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第四章 旦那様がグイグイ来ます
信じられない話
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「グラディス、よく聞いてくれ。実はな……」
リーゲル様と両手を繋いだ状態のまま、私は彼の言葉に耳を傾ける。
王女殿下とリーゲル様の話なんて本当は聞きたくないけれど、ここまでするからには、きっと何か話さなければならない事情があるのだろう。
でも、彼と殿下の仲が良いことは既に知っているし、今更改めて聞くことなんてないような気がする。
それとも、私が出掛けている間に、何か問題でも発生したのかしら?
もしかすると、そうかもしれない。
だとしたら、一体何が起こったんだろう?
緊張する私に、リーゲル様はふっと表情を崩す。それから徐に口を開くと、はっきりとした口調でこう言った。
「実は私は、王女殿下を好いてはいない」
「そうなんですか……ええっ!?」
予想外の内容であったことと、あまりにもサラッと言われたため、つい聞き流しそうになってしまった。
今何を言われたんだっけ? と、言われたことを数瞬頭の中で考えてから、理解が追いついた途端、驚きの声が口から漏れる。
好いてはいない? それってつまり、好きじゃないってこと?
「嘘……」
そんなこと、ありえない。
だって、あんなにも仲睦まじくしていらしたのに、好きじゃないと聞いたからといって、はいそうですか。と簡単に信じられるわけがない。
いくら私でも、そこまで単純ではないのだ。
「ですが今日も、腕を組んでいらっしゃいましたよね?」
朝食の後、二人揃って食堂を出て行く時、仲良さ気に腕を組むところを私はしっかり目撃していた。
それにショックを受けたから、外出を決めたのに。
「あれは殿下が無理矢理私の腕に絡み付いて来ただけで、好きで組んだわけでは──」
「絡み付くなんて、いやらしいです! そんな言い方しないで下さい!」
「す、すまない。だが、あれは本当に私の本意ではなく、寧ろ無理矢理くっつかれただけで──」
無意識なのかわざとなのか、リーゲル様の言い方がいちいち私の心を抉る。
絡み付くだとかくっつかれただとか、同じようなことを何度も何度も、手を変え品を変え言わないで欲しい。
たとえリーゲル様が殿下のことを本当に好きでなくても、くっついたりしている分だけ、私よりも仲が良いということなのに。
私なんて、ダンスの時を除けば、今初めて手を握られたのよ?
いくら相手が王族だとはいえ、好きでもない相手とあんなにも仲睦まじく振る舞うことができるだなんて、神経を疑ってしまう。
「それで? 殿下のことが好きでないなら、なんだと言うのですか?」
ふと二人の仲良さ気な姿を思い出し、だからつい言い方が冷たくなった。
そのことはもう考えたくなくて、半ば強制的に続きを促す。
どうして突然こんな話をし始めたのか、リーゲル様の考えがまったく理解できない。
私のそんな気持ちを察したのだろうか。
彼は少しだけ困ったような顔をすると、私の両手を握る手に力を込めた。
「つまり私が言いたいのは、私と殿下の仲を誤解しないでほしい、ということなんだ」
「誤解とは……」
誤解も何も、二人の仲が良いことは、最早疑いようがないではないか。
夫婦で行った夜会で妻を放置して二人──正確には王太子殿下も入れた三人──で話し、かと思えば朝早くに突然邸へやって来て、これ見よがしに仲の良さを見せつけられた。
極め付けは、夫婦でもないのにお互いを名前で呼び合う親密ぶり。
これで一体何がどう誤解だと言うのだろうか。
「私には、自分の目で見たものが真実のように思えますが……」
これまで見たものすべてを誤解で片付けるには、二人はあまりにも仲良くしすぎている。
ただ一点疑える事実があるとすれば、街へ出た私をリーゲル様が迎えに来てくれたことだけれど。
あれは本当に私を迎えに来てくれたのかしら?
思い出してみると、彼の口からは一言だって私を迎えに来たとか、そういった意味の言葉は発せられていなかった。
ただ偶然カフェで逢って、お互いにもう街での用事がなかったから、ちょうどよく一緒に帰って来たみたいな。
「そもそもリーゲル様は、何故今日街へいらしたのですか?」
もしかして、王女殿下をお城へ送った帰りとか、彼自身も街に用事があって、出掛けた際に偶然私をみつけただとか、そんな理由なのかもしれない。
けれど──。
「あー……うん、私が街へ行った理由か。そうだな……」
リーゲル様は、何故だか言いにくそうに言葉を濁した。
これはもしや、何か言えない理由があるのでは?
私の勘が働き、ここは何が何でも聞き出そうと決意を固める。
大方、王女殿下にプレゼントを買ったとか、そんなことなんだろうけど。
それならそれで素直に言ってしまえばいいのに、どうして言葉を濁すのかが分からない。
殿下のことを好きではないと言ってしまった手前、言いにくいのかしら?
