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死神の館
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男の声がする。
それも、一つではない。複数の男が、まるで囃し立てるような口調で何事かわめきながら、四肢をとらえてどこかへ運んでいるようだ。
スミンは徐々に意識が鮮明になるなか、視界だけは一向に回復しないことに違和感を覚えた。それは夜だからではなく、彼女の頭をすっぽりと黒い布が覆っているからだというのは、あとで分かった。
ぼんやりと記憶の糸をたぐり寄せようとするが、定かでない。
が、それ以上に問題があった。
真っ暗で、しかも我が身は何者かにさらわれてどこかに運ばれている。
そういう状況を理解した途端、不安と恐怖がスミンの心を支配した。
スミンは身体的自由を回復しようともがき、びくともせぬと知るといよいよ恐慌状態に陥って、悲鳴を上げ、助けを求めた。
しかしスミンのそうした反応もすべては、男たちの下卑た哄笑を増幅させるだけだ。
実際にはわずかに数分であったが、スミンにとってはこの世の終わりを想像させ予感させる数分であり、しかも何倍にも長い時間に感じられた。
やがて空気の流れが変わり、ひときわカビ臭く湿っぽい場所で、ようやくスミンは下ろされた。下ろされた、というよりは放り捨てられた、と表現する方が的確かもしれない。人ではなく物を扱うような乱雑さである。
布をはぎ取られ、少しずつ状況が判明する。
どういう性質の部屋だろう。
まるで倉庫のような、石を組み上げて隙間を粘土で埋めただけの壁で囲まれた暗く狭い空間に、女ばかりが10人ほど、膝を抱えて座り込んでいる。人が3人ほども横になるのが精一杯の広さだから、誰もがそのような姿勢で縮こまっているしかないのであろう。
外から重い鍵がかけられる音を聞き、立錐の余地もないほどの室内で、スミンは叫ぶように誰にともなく問うた。
「ここは、どこですか!?」
パニック状態のスミンに比して、周りの女どもはいずれも異様なほどに静かだ。ほとんどが、放心したように目線だけをスミンに向けている。
スミンと同じくらいの少女もいれば、その母親くらいの女もいる。
そのなかでも最も年かさと思われる女性が、ひどく穏やかで無気力な声で応じた。
「お嬢さん、梅祭りに来たのかい」
「はい、母と一緒に。でもはぐれてしまって。ここはどこですか?」
「人さらいのアジトだよ」
「人さらい……?」
「あんた、さらわれたんだよ。ここにいる女はみんな、連邦領に運ばれて、そこで奴隷にさせられるのさ」
「そんな、まさか……」
スミンは絶句した。彼女はただ、母親と梅祭りににぎわう街を散策していただけだ。
女は、信じられない、といった表情のスミンをあわれみ、あるいは呆れたように力なく笑った。
「お嬢さん、危ないところへ近づいたんだろう。観光気分でダリへ来る女は、たいていが人さらいに狙われて、うまくかどわかされるんだよ。私は地元が長いから念入りに用心してたが、それでも連中は家に押し入ってきた。狙った獲物は絶対に逃さないよ」
「なぜ、私を狙うのです」
「あんた、不用心にもほどがあるよ。例えば大金をたんまり身につけて丸腰でいようもんなら、貧乏人に狙われる。このあたりは治安がとびきり悪いからね。若くて美しい女は、それこそ金の生る木が服を着て歩いてるようなもんだ。あんたみたいなべっぴんは狙われて当然てことだよ」
「私、父母のもとへ帰らなければ」
「無理だよ」
「みんなで協力すれば」
「殺されるだけだよ。私たちはモノなんだからね」
スミンは再び愕然として、言葉を失った。
ここにいる誰もが、女に同意のようであった。すっかり観念してしまっているらしい。
スミンは絶望のなか、想像した。
彼女も、ここに詰め込まれている女たちとともに船に乗せられ、数週間の長い航海の末、酷寒の連邦領に連れ去られ、そこで死ぬまで鉱山や漁船で働かされるのだろうか。
なんとしても、逃げなければ。
