加護なし少年の魔王譚

ジャック

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2章

夢②

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夢を見た。その夢は懐かしく、それでいて不幸で二度と見たくないと思えるような悪夢だった。


「ゼノン…!ゼノン…!!起きて!」

「んぁ、ミオ。ここは………」

「おら!ゼノン!早くしろ!!荷物持ちのくせにおせぇんだよ!!」

(そうか、ここは夢の中か…) 

いつものように目の前に現れた夢の中で見た事のある人達を見てゼノンはここが夢の中だと気づく。そして今回はすぐにわかった。この夢の続きを。

ゼノンは立ち上がり、アルス達に食らいつくように走った。

走りたくなかった。立ち上がりたくなかった。もし、そうすればこんなささい事で変わるとも思えないけど、未来が変わるかもしれないから。

そうはわかっても立ち上がらなくてはならなかった。

勇者パーティーが戦っているのを夢の中のゼノンは後ろからただ見ていた。戦闘になれば邪魔になるだけで何の役にも立たない。時折、巨大なバッグから道具を出すぐらいだ。あとは倒した魔物の解体や野宿の準備が仕事である。

「スカーレットさんはよく勇者パーティーわたしたちの冒険について行く気になりましたね。しかも無加護で荷物持ちなのに。それに加えてほかのみんなにもよく思われてないことぐらいわかっているでしょう?」

戦いが一段落して大きな木の影の下で休憩中の今、勇者パーティーの1人…銀髪の美しい女性がゼノンに話しかけてくる。

「え、えぇ……。僕も情けないと思いますよ………。その……昔約束したんです。みんなで勇者パーティーなろうって。アルスとミオと。それでその……………す、すみません!本当につまらない理由で!!」

「そうですか。まぁつまらなくはなかったですよ。ただ…、言ってもいいならおそらく彼はそんなこと覚えていないと思いますよ」

彼女は今もミオを口説こうとしているアルスを指す。ゼノンはミオを口説こうと思うならほかの女性との交友関係をどうにかしたらいいのに…と思ってしまう。

「そ、そうかもしれませんね……。で、でも……無加護の僕が勇者パーティーになればも、もしかしたらこの世界のほかの無加護への態度も変わるかなって思って………。ほら、今は昔から無加護ってだけで奴隷にされちゃうじゃないですか。や、やっぱり僕、才能だけで決まるこの世界を変えたくて………」

この世界では加護─つまり才能が全てなのだ。どんな加護が貰えるかによって全てが決まる。たとえ平民だろうと、珍しい加護が出れば裕福になれる。貴族であろうと無加護ならば捨てられることだってある。

「………なるほど。それは面白いですね。でもどうやって変えるつもりなんですか?」

「ぼ、僕が…勇者パーティーの一員として…少しでも役に立てば、無加護でも少しは役に立つって証明されるんじゃないか?って思いまして……」

「そうですか。それはぜひ頑張ってください」

そう言って彼女はゼノンに微笑む。その笑顔は慈愛に満ちていてとても美しく女神のようだった。

さん!!何してるんですか!!こんな無加護と話していてはあなたの品位が下がる!!こっちにきて僕と話しましょう?おい、無加護さっさとどけ!!」

そう言って2人の元に来たのは賢者だった。

「う、うん……。わかった……」

ゼノンは賢者の気迫に押されて立ち上がり、押し付けられた仕事をこなすのだった。


そして時間は経ち、今は夜。月が上っているが場所が森ということもあり周りは漆黒に包まれている。

今はあるクエストの途中である。そしてここで一晩を明かすことがよくあった。ゼノンがパーティー全員分のテントを張り、そこで全員が寝ていた。しかしゼノンの分はなくこういう時は決まって外で寝ることになっている。

ミオが「外は寒いよ。私のところで一緒に寝よ?」と誘ってくれるが、アルスが怖いゼノンにその提案を受け入れることは出来ず、加えてそんなことをすれば教会から何を言われるかわかったものでは無いので丁重に断っている。

その度にミオは不貞腐れたような顔をしている。

(さ、寒い…。さすがに冬は寒いな……)

その寒さで眠れないというのと、寝たらちょっと危ない気がしたので仕方なく起きることにしたゼノン。そして、みんなとは少し離れた場所に向かう。

(ここまで来たら大丈夫……だよね?)

そしてゼノンは持ってきたナイフを振り始める。

これはゼノンが自分でお金を貯めて初めて勝ったナイフである。

ゼノンはたまにみんなの目を盗んでは特訓をすることがあった。目的としては色々あった。少しでも戦力になるため、いざと言う時のため…など。

だが、アルス達に見つかればナイフはきっと壊されてしまうであろう。だからこうして隠れて特訓するのだ。

「何してるんですか?」

「ひょわァァ!!!」

幽霊か!!?と思って振り返るとそこに居たのは銀髪の美しい美女であるファナだった。

「そんなに驚くことは無いと思いますけど…それで何してるんですか?」

「あ…、え、えっと…少し特訓を………」

聞かれた質問に対して心の中ではまだ驚きながらも素直に答えるゼノン。ゼノンとしてはバレたことは問題であったので隠そうと思ったが、既に見られてしまったし、何より嘘をつくとまた暴力を振るわれるという意識があった。なので一応ミオにも秘密にしていた。

「……あぁ、なるほど。そういう事でしたか。邪魔をして申し訳ございません」

「い、いえ!ファナ様が謝られることなんてなんですよ!?悪いのはこんな時間にファナ様を起こした僕なんですから!」

ゼノンは"英雄"と呼ばれるまでに至った人に頭を下げられて慌てふためいてしまう。

「私は寝る必要はありませんからスカーレットさんのせいではありません。お詫びとしてはなんですが…、私があなたの特訓を手伝いましょうか?」

「え!?」

その言葉に幽霊が出たと思った時以上の驚きを感じた。ゼノンからすれば必ず笑われるか、叩き付けられると予想していたからだ。

「あ、あの…笑ったり…しないんですか?」

その場にしゃがみこみ、何かを探すように地面をガサゴソとしているファナに思わずしてもんしてしまった。

「笑う?何故です?私はあなたの目標は知っています。今のあなたではそれを叶えることは出来ないでしょう。なら努力をしようと思うは必然的なことだと思いますよ?」

その言葉に少し呆気にとられた。

しかし、ファナはそんなゼノンの様子などまるで気にしていなかった。

「これはただの私の善意です。なので断って頂いても構いません。それはあなたの自由だ」

そうしてファナは拾い上げた木の棒を片手に持ち、ゼノンに問う。

「お、お願いします!」

そうしてゼノンはナイフを構えて特訓を再開するのだった。

60分後……

「ぜェ…。はぁ…。ゼェ…。はぁ…」 

ゼノンは地面に大の字になって寝転びがり、大きくそして早く呼吸を繰り返していた。

「スカーレットさん…。あなたはまず技術を身につけるべきです」

対してファナは息切れなどまるでなく1時間前と同じく汗1つかいていなかった。

ファナは地面から離れないゼノンに向かって言葉を続けた。
 
「ここは勇者パーティーです。『聖騎士』、『剣聖』もいるんです。普段の戦闘から少しでも技術を盗みなさい。そうすれば少しは強くなれると思いますよ」

「さすが教師ですね…」

「"元"……です。今は教師でもなんでもありませんよ」

ゼノンにはそう語るファナの瞳がどこか寂しげで沈んでいるように見えた。

「私はもう寝ます。あなたももう寝なさい。」
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