27 / 84
第三章 旦那様はモテモテです
燃えるような恋?
しおりを挟む
王女殿下のお言葉通り、私は食事を終えられたリーゲル様と殿下が連れ立って食堂から出て行かれるまで、その場に座り続けていた。
食堂を出る一歩手前で、未だ食事を終えていない私を気にするようにリーゲル様が振り返ってくれたけれど、彼が何ごとかを発する前に殿下が彼の背中を押し、結局二人はそのまま食堂を出て行ってしまう。
でもそれは仕方のないこと。
如何に公爵といえど、殿下には逆らえない。それに私は、リーゲル様が振り返ってくれただけで十分だった。
殿下のことだけを気にして、殿下のことで頭がいっぱいだと思っていたのに、ちゃんと私のことも気にしてくれたんだと、一人食堂に置いて行くことに対して何かを思ってくれたんだと思うだけで、幸せを感じられたから。
なんだかんだ、リーゲル様はお優しい。
それはもしかしたら、お姉様に裏切られたせいかもしれないけれど。
そんなお姉様の妹である私に、八つ当たりしてもいいぐらいだと思うのに、彼は酷いことを何もしないばかりか、恨み言一つさえも言ってきたことがない。
どうしてあんなに優しい人を、お姉様は裏切ることができたんだろう?
それ程までに駆け落ちした相手のことが好きだったのだろうと、お父様達は言っていたけれど。
正直なところ私には、そこまでの感情は理解できなかった。
リーゲル様のことは大好きだし、愛していると思うけれど、この気持ちが本当の恋愛によるものなのか、お姉様が騎士の方に抱いた気持ちと同じものなのかと問われると、どうしても自信が持てないのだ。
燃えるような恋──と言うけれど、一人でも燃えるのかどうか定かではないし、そういった温度の話で言えば、私の温度はそれほど高くないような気もする。
一瞬一瞬は激しく燃え上がるのだけど、燃え上がるというよりは、興奮してその時だけ噴火するといった感じ。
果たしてこれは、本当に恋なのかしら……?
そんな風に考えてしまうこともあったり、なかったりで。
考えているうちに、知らず食事をとる手が止まっていたらしい。
今更ながら悩み始めた私の肩を、不意に誰かが優しく叩いた。
「奥様」
「あっ、なあに?」
突如現実へと引き戻され、振り返る。
そこに居たのは、家令のマーシャルで。
「旦那様からの言伝でございます。これから殿下を庭園へとご案内するので、奥様もお食事を終えられましたら是非。とのことでございます」
「そう……分かったわ、ありがとう」
会釈をして去って行くマーシャルを見送りながら、私は急速に心が冷えていくのを感じる。
殿下と二人だけでいられる時間に、何故リーゲル様がわざわざ私を誘うようなことを口にしたのかは理解できないけれど、殿下からしたら私は完全にお邪魔虫だ。
誘いの言葉を真に受けて庭園へ行こうものなら、睨まれるだけでなく、また嫌味を言われるだろう。
幾ら嫌味を言われることに慣れているとはいっても、言われるのはやはり嫌だし、聞かずに済ませられるなら、そうしたい。
それに、殿下とリーゲル様が仲良くされている姿を目の前で見せつけられたら、きっと私はどうしたらいいのか分からなくなってしまう。
怒ればいいのか、悲しめばいいのか、無表情のままでいたらいいのか。
そんなことすら分からない私は、庭園になど行かない方が良いに決まっている。
リーゲル様も、恐らく妻である私の立場を慮って、義理で声をかけてくれただけだろうし。
まさか本当に私が庭園へ行くとは思ってもいないだろうから、ここで私が変にでしゃばって、王家と公爵家の関係にヒビを入れるような行いは、絶対に避けるべきだ。
そう結論付けた私は、食事を終えると真っ直ぐに自室へ向かい、外出の用意をするようポルテに告げた。
「外出されるんですか? それでは、旦那様が王女殿下と二人きりになってしまいます!」
私はそんなの反対です。と、渋る様子を見せたポルテだったけれど。
「私は出来れば家にいたくないの。殿下はリーゲル様と二人きりになられたいようだし、私がいては邪魔になってしまうわ。とはいえ使用人を全員連れて外出するわけではないのだから、完全に二人きりになれるわけでもないでしょう? だから大丈夫。それに、私が家にいることでリーゲル様にいらぬ気を遣わせるのも嫌なの。だから」
「旦那様が奥様を気にされるのは当たり前です!」
「それでも私は、極力あの方を煩わせたくないの。お願い、ポルテ」
懇願すると、ポルテは迷うように数瞬瞳を彷徨わせ、ややあって諦めたのか、がっくりと肩を落としながらも頷いてくれた。
「……かしこまりました。もの凄く不本意ですが、奥様のおっしゃる通りに致します。ですが、私も付いていきますからね!」
「まあ本当? 嬉しいわ。一人じゃ寂しいと思っていたの」
どうせなら、この機に色々なお店を見て回ろうと、二人で相談する。
王女殿下は、前公爵家にも過去何度か訪ねられており、その度に朝から夕方まで、ほぼ一日中リーゲル様と過ごされていたらしい。
だから今回も、どうせ夕方過ぎまで居座るだろうということで、私達はそのような計画をたてたのだった。
食堂を出る一歩手前で、未だ食事を終えていない私を気にするようにリーゲル様が振り返ってくれたけれど、彼が何ごとかを発する前に殿下が彼の背中を押し、結局二人はそのまま食堂を出て行ってしまう。
でもそれは仕方のないこと。
如何に公爵といえど、殿下には逆らえない。それに私は、リーゲル様が振り返ってくれただけで十分だった。
殿下のことだけを気にして、殿下のことで頭がいっぱいだと思っていたのに、ちゃんと私のことも気にしてくれたんだと、一人食堂に置いて行くことに対して何かを思ってくれたんだと思うだけで、幸せを感じられたから。
なんだかんだ、リーゲル様はお優しい。
それはもしかしたら、お姉様に裏切られたせいかもしれないけれど。
そんなお姉様の妹である私に、八つ当たりしてもいいぐらいだと思うのに、彼は酷いことを何もしないばかりか、恨み言一つさえも言ってきたことがない。
どうしてあんなに優しい人を、お姉様は裏切ることができたんだろう?
