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誘われたデート
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それから私は、毎日のようにお昼休憩をルーブルさんと過ごすようになり、そのお陰か徐々にドノヴァンの事を考えなくなっていった。
といっても、未だに毎日お弁当を作る時や、学園の行き帰りの馬車の中ではドノヴァンの事を思い出すし、考えないなんて不可能だけど。
それでも、学園で読書している時やルーブルさんといる時は、忘れる事が出来るようになってきていた。
できればこのまま、彼のことを思い出に出来ればいいのに……。
そう思っても、物事は思い通りにはいかないようで。
ドノヴァン様と一緒に学園へ通わなくなって初めての週末、何故か彼が朝一で私の家へとやって来たのだ。
「ラケシス! 今日は一緒に街へ行くぞ。すぐに支度をして来い」
「えっ……ドノヴァン!? なんで?」
休日だからとゆっくり朝食をとっていた私は、突然やって来たドノヴァンに動揺を隠せない。
「なんでも何も、今日はラケシスと一緒に出掛けたい気分なんだ。いいだろ?」
そう言って微笑まれれば、私は無言で何度も首を縦に振るしかなく。
今週は全くドノヴァンに会う事ができなかったから、顔を合わせるのでさえ久し振り。
しかも、二人だけの外出に誘って貰えるなんて──これはもうデートだと思っても良いんじゃないかしら。
猛スピードで支度しながら、私の心は舞い上がっていく。
こんな事なら、万が一を考えて事前に服装を考えておくんだった。最近はドノヴァンに距離を感じて、一緒に出掛けることなんてもうないと思っていたから、何も準備してなかったのよね。
せめて前日にでも教えてくれていたら、もっと可愛くできたのに。
今からでもコーディネイトやら髪型やらを考えたいところだけど、出来る限りドノヴァンを待たせたくないし、それより何より一分一秒だって長く彼と一緒にいたい。だから、少々手抜きなのは否めないけど、そこは我慢する事にした。
「行って来まーす!」
両親に許しをもらい、出掛けた私は馬車に乗る際ドノヴァンに手を差し出され、思わず「え」と動きを止めてしまう。
そんな私にドノヴァンも「あ」と言って、すぐさま手を引っ込めると、先に馬車へと乗り込んでしまった。
最近一緒に馬車通学しているご令嬢には、乗り降りする際今みたいに毎回手を貸しているんでしょうね。
だからきっとそれが癖になっていて、普段手を貸したことのない私にまで、つい手が出てしまったということだろう。
ドノヴァンは基本的に紳士で優しい人だものね。ただ私は彼にとって敬う対象じゃないから、今までそういう気を遣ってもらえなかっただけで。
折角の外出だというのに、こんな些細なことで私の心は落ち込んでいく。
いつもと雰囲気の違う私に何かを感じ取ったのか、珍しくドノヴァンが気を遣っているかのように話しかけてくれるけれど、私の心は晴れなくて。
「そ、そういえばさ、こうして二人で馬車に乗るのも久し振りだよな」
「ええ、そうね」
「ラケシスは今、毎日一人で馬車に乗って学園まで通ってるのか?」
どうしてそんなことを聞くんだろう? そんなの当たり前のことなのに。
「そうね」
「………………」
私の返事が心ここにあらずなことに気付いてしまったのか、返答する声が冷たすぎたのか、ドノヴァンが口を閉ざしてしまう。
「……なぁラケシス、俺は──」
「最近一緒に通っている方とは、お付き合いしているの?」
「えっ……」
あまりにも予想外の質問であったのか。ドノヴァンは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。
「ええと……彼女とは……なんていうか、付き合ってる……と言えなくもない、かな」
「なんでそんなに曖昧なの?」
付き合ってるなら付き合ってるとハッキリ言って欲しい。
誤魔化さなければいけない理由なんて、便利な幼馴染でしかない私には、必要ない筈なんだから。
「う~ん……告白はされたんだけど、まだ返事を保留にしててさ、だからまだ付き合ってない?」
一体どっちなの!?
というか、毎日一緒に通学しているくせに、それで付き合っていないと言うの!?
ついこの間まで一緒に通学していた私が言うのもなんだけれど、彼女にしてみれば「ふざけるな」と言いたいところではないだろうか。
私は幼馴染という特別枠であるとはいえ、彼女はそうでないのだから。
ドノヴァンは返事を保留にしているからと言っているけど、今は毎日のお弁当だって彼女に作ってもらっている筈で。だったら、もうそれはお付き合いを了承したも同然だということではないのだろうか?
