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第二章 冒険者都市アトラス編
遺跡調査の依頼
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冷やかしにきた男に制裁を下した次の日。
どういうわけかその男が、リオンのもとを訪ねてきたのだった。
聞くところによると、どうやらリオンが憑りつかせた霊を浄化してもらおうと、教会へ行ったものの手の施しようがないという理由で追い返されたらしい。
その話を聞き、教会に所属している聖職者はその程度かと、リオンは呆れてしまった。
除霊代は払うということだが、元々その霊はリオンのもの。
そのため除霊をする振りをして霊を本へと戻し、除霊をしたということにした。
なんともマッチポンプなやり口だが、当の男は涙を流すほど喜んでくれた。
男の顔は血が通っていないと思わせるほど青ざめており、目にはひどいクマができていた。
たったの一晩でこれほどまで体に異常をきたしていたため、それがようやく解放されれば喜ぶのも無理はない。
そしてなにより、男がこの時間帯に来てくれたおかげでリオンの予想通りに事が運んでくれた。
今は、ギルドが開かれる朝方。
しかも、ギルド内には貼りだされたばかりの依頼を受けるために集まった冒険者が先ほどの一連の光景を目撃していた。
冒険者を通じて街中にリオンたちのことが噂されるようになった。
そして、その噂を聞いた冒険者がたびたび、リオンたちにアンデッド退治の協力を依頼しに来るようになった。
おかげで一日中Fランクの依頼を受けるよりもはるかに高額のお金を稼ぐことに成功した。
最初はともかく、この霊障相談所を出したことでようやく死霊術師の名を売るための第一歩を刻むことができた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
それから半月後。
教会の人間からなにか文句を言われかと身構えていたが、特になにも起きずリオンたちは平穏な日々を過ごしていた。
「あの……リオンさんってあなたのことですか?」
相も変わらず、依頼人を待っていたリオンたちのもとに新規の依頼人が現れた。
年はリオンより少し上だろうか。依頼を申し出た青年とその後ろには、青年と同じ年頃の女性二人が立っていた。
「はい、そうです。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「その……『死霊殺し』のリオンさんに折り入ってご相談がありまして……」
「……ええと、『死霊殺し』とは呼ばれていないのですが……とりあえず話を聞きましょうか」
まったく聞き覚えのない二つ名にリオンは、不満を言いたげな顔をしていた。
一方アリシアは、その二つ名がツボにでも入ったのか、声を抑えながら含み笑いをしていた。
少しばかり有名になり、依頼をこなし行く中、次第にリオンのことを先ほどのようなおかしな名称で呼ばれるようになっていた。
何度、訂正してもまた別の名称へと変わってしまうためもう反論する気すら薄れてしまっていた。
「リオンさんはどんなアンデッドでも討伐してくれるんですよね?」
「ええ、もちろんです。どれほど強大なアンデッドだろうと、私にお任せください」
「実は……リオンさんには、あるアンデッドを討伐してほしいんです。ボクたちだけじゃあどうしても倒せなくてそれでリオンのウワサを聞いてここまで来たんです」
そうして重い雰囲気を漂わせた青年たちは依頼内容について話し始める。
青年たち三人はパーティ同士というつながりを持っており、三人ともランクはBランクに達している実力者だ。
パーティ内のリーダーで、剣士を務めている青年グレイブ。三属性の中級魔法を自在に操る魔法使いの女性モニカ。弓の名手と冒険者たちから称されている弓士の女性テレジア。
三人という少数ながらも数々の依頼を達成させ、数年かけてBランクへと上り詰めたという。
そんな三人は、先日ギルドから出されたある依頼に悩まされていた。
簡単に言えば、すでに踏破された遺跡内で偶然発見された隠し部屋を調査するものだった。
