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迷惑な探偵

ダークヒーロー

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「そう。本当の被害者は、おじいちゃんだったの」

「そんなこと! 本当なんですの?」

 取り乱す大矢さんに、鬼柳ちゃんが落ち着いた声をかける。

「おじいちゃんから聞いたのよ。間違いないわ」

 ぼくと唐津くんに視線が飛んできた。

「おじいちゃんはふたりに感謝してたわ。とくに唐津くんには、よくお礼を言っておいてほしいって」

「おぶってあげた、お礼なんですの?」

「うん。それに警察へ、『代わり』に届け出てくれてありがとうって」

 まあ、しかたないかもな。口止めは特にしてなかったからね。その時ぼくは居ない事になっているし、なおさらだね。

「代わりにって、どういう事ですの?」

「おじいちゃん、通報する気はなかったそうなの。大したケガじゃないし、犯人も捕まらないだろうってね」

 おじいちゃんが自転車で帰っていた時、後ろから来たバイクに煽られて転倒してしまった。顔もよく見えなかったろうし、犯人の特定はきっと難しいだろうね。

「唐津くんがもう一度訪ねてきて、通報した方が良いって説得したそうよ。渋っていたら、『代わりに行く』って言うから、任せたみたい」

 大矢さんは小首を傾げた。

「それがどうして、唐津さんが襲われた事になってるんですの?」

「唐津くんは、すこし内容を変えたのよ。『被害者』と、『犯行現場』をね」

 そう。本当の犯行現場は、もっとおじいちゃんの家の方角だったんだよね。この間会った時、ずいぶん遠くまで買い物に来ているんだなと思ったものだ。

「唐津さん。どうしてそんな事を?」

 唐津くんは口を真一文字に結び、黙ったままだ。代わりに鬼柳ちゃんが口を開く。

「被害者を変えたのは、たぶん嘘の通報だからよね。おじいちゃんに迷惑をかけないようにしたんだと思うの」

 唐津くんは何も言わない。

「犯行現場を変えたのは、何の為なんですの?」

 鬼柳ちゃんはすこし眉根を下げ、
「暴走族のたまり場は、どうして移動したのか覚えてる?」
 と言った。

「わかりましたわ。お巡りさんを巡回させる為に、犯行現場を変えましたのね!」

 偽物の犯行現場は、暴走族のたまり場付近に変えてある。すぐに警察の巡回ルートに加わった。それを暴走族はヨシとせず、たまり場を移動させることとなった。

 警察の力とは、かくも強大なものだね。

「そうだったんですのね。唐津さん。何だかダークヒーローみたいで、格好いいですわよ」

 パチパチと手を叩く大矢さん。

 大矢さんはダークヒーローを認められる人なんだね。認めない人も中には居る。正義か、と問われたら難しいところだしね。

 黙っていた唐津くんは口を開き、おもむろに頭を下げた。

「すまない、大矢。俺はそんな大したやつじゃないんだ」

 ダークヒーローは頭を垂れている。ヒーローらしからぬ行動に、大矢さんは、ぽかんと呆気にとられてしまったようだ。

「唐津さん、如何なさいましたの?」

「すまない」
 と、言ったきり頭を上げない唐津くんに困ったのだろうか。助けを求めるように、鬼柳ちゃんに視線を向けている。

「おじいちゃんの為だけなら、そんな事する必要がないのよ。唐津くんには、もうひとつの狙いがあったの」

「何ですの、それは」

 頭を下げたまま固まっている唐津くんは、優しいひとなのだろう。おじいちゃんが転んだ時も、真っ先に助けに向かっていた。助けたい気持ちも嘘ではないはずだ。

 ただ、より優先するべき事があっただけなんだよ。それは、ぼくが初めて彼を見た時から一貫して変わってはいない。

 彼は最初から今まで、ずっとその子のために動こうとしている。

 鬼柳ちゃんはスッと目を閉じ、パッと大きく見開いた。その大きな瞳で大矢さんを見つめている。

「唐津くんの本当の目的は、恵海ちゃん。あなたよ」

「わたくしですの?」

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