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迷惑な探偵
まるで、鯉
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あの時、ぼくの手元には『みかん』があった。そして、『井上のおじいちゃんにもらったんだよ』と、鬼柳ちゃんに答えたんだったね。
きっと、そこから推理したに違いない。
鬼柳ちゃんは、こう考えたんだろうな。
さて、このみかんはどこから来たものだろうか。まさか自家製ではないだろうし。近所にみかん農園があるなんて、聞いたことはない。
ならば近所に住んでる人間か、買い物帰りなのだろうなと想像するのは容易いことだ。みかんをただ持ち歩いている奇特なひとの事は、想像しなくてもいいだろうね。
井上と言う名前もすでに分かっている。そして、ぼくと知り合いだという値千金の情報がある。すべき事はもう見えたよね。
まずは近所の表札を確認し、近くのひとに話を聞いてもいいね。すると近所には住んでいない事がわかるはずだ。それなら、つぎに調べるべきは近所のスーパーだね。
近くのスーパーで、あの日と同じ時間帯を見張ればいい。運にもよるけれど、数日もあれば再び現れることだろう。
ましてや相手は、おじいちゃんだ。買い物先も、買い物時間も、そうそう変わるものではないだろう。守屋の名前を出せば、相手に警戒されることもないだろうね。
ぼくと大矢さんが先生に監視されていた二日間で、きっと調べあげたんだろうな。
さすがだね。やるじゃないか。
賛美の視線を送ると、それを知ってか知らずか鬼柳ちゃんは言う。
「おじいちゃんはその日、買い物帰りに自転車で転んだそうね。そこに唐津くんが通りかかったの」
「ぼくもね」
と言うと、きろりと睨まれたので、
「幸い、大きなケガはなかったよ。すこし足を痛めていたけどね」
と補足説明をして、ごまかす事にした。
「そして唐津くんが、おじいちゃんをおぶって、家まで送ってあげたのね。守屋くんは──」
ちらりと視線が飛んで来た。
なんだい、ぼくが何を手伝ったのかが知りたいのかな。まいったね。自分からそんな事を話すなんてさ。優しさを自慢してるようで、すこし気が引けてしまうなあ。
でもまあ、事実だからね。あふれ出るぼくの優しさは隠し切れない、という事なのかな。まったく、しかたがないなあ。
「ぼくは自転車に乗って、買い物袋を運んだよ」
ちょうど帰る所で、ぼくの家の方向だったからね。
得意気に言い放ったら、
「それはボランティアしたって言うの?」
と問われた。
「何を言う。ボランティアは大小の問題じゃないと思うけどな」
楽は確かにしたよ。楽でも誰か助かるなら、それでいいじゃあないか。Win-Winだ。もちろん、頑張った唐津くんの方が、感謝されて然るべきだとは思うけれどもさ。
「その後、唐津くんは襲われたのよ。それなら、守屋くんも一緒に見ていたんじゃないの?」
ああ、それで怒っているのか。なんで黙ってたんだコノヤローというところかな。
それとも、ぼくを引っ掛けようとしているのかな。でも、その手には乗らないよ。
「ぼくは──」
と言いかけたら、唐津くんに遮られた。
「俺が襲われたのは、守屋さんと別れたあとの話です」
ぼくは言う事がなくなってしまったので、「そうだ」と言わんばかりに、ふんぞり返った。
鬼柳ちゃんの疑いの目はまだ晴れない。
今回は二重に疑われる位置にいるからね。黒幕としても、事件の関係者としても、すこし怪しいのかもしれない。
「ぼくは──」
と言いかけたら、大矢さんに遮られた。
「そうですわ。唐津さんは塾の帰り道に襲われましたのよ」
とりあえずぼくは、「そうだ」と言わんばかりにふんぞり返ってみた。なんだか、鬼柳ちゃんの瞳が鋭くなった気がするよ。
