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第二章 旦那様の様子が変です
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私が一人悶絶している所にやって来たポルテは、数瞬ポカンとして私を見つめた後、「あ、いつもの発作ですね。把握しました」と冷静に言った。
いつもの発作ってなに? ポルテの目が若干冷たいような気がするのは気のせいかしら?
近づいてくるポルテを見ながら私はそんな風に思ったけれど、その後私の世話を手際良くしてくれる様子はいつも通りだったから、特に気にしないことにする。
ポルテ曰く、私の捻挫はそれほど酷くないようで、二、三日安静にしていたら良くなるだろうとのことだった。
ただ、良くなるまで当然無理は禁物ということで、今日の舞踏会はキャンセルして下さい、と言われ、既にリーゲル様によって相手の家にお断りを入れられたことを話すと、「流石旦那様ですね」と、キラキラした笑顔で微笑まれた。
「でも、せっかくリーゲル様と堂々とイチャつける初めての機会なのに……」
どうしても諦めきれずに愚痴を溢すと、
「お気持ちは分かります。ですが怪我をした状態で無理をしたところで、旦那様のご迷惑にしかなりませんし、寧ろ、足を踏むなどの失態を犯して公爵家の評判を下げる可能性もございます。ですから今回は、我慢するのが最良だと思いますよ」
と、正論で言い返された。
ポルテの言うことは尤もだ。
幾ら旦那様とイチャつきたいからと言って、無理矢理舞踏会に行って醜態を晒せば、元々好奇の目で見られているヘマタイト公爵家は、噂好きな貴族達の恰好の餌食になってしまう。
今更ながら、公爵家の威信を頑張って取り戻そうとなさっているリーゲル様の足を引っ張るようなこと、私だってしたくはない。
「それは私だって分かっているわ。だけど……」
あの小石が! あの小石さえなかったら!
今頃舞踏会の準備で夢見心地になっていただろうと思うと、どうしても恨めしく思ってしまう。
「あの小石……」
「小石がどうかしましたか?」
問われた声に顔を上げれば、ポルテが不思議そうに此方を見ていた。
どうやらあまりにも小石のことを考え過ぎて、つい声に出してしまっていたらしい。
私は小石にもたらされた不幸についてポルテに話すと、大きなため息を吐いた。
「ほんと……あんな小石一つで、こうも不幸のどん底に叩き落とされるなんて……」
たかが小石、されど小石とはこういうことかと考えてしまう。
こんなことなら早起きなんてせずに、大人しくベッドで時間まで横になっていれば良かった。
そうしたら今頃は……!
考えが堂々巡りになっているのは自分でも自覚はあるが、だからといって簡単に諦め切れるものでもない。
「あの小石め……」
何度目か分からない怨みの言葉を小石に吐くと、ポルテが優しく私の肩に手を置いてきた。
「奥様、前向きに考えましょう。今回奥様は、怪我をしたお陰で旦那様と接点をお持ちになることができたんですよね? しかも、お姫様抱っこをされたとか。それって、舞踏会で態とらしくイチャつくよりも、余程貴重な体験だったと思いませんか?」
言われて私は、勢いよくポルテの手を掴んだ。
「そう! そうなの! この怪我のお陰で私、旦那様にお姫様抱っこを……っきゃああああああああ」
自分で言って恥ずかしくなり、同時にその時のことが脳内に浮かんだせいで更に羞恥が増し、思わず叫び声をあげる。
ソファにしがみ付き、きゃあきゃあ言って一人で悶え、大興奮。一頻り騒いだ後、ぜぇぜぇ肩で息をしながらポルテを見ると、生温かい目と視線が合った。
「ポルテ……その目は一体なんなのかしら。なんかこう……生温かいというか、なんとも微妙な気持ちになるのだけれど」