「お、着いたぞ」
馬車が止まり、ドノヴァンが先になって降りて行く。
後から私が降車する際、当然ながら手は差し伸べられなかった。うん、分かってたから大丈夫。
「今日はラケシスの好きそうな劇のチケットを手に入れたから、楽しみに──」
「ドノヴァン!!」
いつものように手を繋ぎ、歩き始めた私達の会話を、突如遮った声。
声のした方に顔を向ければ、以前私に「ドノヴァンのお弁当はわたくしが……」と言って来たご令嬢がいて。
「ご機嫌よう。こんな所で会えるなんて奇遇ですわね。最早運命と言ってもいいのではないかしら」
少々遠い所から、ドノヴァン目指して駆け寄って来た。
側に来た瞬間、チラ、と私達が繋いでいる手に彼女の視線が向けられたような気がして、私はパッと手を離す。
幾ら幼馴染とはいえ、恋人の前で手を繋いでいたら、浮気を疑われるかもしれない。ううん、ドノヴァンに恋人ができた時点で、手を繋がないようにしなければいけなかったんだわ。
己の無神経さを恥じ、私はそっと俯く。
「えっ……と、どうやら私はお邪魔みたいだから……先に帰るね」
仲良くする二人の姿を見たくなくて、私はそのままゆっくりと後退った。
「はあっ!?」
ドノヴァンが私の言葉に反論するような声をあげたけど、合流したご令嬢がそれ以上言わせなかった。
「そうね。わたくし達と一緒にいても、あなたは孤独を感じるだけでしょうし、そうするのが無難だと思うわ」
「アリーシャ!」
おそらく、それがご令嬢の名前なのだろう。
ドノヴァンが咎めるように名を呼んだけれど、彼女は意に介さなかったようで。
「では幼馴染ちゃん、ご機嫌よう。本日はドノヴァン様をわたくしの元へお連れして下さって、ありがとうございます」
「いえ。それでは……」
私はそれだけを言い、踵を返す。
こんな事なら、街になど来なければ良かった。用事があると断れば良かった。
でも今更そう思っても、過去には戻れない。
「もう嫌だ、こんなの……」
もうドノヴァンを好きでいたくない。こんな気持ちになるぐらいなら、いっそ──。
待たせていた馬車に乗り込もうとして、ふと気付いた。
私が馬車で帰ったら、ドノヴァンはどうするんだろう? アリーシャさんの馬車で送ってもらうのかな?
学園にもそうして通っているのだから、それでも別に問題はない気がする。
「そうよ、どうせこの馬車は私の家の物なんだから、私が乗って先に帰っても何も問題はないわよね!」
自分に言い聞かせるようにして、そう言った刹那。
「ラケシスさーん!」
遠くの方から、私の名前を呼ぶ声が聞こえた。
といっても、未だに毎日お弁当を作る時や、学園の行き帰りの馬車の中ではドノヴァンの事を思い出すし、考えないなんて不可能だけど。
それでも、学園で読書している時やルーブルさんといる時は、忘れる事が出来るようになってきていた。
できればこのまま、彼のことを思い出に出来ればいいのに……。
そう思っても、物事は思い通りにはいかないようで。
ドノヴァン様と一緒に学園へ通わなくなって初めての週末、何故か彼が朝一で私の家へとやって来たのだ。
「ラケシス! 今日は一緒に街へ行くぞ。すぐに支度をして来い」
「えっ……ドノヴァン!? なんで?」
休日だからとゆっくり朝食をとっていた私は、突然やって来たドノヴァンに動揺を隠せない。
「なんでも何も、今日はラケシスと一緒に出掛けたい気分なんだ。いいだろ?」
そう言って微笑まれれば、私は無言で何度も首を縦に振るしかなく。
今週は全くドノヴァンに会う事ができなかったから、顔を合わせるのでさえ久し振り。
しかも、二人だけの外出に誘って貰えるなんて──これはもうデートだと思っても良いんじゃないかしら。
猛スピードで支度しながら、私の心は舞い上がっていく。
こんな事なら、万が一を考えて事前に服装を考えておくんだった。最近はドノヴァンに距離を感じて、一緒に出掛けることなんてもうないと思っていたから、何も準備してなかったのよね。
せめて前日にでも教えてくれていたら、もっと可愛くできたのに。
今からでもコーディネイトやら髪型やらを考えたいところだけど、出来る限りドノヴァンを待たせたくないし、それより何より一分一秒だって長く彼と一緒にいたい。だから、少々手抜きなのは否めないけど、そこは我慢する事にした。
「行って来まーす!」
両親に許しをもらい、出掛けた私は馬車に乗る際ドノヴァンに手を差し出され、思わず「え」と動きを止めてしまう。
そんな私にドノヴァンも「あ」と言って、すぐさま手を引っ込めると、先に馬車へと乗り込んでしまった。
最近一緒に馬車通学しているご令嬢には、乗り降りする際今みたいに毎回手を貸しているんでしょうね。
だからきっとそれが癖になっていて、普段手を貸したことのない私にまで、つい手が出てしまったということだろう。
