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「おー逃げずに来たかー! てっきり逃げ出したかと思ったぜ!! 」

「……うるさい奴だな」

ゴブリン討伐のクエストから3日経ってギルド酒場に来ると入り口で腕を組んで壁に凭れ掛かるラルクがいた。

一々かっこつけてるけど気持ち悪いなこいつ。


ギルド酒場には噂を聞きつけて高レベルのファイターに喧嘩を売ったハンターの決闘を見ようといつもより多くの人が集まっていた。


「おい、あれが噂のハンターか? 」

「なんかあんまり強くなさそうだぞ」

「本当にやる気か? いくら何でも無茶だろ」

「未成年をゴブリンの前に置き去りにしたとかなんとか言ってたよな」

「てか、むしろ置き去りにしたのあいつだったりして」

「確かに! Lv.53もあるファイターがゴブリン相手に未成年を置き去りにするわけないよな」

はははっと周りからは勝手な野次が飛んでいる。
それくらいハンターの職業的地位は低いのがわかる。







「あれ~? やっぱりメグルさんだ~! 」

「えっ!? まじか! 」

「メグルさーん!! 」

「ちょっと、静かにしなよ」


入り口の方から聞き覚えのある声が聞こえると思ったらペル達パーティーが揃っていた。

騒めく周りを無視してペル達が私に近寄ってくる。



「高レベルのファイターにハンターが喧嘩売ったって噂で聞きましたけど、まさかメグルさんだったとは……」

「でも、未成年を見捨てたハンターっていうのがメグルさんなら噂は嘘ですね! 」

「……そんな感じの噂になってるんだ。実際、見捨てたのはあいつだけど。……皆はまだこの街に滞在していたんだね」

「濡れ衣ですか!? メグルさんなら絶対そんな事しません!! 」

「はい。まだあと2、3か月くらいは滞在する予定です。まだまだ次の街へ行くには俺たちでは経験不足ですから」

「メグルさんからも言ってくださいよー! ルーイの奴まだまだダメだって聞かないんです! 」

「マイクはいつもそうだろう! 無茶ばっかりして! 」

前に会った時とか全然変わってないな。
突っ走ろうとするマイクに堅実なルーイが言い返して喧嘩になる。

けど、今も上手くいってるって事はこれが通常運転なんだろう。



「なあ、喧嘩売っといて無視? てか1人じゃ無理だから仲間呼んだとか? 」

……あぁ。
なるべく視界に入れたくなくてすっかり忘れてた。

折角癒されてたのにぶち壊すような挑発かけてきやがって。
さっきまでにこにこしてたペルもめっちゃ睨んでるし。


「はぁ…。さっさと終わらせよう」

「何カッコつけちゃってんの? 後悔すんなよ~」

段々とこいつとやりとりするのも面倒になってきた。
さっさとギルドの闘技場に移動することにしよう。








いつもは訓練にも使われているギルド闘技場。
ゲームとは違ってこの世界では決闘は滅多な事では行われない。

なんせ命を賭けるやりとりだから、それに相応しい理由があるのが普通だ。

まあ、あんな挑発で簡単に決闘を受ける辺り、コイツは決闘の重大さなんて分かっていないと思うけど。
 


「で、ルールはー? 」

「制限時間5分で相手を倒すまでがルールだ。途中で参ったといっても関係ない」

5分間で相手のHPをより減らした方の勝ち。このルールはゲームの時と同じだ。
時間が残っていてもHPが0になると負け=死ということになる。そうなると容赦なく教会送りだな。
例え相手が途中で降参しても試合の中止はしない。


決闘と言われているが所謂PvPってやつでゲームの時は何度か力試しでやったことがある。

……もちろん、現実で人間を相手にするのは初めてだ。
モンスターですら初めて戦闘した時には何とも言えない気分の悪さを感じた。
それが人となると私も覚悟を決めないといけない。