じっとリーゲル様を見つめるも、いつも落ち着いている彼にしては珍しく、若干焦ったような顔をしている。
でも悪いけど、私だってあやふやにする気はないのよ。
王女殿下を好きでないと言うのなら、それなりに私が納得できるような説明をしてもらう。
リーゲル様と両手を繋いだ状態のまま、私は彼の言葉に耳を傾ける。
王女殿下とリーゲル様の話なんて本当は聞きたくないけれど、ここまでするからには、きっと何か話さなければならない事情があるのだろう。
でも、彼と殿下の仲が良いことは既に知っているし、今更改めて聞くことなんてないような気がする。
それとも、私が出掛けている間に、何か問題でも発生したのかしら?
もしかすると、そうかもしれない。
だとしたら、一体何が起こったんだろう?
緊張する私に、リーゲル様はふっと表情を崩す。それから徐に口を開くと、はっきりとした口調でこう言った。
「実は私は、王女殿下を好いてはいない」
「そうなんですか……ええっ!?」
予想外の内容であったことと、あまりにもサラッと言われたため、つい聞き流しそうになってしまった。
今何を言われたんだっけ? と、言われたことを数瞬頭の中で考えてから、理解が追いついた途端、驚きの声が口から漏れる。
好いてはいない? それってつまり、好きじゃないってこと?
「嘘……」
そんなこと、ありえない。
だって、あんなにも仲睦まじくしていらしたのに、好きじゃないと聞いたからといって、はいそうですか。と簡単に信じられるわけがない。
いくら私でも、そこまで単純ではないのだ。
「ですが今日も、腕を組んでいらっしゃいましたよね?」
朝食の後、二人揃って食堂を出て行く時、仲良さ気に腕を組むところを私はしっかり目撃していた。
それにショックを受けたから、外出を決めたのに。
「あれは殿下が無理矢理私の腕に絡み付いて来ただけで、好きで組んだわけでは──」
「絡み付くなんて、いやらしいです! そんな言い方しないで下さい!」
「す、すまない。だが、あれは本当に私の本意ではなく、寧ろ無理矢理くっつかれただけで──」
無意識なのかわざとなのか、リーゲル様の言い方がいちいち私の心を抉る。
絡み付くだとかくっつかれただとか、同じようなことを何度も何度も、手を変え品を変え言わないで欲しい。
たとえリーゲル様が殿下のことを本当に好きでなくても、くっついたりしている分だけ、私よりも仲が良いということなのに。
私なんて、ダンスの時を除けば、今初めて手を握られたのよ?
いくら相手が王族だとはいえ、好きでもない相手とあんなにも仲睦まじく振る舞うことができるだなんて、神経を疑ってしまう。
「それで? 殿下のことが好きでないなら、なんだと言うのですか?」
ふと二人の仲良さ気な姿を思い出し、だからつい言い方が冷たくなった。
そのことはもう考えたくなくて、半ば強制的に続きを促す。
どうして突然こんな話をし始めたのか、リーゲル様の考えがまったく理解できない。
私のそんな気持ちを察したのだろうか。
彼は少しだけ困ったような顔をすると、私の両手を握る手に力を込めた。
「つまり私が言いたいのは、私と殿下の仲を誤解しないでほしい、ということなんだ」
「誤解とは……」
誤解も何も、二人の仲が良いことは、最早疑いようがないではないか。
夫婦で行った夜会で妻を放置して二人──正確には王太子殿下も入れた三人──で話し、かと思えば朝早くに突然邸へやって来て、これ見よがしに仲の良さを見せつけられた。
極め付けは、夫婦でもないのにお互いを名前で呼び合う親密ぶり。
これで一体何がどう誤解だと言うのだろうか。
「私には、自分の目で見たものが真実のように思えますが……」
これまで見たものすべてを誤解で片付けるには、二人はあまりにも仲良くしすぎている。
ただ一点疑える事実があるとすれば、街へ出た私をリーゲル様が迎えに来てくれたことだけれど。
あれは本当に私を迎えに来てくれたのかしら?
思い出してみると、彼の口からは一言だって私を迎えに来たとか、そういった意味の言葉は発せられていなかった。
ただ偶然カフェで逢って、お互いにもう街での用事がなかったから、ちょうどよく一緒に帰って来たみたいな。
「そもそもリーゲル様は、何故今日街へいらしたのですか?」
もしかして、王女殿下をお城へ送った帰りとか、彼自身も街に用事があって、出掛けた際に偶然私をみつけただとか、そんな理由なのかもしれない。
けれど──。
「あー……うん、私が街へ行った理由か。そうだな……」
リーゲル様は、何故だか言いにくそうに言葉を濁した。
これはもしや、何か言えない理由があるのでは?
私の勘が働き、ここは何が何でも聞き出そうと決意を固める。
大方、王女殿下にプレゼントを買ったとか、そんなことなんだろうけど。
それならそれで素直に言ってしまえばいいのに、どうして言葉を濁すのかが分からない。
殿下のことを好きではないと言ってしまった手前、言いにくいのかしら?
じっとリーゲル様を見つめるも、いつも落ち着いている彼にしては珍しく、若干焦ったような顔をしている。
でも悪いけど、私だってあやふやにする気はないのよ。
王女殿下を好きでないと言うのなら、それなりに私が納得できるような説明をしてもらう。
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