その遺跡は、リオンたちも別の依頼で足を踏み入れていたが、遺跡内の魔物はそれほど強くはない。
それだというのに、わざわざ依頼をしに来るなど不自然だ。
疑問に思ったリオンは、グレイブたちにその質問を投げかけると、意外な答えが返ってきた。
「確かに……あそこの遺跡に生息している魔物は、どれも弱いですが……その新たに発見された区域にいる魔物は別なんですよ」
「……というと?」
「その区域だけ異様に魔物たちが強くなっていて、特にアンデッドやレイスに毎回、手こずる始末で。……それでもなんとか突破してもその奥にいる強大なアンデッドにいままで何度も返り討ちにされてきたんですよ」
「……つまり、俺にそのアンデッドを討伐してほしいと?」
「できれば、その前にいるアンデッドたちも相手してほしいんですよね。オレたちの体力も温存させたいので……」
「ええ、もちろん構いませんよ。……でもその前に、まずは依頼料についてご説明いたします」
リオンはそう前置きしながらアンデッド退治で発生する料金について説明していく。
「ウチでは、討伐対象となるアンデッドたちのランクとその数によって料金が変動します。詳しくは……アリシアあれを」
「はい。詳しくはこちらの紙に目を通してください」
リオンの助手であるアリシアが、グレイブたちに料金が書かれた紙を提示する。
グレイブたちは、その紙をまじまじと読み進めていく。
「へえ、思ったより安いんだな」
「そうね。教会だったら絶対にもっとするもん」
「ホントだ……。ずいぶんと良心的な値段なんですね」
思いのほか、依頼料が安いということで三人はほっと一安心していた。
しかし、そう思った矢先、グレイブはある項目に目がいった。
「あの……この契約条件なんですが……」
「はい、なにか問題でも?」
「いえ、そうではなく……この『依頼に不備、または依頼人による契約の違反が認められた場合、こちらからいかなる罰則を受けたとしても一切その後の責任を負いません』とありますが、これは一体なんなんですか?」
「依頼を何件かやっていくとそういうお客様もいるので念のため記載しているんですよ。依頼料を踏み倒そうとしたり、依頼内容を誤魔化したりする人もいるし、この前なんてウチの助手に手を出そうとする輩もいたんですよ」
手を出すなんて可愛らしいことを言っているが、本当はアリシアを奴隷商人にでも売り渡そうとしたのか、依頼自体を偽ってリオンを嵌め、亡き者にしようとしていたのだった。
もちろん、リオンの手によってそのような計画も失敗に終わったが、そのような事態を防ぐために最近、そのような項目も付け足すようになった。
「グレイブさんたちは、そのようなことしませんよね? もし違反しようものなら死よりも恐ろしい目に遭うと思うので覚悟しておいてくださいね」
「そ、そんな! 滅相もありません!」
「……そうですか?」
「そ、それより! この値段で大丈夫ですので、これで進めてください」
なにやら不穏な空気を感じたテレジアは無理やり話題を変えることにした。
「ありがとうございます。では、そちらの準備ができ次第、さっそくその遺跡に言ってみましょうか」
「……え? もう行くんですか?」
「……わたしたちより、リオンさんたちから先に準備をしたほうがいいと思いますが……」
リオンたちの恰好を見てモニカは、心配そうに指摘した。
しかしそれも無理はない。今のリオンたちは軽装もいいとこ。装備の一つもつけていない状態でとても今から遺跡に入るなど自殺行為でしかなかった。
「ああ、俺たちの心配なら大丈夫ですよ」
心配するモニカたちをよそに、リオンは影から自分とアリシアの分の装備一式を取り出す。
「うわっ!? か、影からなんか出てきた!」
「あ、あれは……影魔法……? 大昔に流行っていたけど、いまじゃあすっかり使い手がいなくなったという珍しい魔法ね」
「そんなのがあるの……。初めて見た……」
「ええ、わたしも初めて使っている人を見たわ」
よほど物珍しいのか、リオンの影魔法に三人は興味深々だった。
「……俺たちの準備はもう終わりましたが、そちらは大丈夫ですか?」
「……ハッ!? は、はい! 大丈夫です。元よりいまから潜ろうとしていたので準備万端です」
「では、行きましょうか?」