しかし、どうすればいいだろう。
彼女は手当たり次第、脱出口がないかを探るため、部屋のあちこちを調べて回った。壁に寄りかかってじっとしている女たちに謝りつつ、手がかりを求める。それはまるで、この希望のない状況下で、唯一の光明を探し求めるようなはかなさと健気さであった。
だが、そうした悪あがきも、長くは続かなかった。
鍵が開き、スミンの優に3倍は体重のありそうな屈強な男が入ってきて、彼女の首根っこをとらえ、さらに別室へと連れ出したからである。
そちらの部屋は、先ほどよりもよほど環境がいい。
広さがあるし、床は木で、寝台もあり、窓はないがろうそくがふたつ灯って必要なだけの明るさがある。ろうそくはこの時代のこの地域ではまずまず高級品と言っていい。しかも室内には何やら不思議な薫香が満ちている。
前方の寝台には異様な黒衣に身を包んだ一人の男が座っていて、その左右に若い美貌の女が控えている。さらにスミンの背後には、彼女をここまで運んできた熊のような大男が逃げ道をふさぐように仁王立ちしている。
恐怖と緊張のあまりがたがたと震えるスミンに、正面の男が低く乾いた声で尋ねた。
「名は」
それだけであった。年の頃は40から50といったところであろう。
スミンが押し黙っていると、男はもう一度、身を乗り出すように問いかけた。
「名は」
「……スミン」
「スミンか。よい子だ。不憫に思わぬではないが、お前はこれから、父母ではなく、私に仕えるのだ」
スミンはやはり、うんともすんとも言わず、沈黙した。
男の言葉に肯んぜられないことは無論だが、明快に拒否することもそれはそれで恐ろしかった。拒めば、先ほどの女が言ったように、殺されるかもしれない。
苦しまぎれに、別のことを聞いた。
「あの、私は遠いほかの国へ売りに出されるのでしょうか?」
「普通はそうする。だが、お前は私の手元に置く」
「なぜ」
「お前はよい子だ。器量、人並みではない。もう幾年かすれば、この国に冠たる容色に成長するであろう。いまひとつは、お前が医師ユチャンの娘だからだ」
「ち、父上とよからぬ縁でも」
「いやさ、縁などはない。むしろこれは一方的な怨恨だ。私はこのダリ一帯を束ねる呪術師。そしてここは私の裏稼業である人売り屋だ。人売り屋としてはどうでもいいが、呪術師の身としては、医師というのが実に邪魔っけでのう」
スミンはまだ幼いが、呪術師と医師が商売敵であるということは、彼女自身が医師を志しているということもあり、十二分に察せられる。前者は神秘主義を、後者は医学を奉じて、人を救う職業だ。そして呪術師というのは前時代的であり、そして身もふたもない言い方をすればただの詐欺師であり、学問の力で客を奪おうとする医師は、彼らからすれば目の上のたんこぶ、あるいはそれ以上にいまいましい存在に違いない。
しかし、だからといって医師の娘であるスミンが、このような得体の知れぬ男の所有物にならねばならぬ道理はない。
体の震えが止まらぬながらも、ありったけの勇気でもって、反駁した。
「私は父母に孝養を尽くさねばなりません。今すぐ、帰らせてください」
男は寝台から立ち上がり、無言のまま、スミンにのそりと近づく。
それまで、黒衣のフードをかぶっていたために影になっていた顔が、このときようやく見えた。
顔が、異常に白い。肌が自然に白いのではなく、恐らく自身の神秘性を演出するために、化粧をしているのであろう。そして顔の上部には落ちくぼんで影の濃い目が、不気味な光を放っている。
まるで、死神だ。
スミンは決して押されたわけではなかったが、膝の力が抜け、腰を抜かしたように座り込んだ。
死神が、彼女を見下ろしている。
「お前は、私に尽くすのだ。生涯、私に尽くすのだ」
「い、いやです」
「恐れずともよい。今に分かる」
男はなにか、合図を発したのであろうか。スミンには分からなかったが、その言葉とともに、隣に控えていた女たちが男にすり寄って、黒衣をそろそろと脱がせる。黒衣は長大な一枚布で、紐をいくつかほどくと、すぐに一糸まとわぬ姿になる。
