上 下
4 / 13
第1章「あかんのか?平和を夢見ちゃ、あかんのか?」

第4話

しおりを挟む


自己紹介が始まる前に、話は戻る。


入学式が終わり、生徒が教室に入ると、それぞれの机の上には、一枚のプリントが置いてあった。

プリントには、クラスに在籍するすべての生徒の名前と、読み方が記載されていた。

上から下に向かって、五十音順に生徒の名前が並んでいる。

担任の教師が自己紹介をするよう促した後に、「あ」で始まる秋葉七から、自己紹介が始まった。


「あ」行の生徒たちの自己紹介が終わり、次の生徒が起立した。

女子生徒、である。

身長はお団子頭の誓よりも少し高いが、七、牢、松といった高身長の生徒と比べると、明らかに小さい。

しかし、身長のことなど気にならないような特徴が彼女の顔にはあった。

ギョロっとした大きな目。

異様なほど深く黒いクマ。

目は充血しており、慢性的な寝不足であることが誰の目にも明らかだった。

おかっぱボブと呼ばれるような髪型をしているが、不揃いで、整っていない。

理髪店や美容院で調髪されたわけではなく、自分でカットしているようであった。

女性らしからぬ雑なヘアスタイルであるが、不思議と彼女にはそれが似合っているように見えた。

殺伐とした、浮世離れした雰囲気が、目に見えるオーラのように彼女の周囲にはあった。

「私の名前は、舵浜(かじはま)命(みこと)です」

落ち着いた、毅然とした口調だった。

「さっきから騒いでる秋葉さんとは以前からの知り合いでして、うるさかったんで後で叱っておきます」

七がミコちゃんと呼んだ生徒が、命だった。

知り合い、と他人行儀な言われ方をされた七は、口を大きく開けて、驚いたような、ショックを受けたような素振りをしたが、命は無視した。

「私も、秋葉さんや桃園さんのように、世界は平和になるべきだと思っています」

何一つ間違ったことは言っていない、という自信と確信に満ちた喋り方だった。

プリントを見て、あらかじめ誓の苗字が桃園であることを理解していたようである。

「ただ、自分の夢となると、少し違っていて」

そう言うと、命はひとつ、鼻息を吹いた。

「私の夢は、この世から『自殺』を撲滅することです」

力強い物言いだった。

凄味があった。

迫力があった。

声のトーンは少し低くなっていたが、そのことが逆に発言を強く印象付けた。

明らかに、怒りが込められていた。

明らかに、憎しみが込められていた。

明らかに、恨みが込められていた。

僅かに、悲しみが込められていた。

大きな目は、虚空を睨んでいるようであった。

両の手は、指先が手のひらにめり込むほど握り込まれていた。

仁王立ち、である。

直立不動、である。

何らかの『化身』ではないかと思えるほどの存在感であった。

命の夢を聞いた七は、自慢げなドヤ顔をしていた。

どうやら、以前からそれを知っていたようである。

「お前に何ができるのか、と言われたら、正直なところ返答に困りますが、とりあえず自殺しそうな人を見つけたら、ブン殴っていこうと思うので、よろしくお願いします」

そう言って頭をペコリと下げて一礼すると、命は席に座った。

妙なことを言う命に対し、多くの生徒は「何がよろしくなのか」と心の中で突っ込んだ。

「ぷっ・・・ハハハ」

笑うのを堪えていたものの、我慢できずに声を発した生徒がいた。

色白で真っ黒い髪の毛をした男子生徒である。

祖谷納屋 牢であった。

牢は席に座ったまま後ろを振り向き、少し離れた席に座る命に対し、身を乗り出して右手を差し出した。

握手を要求しているようである。

命は表情を変えず、握手に応じた。

お互いが相手の目を見ながら、強く手を握り合う。

「カッコいいね、あんた」

牢はそう言ってから笑顔を見せると、命の手を放し正面を向いた。

ニヤけ顔でもない、作り笑いでもない、さわやかな笑顔だった。

「どうも」

命は、牢に聞こえるかどうかという小さな声でつぶやいた。

少し、照れているようであった。

そのやり取りを見ていた七が何か言いたげな表情でこちらを見ていたので、命は七を一瞥すると、人差し指を正面に突き出し「前を向け」という仕草をした。

七は嬉しそうに前を向いた。

命はため息をつき、肩の力を抜いてから座りなおした。

その時、七のものでもない、牢のものでもない、視線を感じた命は、自分を見つめている生徒に目を向けた。

そこには、愛おしそうに命を見つめる、整った顔立ちの女子生徒がいた。

