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黒幕の芽生え
まぬけな魔法
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何だろう。これは。
不思議な気分だ。読み方が上手いのもあるのだろうか。子供たちも前のめりに聞いていて、あたたかな空気が流れている。
やさしい声色。
やわらかな表情。
慈しむような眼差し。
心がざわついてくる。まだ終わらないでほしい。もうすこし聞いていたい。子供たちと戯れながら、優しく微笑みを浮かべているあの姿。あれは本当に鬼柳ちゃんなのだろうか。
この気持ちはいったい何だろう。
……母性か。
ぼくはあの小さな体躯の鬼柳ちゃんに、母性を感じているとでもいうのだろうか。
子供たちに向けられていた眼差しがこちらを向きそうになったので、思わず目をそらしてしまった。これはぼくにとって予想外。少しばかり、まずいのかもしれない。
これじゃあ、まるで……。
くいっと学生服を引っ張られた。目線を下にやると、なんと、あの佳奈ちゃんがぼくの袖を引っ張っているじゃないか。しゃがんで話を聞いてみる。
「どうしたの?」
「あのね。いっしょに、ごめんなさいしてほしーの」
なぜぼくが謝るのかは不明だけれど。なんだろう。ひとりでは心細いのだろうか。
「それはまあ、いいけど。謝るのは佳奈ちゃんかい?」
プルプルと首を左右に振り、佳奈ちゃんは言う。
「しーちゃん」
うん。誰だろうか、それは。
おそらくは後ろで俯いている女の子のことだろうね。彼女のその手には、ニヒルに笑うアイツの姿があった。探したよ。元気そうじゃないか、このやろう。
しーちゃんと呼ばれる子に、おいでおいでして、一緒に鬼柳ちゃんの元へと向かった。園児の輪の中に入っていき、声をかける。
「鬼柳ちゃん、話があるんだ」
優しい眼差しのままこちらを見上げる鬼柳ちゃんは、もうすでに事情を察しているようだった。
ぼくの背後に隠れていた小さな影に、
「さあ、しーちゃん。がんばってみようか」
と声をかけた。しゃがみ込んで、その小さな背を押してあげた。
どうやら上手くいったようだね。ウサギを置いていった所で、反省の色は見て取れていた。ウサギの評判の回復とすこしの切っ掛けさえあれば、こうなるとは思っていたよ。
「おねえちゃん。ごべん……なざ……い」
しーちゃんは震える手でジローを差し出し、涙ぐみながら謝っている。もちろん鬼柳ちゃんは彼女を責めたりしなかった。
鬼柳ちゃんがヨシヨシと頭をなでてあげると、しーちゃんは、「わあ」と抱きついて泣き出してしまった。
鬼柳ちゃんはそんな彼女の背をなでながら、ぼくに目配せをして来る。ここに来る前から決めていたことだ。ぼくはコッソリとカバンに付いていたウサギのぬいぐるみを外し、ふたりに近付いていった。
抱きついた拍子に床に落ちていたカメのぬいぐるみを拾い上げ、後ろ手でウサギのキーホルダーと繋げる。そしてぎゅっと手の中に握りこんだ。
しーちゃんが泣き止むのを待ってから、
「ほら、ぬいぐるみを落としたよ」
と、小さな手のひらの上にそっと渡してあげる。
しーちゃんの顔はパッと明るくなり、驚いていた。
「あれ! ミーちゃんもつながってる。なんで、なんで。まほーみたい」
このウサギ、ミーちゃんって言う名前なのか。鬼柳ちゃんのネーミング、すこし惜しかったんだなと妙な感動を覚えた。
後ろで見ていた佳奈ちゃんは不思議そうに訊いてくる。
「まほー? そうなの?」
後ろで見ていた佳奈ちゃんには、ぼくがミーちゃんを取りに行くのも、後ろ手で繋げていたのも丸見えだったからね。何も不思議なことはない。
マジックなんてそんな物でいいんだろうな。傍から見ればまぬけな行動でも、見せたい人にだけ魔法になれば、それでいい。
「うん。魔法だよ。仲直りの魔法さ」
「ふーん」
カメとウサギは確かに、しーちゃんの手の上で和解したんだよ。