ドノヴァンは基本的に紳士で優しい人だものね。ただ私は彼にとって敬う対象じゃないから、今までそういう気を遣ってもらえなかっただけで。
折角の外出だというのに、こんな些細なことで私の心は落ち込んでいく。
いつもと雰囲気の違う私に何かを感じ取ったのか、珍しくドノヴァンが気を遣っているかのように話しかけてくれるけれど、私の心は晴れなくて。
「そ、そういえばさ、こうして二人で馬車に乗るのも久し振りだよな」
「ええ、そうね」
「ラケシスは今、毎日一人で馬車に乗って学園まで通ってるのか?」
どうしてそんなことを聞くんだろう? そんなの当たり前のことなのに。
「そうね」
「………………」
私の返事が心ここにあらずなことに気付いてしまったのか、返答する声が冷たすぎたのか、ドノヴァンが口を閉ざしてしまう。
「……なぁラケシス、俺は──」
「最近一緒に通っている方とは、お付き合いしているの?」
「えっ……」
あまりにも予想外の質問であったのか。ドノヴァンは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。
「ええと……彼女とは……なんていうか、付き合ってる……と言えなくもない、かな」
「なんでそんなに曖昧なの?」
付き合ってるなら付き合ってるとハッキリ言って欲しい。
誤魔化さなければいけない理由なんて、便利な幼馴染でしかない私には、必要ない筈なんだから。
「う~ん……告白はされたんだけど、まだ返事を保留にしててさ、だからまだ付き合ってない?」
一体どっちなの!?
というか、毎日一緒に通学しているくせに、それで付き合っていないと言うの!?
ついこの間まで一緒に通学していた私が言うのもなんだけれど、彼女にしてみれば「ふざけるな」と言いたいところではないだろうか。
私は幼馴染という特別枠であるとはいえ、彼女はそうでないのだから。
ドノヴァンは返事を保留にしているからと言っているけど、今は毎日のお弁当だって彼女に作ってもらっている筈で。だったら、もうそれはお付き合いを了承したも同然だということではないのだろうか?
「お、着いたぞ」
馬車が止まり、ドノヴァンが先になって降りて行く。
後から私が降車する際、当然ながら手は差し伸べられなかった。うん、分かってたから大丈夫。
「今日はラケシスの好きそうな劇のチケットを手に入れたから、楽しみに──」
「ドノヴァン!!」
いつものように手を繋ぎ、歩き始めた私達の会話を、突如遮った声。
声のした方に顔を向ければ、以前私に「ドノヴァンのお弁当はわたくしが……」と言って来たご令嬢がいて。
「ご機嫌よう。こんな所で会えるなんて奇遇ですわね。最早運命と言ってもいいのではないかしら」
少々遠い所から、ドノヴァン目指して駆け寄って来た。
側に来た瞬間、チラ、と私達が繋いでいる手に彼女の視線が向けられたような気がして、私はパッと手を離す。
幾ら幼馴染とはいえ、恋人の前で手を繋いでいたら、浮気を疑われるかもしれない。ううん、ドノヴァンに恋人ができた時点で、手を繋がないようにしなければいけなかったんだわ。
己の無神経さを恥じ、私はそっと俯く。
「えっ……と、どうやら私はお邪魔みたいだから……先に帰るね」
仲良くする二人の姿を見たくなくて、私はそのままゆっくりと後退った。
「はあっ!?」
ドノヴァンが私の言葉に反論するような声をあげたけど、合流したご令嬢がそれ以上言わせなかった。
「そうね。わたくし達と一緒にいても、あなたは孤独を感じるだけでしょうし、そうするのが無難だと思うわ」
「アリーシャ!」
おそらく、それがご令嬢の名前なのだろう。
ドノヴァンが咎めるように名を呼んだけれど、彼女は意に介さなかったようで。
「では幼馴染ちゃん、ご機嫌よう。本日はドノヴァン様をわたくしの元へお連れして下さって、ありがとうございます」
「いえ。それでは……」
私はそれだけを言い、踵を返す。
こんな事なら、街になど来なければ良かった。用事があると断れば良かった。
でも今更そう思っても、過去には戻れない。
「もう嫌だ、こんなの……」
もうドノヴァンを好きでいたくない。こんな気持ちになるぐらいなら、いっそ──。
待たせていた馬車に乗り込もうとして、ふと気付いた。
私が馬車で帰ったら、ドノヴァンはどうするんだろう? アリーシャさんの馬車で送ってもらうのかな?
学園にもそうして通っているのだから、それでも別に問題はない気がする。
「そうよ、どうせこの馬車は私の家の物なんだから、私が乗って先に帰っても何も問題はないわよね!」
自分に言い聞かせるようにして、そう言った刹那。
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