彼女と目が合うと、命は口をへの字にし、一度だけウンと頷いた。

それに合わせて、命を見つめていた女子生徒も頷いた。

美しい顔をしていた。

白髪であった。

白目が真っ赤であった。

首には包帯が巻かれていた。


七と命とその女子生徒、半田(なかた)鶴(つる)は、中学時代からの友人だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

晴天に輝く

Chi
青春
幼いころから人には見えないものが見えていた晴天(はるたか)。 周りから気味悪がられ孤独な日々を送っていたが、クラスメイトの輝(あきら)に誘われサッカーを始めたことで環境が一変する。

女子高生が、納屋から発掘したR32に乗る話

エクシモ爺
青春
高校3年生になった舞華は、念願の免許を取って車通学の許可も取得するが、母から一言「車は、お兄ちゃんが置いていったやつ使いなさい」と言われて愕然とする。 納屋の奥で埃を被っていた、レッドパールのR32型スカイラインGTS-tタイプMと、クルマ知識まったくゼロの舞華が織りなすハートフル(?)なカーライフストーリー。 ・エアフロってどんなお風呂?  ・本に書いてある方法じゃ、プラグ交換できないんですけどー。 ・このHICASってランプなに~? マジクソハンドル重いんですけどー。 など、R32あるあるによって、ずぶの素人が、悪い道へと染められるのであった。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

Lavender うっかり手に取ったノート

あおみなみ
青春
朱夏(あけなつ)学院中等部。 3年生の十三沢学(とみさわ・がく)は、部活の練習中にけがを負い、治療後も意気消沈したままバドミントン部を退部する。 その後放課後の空いた時間に図書室通いを始めるようになるが、司書の松喜(まつき)から、図書室の常連である原口友香(はらぐち・ともか)の忘れ物を彼女に渡すように頼まれる。 A5サイズの日記帳のようなノートで、松喜からは「中を読まないように」と釘をさされたが、好奇心からつい開いてしまう学。そこに書かれていたのは、痛々しい原口の心の叫びの数々だった。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

暗闇を鳴らせ

羽田悠平
青春
 中学時代にチームを全国大会準優勝に導き、世代随一のバスケットボール選手として将来を嘱望される存在だった大石佑太。しかし何故かその全国の決勝以来バスケットボールの世界からは身を引き、明成高校に進学後も部活には入らず仲間たちと気ままな生活を謳歌していた。  明成高校の同じ新入生で男子バスケ部マネージャーの鈴村未央は、そんな佑太を根気強くバスケ部に勧誘する。男子バスケ部は今年中に全国大会に出場出来ねば廃部になることが決まっており、戦力の補強が急務だった。父・兄ともに明成バスケ部のOBである未央は、何とか男子バスケ部を守ろうと必死だった。  しかし佑太は、度重なる未央の誘いを頑なに断る。そして次第に、佑太が心に抱える傷が明らかになっていく。

いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と

鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。 令嬢から。子息から。婚約者の王子から。 それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。 そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。 「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」 その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。 「ああ、気持ち悪い」 「お黙りなさい! この泥棒猫が!」 「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」 飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。 謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。 ――出てくる令嬢、全員悪人。 ※小説家になろう様でも掲載しております。

処理中です...