加護なし少年の魔王譚

ジャック

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0章

第7話

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「ブォォ!」

イノシシは雄叫びと同時に突進してくる。そのスピードは子イノシシとは比べ物にならない。

「うわぁ!」

ゼノンはそれを横に逃げる。あの頃とは違い、しっかりと回避ができる。そして隙を見て木刀で攻撃。それによってイノシシの目標は完全にゼノンに切り替わった。

(よし!これで2人は大丈夫!)

「ブホォ!!」

ゼノンの攻撃に怒ったイノシシはゼノンめがけて突進をかます。立派な角に脅えながらもゼノンは横に飛ぶことで回避する。イノシシの先には大木があり、イノシシは避けきれず衝突してしまう。これはゼノンの目論見通りだった。

その隙を逃さず、枝で攻撃する。

「やぁ!たぁ!」

ゼノンのこの8ヶ月…、トレーニングした成果がしっかりと出ていた。ゼノンの筋力、剣筋は確かにトレーニングしたそれになっていて、イノシシにも徐々に効いていた。

(行ける!俺はもうあの頃とは違う!!戦える!!)

しかし…、そんなゼノンに混乱から目覚めたイノシシの後ろ足の蹴りが炸裂する。

「うわぁ!」

予測できなかった攻撃をかわすことが出来ず、吹き飛ばされた。枝を持っていた右手と腹に経験したことのない痛みが襲う。

(耐性…あげておいてよかった…。アルスの時みたいな痛みとは違う。まだ…動ける!!)

何とか立ちイノシシの方を見ると、イノシシは既にゼノンに向かって突進をかまそうとしていた。

「うそ!?グッ!」

間近に迫ったイノシシを何とか横っ飛びで避ける。しかし…

「痛っツ!!」

急な動きで着地が上手くできず、足を捻っしまった。

(最悪だ…!これじゃあもう避けるのが難しい!)

イノシシがゼノンの状態を気にするはずもなく、先程よりも短い距離から突撃してきた!

「ブォォ!」

(避けれない!!)

そう判断したゼノンは咄嗟にガードの姿勢をとる!

ドゴォ!バキッ!

と、鈍い音をたてながらゼノンは吹き飛ばされた!

今の一撃で武器の枝は折れてしまった。

上手く受身を取れたのは不幸中の幸いだった。しかし体から血が垂れ、地面も赤く染まる。

(体が動かない…!痛い!!)

地面に寝そべったまま動くことが出来なかった。見たことも無い量の血が流れる。

イノシシは動かなくなったゼノンに興味を示すことはなく、ある方向を見ていた。ゼノンもそれに気づく。

(その方向は…!!ソティーとマクスが!)

イノシシが見つめているのは逃げた2人の道だった。

(なんのために鍛えたんだ?絶対に守るって!決め…たんからだろ…!!これぐらいで……寝てちゃ!……家族を…みんなを…守れるはずないだろ…!立て…立てよ…ゼノン!!)

ゼノンは己を鼓舞して何とか立ち上がる。しかしイノシシはゼノンのことなんて気にしていない。

(何とか立ったけど動けない…。どうすればいい?せめて本物の剣でもあれば!!)

その時、ゼノンの頭の中で声が響いた。

(…力が…ほしい…か?)

(誰だ!?)

(クック。私が誰かなどお前には関係なかろう?さぁ願え……お前は……何を願う……?)

(剣がほしい……。守れる力がほしい……!!)

(クックック…。了承した。最初だからサービスといこう)

すると頭に自然と言葉が浮かぶ。
 「我が血と魔力を糧に…。血液魔法『血液創造』」

すると想像した通りの村長が使っている剣が血で濡れた地面から地面から出てくる。

ゼノンはその柄をしっかりと掴む。

(これなら!でも…体が…。それなら!!)

こちらの動きを気にもしないイノシシにゼノンは近くにあった石を投げる。こちらに気づいたイノシシが三度突進の構えをする。

(そっちから来てくれるんなら好都合だ!)