少しばかり顔を引き攣らせつつ言うと、彼女は「失礼致しました」と頭を下げた。
「ですが何と言うか……あまりにも奥様が微笑まし過ぎて、どうしてもこのような目で見てしまうんですよね。私も若い頃はああだったな~とか、あんな初心な頃もあったな~とか……」
「若い頃って……ポルテあなた、確か私より歳下だったわよね?」
何歳差かは知らないが、多分歳下だったはず……と記憶を思い起こしながら尋ねると、「実年齢の話はしていないので」と躱わされてしまった。
「侍女なんて仕事をしている関係上、精神年齢についてはかなり上、と自負しておりますので、実年齢は何ら関係ないかと」
でもさっきの発言は、あまりにも年齢詐称すぎない? しかもその割りに、先日恋人とイチャついてほしいと言った時には、もの凄く恥ずかしがっていたし。
「ポルテのことを理解するのは大変そうね……」
思わず呟けば、満面の笑みでもって返された。
い、今の笑みはどういう意味なんだろう。こ、怖い……。
「奥様、今は私のことより旦那様を懐柔する方法を考えましょう。本日は上手いことお姫様抱っこをしてもらえましたが、ここで終わっては意味がありません。明日からは更なるレベルアップを目指して参りましょう」
「でも、レベルアップってどうしたらいいの? 私にとって、お姫様抱っこは既に最高レベルだと思うんだけど……」
私の言葉に、ポルテが難しい顔をして考え込む。
「そうですね……。確かにお姫様抱っこは難度の高いものですし、これは一旦忘れた方が良いのかもしれません。では、今日は何事もなかったと仮定して、次からの作戦を考えることに致しましょう」
「何もなかったことにしてしまうの!?」
流石にそれは嫌だと思って大声をあげる。しかし、真顔のポルテに無言で首を縦に振られた。
「過去の栄光に縋るのはやめましょう。そしてまずは、お食事の席で旦那様と会話をするところから始めるのです。よろしいですね?」
なんだかポルテの後ろに黒いオーラが見える気がする。
もちろんそんなものがないことは分かっているけれど、でも。
何故だか逆らってはいけないような雰囲気を醸し出すポルテの言葉に、私はコックリと頷いた。
いつもの発作ってなに? ポルテの目が若干冷たいような気がするのは気のせいかしら?
近づいてくるポルテを見ながら私はそんな風に思ったけれど、その後私の世話を手際良くしてくれる様子はいつも通りだったから、特に気にしないことにする。
ポルテ曰く、私の捻挫はそれほど酷くないようで、二、三日安静にしていたら良くなるだろうとのことだった。
ただ、良くなるまで当然無理は禁物ということで、今日の舞踏会はキャンセルして下さい、と言われ、既にリーゲル様によって相手の家にお断りを入れられたことを話すと、「流石旦那様ですね」と、キラキラした笑顔で微笑まれた。
「でも、せっかくリーゲル様と堂々とイチャつける初めての機会なのに……」
どうしても諦めきれずに愚痴を溢すと、
「お気持ちは分かります。ですが怪我をした状態で無理をしたところで、旦那様のご迷惑にしかなりませんし、寧ろ、足を踏むなどの失態を犯して公爵家の評判を下げる可能性もございます。ですから今回は、我慢するのが最良だと思いますよ」
と、正論で言い返された。
ポルテの言うことは尤もだ。
幾ら旦那様とイチャつきたいからと言って、無理矢理舞踏会に行って醜態を晒せば、元々好奇の目で見られているヘマタイト公爵家は、噂好きな貴族達の恰好の餌食になってしまう。
今更ながら、公爵家の威信を頑張って取り戻そうとなさっているリーゲル様の足を引っ張るようなこと、私だってしたくはない。
「それは私だって分かっているわ。だけど……」
あの小石が! あの小石さえなかったら!
