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第二章 冒険者都市アトラス編
王紋金貨
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入国審査を終え、アトラスに入国したリオンは街の光景に圧巻していた。
様々な店が立ち並び、いきいきとした顔で店を営んでおり、活気づいている様子だった。また、人間だけでなく亜人の姿も見かけ、多種多様な種族が住んでいるように見える。
長年、人里離れた場所で暮らしていたリオンには、どれも目移りする光景であったが、ぐっと堪えてアリシアの服を買うために服屋へと向かった。
服屋へと入ったリオンは、アリシアに欲しい服を選ぶよう呼びかけるが、アリシアは申し訳なさそうな顔をしながらオロオロとしていた。
「ほ、本当にいいんですか? 私なんかのために?」
「だってアリシア、あのドレス以外、服持っていないだろう? いつまでの俺の服を借りるわけにはいかないし、ここで何着か買っておいた方がいいだろう?」
「で、ですが……お金が……」
今のアリシアは無一文のため、そのせいで服を買うのを躊躇っているようだ。
「これから俺の仲間になってくれるんだからこれは必要経費だよ。アリシアの力が必要になる時があるだろうし、これぐらいはさせてくれ」
「そ、そんな……私みたいな無能がリオンさんみたいな有能な人の助けになれるでしょうか?」
「その自分を卑下するような発言、どうにかならないのか? そんなことばかり言っていると、いつまでたっても見返すことなんてできないぞ」
「す、すいません……また言ってましたか? いつのまにかクセになっていたみたいで……」
「それならこれから直していけばいいよ。少なくとも俺は、アリシアはできる奴だと思っているから」
「あ、ありがとうございます」
「とにかく、今は服だ。早く選んでくれ。いつまでも俺の服を借りたままなんてイヤだろう?」
「そ、そうですね……。私が着ていたらリオンさんが着る分が少なくなって、迷惑をかけてしまいますしね……」
「……もう、そういう理由でいいからとにかく選ぼうか?」
今回はネガティブ思考なおかげで服を買う流れへと持っていくことができた。
アリシアは、真剣な顔をしながら数ある服を吟味すること一時間。その間、ファッションショーのように何度も服を取り替えてから、最後にその中からいくつかの服を選びだす。
「こ、これでお願いします」
「……あんなに買うのを渋っていたくせに、けっこう時間かけて選んだな」
先ほどまでのオロオロとした顔はどこへやら。服を選んでいる最中はその顔もすっかり消え去り、真剣そのものだった。
それは、リオンが呆れるほどの光景だった。
「ええと、やっぱり自分の服ですからいい加減に決めたくないなと、思いまして……ダメでしたか?」
「ダメじゃないよ。……というより、もっとそういう面を出した方がいいと思うよ。それじゃあ、会計をすませてくるからちょっと待っててくれ」
「あっ、お金は本当に大丈夫なんですか? 先ほどの入国審査のときにだいぶ取られてしまったと思いますが……」
「それなら心配ないよ。盗賊の奴らから抜き取ったお金はなくなったけど、まだ師匠からもらったお金が残っているから」
「あ、そうなんですか。それなら……」
ほっと一安心するアリシアだったが、リオンがの布袋から取り出した硬貨を見てその顔は一変する。
「――っ!? リ、リオンさんっ!」
「おぉっ!? ど、どうした?」
「……あの、お客様、いったいどうなさいました?」
ちょうど、会計をすませようとしていたため、突然のアリシアの声に店員の女性を驚かせてしまった。
「す、すいませんでした。あ、あの……いま、持ち合わせがないのでまた後で来ます……」
店員に謝りながらアリシアは、リオンの手を引きながらそそくさと店の中を出ていく。
突然の出来事にリオンは、なにがなんだか分からないままアリシアのあとを付いていった。
アリシアに手を引かれるまま人気がない裏路地へと連れ込まれると、アリシアは慌てた様子でリオンに詰め寄る。
「リ、リオンさんっ!? 先ほど取り出そうとしていた金貨を見せていただけませんか?」
「……ん? 別にいいけど」
そう言って、リオンは布袋の中にある金貨を取り出し、アリシアに渡した。
アリシアはその金貨を受け取ると、金貨に穴が開くほど見ていた。
しばらくすると、ほっと一安心するようなため息をこぼしながら口を開いた。
「やっぱりそうでしたか……。危うく大事になるところでした」