……こいつだけは痛い目みないと分からないだろう。





「へえー。じゃあ、あんたが泣いて叫んでも俺にやられ続けるってことね」

「……そうだな」

ケラケラと笑うラルクに嫌悪感しか抱けない。
自分以外はただのモブで、自分は特別な存在とでも思っているんだろう。


「始めちゃっていいの? 」

「ああ」

「じゃ、行くぜぇー!! 」

双方の同意が取れた瞬間に闘技場内にあったタイマーのカウントがスタートする。


やつは背負っていた大剣を取り出した。

たぶん、武器屋で買ったばかりなんだろう。
刀身は闘技場内の光を反射していた。


「武器屋で調達したAtk+47の鋼の両手剣だぜー! その辺の奴には簡単に買えないだろうな!! 」

そう言いながら自慢げに観客に見せつけるように片手で剣を高々と掲げる。

鋼の大剣はこの街で買える一番高い両手剣だが、世界で見るとそれほどいい剣ではない。

しかしこの街にいる冒険者たちにはなかなか手が出せない値段と性能のせいか周りからはざわめきが起こった。

一通り見せびらかして満足したのか、こちらに向き直り剣を構えてみせる。


「ははっ!ビビっちまったかー? それじゃ、いっちょやってやるかー〔キイィィンーッ〕っ!? 」


「…え?」

「……おい、今何が起こったんだ? 」


構えた剣を早撃ちスキルで弾き飛ばした。
思ったよりも衝撃を受けたようでラルクが前に踏み出した足も1歩後退している。


「いや、あのハンターが弓を構えたら、剣がはじき飛んで…」

「馬鹿! そんな訳ないだろ! 弓の威力であの両手剣が吹き飛ぶかよ!! 」

あくまで補助職、攻撃力が低くて後ろからちまちま矢を撃って状態異常のバフをかける。

そんなイメージを持たれている弓職ハンターが力自慢のファイターの剣を目にも止まらない速さで弾き飛ばしたのが周りも信じられなかったんだろう。


「あ、あっちゃー、俺としたことが失敗! 剣を握り損ねたよ! うしっ次は〔ガッキィィィーン〕!!?? 」

訳も分からないまま、減らず口を叩いて再度剣を構えなおす。

追い打ちをかけるようにもう一度剣を弾き飛ばしてやった。
今度は早撃ちではなかったから弓を引く瞬間は確認できただろう?


「おいおい、2度も握り損ねたのか? とんだ間抜けだな」

「っくそ!! お前なんかに剣を使う必要なんてねーよ!  っうぐ、あぁぁッ!! 」

はっ、と笑い捨てるとかなりお怒りになったらしい奴は拳を構えてこちらに走ってきた。
気にせずラルクに向かって容赦なく右太ももに矢を放つ。

狂いなく当たった矢はラルクの太ももを貫通。
急な痛みに走り続けることができずにそのまま地面に転がった。


「痛えぇぇっ! おい、まじかよ!! くそっ! お前らも見てないで助けろよぉ!! 」

いままでこんなにダメージを受けたことはなかったんだろう。
両手で太ももを抑えながら初めて感じるだろう強烈な痛みと自分の太ももを貫通した矢から流れる血に混乱している。

決闘という事を忘れたのだろうか、客席から見ていた観客に向かって助けろと言った姿は先ほどまでの威勢がなく弱弱しい。
そんな姿に周りで見ていた他の冒険者たちも戸惑っている様子だった。



周りから見たら分かりづらいだろうが、私はいま相当頭にきている。

あの白銀狼との戦闘で自分から流れる血と痛みを感じた時に一気にこの世界が現実と認識した。
それから周りにいる人達が私と同じ人間・・・・・・ということも。

自分は特別だと見下して、その人達を軽く扱うこいつラルクが例え偽善と言われてもどうしようもなく許せなかった。





鑑定でラルクのHPを確認すると残り5分の2程度。

意外とダメージ受けてるな。
まぁ、ウライルの防具もメンテナンスしていないみたいだし、そんなに距離もなかったからこんなもんか。

時間もあと2分弱残っている。




「たかがNPCとか言ってたよな? 」

私の問いかけに対して恐怖を感じて怯えているのか、ピクリとも動こうとしない。

下手に騒いだり動くとやられるとでも思っているんだろう。

自分の安否のことに対してはかなり利口な奴だ。


「例えNPCでも生きてるんだ。お前と同じように痛みは感じるし、傷つくこともある。……今後また同じことをしてみろ? もう生きる気もしないくらいの思いをさせてやるからな」


弓を構えたまま、目の前に立ってラルクを見下ろす。
自分で思ったよりも低い声が出て、自分ではないような感じがする。


先程まで騒がしかった観客たちですらシーンと静まり返っていた。

ラルクは怯えすぎて声も出ないのか私を見上げてガクガクと全身が震えたまま、必死に首を縦に振っている。

ふっと意識して柔らかい笑みを浮かべると場の空気が少し和み、ラルクも一瞬ホッとしたのが分かった。



「じゃあ、一度死んで詫びろ」

「ひぃっ! 」
「うわっ! 」「お、おい、」

瞬間、構えていた矢を放った。
見ていた周りからも悲鳴があがる。















放った矢はラルクの顔の横で地面に突き刺さり、余韻で震えていた。


周りもこれ以上ないくらい静まり返っている。
ラルクはすでに気絶しており、股間あたりが湿っている。

……汚い。漏らしてるし。
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