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第九章 魔力を吸う札

決意

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「それで? どうして今まで姿を見せてくれなかったの? 私ずっと待ってたのに!」

 気が済むまで短剣の試し切りをし終わったラズリは、奏と一緒に街へと戻りながら頬を膨らませた。

 奏が姿を見せなくなってから、何度名前を呼んだかしれない。何度出て来て欲しいとお願いしたかも分からない。

 とにかく何度も何度もお願いしたのに、今の今まで奏は全く姿を見せてくれなかったのだ。

 ラズリがその理由を知りたいと思うのも無理はなかった。

「あ~と……うん、なんていうか……まぁちょっと色々あって?」
 
 普段の奏は決して口下手ではない。

 寧ろ口が上手い部類に入ると思うのだが、何故だかラズリを前にした場合に限り、その機能が著しく低下してしまうのだ。

 結果、ラズリに「そんなんで納得するわけないでしょ!?」と詰め寄られることになり、奏は曖昧な笑みを浮かべる。

「だってさ? その……俺には俺の事情があるっていうか、ちょっとまずいことになったっていうか、だから暫く身を隠した方が良いのかな~? とかさ?」
「どういうこと?」

 奏の言葉は適当過ぎて、ラズリには意味が分からない。

 曖昧に濁しても、どうせ理解できるまで説明を求められるのだから、最初から素直に話した方が得策だと思うのに。 

 毎回変に濁されて、納得できないラズリが無理矢理聞き出すという図式が出来上がってしまっている。

 いい加減時間の無駄だからやめてくれないかな……と思いつつ、返事を躊躇い口を開かずにいる奏に、ラズリは構わず次の質問を口に乗せた。

「奏が身を隠さなきゃいけないような危険な相手がいるってこと? その人に見つかりそうだから私の前にも現れなかったの?」
「まぁ……うん」

 核心を突いた質問をぶつければ、奏は誤魔化すことなく素直に頷く。

 まさか奏が隠れなければいけないような危険な相手がいるなんて思わなかった。

 何の根拠もなく、奏は魔性の中でも強い部類に入ると信じきっていただけに。

「ということは、その人は奏よりも強いっていうことなのよね? 闇が一緒にいても、その人に敵わないの?」

 魔性の強さの基準などラズリには分からない。

 けれど二体一なら……と考えたラズリの言葉に、しかし奏は肩を竦めて首を横に振った。

「実力の違う魔性相手に、雑魚が何人束になってかかったところで結果は変わらない。闇が俺に加勢したところで無駄死にするだけだ」
「そんな……」

 魔性vs人間だったらまだ分かる。

 でもまさか、魔性vs魔性の間でもそれほどまでに力の差があるなんて。

「じゃあ、あの……今は? 今、奏は私と一緒にいてくれるけど、それは大丈夫なの?」

 さっきは闇と一緒に何処かへ行きかけた奏を咄嗟に引き留めてしまったが、今になってそれはまずかったのではと不安になった。

 いくら何も知らなかったとはいえ、身の危険を感じて隠れていた奏を無理矢理引き留め、今なお一緒にいるこの状況は、奏にとってとても危険なのではないだろうか?
 
そのせいで奏を失うことにでもなったら、後悔してもしきれない。

「奏! ごめんね、私だったら大丈夫だから、もう元いた場所に戻って!」

 掴んでいた奏の腕から手を離し、ラズリは奏から距離をとる。

 けれど。

「いや、もういいよ。何処にいたって結局俺はラズリのことが気になるし、面倒ごとを避けたくて隠れてたけど……ラズリに何かあった時、やっぱ近くにいた方が対処しやすいからな」
「奏……」

 そう言ってくれるのは嬉しいけれど、そのせいで奏が危険に晒されるのは嫌で、ラズリは複雑な気持ちになってしまう。

 どうするのが一番良いのか考えるも、魔性と戦うことすらできない自分では、彼の力になることさえできなくて。

「奏……ごめんね。いつも守ってもらってばかりで……」

 しょんぼりしながら謝罪を口にすれば、優しく頭を撫でられた。

「気にすんな。俺がしたくてやってるんだ。ラズリは何も気にしなくて良い」
「うん……」

 真っ黒な刀身を持つ短剣を、ラズリはぐっと握りしめる。

 武器だけはなんとか手に入れることができたけど、それだけでは全然足りない。

 これからも奏と一緒にいるためには、彼に守られるだけじゃなく、自分も戦えるようにならなければ。

 甘えるだけの自分からは、もう卒業する──。

 ラズリはそう心に決め、唇を真一文字に引き結んだ。


 
 

 


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