スミンは男の下腹部に出現した異様な突起物に目を奪われ、そして恐怖した。
男女の営みにほとんど知識のないスミンでも、まるでよだれを垂らした異生物のような奇妙な硬直が、自分の胎内に入る欲望を持っているのだということくらいは理解できる。
「た、助けて……」
スミンはからからに渇いたのどからようやく細い声を絞り出し、そして一度は尻もちをついた腰を浮かせようとした。
が、それは彼女自身の意志で立ったのではなかったかもしれない。
背後の大男が、彼女の脇を抱えて立たせ、そのまま持ち上げたのだ。
スミンは、絶望的な金切り声を上げ、捕獲された昆虫のようにむなしく足を空中で回転させるだけであった。
女たちが、その足を片方ずつ抱え込んで、動けぬようにする。
「案ずるな。すぐに気分がよくなる」
男はねっとりとした口調でそう言うと、怪しげな軟膏らしきものを指に塗り、露になった下着の脇から彼女の秘所へと忍ばせた。
「お前は育ちがよい。言葉が丁寧だ。私もお前を丁重に扱おう。美しい宝石のようにな。すぐに、気分がよくなる」
そのように言いながら、男は軟膏を残らず塗りたくり、そして腰を近づけた。
あのようなものが、自分の中に入ってくるというのか。
無理だ、と彼女は思った。
が、彼女の必死の拒否にも、男は無情だ。
恐るべき切迫感とともに、男が入ってくる。
それはまず焼けるような熱さで、すぐに猛烈な痛みへと変わった。
激痛は容赦なく続く。
スミンは泣き叫びながらも、この地獄が早く終わるように願った。
男はスミンの体に大いに満足しているらしく、行為の最中にしばしば感動の声を上げたが、最後、ひときわ重く低い唸り声を漏らした。
おぞましくも気味の悪い違和感が胎内に広がり、スミンは全身に粟粒を生じさせた。
男が離れると、申し合わせたように片方の女がその力を失った陰部にむしゃぶりつき、こびりついた血液や新鮮な精液を清める。
もう一人の女はさらさらと手際よく黒衣を着せてゆく。
放心状態のスミンに、男は最後にこう言った。
「すぐに、気分がよくなる」
スミンはそのまま、別の部屋に運ばれ、そこで休むことになった。
それも、一つではない。複数の男が、まるで囃し立てるような口調で何事かわめきながら、四肢をとらえてどこかへ運んでいるようだ。
スミンは徐々に意識が鮮明になるなか、視界だけは一向に回復しないことに違和感を覚えた。それは夜だからではなく、彼女の頭をすっぽりと黒い布が覆っているからだというのは、あとで分かった。
ぼんやりと記憶の糸をたぐり寄せようとするが、定かでない。
が、それ以上に問題があった。
真っ暗で、しかも我が身は何者かにさらわれてどこかに運ばれている。
そういう状況を理解した途端、不安と恐怖がスミンの心を支配した。
スミンは身体的自由を回復しようともがき、びくともせぬと知るといよいよ恐慌状態に陥って、悲鳴を上げ、助けを求めた。
しかしスミンのそうした反応もすべては、男たちの下卑た哄笑を増幅させるだけだ。
実際にはわずかに数分であったが、スミンにとってはこの世の終わりを想像させ予感させる数分であり、しかも何倍にも長い時間に感じられた。
やがて空気の流れが変わり、ひときわカビ臭く湿っぽい場所で、ようやくスミンは下ろされた。下ろされた、というよりは放り捨てられた、と表現する方が的確かもしれない。人ではなく物を扱うような乱雑さである。
布をはぎ取られ、少しずつ状況が判明する。
どういう性質の部屋だろう。
まるで倉庫のような、石を組み上げて隙間を粘土で埋めただけの壁で囲まれた暗く狭い空間に、女ばかりが10人ほど、膝を抱えて座り込んでいる。人が3人ほども横になるのが精一杯の広さだから、誰もがそのような姿勢で縮こまっているしかないのであろう。
外から重い鍵がかけられる音を聞き、立錐の余地もないほどの室内で、スミンは叫ぶように誰にともなく問うた。
「ここは、どこですか!?」
パニック状態のスミンに比して、周りの女どもはいずれも異様なほどに静かだ。ほとんどが、放心したように目線だけをスミンに向けている。