「ア、アリシア……?」
「リオンさん、この金貨はただの金貨じゃありません。これは……王紋金貨です」
「王紋金貨……?」
初めて知る単語にリオンは首を傾げた。
「この金貨は大昔に製造され、流通されていましたが、いまはもう製造されていない金貨なんですよ」
「製造されていない? え、なんでだよ?」
「この金貨は旧王都で製造されていましたが、先ほども言った通り王都は崩壊してしまいました。そのときに製造する装置も一緒に壊れてしまったんです」
「……でも、壊れたなら作り直せばいいだろう?」
「確かにそうなんですが、当時の皇帝は新しい場所に王都を移したので、それを機に硬貨も一新して流通されるようになりました」
「つまりこれは……新しくなる前に使われていた金貨ってことか?」
「はい、そうです。硬貨に刻まれている意匠も新しくなっていたので、すぐに気づきました。……その金貨を使うことはもうできませんが、現存するものが少ないので、換金屋やコレクターに売れば、かなりの値になるかと……」
「……ずいぶんと詳しいな?」
「戦いはぜんぜんダメでしたが、勉学のほうには自信があるので……まあ、どれだけできても両親に褒められたことなんてありませんでしたけど……」
王族として英才教育を受けていたアリシアにとっては、これくらいの雑学は朝飯前といったところのようだ。
リオンはまた一つ、一般常識を学ぶことができた。
「しかし弱ったな……。今持っているお金はこれしかないんだよな。……換金屋に行くとするか?」
「それならしかたありませんね。……ええと、換金屋はどこでしょう?」
こうしてリオンたちは、貴重な金貨を手に換金屋の場所を探すことになった。
――それから十分後。
道行く人に聞いて換金屋の場所を探し当てたリオンたちは、さっそくその場所へと向かった。
受付で用件を話すと、別室へと案内される。
そこはまるで、執務室のような部屋だった。部屋の中央には二つの長椅子とその間にテーブルが置かれており、リオンたちはそのうちの一つの椅子に座っていた。
少しすると、正装を着た店主の男が「お待たせいたしました」と、言いながらリオンたちに挨拶をしてきた。
「受付から話を聞いていましたが、とても貴重な品を持ってきたとか……。さっそくですが、見せていただいてもよろしいですかな?」
「ああ、これだ」
リオンはテーブルの上に金属音を鳴らしながら王紋金貨を置く。
「――っ!?」
店主はすぐにその金貨の価値に気付いたのか、手に取りながら食い入るように調べ始めた。
「ま、間違いない……。この紋章は旧王都時代に流通していた金貨に刻まれていたものだ」
「ええ、そうなんです。それで、その金貨をこちらで買い取ってもらいたいのですが、どれくらいの金額になりますか?」
アリシアの質問に、一度金貨をテーブルの上に置いてから答える。
「そうですな。現存しているものも少ないので高値で買い取ることができるかと……。状態は……まあまあ……傷はなし。そうなると、金貨百枚でどうでしょうか?」
金貨百枚あれば、そこそこ大きな屋敷が建つほどだ。
それだけの大金が手に入ろうとしているのだが、アリシアは納得していない様子だった。
「ま、待ってください……。たったの金貨百枚なんておかしいです。本来ならその金貨は、新しい金貨と交換され、再利用されていたので、残っている数は本当に少ないんですよ。金貨百枚では足りないはずです」
「そう言われましてもね……。これ以上は……」
首を縦に振ろうとしない店主にアリシアはどうしたものかとあたふたしていた。
そんな二人のやり取りを眺めていたリオンは、ある疑念を抱いていた。
(嘘を言っているな……この店主)
リオンは前世で霊媒師として、数々の霊や依頼人と接してきたせいか、言動の機微に人一倍敏感だった。
そのときの経験から嘘を言っているのではないかと思い、店主に疑惑の眼差しを向けていた。
この疑念を払うためリオンは、静かに魔法を唱えた。
「……《魂縛》」
「――っ!?」
瞬間、まるで体を縛り付けたように動けなくなった。
突然の出来事に店主の額から冷や汗が流れていた。
「正直に答えてください。……本当はいくらなんですか?」
抵抗する店主だが、口が勝手に開き、本当のことを話し始める。
「本当は白金貨五枚です……。身なりが庶民じみていたので、どうせ盗んだ金だろうと思って安く言いました……」
「……そんなことだろうと思っていたよ」
「……カハッ!? な、なんだ今のは……?」
リオンの死霊術から解放された店主は、自分の身にいったいなにが起きたのか分からずにいた。
