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第七章 不可思議な力

蠢く靄

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「奏……いないの?」

 もう何度、彼の名を呼んだだろう。

 幾度部屋の中を見回しただろう。

 名前を呼んでも、出て来て欲しいとお願いしても、奏は一向に姿を現してはくれなくて。

「私のこと……嫌いになった? どうでも良くなっちゃったの?」

 尋ねても、答える声はない。

 自分以外誰もいない室内に、虚しく声が響くだけだ。

 どうして急にいなくなってしまったの?

 あのミルドとかいう騎士と何かあったの?

 聞きたいことは山ほどあるのに、自分一人では何一つ分からない。分からないことが悔しくて堪らない。

 自分は結局一人では何もできないのだ。奏に頼らなければ、どうするべきかも分からない。

 それを突きつけられたような気がして、ラズリはぐっと歯を食いしばった。

 こんなんじゃいけないと分かっているのに……。

 奏がいない。ただそれだけのことで、自分は容易に何をすべきかが分からなくなってしまう。

 祖父や村人達の無念を晴らし、何故王宮の騎士達があんなことをしたのか、自分に何の用があるのか、それを知りたいと思うのに、一人では何もできないなんて。

 奏はあくまで気紛れに手を貸してくれただけ。

 そもそも魔性を信じて頼りすぎたこと自体、間違っていたのだ。

 いつまでも奏に頼っていたから、きっと愛想を尽かされた。

 そろそろ独り立ちしろ、という意味で一人にされたのかもしれない。

 だったら、行動に移さなければ。

 窓際から身を翻して扉へと向かったラズリは、扉の前でハタと足を止めた。

 行動に移すといっても、最初にすべきことは何だろう?

「先ず必要なのは武器かな……」

 再び王宮騎士達と対峙した時、身を守る術が欲しい。

 けれど武器なら何でも良いわけではないし、買ったところで使えなければ無用の長物になってしまう。

 村にいた時に使っていた刃物といえば、包丁と草刈り用の鎌ぐらいであったし、幾らラズリといえどもそんな物が武器として使えないことぐらいは知っている。

 別に騎士達に対抗する気はない。

 真正面からやり合ったところで歯が立たないことは分かりきっているから、威嚇程度に使えればそれで良いのだ。

「手っ取り早いのは剣だけど、私に使えるかどうか……」

 護身用に短剣ぐらいは買っておいても良いかもしれない。

 一先ずはそれを持って剣を扱う練習をするだけでも。

「あと使えそうなのは……あの黒い靄?」

 思い出すのは、森の中で王宮騎士に襲われそうになった際、突如自分の身体から発生し、騎士の腕を呑み込んだ黒い靄。

 果たしてあれは武器になるのか。

 騎士の片腕を落としたことから考えれば十分武器になるのだろうが、如何せん、自分の意思で扱うことができないのが問題だった。

 あれを自由に扱うことができるようになれば、間違いなく短剣などより頼りになるだろうけれど。

「取り敢えず、使えるかどうかだけでも試してみようかな……」

 どうしてあれが自分の身体の内にあるのか。何故自分を守るような動きをしたのか、全く分からない状態ではあるものの、ラズリは夢現の中、その気配を確かに体内で感じていた。

 夢の中で自分はそれを懸命に探して、体内を端から端まで巡って、身体の奥底で漸くを見つけた。

 見つけた後、どうしたかは分からない。自分の記憶はそこで途切れている。

 けれど一度見つけたのであれば、もう一度見つけることも可能な筈で。

「よし、ちょっと試してみよう」

 再びベッドの上で横になると、ラズリは目を閉じ意識を体内に集中させた。

 どこにある……?

 ラズリの薄茶色の髪が、ぼんやりと光を帯びる。

 夢の中では、確かこの辺りに……。

 覚えのある場所へと向けて、ラズリはどんどん意識を集中させていく。

 それに伴い髪の毛が放つ光も強くなっているのだが、目を閉じているラズリはそれに気付かない。
 
 目指すべきは身体の内部、その奥底。最も見つかりにくいと思われる場所に巣食う

「あった……」

 記憶通りの場所にあったを短時間で見つけ出し、ラズリは安堵の笑みを浮かべる。

 そうしてすぐにそこへ近付くと、蜘蛛の巣を駆除するが如くイメージで身体から引き剥し、そのまま外へ持ち出した。

「ぐっ……かはっ、げほげほっ」

 靄を体外へ持ち出すイメージが上手く描けず、口から吐き出す形になってしまい、激しく咽せる。

 けれど。

「思った通りに、ちゃんとできた……」

 喜ぶラズリの目の前には、怪しく蠢く黒い靄が存在していた──。

 

 

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