中には、お兄さんが当事者の子もいたみたいだし。

 不思議な話よね。

 カマイタチが本当にいたのかは分からないけれど、その事件が解決してるのはすこしおかしいと思うの。

 犯人がカマイタチだなんて話、

 小学生はカマイタチの犯行で納得したとしても、先生は犯人を気にせざるを得ないはずだよね。だって不審者の可能性もあるんだもの。

 先生が納得できる犯人がいない限り、学校は警戒をゆるめない、事件はおさまらなかったはずなの。それなのに、事件はおさまり、そんな事もあったねと昔話になっている。

 先生は犯人を突き止めたんだ。

 気が付いたら、守屋くんから返信が来ていた。やっぱりそうなのね。スマホには、こう表示されていた。

『もう、あこがれてはなかったよ』

 そう、ならカマイタチ騒動の黒幕はきっと守屋くんなんだろうなあ。おっと、いけない。当てずっぽうな推理は、また怒られちゃうね。

 その時、カタンと音がした。

 生徒会室のドアがすこし開き、その隙間からひとりの男子生徒が中をのぞきこむ。

 わたしと目が合った途端、バンとドアを閉めて駆け出した。ううん、逃げ出したの?

 あっけに取られて廊下に出てみると、彼の後ろ姿はすでに遠くの方にあった。

「こら、廊下を走るな」

 先生とすれ違ったのかな、怒声が聴こえる。そのままわたしも先生の元へと向かった。

「廊下を走るな」

 叱られちゃった。思わずわたしも駆け足になっていたみたいだ。ごめんなさい。

「先生。さっき走っていった子は誰なんですか」

「んん? ああ、古越だ。生徒会長の弟のな」

 なんでとも、どうしてとも訊かずに先生は教えてくれた。ありがとうございます、とお礼を言うと先生は手を上げサッサと行ってしまった。

 いまのが生徒会長の、古越さんの弟くんなのね。名前は、……あれ、そういえば先生も言ってなかったから分からないな。

 髪をだいぶ明るめに染めた、眉毛の細い弟くんのことを、恵海ちゃんは野蛮人だと言っていたのよね。

 そんな弟くんが生徒会室に、なんの用だったのかな。
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