「ぬ、盗んだなんてひどいです。証拠もなしに疑うばかりか、やっぱり私たちを騙していたんですね」
「い、いや……そ、それはだな……」
「さっき自分で言ったじゃないですか? 白金貨五枚で買い取るって……。あんまり俺らを舐めないでもらえますか?」
「ヒイィッ!」
まるで化物でも見たかのように店主の顔が一瞬にして恐怖の顔へと変わっていた。
その光景にリオンは、静かに笑みを浮かべていた。
「それでは換金をお願いします」
店主はリオンに言われるがままに正規の値段で王紋金貨を買い取ることになった。
交渉が成立すると、店内が慌ただしくなり始めた。
白金貨などという大金を渡すことになるため、その準備に店員たちは追われていた。
この世界では、前世とは違い、紙幣はなく硬貨が主流となっている。
一番下から銅貨、銀貨、金貨、白金貨の順に価値が上がる。
それぞれ、銅貨百枚で銀貨一枚、銀貨百枚で金貨一枚というように価値が変わっていくが、白金貨は別だ。
白金貨だけは、金貨が千枚ないと、白金貨一枚分の価値にならない。
それだけの価値はあるが、白金貨はあまり多く製造されていない。
高額であるため白金貨を使用する場面がほとんどないので、この換金屋に白金貨はなかった。
その結果、白金貨五枚と同価値になるよう金貨五千枚を金庫内からかき集めることになった。
その間、リオンたちは店員にもてなされていた。
――そうして、数十分が経過した。
リオンたちの前には五千枚の金貨が積み上げられていた。
「大変お待たせいたしました。こちらが約束の金額になります」
「ほわあ」
目の前の大金を前にアリシアは目を輝かせながら間の抜けた声を発していた。
「ありがとう。では、これを」
「ご利用いただきありがとうございます。こちらはどういたしましょうか? どこかに預けましょうか?」
「いや、必要ない」
そう言って、積み上げられた金貨の下に影を出現させると、その影に吸い込まれるように大量の金貨が落ちていく。
「こ、これは……空間魔法ですか? まさか使える方がいるとは……あなたは賢者様かなにかですか?」
「いいや、ただの死霊術士だよ」
「……はい?」
「それじゃあ、また機会があったら」
そう言い残して、リオンたちは店の外へと出ていった。
「……ハア、もう来ないで欲しいですな」
あまりにも規格外すぎる客を相手にした店主は、ぐったりとした様子で床に崩れ落ちてしまった。
様々な店が立ち並び、いきいきとした顔で店を営んでおり、活気づいている様子だった。また、人間だけでなく亜人の姿も見かけ、多種多様な種族が住んでいるように見える。
長年、人里離れた場所で暮らしていたリオンには、どれも目移りする光景であったが、ぐっと堪えてアリシアの服を買うために服屋へと向かった。
服屋へと入ったリオンは、アリシアに欲しい服を選ぶよう呼びかけるが、アリシアは申し訳なさそうな顔をしながらオロオロとしていた。
「ほ、本当にいいんですか? 私なんかのために?」
「だってアリシア、あのドレス以外、服持っていないだろう? いつまでの俺の服を借りるわけにはいかないし、ここで何着か買っておいた方がいいだろう?」
「で、ですが……お金が……」
今のアリシアは無一文のため、そのせいで服を買うのを躊躇っているようだ。
「これから俺の仲間になってくれるんだからこれは必要経費だよ。アリシアの力が必要になる時があるだろうし、これぐらいはさせてくれ」
「そ、そんな……私みたいな無能がリオンさんみたいな有能な人の助けになれるでしょうか?」
「その自分を卑下するような発言、どうにかならないのか? そんなことばかり言っていると、いつまでたっても見返すことなんてできないぞ」
「す、すいません……また言ってましたか? いつのまにかクセになっていたみたいで……」
「それならこれから直していけばいいよ。少なくとも俺は、アリシアはできる奴だと思っているから」
「あ、ありがとうございます」
「とにかく、今は服だ。早く選んでくれ。いつまでも俺の服を借りたままなんてイヤだろう?」
「そ、そうですね……。私が着ていたらリオンさんが着る分が少なくなって、迷惑をかけてしまいますしね……」
「……もう、そういう理由でいいからとにかく選ぼうか?」
今回はネガティブ思考なおかげで服を買う流れへと持っていくことができた。
アリシアは、真剣な顔をしながら数ある服を吟味すること一時間。その間、ファッションショーのように何度も服を取り替えてから、最後にその中からいくつかの服を選びだす。