しかしなんだろうな。この一年生コンビは、ある意味息ぴったりだね。おかげ様で、ぼくはさっきから口をパクパクさせているばかりだよ。
これではまるで、鯉のようじゃないか。
きっと、そこから推理したに違いない。
鬼柳ちゃんは、こう考えたんだろうな。
さて、このみかんはどこから来たものだろうか。まさか自家製ではないだろうし。近所にみかん農園があるなんて、聞いたことはない。
ならば近所に住んでる人間か、買い物帰りなのだろうなと想像するのは容易いことだ。みかんをただ持ち歩いている奇特なひとの事は、想像しなくてもいいだろうね。
井上と言う名前もすでに分かっている。そして、ぼくと知り合いだという値千金の情報がある。すべき事はもう見えたよね。
まずは近所の表札を確認し、近くのひとに話を聞いてもいいね。すると近所には住んでいない事がわかるはずだ。それなら、つぎに調べるべきは近所のスーパーだね。
近くのスーパーで、あの日と同じ時間帯を見張ればいい。運にもよるけれど、数日もあれば再び現れることだろう。
ましてや相手は、おじいちゃんだ。買い物先も、買い物時間も、そうそう変わるものではないだろう。守屋の名前を出せば、相手に警戒されることもないだろうね。
ぼくと大矢さんが先生に監視されていた二日間で、きっと調べあげたんだろうな。
さすがだね。やるじゃないか。
賛美の視線を送ると、それを知ってか知らずか鬼柳ちゃんは言う。
「おじいちゃんはその日、買い物帰りに自転車で転んだそうね。そこに唐津くんが通りかかったの」
「ぼくもね」
と言うと、きろりと睨まれたので、
「幸い、大きなケガはなかったよ。すこし足を痛めていたけどね」
と補足説明をして、ごまかす事にした。
「そして唐津くんが、おじいちゃんをおぶって、家まで送ってあげたのね。守屋くんは──」
ちらりと視線が飛んで来た。
なんだい、ぼくが何を手伝ったのかが知りたいのかな。まいったね。自分からそんな事を話すなんてさ。優しさを自慢してるようで、すこし気が引けてしまうなあ。
でもまあ、事実だからね。あふれ出るぼくの優しさは隠し切れない、という事なのかな。まったく、しかたがないなあ。
「ぼくは自転車に乗って、買い物袋を運んだよ」
ちょうど帰る所で、ぼくの家の方向だったからね。
得意気に言い放ったら、
「それはボランティアしたって言うの?」
と問われた。
「何を言う。ボランティアは大小の問題じゃないと思うけどな」
楽は確かにしたよ。楽でも誰か助かるなら、それでいいじゃあないか。Win-Winだ。もちろん、頑張った唐津くんの方が、感謝されて然るべきだとは思うけれどもさ。
「その後、唐津くんは襲われたのよ。それなら、守屋くんも一緒に見ていたんじゃないの?」
ああ、それで怒っているのか。なんで黙ってたんだコノヤローというところかな。
それとも、ぼくを引っ掛けようとしているのかな。でも、その手には乗らないよ。
「ぼくは──」
と言いかけたら、唐津くんに遮られた。
「俺が襲われたのは、守屋さんと別れたあとの話です」
ぼくは言う事がなくなってしまったので、「そうだ」と言わんばかりに、ふんぞり返った。
鬼柳ちゃんの疑いの目はまだ晴れない。
今回は二重に疑われる位置にいるからね。黒幕としても、事件の関係者としても、すこし怪しいのかもしれない。
「ぼくは──」
と言いかけたら、大矢さんに遮られた。
「そうですわ。唐津さんは塾の帰り道に襲われましたのよ」
とりあえずぼくは、「そうだ」と言わんばかりにふんぞり返ってみた。なんだか、鬼柳ちゃんの瞳が鋭くなった気がするよ。
しかしなんだろうな。この一年生コンビは、ある意味息ぴったりだね。おかげ様で、ぼくはさっきから口をパクパクさせているばかりだよ。
これではまるで、鯉のようじゃないか。
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