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別れさせられたふたり sideイレーネ②

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 前回に引き続き、イレーネサイドの話です




 一部の女たちから冷たく当たられ嫌がらせをされるイレーネ。

 そんな日々の中、ある時イレーネに助け船を出してくれた50代ぐらいの歳上の女性がいた。その人はゲルダという名だった。

===

 畑仕事の合間の昼休憩。天気がいい。
 イレーネは、花壇脇のベンチで一人ランチのサンドイッチを食べているゲルダに近づき、話しかけた。

「こないだはありがとうございました」

「…別に礼を言われるようなことなんかしてないよ」

 隣に座れと、ゲルダはササっと横にずれて座れるよう空けてくれる。

「どうも…」

「ノラとモニカからキツく当たられてたアンタを見てても、それまでなんにもしなかったわけだし」

「 ────いいえ!あの時、ゲルダさんがああ言ってくれたからノラさん達もやめてくれたんです。…あれから、おかげさまで、ひどいやつもあからさまなやつも減りました」

「そうかい。そいつはよかった。…あの2人の八つ当たりはきつかったろう」

「八つ当たり、ですか」

「そう。あの子たちが溜に溜めた鬱憤をさ、新参者のあんたに八つ当たりすることで発散させてたのかもしれないね……バカな子たちだよホント。そんなことしたって後で余計に自分が苦しくなるだけなのに。
 ノラとモニカが、あんたを虐げるのにすぐ飽きるんじゃないかと様子見してた。あんたも、あれを正面から相手にする気はなかったみたいだし」

「…はい」

「でもあたしゃ楽観的すぎたようだ。こないだみたいにあんたへの嫌がらせが段々暴力に変わっていきそうだったからさ…痛かっただろ?腕を掴まれたりして」

「ええ。」

「ああなってきたら暴力行為ってのは、…その後はもう加速していくだけだからね」

 ゲルダさんは、過去にそういうことをされた事情を抱えた人なのだろうか?聞かないし聞けないけれども。

「……本人に内緒でこんなこと言うのは反則で、だから今ここであんたの胸の内うちだけに収めておいてほしいんだけど」

「はい」

「あんたはあんたで、あの2人にとっくに事情を知られほじくられ悪用されてるからね?知っても『おあいこ』かもしれない。
 ───モニカはね 戦争中に離縁され婚家から身ひとつで追い出された女でさ。子どもたちは夫の家に全員置いてけって言われてね。夫と姑の策略で、金持ち女と再婚するためだったんだと」

「え…」
「ノラは、戦争に行った恋人が戦死」
「……」

「だからといって「あの子たちもつらいことがあったんだから大目に見てやってくれ」なんて言うつもりはないんだよ」

 ゲルダは空を見上げた。

「あんたは根性が据わってるね」
「…そうでしょうか…?」

 クスッとゲルダが笑う。

「ここにいる女たちは…ううん、男も女も国民誰もがみなそれぞれに違う種類の事情を抱えてる。……でも自分がつらいからって、人に当たっていいわけがない。

 あたしはここの所長とは昔なじみの間柄で、ここを立ち上げる時にも色々と手伝わせてもらったんだけどね ──…世の中、【もしも】を言っても詮ないことだとは分かっていても……分かっていてもさ

 あの5年戦争が無かったら、ここのみんなもそれぞれの場所で暮らしていたんだなって思うのよ。

 『もしも』を言うことほど虚しいことはないけど、たまには、ね」

「はい…。そうですね。わたしも時々思います。もしもあの時別な道を選んでいたら、って」

===

 その日のベンチでのおしゃべりの間、ゲルダは、イレーネの過去には触れなかった。

===

 畑や、作業や、さまざまな仕事をしながらの忙しい毎日。
 そんな中で自分が再生していくような思いがするイレーネであった。

 質素な食事、硬いベッド、冬が長い寒い土地。でもなぜだか心が安らぐ。冬が長いからこそ、暖炉の火がことさらあたたかく感じる。

 働いて、くたくたに疲れて、ルディと笑い合って、食べて、眠る、その幸せ。満足感。
 ノラとモニカからの嫌がらせも、最近はほぼ無くなった。たまに悪口や嫌味を言われるくらい。

 食事も、味を感じられるようになった。あの時は心が、よっぽどしんどかったのだろうと思っている。

(私は、ここからまた走り出す)

(自分が、過去にやってしまったことを消すことは出来ない。でも、生きて、ルディを育てていかなきゃいけない)
(ここも、いつか出ていかなくてはいけない。どこででも働けるように体力も付けておかなくちゃ。シスターから、本を借りて読んで…婆様達から針仕事も教わって…)

 昼間の疲れか、イレーネはルディを寝かしつけながら寝てしまっていた。

 今夜は月のない夜。新月。星がよく見える。

 王国では、すべてのスタートに新月が良いとされている。毎日忙しく働くイレーネは、そんなことはすっかり忘れていた。

 彼女はただ偶然に、新月の晩に新たな決意をしたのだ。
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