「こ、これでお願いします」
「……あんなに買うのを渋っていたくせに、けっこう時間かけて選んだな」
先ほどまでのオロオロとした顔はどこへやら。服を選んでいる最中はその顔もすっかり消え去り、真剣そのものだった。
それは、リオンが呆れるほどの光景だった。
「ええと、やっぱり自分の服ですからいい加減に決めたくないなと、思いまして……ダメでしたか?」
「ダメじゃないよ。……というより、もっとそういう面を出した方がいいと思うよ。それじゃあ、会計をすませてくるからちょっと待っててくれ」
「あっ、お金は本当に大丈夫なんですか? 先ほどの入国審査のときにだいぶ取られてしまったと思いますが……」
「それなら心配ないよ。盗賊の奴らから抜き取ったお金はなくなったけど、まだ師匠からもらったお金が残っているから」
「あ、そうなんですか。それなら……」
ほっと一安心するアリシアだったが、リオンがの布袋から取り出した硬貨を見てその顔は一変する。
「――っ!? リ、リオンさんっ!」
「おぉっ!? ど、どうした?」
「……あの、お客様、いったいどうなさいました?」
ちょうど、会計をすませようとしていたため、突然のアリシアの声に店員の女性を驚かせてしまった。
「す、すいませんでした。あ、あの……いま、持ち合わせがないのでまた後で来ます……」
店員に謝りながらアリシアは、リオンの手を引きながらそそくさと店の中を出ていく。
突然の出来事にリオンは、なにがなんだか分からないままアリシアのあとを付いていった。
アリシアに手を引かれるまま人気がない裏路地へと連れ込まれると、アリシアは慌てた様子でリオンに詰め寄る。
「リ、リオンさんっ!? 先ほど取り出そうとしていた金貨を見せていただけませんか?」
「……ん? 別にいいけど」
そう言って、リオンは布袋の中にある金貨を取り出し、アリシアに渡した。
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しばらくすると、ほっと一安心するようなため息をこぼしながら口を開いた。
「やっぱりそうでしたか……。危うく大事になるところでした」
「ア、アリシア……?」
「リオンさん、この金貨はただの金貨じゃありません。これは……王紋金貨です」
「王紋金貨……?」
初めて知る単語にリオンは首を傾げた。
「この金貨は大昔に製造され、流通されていましたが、いまはもう製造されていない金貨なんですよ」
「製造されていない? え、なんでだよ?」
「この金貨は旧王都で製造されていましたが、先ほども言った通り王都は崩壊してしまいました。そのときに製造する装置も一緒に壊れてしまったんです」
「……でも、壊れたなら作り直せばいいだろう?」
「確かにそうなんですが、当時の皇帝は新しい場所に王都を移したので、それを機に硬貨も一新して流通されるようになりました」
「つまりこれは……新しくなる前に使われていた金貨ってことか?」
「はい、そうです。硬貨に刻まれている意匠も新しくなっていたので、すぐに気づきました。……その金貨を使うことはもうできませんが、現存するものが少ないので、換金屋やコレクターに売れば、かなりの値になるかと……」
「……ずいぶんと詳しいな?」
「戦いはぜんぜんダメでしたが、勉学のほうには自信があるので……まあ、どれだけできても両親に褒められたことなんてありませんでしたけど……」
王族として英才教育を受けていたアリシアにとっては、これくらいの雑学は朝飯前といったところのようだ。
リオンはまた一つ、一般常識を学ぶことができた。
「しかし弱ったな……。今持っているお金はこれしかないんだよな。……換金屋に行くとするか?」
「それならしかたありませんね。……ええと、換金屋はどこでしょう?」
こうしてリオンたちは、貴重な金貨を手に換金屋の場所を探すことになった。
――それから十分後。
道行く人に聞いて換金屋の場所を探し当てたリオンたちは、さっそくその場所へと向かった。
受付で用件を話すと、別室へと案内される。
そこはまるで、執務室のような部屋だった。部屋の中央には二つの長椅子とその間にテーブルが置かれており、リオンたちはそのうちの一つの椅子に座っていた。
少しすると、正装を着た店主の男が「お待たせいたしました」と、言いながらリオンたちに挨拶をしてきた。
「受付から話を聞いていましたが、とても貴重な品を持ってきたとか……。さっそくですが、見せていただいてもよろしいですかな?」
「ああ、これだ」
リオンはテーブルの上に金属音を鳴らしながら王紋金貨を置く。