おや、いつの間にか普通に話している。ぼくと佳奈ちゃんも和解したのだろうか。
ケンカした覚えもないけれど。
不思議な気分だ。読み方が上手いのもあるのだろうか。子供たちも前のめりに聞いていて、あたたかな空気が流れている。
やさしい声色。
やわらかな表情。
慈しむような眼差し。
心がざわついてくる。まだ終わらないでほしい。もうすこし聞いていたい。子供たちと戯れながら、優しく微笑みを浮かべているあの姿。あれは本当に鬼柳ちゃんなのだろうか。
この気持ちはいったい何だろう。
……母性か。
ぼくはあの小さな体躯の鬼柳ちゃんに、母性を感じているとでもいうのだろうか。
子供たちに向けられていた眼差しがこちらを向きそうになったので、思わず目をそらしてしまった。これはぼくにとって予想外。少しばかり、まずいのかもしれない。
これじゃあ、まるで……。
くいっと学生服を引っ張られた。目線を下にやると、なんと、あの佳奈ちゃんがぼくの袖を引っ張っているじゃないか。しゃがんで話を聞いてみる。
「どうしたの?」
「あのね。いっしょに、ごめんなさいしてほしーの」
なぜぼくが謝るのかは不明だけれど。なんだろう。ひとりでは心細いのだろうか。
「それはまあ、いいけど。謝るのは佳奈ちゃんかい?」
プルプルと首を左右に振り、佳奈ちゃんは言う。
「しーちゃん」
うん。誰だろうか、それは。
おそらくは後ろで俯いている女の子のことだろうね。彼女のその手には、ニヒルに笑うアイツの姿があった。探したよ。元気そうじゃないか、このやろう。
しーちゃんと呼ばれる子に、おいでおいでして、一緒に鬼柳ちゃんの元へと向かった。園児の輪の中に入っていき、声をかける。
「鬼柳ちゃん、話があるんだ」
優しい眼差しのままこちらを見上げる鬼柳ちゃんは、もうすでに事情を察しているようだった。
ぼくの背後に隠れていた小さな影に、
「さあ、しーちゃん。がんばってみようか」
と声をかけた。しゃがみ込んで、その小さな背を押してあげた。
どうやら上手くいったようだね。ウサギを置いていった所で、反省の色は見て取れていた。ウサギの評判の回復とすこしの切っ掛けさえあれば、こうなるとは思っていたよ。
「おねえちゃん。ごべん……なざ……い」
しーちゃんは震える手でジローを差し出し、涙ぐみながら謝っている。もちろん鬼柳ちゃんは彼女を責めたりしなかった。
鬼柳ちゃんがヨシヨシと頭をなでてあげると、しーちゃんは、「わあ」と抱きついて泣き出してしまった。
鬼柳ちゃんはそんな彼女の背をなでながら、ぼくに目配せをして来る。ここに来る前から決めていたことだ。ぼくはコッソリとカバンに付いていたウサギのぬいぐるみを外し、ふたりに近付いていった。
抱きついた拍子に床に落ちていたカメのぬいぐるみを拾い上げ、後ろ手でウサギのキーホルダーと繋げる。そしてぎゅっと手の中に握りこんだ。
しーちゃんが泣き止むのを待ってから、
「ほら、ぬいぐるみを落としたよ」
と、小さな手のひらの上にそっと渡してあげる。
しーちゃんの顔はパッと明るくなり、驚いていた。
「あれ! ミーちゃんもつながってる。なんで、なんで。まほーみたい」
このウサギ、ミーちゃんって言う名前なのか。鬼柳ちゃんのネーミング、すこし惜しかったんだなと妙な感動を覚えた。
後ろで見ていた佳奈ちゃんは不思議そうに訊いてくる。
「まほー? そうなの?」
後ろで見ていた佳奈ちゃんには、ぼくがミーちゃんを取りに行くのも、後ろ手で繋げていたのも丸見えだったからね。何も不思議なことはない。
マジックなんてそんな物でいいんだろうな。傍から見ればまぬけな行動でも、見せたい人にだけ魔法になれば、それでいい。
「うん。魔法だよ。仲直りの魔法さ」
「ふーん」
カメとウサギは確かに、しーちゃんの手の上で和解したんだよ。
おや、いつの間にか普通に話している。ぼくと佳奈ちゃんも和解したのだろうか。
ケンカした覚えもないけれど。
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