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2章

第7話

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北風がリビングに戻ってきたのは実に1時間後の事だった。

サラダの手伝いだけしたら、俺は役目を終えてソファーに戻った。なんでもメイン料理は自分で作りたいらしい。

北風がリビングに戻ってきてから目を合わせていない。と言うよりは目を合わすとそらし、そらされてしまう。だから目が合うことも無い。一応会話は必要最低限だけはしていた。まぁ、主に料理のアドバイスだったから、役目を終えた今は何も話していない。

今は雪乃ちゃんに勉強を教えながら、俺もテストに向けて勉強している。

雪乃ちゃんは受験生なのだ。今は問題を解いて分からなかった所を俺に質問するというスタイル。それまでは俺は自分の勉強(といっても教科書を読んでいるだけ)をしている。

一応、佐倉高校は、かなりの進学校だ。なので入学するためにかなりの勉強をした。だから中学の内容は自信がある。

「荒木先輩ここなんですけど─」 

「あぁ、これはな─」 

なんて言うことを繰り返していると、

「ご飯出来たよー!」

「「はーい」」

ということで勉強はやめて夜ご飯にすることになった。

「はい、どうぞ」

「お、おぉー!」

出てきたのはオムライスだった。多分北風が1人で作っていたのはこれだろうな。思い出してみると、北風の家までの道のりで俺が好きな食べ物はオムライスだと答えていたことを思い出した。

俺のオムライスにはケチャップで

『ありがとう』

そう書かれていた。こんなにお礼してもらったんじゃ感謝する方なのは俺だと思うけど。

北風の方を向いたけど、目を逸らされてしまった。まぁ、こればっかりは仕方ない。俺だってあの時のことを思い出すと爆発しそうになる。
 
「「「いただきます」」」

オムライスはとても美味しかった。元々北風の料理の腕を疑っていた訳では無いけど、これ程までとは思わなかった。しかも何となくだけど、このオムライスは昔、母さんがよく作ってくれたオムライスに似てる気がした。

サラダの方は…なんか具材が不揃いだった。人参やレタスが大きかったり、小さかったり。それで味が変わる訳では無いけど、見た目が…。でも、俺としては自分で作った料理だけに美味しく感じた。北風もサラダを「美味しいよ」って言ってたから、まぁ、味に変化は無かったと信じたい。