リオンたちは、一時的にグレイブたちのパーティに入り、遺跡調査に参加することとなった。
この依頼で予期せぬ出会いに遭遇することになるのだが、まだこのときのリオンたちには知る由もなかった。
どういうわけかその男が、リオンのもとを訪ねてきたのだった。
聞くところによると、どうやらリオンが憑りつかせた霊を浄化してもらおうと、教会へ行ったものの手の施しようがないという理由で追い返されたらしい。
その話を聞き、教会に所属している聖職者はその程度かと、リオンは呆れてしまった。
除霊代は払うということだが、元々その霊はリオンのもの。
そのため除霊をする振りをして霊を本へと戻し、除霊をしたということにした。
なんともマッチポンプなやり口だが、当の男は涙を流すほど喜んでくれた。
男の顔は血が通っていないと思わせるほど青ざめており、目にはひどいクマができていた。
たったの一晩でこれほどまで体に異常をきたしていたため、それがようやく解放されれば喜ぶのも無理はない。
そしてなにより、男がこの時間帯に来てくれたおかげでリオンの予想通りに事が運んでくれた。
今は、ギルドが開かれる朝方。
しかも、ギルド内には貼りだされたばかりの依頼を受けるために集まった冒険者が先ほどの一連の光景を目撃していた。
冒険者を通じて街中にリオンたちのことが噂されるようになった。
そして、その噂を聞いた冒険者がたびたび、リオンたちにアンデッド退治の協力を依頼しに来るようになった。
おかげで一日中Fランクの依頼を受けるよりもはるかに高額のお金を稼ぐことに成功した。
最初はともかく、この霊障相談所を出したことでようやく死霊術師の名を売るための第一歩を刻むことができた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
それから半月後。
教会の人間からなにか文句を言われかと身構えていたが、特になにも起きずリオンたちは平穏な日々を過ごしていた。
「あの……リオンさんってあなたのことですか?」
相も変わらず、依頼人を待っていたリオンたちのもとに新規の依頼人が現れた。
年はリオンより少し上だろうか。依頼を申し出た青年とその後ろには、青年と同じ年頃の女性二人が立っていた。
「はい、そうです。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「その……『死霊殺し』のリオンさんに折り入ってご相談がありまして……」
「……ええと、『死霊殺し』とは呼ばれていないのですが……とりあえず話を聞きましょうか」
まったく聞き覚えのない二つ名にリオンは、不満を言いたげな顔をしていた。
一方アリシアは、その二つ名がツボにでも入ったのか、声を抑えながら含み笑いをしていた。
少しばかり有名になり、依頼をこなし行く中、次第にリオンのことを先ほどのようなおかしな名称で呼ばれるようになっていた。
何度、訂正してもまた別の名称へと変わってしまうためもう反論する気すら薄れてしまっていた。
「リオンさんはどんなアンデッドでも討伐してくれるんですよね?」
「ええ、もちろんです。どれほど強大なアンデッドだろうと、私にお任せください」
「実は……リオンさんには、あるアンデッドを討伐してほしいんです。ボクたちだけじゃあどうしても倒せなくてそれでリオンのウワサを聞いてここまで来たんです」
そうして重い雰囲気を漂わせた青年たちは依頼内容について話し始める。
青年たち三人はパーティ同士というつながりを持っており、三人ともランクはBランクに達している実力者だ。
パーティ内のリーダーで、剣士を務めている青年グレイブ。三属性の中級魔法を自在に操る魔法使いの女性モニカ。弓の名手と冒険者たちから称されている弓士の女性テレジア。
三人という少数ながらも数々の依頼を達成させ、数年かけてBランクへと上り詰めたという。
そんな三人は、先日ギルドから出されたある依頼に悩まされていた。
簡単に言えば、すでに踏破された遺跡内で偶然発見された隠し部屋を調査するものだった。
その遺跡は、リオンたちも別の依頼で足を踏み入れていたが、遺跡内の魔物はそれほど強くはない。
それだというのに、わざわざ依頼をしに来るなど不自然だ。
疑問に思ったリオンは、グレイブたちにその質問を投げかけると、意外な答えが返ってきた。