スミンと同じくらいの少女もいれば、その母親くらいの女もいる。
そのなかでも最も年かさと思われる女性が、ひどく穏やかで無気力な声で応じた。
「お嬢さん、梅祭りに来たのかい」
「はい、母と一緒に。でもはぐれてしまって。ここはどこですか?」
「人さらいのアジトだよ」
「人さらい……?」
「あんた、さらわれたんだよ。ここにいる女はみんな、連邦領に運ばれて、そこで奴隷にさせられるのさ」
「そんな、まさか……」
スミンは絶句した。彼女はただ、母親と梅祭りににぎわう街を散策していただけだ。
女は、信じられない、といった表情のスミンをあわれみ、あるいは呆れたように力なく笑った。
「お嬢さん、危ないところへ近づいたんだろう。観光気分でダリへ来る女は、たいていが人さらいに狙われて、うまくかどわかされるんだよ。私は地元が長いから念入りに用心してたが、それでも連中は家に押し入ってきた。狙った獲物は絶対に逃さないよ」
「なぜ、私を狙うのです」
「あんた、不用心にもほどがあるよ。例えば大金をたんまり身につけて丸腰でいようもんなら、貧乏人に狙われる。このあたりは治安がとびきり悪いからね。若くて美しい女は、それこそ金の生る木が服を着て歩いてるようなもんだ。あんたみたいなべっぴんは狙われて当然てことだよ」
「私、父母のもとへ帰らなければ」
「無理だよ」
「みんなで協力すれば」
「殺されるだけだよ。私たちはモノなんだからね」
スミンは再び愕然として、言葉を失った。
ここにいる誰もが、女に同意のようであった。すっかり観念してしまっているらしい。
スミンは絶望のなか、想像した。
彼女も、ここに詰め込まれている女たちとともに船に乗せられ、数週間の長い航海の末、酷寒の連邦領に連れ去られ、そこで死ぬまで鉱山や漁船で働かされるのだろうか。
なんとしても、逃げなければ。
しかし、どうすればいいだろう。
彼女は手当たり次第、脱出口がないかを探るため、部屋のあちこちを調べて回った。壁に寄りかかってじっとしている女たちに謝りつつ、手がかりを求める。それはまるで、この希望のない状況下で、唯一の光明を探し求めるようなはかなさと健気さであった。
だが、そうした悪あがきも、長くは続かなかった。
鍵が開き、スミンの優に3倍は体重のありそうな屈強な男が入ってきて、彼女の首根っこをとらえ、さらに別室へと連れ出したからである。
そちらの部屋は、先ほどよりもよほど環境がいい。
広さがあるし、床は木で、寝台もあり、窓はないがろうそくがふたつ灯って必要なだけの明るさがある。ろうそくはこの時代のこの地域ではまずまず高級品と言っていい。しかも室内には何やら不思議な薫香が満ちている。
前方の寝台には異様な黒衣に身を包んだ一人の男が座っていて、その左右に若い美貌の女が控えている。さらにスミンの背後には、彼女をここまで運んできた熊のような大男が逃げ道をふさぐように仁王立ちしている。
恐怖と緊張のあまりがたがたと震えるスミンに、正面の男が低く乾いた声で尋ねた。
「名は」
それだけであった。年の頃は40から50といったところであろう。
スミンが押し黙っていると、男はもう一度、身を乗り出すように問いかけた。
「名は」
「……スミン」
「スミンか。よい子だ。不憫に思わぬではないが、お前はこれから、父母ではなく、私に仕えるのだ」
スミンはやはり、うんともすんとも言わず、沈黙した。
男の言葉に肯んぜられないことは無論だが、明快に拒否することもそれはそれで恐ろしかった。拒めば、先ほどの女が言ったように、殺されるかもしれない。
苦しまぎれに、別のことを聞いた。
「あの、私は遠いほかの国へ売りに出されるのでしょうか?」
「普通はそうする。だが、お前は私の手元に置く」
「なぜ」
「お前はよい子だ。器量、人並みではない。もう幾年かすれば、この国に冠たる容色に成長するであろう。いまひとつは、お前が医師ユチャンの娘だからだ」
「ち、父上とよからぬ縁でも」
「いやさ、縁などはない。むしろこれは一方的な怨恨だ。私はこのダリ一帯を束ねる呪術師。そしてここは私の裏稼業である人売り屋だ。人売り屋としてはどうでもいいが、呪術師の身としては、医師というのが実に邪魔っけでのう」