「「「ごちそうさまでした」」」

洗い物は俺と北風でした。

「オムライス…美味しかった。」

「お粗末さまでした♪」

多分これがあれから初めての会話だと思う。

皿洗いがもう少しで終わるかな…?ってところで北風が

「ねぇ、次のテストの順位勝負しようよ。勝ったら1つなんでもお願いごとを聞く。あ、いかがわしいのは無しね?」

「わかってる。それぐらいの分別はある。……いいぜ。その勝負受けて立つ。」

「珍しいね。てっきりめんどくさいって言って受けないのかと思ったのに。」

まぁ、普段ならそういうだろうな。でも、ちょっと叶えて欲しいお願いがちょうどあったのだ。

「…ちょうどいいお願いごとが出来たんだよ。」

「へぇ。それは気になるけど、今は聞かないよ。勝負が終わったら教えてね?」

「もちろんだ。」

洗い物が終わった帰る準備をした。なんだかんだでかなり長い時間北風家にいたからな。そろそろ帰らないと。

「あ、これ。料理本。昔私が見てたやつで書き込みとかもあるけど…多分わかりやすいと思う。それが終わったらまた言って。次の本を渡すから。」

「分かった。何冊かあるなら今貰ったらいいんじゃねぇか?」

「それはダメだよ!そんなに欲張っていると上達しないよ!急がば回れ、だよ!」

「そ、そうか。わかった。それじゃあ帰るよ。」

「…外まで送るよ。」

「…寒いだろ?」

「別にいいの!寒くないし。」

俺は「お邪魔しました」と言ってから北風の家を出た。どうやら北風は外に出て、前踊った公園まで来てくれるらしい。俺は大丈夫だって、行ったんだけどな…。

外は少しだけど雪が降っていた。今は12月だからな。既に冬とも言えるので当然かもしれないけど…。少し早い気がした。

公園まで他愛のない話をした。けど、それが良かった。

「そういえばさっきのオムライス、実はパセリが入ってたんだよ。」

「へー。……えっ?マジで?」

全然分からなかった。本当にあったのか疑いたいぐらいだ。苦手だと思ってたんだけどな。意外と美味しいのかもしれない。

「気づかなかったんだ。どう?不味くなかったでしょ?まぁ、私の料理の腕が凄いってことも関係あるかもしれないんだけどね?」

ドヤ顔気味に北風が俺にそう言いながら笑いかけてくる。

「やっぱそっちの方がいいな。」

「?何の話?」

おっと。口に出てたのか。言っても北風には聞こえないと思ってたんだけどな。まぁ誤魔化す必要もないか。

「前までの北風ってさ、作り笑顔が張り付いてるようだったし、多分嫌われないように今日のオムライスもパセリとか入れなかったんじゃないか?」

「いや、嫌われないたくて入れたんじゃなくて…!えっとそのパセリも美味しいくなるんだよ、とかこうしたら食べれるよって言いたくて…。」

急に来北風がしどろもどろになって言ってくる。ちょっと面白いな。

「分かってる。俺が言いたいのはそうじゃない。」

「えっ?あ、そうなの…?」

「今の北風はやりたいことやって、楽しんでるように見える。笑顔も張り付いたようなものじゃなくて、なんというか…子供っぽい無邪気な笑顔?みたいな感じで。俺は今の北風の方が好きだぞ。」

前より喜怒哀楽がはっきりと見える。お礼やらなんやらされてるけど正直その笑顔見れたら良かったわーって思えた。お礼なんか求めるものじゃないな。求めてこんな笑顔見れる気がしない。

「北風…?」

北風は急に歩みを止めていた。俺だけがちょっと先に進んでる。

「…天然はずるい。強すぎるよ。」

「何言ってんだ?」

「ごめん。荒木くん。ちょっとワガママ言うよ。ゆっくり前歩いて今はこっち見ないでくれる?別に嫌いとかそういう理由じゃないからね?」

「えっ?おう。」

え?俺なんかしたの?やばい、心当たりが全く……あるわ。さっきの言葉だわ。客観的に見たらやばいな。

「き、北風…。さっきの俺の言葉忘れてくれない?」

「無理…。絶対に無理…。」

「いや、あんな気持ち悪い言葉…。その、ついポロッと出てしまったんだ。北風を嫌な気持ちにさせたかったわけじゃないんだよ。本当にごめん。」

北風は俺の背中に頭を軽くぶつけてきた。

「わかってる。かっこ良かったよ。」

それだけ言うと北風は俺の隣を歩き始めた。隣を見ると北風は少し赤くなっていた。

「さっ!行くよ!」

今俺の顔も真っ赤だろうな…。北風から「カッコイイ」と言われるとは。慰めているのかもしれないけど。人生わからんもんだな。

「女の子に軽々しく「好き」とか言ったらいけないよ!勘違いする人だっているんだから!」 

「俺が言っても勘違いする人なんていないだろ。勘違いした人が
悲観になるかもしれないのに。」

 「自己評価が低いね。治した方がいいんじゃない?」

そこまで低いつもりは無いんだけど。今のように髪を整えたらカッコイイということぐらいは知ってる。けど、普段はもっと陰キャっぽいのだ。そっちの方が落ち着くし。

「それなら北風も男の子に軽々しく「カッコイイ」とか言っちゃダメだろ。北風が美人なのは疑いようのない事実なんだから。相手も勘違いするぞ。」

「…荒木くんは私から言われて勘違いするの?」

その言葉に俺はつい足を止めてしまう。

「……しない。」

未来は分からないけど今はしない。仮にしたとしても…。この考えはやめよう。考えるだけ無駄だ。

「……そっか。」

北風がそう呟いて歩き出す。少し寂しそうに見えたのは気の所為か。
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