183 / 290
迷惑な探偵
毒にはならない
しおりを挟む
混ぜるな危険。
洗剤によく書かれているのを見かけるこの文字列。中々にひとの好奇心を刺激していく。
見かける度に混ぜたくなってしまい、密かな葛藤を繰り広げているのはぼくだけなのだろうか。ダメだと言われている事ほど、なぜだかやりたくなってしまう性分なんだよね。
でも毒ガスが発生して危ないから、決して混ぜたりしてはいけないよ、当然だね。混ぜるなといわれるものは、それなりの理由があって言われているのだからね。その他にも混ぜちゃいけないものがある。
ウナギと、梅干し。
天ぷらと、スイカ。
混ぜてはいけないと言うよりも、食べ合わせが悪いものだろうか。
ぼくはきっと注意されなくても、これらは混ぜない気がするんだけどな。せっかく高級魚のウナギを食べているのに、梅干しを食べてしまったら、ウナギの味が消えてしまうじゃないか。
天ぷらを食べてる最中に、スイカを食べたくならないと思うけどな。誰に言われたわけでもないのに、試したこともないのに、何故だかそう思ってしまう。
本能なんだろうか、不思議だね。
ぼくがどうしてこんなことを考えているのかと言うと、新学年になったこともあり、クラス替えがあったからなんだよね。
入学式が終わり、新一年生をむかえての新学期がはじまる。桜もヒラヒラと宙を舞い、どこか華やかな雰囲気に包まれているみたいで、みんなどこか浮かれていた。
ぼくも中学三年生になり、この学校の事実上のトップへとようやく登りつめたわけだ。感慨深い物があるね。まあ、否応なく自動的になってしまうのだけれども。
それでも気分は大将だ。ぼくは意気揚々と廊下を闊歩《かっぽ》し、教室に貼り出されているクラス替えの名簿を確認していった。
自分の名前をみつけたので、颯爽と教室内へ入っていく。クラス替えもこれで三度目になるからね。勝手は分かっている。実に手慣れたもので淀みない動きだった。
名前の順に並ぶのだろうからと、自分の座席を探していく。も、も、守屋の、も。
おや?
ぼくの席には、他の男子生徒が座っていた。友達と話すために座っているのかとも思って様子をみたけれど、どうやらその様子もない。
それに机には彼のカバンが掛かっているじゃないか。ははん、きっと浮かれ気分でよく確認していないんだな。自分の席を勘違いしているに違いない。
まったく、困ったものだね。
気分は大将のぼくは、とくに怒りもせずにゆったりと彼に近付き、優しく声をかけた。
「あのー。そこの席はたぶん、ぼくのだと思うんだけどな」
その男子生徒は顔を上げ、
「俺の席だけど」
と、なんだい、妙にふてぶてしいじゃないか。
「いやいや」
と食い下がろうとしたら、その男子生徒は顎でクイッと黒板の方をしゃくった。
何だこいつ、と思いながら示された先を見てみると、黒板にはおかしなことが書かれていた。
『男子は出席番号の後の者から、名前の順に。女子は出席番号の前の者から、名前の順に座ってください』
ぼくは、その男子生徒に言った。
「なんで?」
「知らねえよ」
と言われ、ぼくらは苦笑いしあった。
気を取り直して、新たに自分の席を探しはじめた。いままでとは逆の順番になるわけだな。廊下側ではなく、窓側の席。前からひとつ、ふたつ、みっつ。
おや。あの、ちっこいのは……。
近付くぼくに気が付いたのだろう。ちっこいのこと、鬼柳美保がこちらをじっと見ていた。それは、それは怪訝な面持ちで。
「やあ、鬼柳ちゃん。同じクラスなんだね」
爽やかなあいさつを交わすぼくに対して、半眼の眼差しを向けてくる。
「どうしたんだい。そんなに楽しそうな顔をしちゃってさ」
にへらと笑うぼくに、わざと聞こえるように、鬼柳ちゃんは「うう」と唸った。
「わたしの平穏な学生生活が……」
まあ、嬉しそうにしちゃってさ。これからの一年間が、より楽しみになってきたよね。探偵と黒幕が同じクラスだとは、神様でも思うまい。
何たる偶然か、ちょうど席も隣同士じゃないか。これはもう何らかの陰謀。謎の匂いがしてくると言えるよね。
嬉々として席につくぼくに鬼柳ちゃんは肩を落とし、投げやりに問いかけてきた。
「守屋くん、混ぜるな危険って知ってる?」
何をおっしゃるウサギさん。
「混ぜても毒には、なるまいよ」
ぼくの本能がそう言っているんだ。探偵と黒幕は混ぜても大丈夫だ、とね。