スミンはまだ幼いが、呪術師と医師が商売敵であるということは、彼女自身が医師を志しているということもあり、十二分に察せられる。前者は神秘主義を、後者は医学を奉じて、人を救う職業だ。そして呪術師というのは前時代的であり、そして身もふたもない言い方をすればただの詐欺師であり、学問の力で客を奪おうとする医師は、彼らからすれば目の上のたんこぶ、あるいはそれ以上にいまいましい存在に違いない。
しかし、だからといって医師の娘であるスミンが、このような得体の知れぬ男の所有物にならねばならぬ道理はない。
体の震えが止まらぬながらも、ありったけの勇気でもって、反駁した。
「私は父母に孝養を尽くさねばなりません。今すぐ、帰らせてください」
男は寝台から立ち上がり、無言のまま、スミンにのそりと近づく。
それまで、黒衣のフードをかぶっていたために影になっていた顔が、このときようやく見えた。
顔が、異常に白い。肌が自然に白いのではなく、恐らく自身の神秘性を演出するために、化粧をしているのであろう。そして顔の上部には落ちくぼんで影の濃い目が、不気味な光を放っている。
まるで、死神だ。
スミンは決して押されたわけではなかったが、膝の力が抜け、腰を抜かしたように座り込んだ。
死神が、彼女を見下ろしている。
「お前は、私に尽くすのだ。生涯、私に尽くすのだ」
「い、いやです」
「恐れずともよい。今に分かる」
男はなにか、合図を発したのであろうか。スミンには分からなかったが、その言葉とともに、隣に控えていた女たちが男にすり寄って、黒衣をそろそろと脱がせる。黒衣は長大な一枚布で、紐をいくつかほどくと、すぐに一糸まとわぬ姿になる。
スミンは男の下腹部に出現した異様な突起物に目を奪われ、そして恐怖した。
男女の営みにほとんど知識のないスミンでも、まるでよだれを垂らした異生物のような奇妙な硬直が、自分の胎内に入る欲望を持っているのだということくらいは理解できる。
「た、助けて……」
スミンはからからに渇いたのどからようやく細い声を絞り出し、そして一度は尻もちをついた腰を浮かせようとした。
が、それは彼女自身の意志で立ったのではなかったかもしれない。
背後の大男が、彼女の脇を抱えて立たせ、そのまま持ち上げたのだ。
スミンは、絶望的な金切り声を上げ、捕獲された昆虫のようにむなしく足を空中で回転させるだけであった。
女たちが、その足を片方ずつ抱え込んで、動けぬようにする。
「案ずるな。すぐに気分がよくなる」
男はねっとりとした口調でそう言うと、怪しげな軟膏らしきものを指に塗り、露になった下着の脇から彼女の秘所へと忍ばせた。
「お前は育ちがよい。言葉が丁寧だ。私もお前を丁重に扱おう。美しい宝石のようにな。すぐに、気分がよくなる」
そのように言いながら、男は軟膏を残らず塗りたくり、そして腰を近づけた。
あのようなものが、自分の中に入ってくるというのか。
無理だ、と彼女は思った。
が、彼女の必死の拒否にも、男は無情だ。
恐るべき切迫感とともに、男が入ってくる。
それはまず焼けるような熱さで、すぐに猛烈な痛みへと変わった。
激痛は容赦なく続く。
スミンは泣き叫びながらも、この地獄が早く終わるように願った。
男はスミンの体に大いに満足しているらしく、行為の最中にしばしば感動の声を上げたが、最後、ひときわ重く低い唸り声を漏らした。
おぞましくも気味の悪い違和感が胎内に広がり、スミンは全身に粟粒を生じさせた。
男が離れると、申し合わせたように片方の女がその力を失った陰部にむしゃぶりつき、こびりついた血液や新鮮な精液を清める。
もう一人の女はさらさらと手際よく黒衣を着せてゆく。
放心状態のスミンに、男は最後にこう言った。
「すぐに、気分がよくなる」
スミンはそのまま、別の部屋に運ばれ、そこで休むことになった。
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