それ程までに駆け落ちした相手のことが好きだったのだろうと、お父様達は言っていたけれど。
正直なところ私には、そこまでの感情は理解できなかった。
リーゲル様のことは大好きだし、愛していると思うけれど、この気持ちが本当の恋愛によるものなのか、お姉様が騎士の方に抱いた気持ちと同じものなのかと問われると、どうしても自信が持てないのだ。
燃えるような恋──と言うけれど、一人でも燃えるのかどうか定かではないし、そういった温度の話で言えば、私の温度はそれほど高くないような気もする。
一瞬一瞬は激しく燃え上がるのだけど、燃え上がるというよりは、興奮してその時だけ噴火するといった感じ。
果たしてこれは、本当に恋なのかしら……?
そんな風に考えてしまうこともあったり、なかったりで。
考えているうちに、知らず食事をとる手が止まっていたらしい。
今更ながら悩み始めた私の肩を、不意に誰かが優しく叩いた。
「奥様」
「あっ、なあに?」
突如現実へと引き戻され、振り返る。
そこに居たのは、家令のマーシャルで。
「旦那様からの言伝でございます。これから殿下を庭園へとご案内するので、奥様もお食事を終えられましたら是非。とのことでございます」
「そう……分かったわ、ありがとう」
会釈をして去って行くマーシャルを見送りながら、私は急速に心が冷えていくのを感じる。
殿下と二人だけでいられる時間に、何故リーゲル様がわざわざ私を誘うようなことを口にしたのかは理解できないけれど、殿下からしたら私は完全にお邪魔虫だ。
誘いの言葉を真に受けて庭園へ行こうものなら、睨まれるだけでなく、また嫌味を言われるだろう。
幾ら嫌味を言われることに慣れているとはいっても、言われるのはやはり嫌だし、聞かずに済ませられるなら、そうしたい。
それに、殿下とリーゲル様が仲良くされている姿を目の前で見せつけられたら、きっと私はどうしたらいいのか分からなくなってしまう。
怒ればいいのか、悲しめばいいのか、無表情のままでいたらいいのか。
そんなことすら分からない私は、庭園になど行かない方が良いに決まっている。
リーゲル様も、恐らく妻である私の立場を慮って、義理で声をかけてくれただけだろうし。
まさか本当に私が庭園へ行くとは思ってもいないだろうから、ここで私が変にでしゃばって、王家と公爵家の関係にヒビを入れるような行いは、絶対に避けるべきだ。
そう結論付けた私は、食事を終えると真っ直ぐに自室へ向かい、外出の用意をするようポルテに告げた。
「外出されるんですか? それでは、旦那様が王女殿下と二人きりになってしまいます!」
私はそんなの反対です。と、渋る様子を見せたポルテだったけれど。
「私は出来れば家にいたくないの。殿下はリーゲル様と二人きりになられたいようだし、私がいては邪魔になってしまうわ。とはいえ使用人を全員連れて外出するわけではないのだから、完全に二人きりになれるわけでもないでしょう? だから大丈夫。それに、私が家にいることでリーゲル様にいらぬ気を遣わせるのも嫌なの。だから」
「旦那様が奥様を気にされるのは当たり前です!」
「それでも私は、極力あの方を煩わせたくないの。お願い、ポルテ」
懇願すると、ポルテは迷うように数瞬瞳を彷徨わせ、ややあって諦めたのか、がっくりと肩を落としながらも頷いてくれた。
「……かしこまりました。もの凄く不本意ですが、奥様のおっしゃる通りに致します。ですが、私も付いていきますからね!」
「まあ本当? 嬉しいわ。一人じゃ寂しいと思っていたの」
どうせなら、この機に色々なお店を見て回ろうと、二人で相談する。
王女殿下は、前公爵家にも過去何度か訪ねられており、その度に朝から夕方まで、ほぼ一日中リーゲル様と過ごされていたらしい。
だから今回も、どうせ夕方過ぎまで居座るだろうということで、私達はそのような計画をたてたのだった。
107
お気に入りに追加
433
あなたにおすすめの小説
貴方に私は相応しくない【完結】
迷い人
恋愛
私との将来を求める公爵令息エドウィン・フォスター。
彼は初恋の人で学園入学をきっかけに再会を果たした。
天使のような無邪気な笑みで愛を語り。
彼は私の心を踏みにじる。
私は貴方の都合の良い子にはなれません。
私は貴方に相応しい女にはなれません。
幼馴染の公爵令嬢が、私の婚約者を狙っていたので、流れに身を任せてみる事にした。
完菜
恋愛