洗剤によく書かれているのを見かけるこの文字列。中々にひとの好奇心を刺激していく。
見かける度に混ぜたくなってしまい、密かな葛藤を繰り広げているのはぼくだけなのだろうか。ダメだと言われている事ほど、なぜだかやりたくなってしまう性分なんだよね。
でも毒ガスが発生して危ないから、決して混ぜたりしてはいけないよ、当然だね。混ぜるなといわれるものは、それなりの理由があって言われているのだからね。その他にも混ぜちゃいけないものがある。
ウナギと、梅干し。
天ぷらと、スイカ。
混ぜてはいけないと言うよりも、食べ合わせが悪いものだろうか。
ぼくはきっと注意されなくても、これらは混ぜない気がするんだけどな。せっかく高級魚のウナギを食べているのに、梅干しを食べてしまったら、ウナギの味が消えてしまうじゃないか。
天ぷらを食べてる最中に、スイカを食べたくならないと思うけどな。誰に言われたわけでもないのに、試したこともないのに、何故だかそう思ってしまう。
本能なんだろうか、不思議だね。
ぼくがどうしてこんなことを考えているのかと言うと、新学年になったこともあり、クラス替えがあったからなんだよね。
入学式が終わり、新一年生をむかえての新学期がはじまる。桜もヒラヒラと宙を舞い、どこか華やかな雰囲気に包まれているみたいで、みんなどこか浮かれていた。
ぼくも中学三年生になり、この学校の事実上のトップへとようやく登りつめたわけだ。感慨深い物があるね。まあ、否応なく自動的になってしまうのだけれども。
それでも気分は大将だ。ぼくは意気揚々と廊下を闊歩《かっぽ》し、教室に貼り出されているクラス替えの名簿を確認していった。
自分の名前をみつけたので、颯爽と教室内へ入っていく。クラス替えもこれで三度目になるからね。勝手は分かっている。実に手慣れたもので淀みない動きだった。
名前の順に並ぶのだろうからと、自分の座席を探していく。も、も、守屋の、も。
おや?
ぼくの席には、他の男子生徒が座っていた。友達と話すために座っているのかとも思って様子をみたけれど、どうやらその様子もない。
それに机には彼のカバンが掛かっているじゃないか。ははん、きっと浮かれ気分でよく確認していないんだな。自分の席を勘違いしているに違いない。
まったく、困ったものだね。
気分は大将のぼくは、とくに怒りもせずにゆったりと彼に近付き、優しく声をかけた。
「あのー。そこの席はたぶん、ぼくのだと思うんだけどな」
その男子生徒は顔を上げ、
「俺の席だけど」
と、なんだい、妙にふてぶてしいじゃないか。
「いやいや」
と食い下がろうとしたら、その男子生徒は顎でクイッと黒板の方をしゃくった。
何だこいつ、と思いながら示された先を見てみると、黒板にはおかしなことが書かれていた。
『男子は出席番号の後の者から、名前の順に。女子は出席番号の前の者から、名前の順に座ってください』
ぼくは、その男子生徒に言った。
「なんで?」
「知らねえよ」
と言われ、ぼくらは苦笑いしあった。
気を取り直して、新たに自分の席を探しはじめた。いままでとは逆の順番になるわけだな。廊下側ではなく、窓側の席。前からひとつ、ふたつ、みっつ。
おや。あの、ちっこいのは……。
近付くぼくに気が付いたのだろう。ちっこいのこと、鬼柳美保がこちらをじっと見ていた。それは、それは怪訝な面持ちで。
「やあ、鬼柳ちゃん。同じクラスなんだね」
爽やかなあいさつを交わすぼくに対して、半眼の眼差しを向けてくる。
「どうしたんだい。そんなに楽しそうな顔をしちゃってさ」
にへらと笑うぼくに、わざと聞こえるように、鬼柳ちゃんは「うう」と唸った。
「わたしの平穏な学生生活が……」
まあ、嬉しそうにしちゃってさ。これからの一年間が、より楽しみになってきたよね。探偵と黒幕が同じクラスだとは、神様でも思うまい。
何たる偶然か、ちょうど席も隣同士じゃないか。これはもう何らかの陰謀。謎の匂いがしてくると言えるよね。
嬉々として席につくぼくに鬼柳ちゃんは肩を落とし、投げやりに問いかけてきた。
「守屋くん、混ぜるな危険って知ってる?」
何をおっしゃるウサギさん。
「混ぜても毒には、なるまいよ」
ぼくの本能がそう言っているんだ。探偵と黒幕は混ぜても大丈夫だ、とね。
0
お気に入りに追加
11
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる