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追憶の黒幕

(鬼柳)古越さんは生徒会長

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──♡02

 放課後、先生が教室を後にするのと同時に恵海ちゃんが飛び込んできた。ちゃんと授業には出ていたのかな(さすがに出てるよね?)と、すこし心配になってしまう。

 わたしの机に駆け寄り開口一番、
「どう思いまして?」
 と問いてきた。

 ……どうなのかな?

 隣の席からは茶化す声が聞こえてくる。

「おはやいお着きで」

「守屋さんには訊いてませんの」

 ぷーっと頬を膨らませる恵海ちゃんに、守屋くんは微笑みながらひらひらと手を振っている。わたしも同じような事を考えていたのは、恵海ちゃんにはナイショにしておこうっと。

「で、恵海ちゃん。どう思うってなんの事なの?」

「決まっていますわ。生徒会長の事ですのよ」

「立候補でもするのかい?」

 守屋くんもひとが悪い。もう分かっているはずなのに、恵海ちゃんをからかって遊んでいるようだった。

「ちがいますの、よろしいですわ。守屋さんにも分かるように、このわたくしが教えて差し上げましてよ」

 やれやれと首を振り、できの悪い子を諭すようにやさしい声色で話し始めた。そこまでされると思ってなかったのかな、守屋くんは面食らった顔をしている。その様子が可笑しくて、わたしはクスクスと笑った。

「職員室のガラスの件と生徒会長の失脚、きっとなにか関係がありましてよ。先生は誤魔化そうとしていたようですけれど、わたくしの目は欺けませんことよ。だっていくらなんでもタイミングが良すぎますもの」

「失脚だなんて、恵海ちゃん」
 とは言ってみたものの、確かにふたつの話がまったくの無関係だとはすこし考えにくい、よね。

 でも──。

「すると生徒会長が犯人なんだね」

 ない、と思った事を守屋くんは平然と言ってのけた。でもわたしは、その意見には賛同できそうもない。

「ないわよ。生徒会長はそんな事できるひとじゃないもの」

「えっ」
 と守屋くんは意外そうな顔をしてみせる。ん、どうしてなのかな。

 生徒会長の古越《ふるしろ》芽生《めい》は真面目な、いわゆる優等生タイプの女の子だ。すこし厳しい所もあるけれど、それだけじゃなくて、ちゃんと優しいひと。

 責任感もあって、要所要所で確認すべき所はきっちりと自分でこなすから、ミスもあんまり起こさずに周りからも、先生からも信頼が厚い。

 そんな彼女が職員室に殴り込みをするなんて、わたしにはとても思えそうもない。けれど、守屋くんのその反応はいったい……。わたしの知らない一面が彼女にはあるのかな?

 守屋くんは彼女のいったい何を知っているのだろう。

 と思っていたら、
「鬼柳ちゃんは知り合いなのかい、というより、生徒会長はなんて名前なんだい?」
 だって。

 ──あきれた。

 まさか名前も知らないで言っているとは思わなかったよ。わたしは今あきれた顔をしているんだろうなと確信しつつ、あきれた声を出した。

「古越芽生よ」

「ふぅん」

 気のない返事ね。名前を聞いても知らないのかな、と思うほどに反応は薄かった。まさか、ね。いくらなんでも生徒会長の名前くらいは知ってるよね。守屋くんよりも恵海ちゃんの方が反応している始末だった。

「古越──」

 恵海ちゃんも知らないのかなと思ったけど、それは違ったみたいで、
「──って珍しい名字ですわよね?」
 と訊いてくるので、そうねと答えたら小首を傾げている。

「わたくしのクラスメイトにも同じ名字がいます、──の?」

「疑問なのね……」

 でも、そっか。ひょっとして。

 訊いたことはなかったけれど、その同じ名字だという一年生は、生徒会長の兄弟なのかもしれないのね。

「男の子?女の子 ?」

「男ですわ」

「どんな子なの?」

 迷う素振りを見せないで、遠慮もまるっきりなしに、恵海ちゃんはハッキリと言い切った。

「野蛮人ですの」

「野蛮……」

 コクリと頷き、つけ加える。

「乱暴なんですの。クレイジーですわ」
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