今頃舞踏会の準備で夢見心地になっていただろうと思うと、どうしても恨めしく思ってしまう。
「あの小石……」
「小石がどうかしましたか?」
問われた声に顔を上げれば、ポルテが不思議そうに此方を見ていた。
どうやらあまりにも小石のことを考え過ぎて、つい声に出してしまっていたらしい。
私は小石にもたらされた不幸についてポルテに話すと、大きなため息を吐いた。
「ほんと……あんな小石一つで、こうも不幸のどん底に叩き落とされるなんて……」
たかが小石、されど小石とはこういうことかと考えてしまう。
こんなことなら早起きなんてせずに、大人しくベッドで時間まで横になっていれば良かった。
そうしたら今頃は……!
考えが堂々巡りになっているのは自分でも自覚はあるが、だからといって簡単に諦め切れるものでもない。
「あの小石め……」
何度目か分からない怨みの言葉を小石に吐くと、ポルテが優しく私の肩に手を置いてきた。
「奥様、前向きに考えましょう。今回奥様は、怪我をしたお陰で旦那様と接点をお持ちになることができたんですよね? しかも、お姫様抱っこをされたとか。それって、舞踏会で態とらしくイチャつくよりも、余程貴重な体験だったと思いませんか?」
言われて私は、勢いよくポルテの手を掴んだ。
「そう! そうなの! この怪我のお陰で私、旦那様にお姫様抱っこを……っきゃああああああああ」
自分で言って恥ずかしくなり、同時にその時のことが脳内に浮かんだせいで更に羞恥が増し、思わず叫び声をあげる。
ソファにしがみ付き、きゃあきゃあ言って一人で悶え、大興奮。一頻り騒いだ後、ぜぇぜぇ肩で息をしながらポルテを見ると、生温かい目と視線が合った。
「ポルテ……その目は一体なんなのかしら。なんかこう……生温かいというか、なんとも微妙な気持ちになるのだけれど」
少しばかり顔を引き攣らせつつ言うと、彼女は「失礼致しました」と頭を下げた。
「ですが何と言うか……あまりにも奥様が微笑まし過ぎて、どうしてもこのような目で見てしまうんですよね。私も若い頃はああだったな~とか、あんな初心な頃もあったな~とか……」
「若い頃って……ポルテあなた、確か私より歳下だったわよね?」
何歳差かは知らないが、多分歳下だったはず……と記憶を思い起こしながら尋ねると、「実年齢の話はしていないので」と躱わされてしまった。
「侍女なんて仕事をしている関係上、精神年齢についてはかなり上、と自負しておりますので、実年齢は何ら関係ないかと」
でもさっきの発言は、あまりにも年齢詐称すぎない? しかもその割りに、先日恋人とイチャついてほしいと言った時には、もの凄く恥ずかしがっていたし。
「ポルテのことを理解するのは大変そうね……」
思わず呟けば、満面の笑みでもって返された。
い、今の笑みはどういう意味なんだろう。こ、怖い……。
「奥様、今は私のことより旦那様を懐柔する方法を考えましょう。本日は上手いことお姫様抱っこをしてもらえましたが、ここで終わっては意味がありません。明日からは更なるレベルアップを目指して参りましょう」
「でも、レベルアップってどうしたらいいの? 私にとって、お姫様抱っこは既に最高レベルだと思うんだけど……」
私の言葉に、ポルテが難しい顔をして考え込む。
「そうですね……。確かにお姫様抱っこは難度の高いものですし、これは一旦忘れた方が良いのかもしれません。では、今日は何事もなかったと仮定して、次からの作戦を考えることに致しましょう」
「何もなかったことにしてしまうの!?」
流石にそれは嫌だと思って大声をあげる。しかし、真顔のポルテに無言で首を縦に振られた。
「過去の栄光に縋るのはやめましょう。そしてまずは、お食事の席で旦那様と会話をするところから始めるのです。よろしいですね?」
なんだかポルテの後ろに黒いオーラが見える気がする。
もちろんそんなものがないことは分かっているけれど、でも。
何故だか逆らってはいけないような雰囲気を醸し出すポルテの言葉に、私はコックリと頷いた。
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