「確かに……あそこの遺跡に生息している魔物は、どれも弱いですが……その新たに発見された区域にいる魔物は別なんですよ」
「……というと?」
「その区域だけ異様に魔物たちが強くなっていて、特にアンデッドやレイスに毎回、手こずる始末で。……それでもなんとか突破してもその奥にいる強大なアンデッドにいままで何度も返り討ちにされてきたんですよ」
「……つまり、俺にそのアンデッドを討伐してほしいと?」
「できれば、その前にいるアンデッドたちも相手してほしいんですよね。オレたちの体力も温存させたいので……」
「ええ、もちろん構いませんよ。……でもその前に、まずは依頼料についてご説明いたします」
リオンはそう前置きしながらアンデッド退治で発生する料金について説明していく。
「ウチでは、討伐対象となるアンデッドたちのランクとその数によって料金が変動します。詳しくは……アリシアあれを」
「はい。詳しくはこちらの紙に目を通してください」
リオンの助手であるアリシアが、グレイブたちに料金が書かれた紙を提示する。
グレイブたちは、その紙をまじまじと読み進めていく。
「へえ、思ったより安いんだな」
「そうね。教会だったら絶対にもっとするもん」
「ホントだ……。ずいぶんと良心的な値段なんですね」
思いのほか、依頼料が安いということで三人はほっと一安心していた。
しかし、そう思った矢先、グレイブはある項目に目がいった。
「あの……この契約条件なんですが……」
「はい、なにか問題でも?」
「いえ、そうではなく……この『依頼に不備、または依頼人による契約の違反が認められた場合、こちらからいかなる罰則を受けたとしても一切その後の責任を負いません』とありますが、これは一体なんなんですか?」
「依頼を何件かやっていくとそういうお客様もいるので念のため記載しているんですよ。依頼料を踏み倒そうとしたり、依頼内容を誤魔化したりする人もいるし、この前なんてウチの助手に手を出そうとする輩もいたんですよ」
手を出すなんて可愛らしいことを言っているが、本当はアリシアを奴隷商人にでも売り渡そうとしたのか、依頼自体を偽ってリオンを嵌め、亡き者にしようとしていたのだった。
もちろん、リオンの手によってそのような計画も失敗に終わったが、そのような事態を防ぐために最近、そのような項目も付け足すようになった。
「グレイブさんたちは、そのようなことしませんよね? もし違反しようものなら死よりも恐ろしい目に遭うと思うので覚悟しておいてくださいね」
「そ、そんな! 滅相もありません!」
「……そうですか?」
「そ、それより! この値段で大丈夫ですので、これで進めてください」
なにやら不穏な空気を感じたテレジアは無理やり話題を変えることにした。
「ありがとうございます。では、そちらの準備ができ次第、さっそくその遺跡に言ってみましょうか」
「……え? もう行くんですか?」
「……わたしたちより、リオンさんたちから先に準備をしたほうがいいと思いますが……」
リオンたちの恰好を見てモニカは、心配そうに指摘した。
しかしそれも無理はない。今のリオンたちは軽装もいいとこ。装備の一つもつけていない状態でとても今から遺跡に入るなど自殺行為でしかなかった。
「ああ、俺たちの心配なら大丈夫ですよ」
心配するモニカたちをよそに、リオンは影から自分とアリシアの分の装備一式を取り出す。
「うわっ!? か、影からなんか出てきた!」
「あ、あれは……影魔法……? 大昔に流行っていたけど、いまじゃあすっかり使い手がいなくなったという珍しい魔法ね」
「そんなのがあるの……。初めて見た……」
「ええ、わたしも初めて使っている人を見たわ」
よほど物珍しいのか、リオンの影魔法に三人は興味深々だった。
「……俺たちの準備はもう終わりましたが、そちらは大丈夫ですか?」
「……ハッ!? は、はい! 大丈夫です。元よりいまから潜ろうとしていたので準備万端です」
「では、行きましょうか?」
リオンたちは、一時的にグレイブたちのパーティに入り、遺跡調査に参加することとなった。
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