「――っ!?」
店主はすぐにその金貨の価値に気付いたのか、手に取りながら食い入るように調べ始めた。
「ま、間違いない……。この紋章は旧王都時代に流通していた金貨に刻まれていたものだ」
「ええ、そうなんです。それで、その金貨をこちらで買い取ってもらいたいのですが、どれくらいの金額になりますか?」
アリシアの質問に、一度金貨をテーブルの上に置いてから答える。
「そうですな。現存しているものも少ないので高値で買い取ることができるかと……。状態は……まあまあ……傷はなし。そうなると、金貨百枚でどうでしょうか?」
金貨百枚あれば、そこそこ大きな屋敷が建つほどだ。
それだけの大金が手に入ろうとしているのだが、アリシアは納得していない様子だった。
「ま、待ってください……。たったの金貨百枚なんておかしいです。本来ならその金貨は、新しい金貨と交換され、再利用されていたので、残っている数は本当に少ないんですよ。金貨百枚では足りないはずです」
「そう言われましてもね……。これ以上は……」
首を縦に振ろうとしない店主にアリシアはどうしたものかとあたふたしていた。
そんな二人のやり取りを眺めていたリオンは、ある疑念を抱いていた。
(嘘を言っているな……この店主)
リオンは前世で霊媒師として、数々の霊や依頼人と接してきたせいか、言動の機微に人一倍敏感だった。
そのときの経験から嘘を言っているのではないかと思い、店主に疑惑の眼差しを向けていた。
この疑念を払うためリオンは、静かに魔法を唱えた。
「……《魂縛》」
「――っ!?」
瞬間、まるで体を縛り付けたように動けなくなった。
突然の出来事に店主の額から冷や汗が流れていた。
「正直に答えてください。……本当はいくらなんですか?」
抵抗する店主だが、口が勝手に開き、本当のことを話し始める。
「本当は白金貨五枚です……。身なりが庶民じみていたので、どうせ盗んだ金だろうと思って安く言いました……」
「……そんなことだろうと思っていたよ」
「……カハッ!? な、なんだ今のは……?」
リオンの死霊術から解放された店主は、自分の身にいったいなにが起きたのか分からずにいた。
「ぬ、盗んだなんてひどいです。証拠もなしに疑うばかりか、やっぱり私たちを騙していたんですね」
「い、いや……そ、それはだな……」
「さっき自分で言ったじゃないですか? 白金貨五枚で買い取るって……。あんまり俺らを舐めないでもらえますか?」
「ヒイィッ!」
まるで化物でも見たかのように店主の顔が一瞬にして恐怖の顔へと変わっていた。
その光景にリオンは、静かに笑みを浮かべていた。
「それでは換金をお願いします」
店主はリオンに言われるがままに正規の値段で王紋金貨を買い取ることになった。
交渉が成立すると、店内が慌ただしくなり始めた。
白金貨などという大金を渡すことになるため、その準備に店員たちは追われていた。
この世界では、前世とは違い、紙幣はなく硬貨が主流となっている。
一番下から銅貨、銀貨、金貨、白金貨の順に価値が上がる。
それぞれ、銅貨百枚で銀貨一枚、銀貨百枚で金貨一枚というように価値が変わっていくが、白金貨は別だ。
白金貨だけは、金貨が千枚ないと、白金貨一枚分の価値にならない。
それだけの価値はあるが、白金貨はあまり多く製造されていない。
高額であるため白金貨を使用する場面がほとんどないので、この換金屋に白金貨はなかった。
その結果、白金貨五枚と同価値になるよう金貨五千枚を金庫内からかき集めることになった。
その間、リオンたちは店員にもてなされていた。
――そうして、数十分が経過した。
リオンたちの前には五千枚の金貨が積み上げられていた。
「大変お待たせいたしました。こちらが約束の金額になります」
「ほわあ」
目の前の大金を前にアリシアは目を輝かせながら間の抜けた声を発していた。
「ありがとう。では、これを」
「ご利用いただきありがとうございます。こちらはどういたしましょうか? どこかに預けましょうか?」
「いや、必要ない」
そう言って、積み上げられた金貨の下に影を出現させると、その影に吸い込まれるように大量の金貨が落ちていく。
「こ、これは……空間魔法ですか? まさか使える方がいるとは……あなたは賢者様かなにかですか?」
「いいや、ただの死霊術士だよ」
「……はい?」
「それじゃあ、また機会があったら」
そう言い残して、リオンたちは店の外へと出ていった。
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