そう…。ゼノンの目的は……。

「やぁ!」

ゼノンはイノシシの眉間目掛けて全力で剣を差し出すように突き出す!

「ブホォ!」「グゥッ!!」

それでイノシシの動きが止まることはなく、ゼノンと衝突する。ゼノンは剣から手を離し、吹き飛ばされる。

イノシシはゼノンの攻撃が致命傷になり、死んだ。

さっきと違い、しっかりとガードがとることが出来ず、直撃した。

「痛っ!!はぁ…はぁ…!やったぞ……!無加護でも……まもれた……。はぁはぁ。やった……!」

ゼノンは仰向けのまま手を空に掲げ、目には涙を浮べる。

これはゼノンが初めて勝利した瞬間…同時に誰かを守った瞬間だった。

そして手がゆっくりと重力に従い、下がる。

パタン!と手が地面に着く頃にはゼノンの意識は途絶えていた。









夢を見た。

いつものようにゼノンは成長した姿になっていた。ただいつも見ていた夢と違っていることがある。

それは……

「ミオ!!アルス!!・・・!!・・・!!」

周りに誰もいないことだ。今までならゼノンの周りには誰かしら人がいた。しかし今は1人平野をさまよっていた。

しかしこの場所にはどこか面影があった。

(ここは…そうだ!確かソツ村の近くの場所だ)

昔、ゼノン、ミオ、アルスそしてリルとアズレの5人でここにピクニックに来たことがあった。

(アルスが俺の弁当うばってたっけ。それでミオが俺と弁当を半分こして…懐かしい……。あの二人…今どうしてるかな……)

少し思い出に浸りながらソツ村へと向かう。先程までイノシシと戦っていた森を抜ける。そこでようやくソツ村に着いた。

しかし…

「え…………?」

そこに「村」と呼べるものはもはや存在していなかった。

荒れた土地に大量の木材。家が壊されたんだろう。人の気配も全くしない。ただ…ある臭いが充満している。子供のゼノンには馴染みのない臭いだったが、成長したゼノンにはつい最近脳に深く刻まれた臭いだった。

ゼノンは衝動に駆られ、走った。がむしゃらに一心不乱にさしった。それは焦りからか、はたまたある考えを打ち消すためなのか…それは本人にも分からない。

「村長!!!!」

村1番の強さを誇る村長の家に駆け込む。しかし……

「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!」

そこにあったのは心臓に深々と件が刺さり、見たことも無い量の血をながして死んでいた村長の死体だった。

血と腐った酷い臭いが入り交じる。

そこからはただ走った。
「人参畑のじいちゃん!」「ソツ芋畑のばあちゃん!」

しかしどこに行っても結果は残酷なものだった。

「はっ!そうだ!施設…!先生たちは…ソティー…マクス……!」

すでにゼノンの足取りはフラフラだった。途中嘔吐してしまったがそれでも歩き続けた。

ゼノンの花壇は荒らされているが、さっきまでの家と違い、施設は綺麗に残っていた。

(これなら…!無事かもしれない!)

しかしそんな淡い希望はすぐに打ち砕かれ…、絶望へと姿を変える。

「うわぁぁぁぁ!!アズレ先生!マクス!!ソティー!!!」

入口にはアズレが…、そしてソティーの上にマクスが覆い被さるようにして死んでいた。

恐らくマクスはソティーを守ろうとしたんだろう。

さらに奥…俺たちの部屋辺りまで来ると、そこには…

「リル…先生……」

無惨な姿でリル先生が死んでいた。

「うわぁぁぁぁ!!嘘だ嘘だ!!守れてないじゃねぇか!!!!」

ただゼノンはその場で泣くことしか出来なかった。

(ひでぇよ……。こんな世界。どうせ連れていくなら俺も……一緒に……)

そこで夢が終わる。
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