公爵令嬢のアンジェラは、自分の婚約者が大嫌いだった。アンジェラの婚約者は、エール王国の第二王子、アレックス・モーリア・エール。彼は、誰からも愛される美貌の持ち主。何度、アンジェラは、婚約を羨ましがられたかわからない。でもアンジェラ自身は、5歳の時に婚約してから一度も嬉しいなんて思った事はない。アンジェラの唯一の幼馴染、公爵令嬢エリーもアンジェラの婚約者を羨ましがったうちの一人。アンジェラが、何度この婚約が良いものではないと説明しても信じて貰えなかった。アンジェラ、エリー、アレックス、この三人が貴族学園に通い始めると同時に、物語は動き出す。
国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。
ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。
即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。
そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。
国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。
⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎
※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!
【完結】夫もメイドも嘘ばかり
横居花琉
恋愛
真夜中に使用人の部屋から男女の睦み合うような声が聞こえていた。
サブリナはそのことを気に留めないようにしたが、ふと夫が浮気していたのではないかという疑念に駆られる。
そしてメイドから衝撃的なことを打ち明けられた。
夫のアランが無理矢理関係を迫ったというものだった。
離縁の脅威、恐怖の日々
月食ぱんな
恋愛
貴族同士は結婚して三年。二人の間に子が出来なければ離縁、もしくは夫が愛人を持つ事が許されている。そんな中、公爵家に嫁いで結婚四年目。二十歳になったリディアは子どもが出来す、離縁に怯えていた。夫であるフェリクスは昔と変わらず、リディアに優しく接してくれているように見える。けれど彼のちょっとした言動が、「完璧な妻ではない」と、まるで自分を責めているように思えてしまい、リディアはどんどん病んでいくのであった。題名はホラーですがほのぼのです。
※物語の設定上、不妊に悩む女性に対し、心無い発言に思われる部分もあるかと思います。フィクションだと割り切ってお読み頂けると幸いです。
※なろう様、ノベマ!様でも掲載中です。
乙女ゲーのモブデブ令嬢に転生したので平和に過ごしたい
ゆの
恋愛
私は日比谷夏那、18歳。特に優れた所もなく平々凡々で、波風立てずに過ごしたかった私は、特に興味のない乙女ゲームを友人に強引に薦められるがままにプレイした。
だが、その乙女ゲームの各ルートをクリアした翌日に事故にあって亡くなってしまった。
気がつくと、乙女ゲームに1度だけ登場したモブデブ令嬢に転生していた!!特にゲームの影響がない人に転生したことに安堵した私は、ヒロインや攻略対象に関わらず平和に過ごしたいと思います。
だけど、肉やお菓子より断然大好きなフルーツばっかりを食べていたらいつの間にか痩せて、絶世の美女に…?!
平和に過ごしたい令嬢とそれを放って置かない攻略対象達の平和だったり平和じゃなかったりする日々が始まる。
あれだけ邪魔者扱いして、呪いが解かれたら言い寄るんですね
星野真弓
恋愛
容姿の醜悪さによって家族や婚約者のアロイスからも忌み嫌われている伯爵令嬢のアンナは、何とか他のことで自分の醜さを補おうと必死に努力を重ねていた。様々な技能や学力をつけることで、皆に認めてもらいたかったのである。
そんなある日、アンナは自身の醜い容姿は呪いによるものであることに気付き、幼馴染でもあり、賢者でもあるパウルに治して欲しいと頼み込み、協力してもらえることになる。
これでもう酷い扱いをされないかもしれないと喜んだ彼女だったが、それよりも先に浮気をした事にされて婚約を破棄されてしまい、その話を信じ込んだ両親からも勘当を言い渡されてしまう。
しかし、アンナに掛けられた呪いが解かれると、どういうわけかアロイスや今まで冷たく接して来た人達は態度を急変させて――
【完結】旦那さまは、へたれん坊。
百崎千鶴
恋愛
私の大好きな旦那さまは、ちょっぴりへたれで甘えん坊のお花屋さん。そんな彼との何気ない日々が、とても幸せでたまらないのです。
(🌸1話ずつ完結の短編集。約8年前に書いた作品の微修正版です)
(🌷表紙はフリーイラストをお借りしています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる