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第四章 旦那様がグイグイ来ます
初めての街歩き
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ポルテと二人、仲良く街へと出た私は、活気のある街の風景に目を輝かせていた。
「すごいすごい! 街というのは普段からこんなにも人が多いものなの? 初めて来たから何もかもが新鮮だわ!」
「初めて……ですか?」
隣でポルテが驚いた顔をする。
「もしかして奥様は、これまでのお買い物は全て家まで商人を呼び付けて行っていたとか……? そんなわけないですよね?」
どうしてそんな事を聞いてくるんだろう?
疑問に思いつつも、私はポルテの質問に答える。
「う~ん……それは半分当たりで、半分は間違いね」
「というと?」
「宝石など高価な物を購入する際は商人を呼び付けていたようだけれど、ドレスなど日常的な物は、お姉様が街へ買いに行っていたから」
ちなみに、私は行ったことがない。
何度かお姉様に誘われたことはあるものの、買物へ行くより本を読んでいたいからと、毎回お断りを入れていた。
その度にお姉様は、どこか残念そうな寂し気な顔をしていたけれど、あの時の私は読書をするのが何よりの楽しみで、一分一秒でも時間があれば読書をしていたかったから。
それに、お姉様と一緒に出かけたところで、それを見た人達に嫌味を言われるのが目に見えていたため、そういった嫌なものから自分を守るためにも、極力外出などは控えていたのだ。
「それで困ることはなかったんですか?」
首を傾げるポルテに、私は満面の笑みで頷く。
「もちろんよ! 私は次女だから社交をする必要なんてなかったし、夜会などにも出たいとは思わなかったから、買物なんてしなくても、何ら困ることはなかったわ」
私の欲しい物は本だけだったし、本はわざわざ街へ出て買わなくても、貴族院の図書室に十分な量の蔵書が収められていたから、それらを借りるだけで事足りた。
しかも、どれだけ読書に時間を費やそうとも、卒業までに全てを読破するのは無理だと気付き、それからは一層読書に時間を割くようになっていったのだ。それ以外のことをする時間など、一秒たりともなかった。
何故なら、卒業した後は余程のことがない限り貴族院への出入りは禁止される。
その為、在学中に一冊でも多くの本を読破する必要があった。
「でしたら今日は、奥様の初めての街歩きですね。そんな日にご一緒できるなんて光栄です」
ポルテが嬉しそうに微笑んでくれる。
そんな風に喜んでもらえると、私もつい嬉しくなって、にっこりと微笑み返した。
「最初はどこへ行きましょうか」
端から順に見て行くというのも捨てがたいですが、それだと体力が続かないと思うので、今日は目的の店を何軒か回るだけに留めましょう、とポルテが提案してくれる。
私としては、端から端まで見て回りたかったのだけれど、これまで引きこもりだった自分にそんな体力がないことは分かりきっているから、素直に頷く。
「そうね。じゃあまずはドレスを見に行きましょうか」
と、街へ来たそもそもの目的を口にした。
「え……奥様、まさかドレスを見に行きたかったんですか!?」
何故かポルテが、物凄く驚いたように言う。
「そ、そうだけど……どうかしたの? 私がドレスを見たいと言うのは、そんなにおかしいかしら?」
不思議に思って聞いてみると、彼女は思い切り首を横に振った。
「違います! ただ私は、奥様が実家からお持ちになったドレスが地味な物ばかりだったので、奥様はあまりお洒落に興味がおありではないのだなと勝手に思い込んでおりまして……」
「それは本当──」
「だから嬉しいのです!」
思いっきり遮られた。
「それ相応のドレスを身に纏っていただけたら、絶対にお美しくして差し上げる自信がありますのに、奥様には全くその気がなさそうで……。私は奥様の侍女として、奥様のお役に立つ為に存在しておりますのに、ほとんど何の役にも立てていないことが口惜しく……」
「そんなことないわ。ポルテは凄く私の役に立ってくれているわよ?」
まさかそんな風に思っていたとは。
言ってくれればドレスなんて幾らでも着たのに、何も言ってくれないから──あ。言ったところで私が地味なドレスしか持ってないから、着せることができなかったのか。
少々申し訳ない気持ちになって、ごめんとポルテに頭を下げる。
「そんな、奥様に謝罪いただくようなことでは──」
「もういいから。とにかくドレスを見に行きましょう」
このままでは埒があかないと、強引に手を繋ぎ、歩き出す。
「奥様と手を繋ぐだなんて、畏れ多い……」
歩き始めてもポルテはまだ何かぶつぶつと言っていたけれど、気付かず私が洋装店の前を通り過ぎそうになった瞬間、ガッチリと私の手を掴み返してきた。
「ここです、奥様。入りましょう!」
それまでの態度はどこへやら、どちらが雇い主か分からない勢いでもって扉を開け、ポルテは堂々と店内へ入って行く。
反対に、初めて店へと入る私は彼女に手を引かれつつも、おどおどしてしまう。
となれば当然、分かりやすく作りものの笑顔を浮かべて寄って来た店主は、ポルテへと声をかけるわけで。
私はそれをこれ幸いと、自由に店内を見て回ることにした。
_______________________________________
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
少し体調を崩しまして、ペースが落ち気味で申し訳ないのですが、いいねとエールまでいただき、頑張ろうと気合いをいれてます!!
グラディスとリーゲルのすれ違いが解消されるその日まで、是非お付き合い下さい!
「すごいすごい! 街というのは普段からこんなにも人が多いものなの? 初めて来たから何もかもが新鮮だわ!」
「初めて……ですか?」
隣でポルテが驚いた顔をする。
「もしかして奥様は、これまでのお買い物は全て家まで商人を呼び付けて行っていたとか……? そんなわけないですよね?」
どうしてそんな事を聞いてくるんだろう?
疑問に思いつつも、私はポルテの質問に答える。
「う~ん……それは半分当たりで、半分は間違いね」
「というと?」
「宝石など高価な物を購入する際は商人を呼び付けていたようだけれど、ドレスなど日常的な物は、お姉様が街へ買いに行っていたから」
ちなみに、私は行ったことがない。
何度かお姉様に誘われたことはあるものの、買物へ行くより本を読んでいたいからと、毎回お断りを入れていた。
その度にお姉様は、どこか残念そうな寂し気な顔をしていたけれど、あの時の私は読書をするのが何よりの楽しみで、一分一秒でも時間があれば読書をしていたかったから。
それに、お姉様と一緒に出かけたところで、それを見た人達に嫌味を言われるのが目に見えていたため、そういった嫌なものから自分を守るためにも、極力外出などは控えていたのだ。
「それで困ることはなかったんですか?」
首を傾げるポルテに、私は満面の笑みで頷く。
「もちろんよ! 私は次女だから社交をする必要なんてなかったし、夜会などにも出たいとは思わなかったから、買物なんてしなくても、何ら困ることはなかったわ」
私の欲しい物は本だけだったし、本はわざわざ街へ出て買わなくても、貴族院の図書室に十分な量の蔵書が収められていたから、それらを借りるだけで事足りた。
しかも、どれだけ読書に時間を費やそうとも、卒業までに全てを読破するのは無理だと気付き、それからは一層読書に時間を割くようになっていったのだ。それ以外のことをする時間など、一秒たりともなかった。
何故なら、卒業した後は余程のことがない限り貴族院への出入りは禁止される。
その為、在学中に一冊でも多くの本を読破する必要があった。
「でしたら今日は、奥様の初めての街歩きですね。そんな日にご一緒できるなんて光栄です」
ポルテが嬉しそうに微笑んでくれる。
そんな風に喜んでもらえると、私もつい嬉しくなって、にっこりと微笑み返した。
「最初はどこへ行きましょうか」
端から順に見て行くというのも捨てがたいですが、それだと体力が続かないと思うので、今日は目的の店を何軒か回るだけに留めましょう、とポルテが提案してくれる。
私としては、端から端まで見て回りたかったのだけれど、これまで引きこもりだった自分にそんな体力がないことは分かりきっているから、素直に頷く。
「そうね。じゃあまずはドレスを見に行きましょうか」
と、街へ来たそもそもの目的を口にした。
「え……奥様、まさかドレスを見に行きたかったんですか!?」
何故かポルテが、物凄く驚いたように言う。
「そ、そうだけど……どうかしたの? 私がドレスを見たいと言うのは、そんなにおかしいかしら?」
不思議に思って聞いてみると、彼女は思い切り首を横に振った。
「違います! ただ私は、奥様が実家からお持ちになったドレスが地味な物ばかりだったので、奥様はあまりお洒落に興味がおありではないのだなと勝手に思い込んでおりまして……」
「それは本当──」
「だから嬉しいのです!」
思いっきり遮られた。
「それ相応のドレスを身に纏っていただけたら、絶対にお美しくして差し上げる自信がありますのに、奥様には全くその気がなさそうで……。私は奥様の侍女として、奥様のお役に立つ為に存在しておりますのに、ほとんど何の役にも立てていないことが口惜しく……」
「そんなことないわ。ポルテは凄く私の役に立ってくれているわよ?」
まさかそんな風に思っていたとは。
言ってくれればドレスなんて幾らでも着たのに、何も言ってくれないから──あ。言ったところで私が地味なドレスしか持ってないから、着せることができなかったのか。
少々申し訳ない気持ちになって、ごめんとポルテに頭を下げる。
「そんな、奥様に謝罪いただくようなことでは──」
「もういいから。とにかくドレスを見に行きましょう」
このままでは埒があかないと、強引に手を繋ぎ、歩き出す。
「奥様と手を繋ぐだなんて、畏れ多い……」
歩き始めてもポルテはまだ何かぶつぶつと言っていたけれど、気付かず私が洋装店の前を通り過ぎそうになった瞬間、ガッチリと私の手を掴み返してきた。
「ここです、奥様。入りましょう!」
それまでの態度はどこへやら、どちらが雇い主か分からない勢いでもって扉を開け、ポルテは堂々と店内へ入って行く。
反対に、初めて店へと入る私は彼女に手を引かれつつも、おどおどしてしまう。
となれば当然、分かりやすく作りものの笑顔を浮かべて寄って来た店主は、ポルテへと声をかけるわけで。
私はそれをこれ幸いと、自由に店内を見て回ることにした。
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ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
少し体調を崩しまして、ペースが落ち気味で申し訳ないのですが、いいねとエールまでいただき、頑張ろうと気合いをいれてます!!
グラディスとリーゲルのすれ違いが解消されるその日まで、是非お付き合い下さい!
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