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:目標を探してみましょう

46:(とある孤児ライの話)

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[とある孤児ライの話]


俺には生まれたときから両親がいなかったらしい。

【サトゥの街】の宿泊街の奥にある教会の前に置手紙と共に捨てられていて、大声で泣いていた俺を神父さんが気付いて保護してくれた。

神父さんのおかげでこの歳まで育つことができたけど、何故か11歳を過ぎた頃から急に身長が伸びなくなっていた。

150㎝にも満たない身長は13歳になる頃には同い年で今まで一緒に遊んでいた子たちと大きく差がついて行くばかりで、いつからか仲間外れにされるようになった。

始めは仲間に入れて貰おうと必死だったけど、徐々にそれもきつくなってきて図書館で借りた本を読むのが日課になった。






「今日は森で薬草探そうぜー! 」

「あと少しで14だもんな! 早く俺も冒険に出たい! 」

「あたしなんか、お母さんに魔法教えてもらってるもんね! 」

「俺も父ちゃんに剣の使い方習ってるぜ! 」


いつものように木に凭れ掛かって本を読んでいると、楽し気に話す同級生達の声が聞こえてくる。

冒険者は憧れの職業で結果を残せば誰にも文句は言えない。
今までも有名な冒険者たちは図書館に伝記を残したり、あちこちで語り継がれている人もいる。

この街に住んでいる人達も大体が冒険者出身の人たちで、周りにいる子たちもそんな親に育てられたからか冒険者を夢見る子が多かった。

もちろん、俺もその一人だった。




冒険者は15歳にならないとギルド登録ができない。

それまでお金がある子たちは王都の養成学校に通ったり、親が元々冒険者なら自分の親から剣や魔法を習うことができる。


俺にはどっちも無理な話だった。
だったら誰の力も借りないで立派な冒険者になってやる。

これは馬鹿にされてきた俺の意地でもあった。

知識は図書館にある本で調べられる。
周りに感化されるように俺にでも出来る事を始めようと、より一層本にのめり込むようになった。


まずは今後の方向性を決めないといけない。

男なら誰もが憧れる両手剣を使うファイターや格闘術を使うモンクとかの前衛職は体格的に厳しいところだった。

マジシャンも魔力という才能に左右されるところが大きい。

ハンターは問題外だった。

消去法でシーフなら小柄な人も多いし、俺でもなんとかなりそうだったからシーフを目指すことにした。


それからは市場でお手伝いして稼いだ小遣いで戦闘用のナイフを買った。
図書館でナイフでの戦闘法について調べて、本の通りに型の練習をする。
この辺にいるモンスターの生態に関しても出来るだけ調べた。

何度も何度も頭の中でシュミレーションをして、冒険に必要だと思う知識も吸収していった。


俺も15歳になったらシーフとして冒険者登録をして立派な冒険者になるんだ!







決意から1年以上経ってあと3ヶ月もすれば、俺もとうとう15歳になる。

ナイフでの戦闘は型も覚えてシュミレーションを何度もした。
体力作りも本を参考にやってきた。
この辺にでるモンスターの生態も調べた。
回復用のポーションもポケットに入ってる。


今日、俺は初めてモンスターと戦う。

知識や型の練習だけでは実践とは言えない。
実際にモンスターと戦ってみないと、他の子たちはもうできてるんだから。





あまりモンスターが出現しない街から近い森に入って、この辺では一番弱いバードリに狙いをつける。

しばらくすると1匹だけで暢気に歩いていたバードリを見つけ、落ちていた石を投げつけた。

いきなりの攻撃にバードリは俺を見つけた瞬間に怒って突進してきた。

バードリは弱い割には好戦的で、あまり頭も良くない。
敵を見つけるや否や羽を広げて威嚇しながら突進してくることが多い。


よし、シュミレーション通りに突進してきた!
後はバードリの正面から避けて、ナイフで刺せば……




ピイィィィーッ!!

バードリの正面から避けるがタイミングが早かったようで、反応したバードリが身を翻して俺に向かって嘴で突こうとしてきた。

どうにかバードリの胴を蹴って距離を取るけど、怯まずに続けてバードリは突進して攻撃してくる。



こんなの本で見たことない! どうしたらいいんだ!?

思い通りにいかなかった作戦に焦りが出てくる。
焦れば焦るほど何もする事が出来ず、バードリが一気に恐怖となってきた。




やっぱり俺はみんなが言う通り落ちこぼれなのか?

昨日、同級生が親と一緒にモンスターと戦ったと自慢気に話していたのを偶然耳にした。

知識では負けていないはず、俺は1人でもできると思っていた。

でも俺は周りへの劣等感でただただ焦っていたんだろう。



バードリが近づいてきて、逃げようにも足がすくんで思い通りに動かない。

目をギュッと閉じて今から来るだろう痛みに体を固くした。





「ねぇ、君、大丈夫?」

「……え?」

痛みは感じられず、聞き覚えのない声が近くから聞こえた。
目を開けると薄茶色の髪をした男の人がナイフを片手に立っていた。


ナイフには血が付いていて、辺りを見ても少しの血の跡以外にバードリの姿は見えなかった。



「んー、迷子かな? まだ10歳くらいでしょ? 1人で森に入ったら危ないでしょ」

優しく諭すような声で注意する男の人。

迷子? 俺のことか?
それよりも、

「ッ!! 俺は14歳だ!それに 迷子なんかじゃない! 」

恥ずかしいのと、情けないのと、劣等感に覆われた小さなプライドはズタズタだった。

さっきまでの緊張感から解放されて興奮状態だった俺は、お礼よりも先に恩人に対して思わず怒鳴っていた。


やばい、怒られる……!!
ギュッと目を閉じて下を向き、怒っているであろう男の人から目を逸らした。


「……14歳だったんだ、間違えちゃってごめんね。ってことは訓練の邪魔だったかな?」

ふわりと優しい手つきで頭を撫でられて何故か謝られる。
助けて貰っといて生意気な態度だったはずなのに。


男の人は俺の頭を撫でながらもう一度、ごめんね。と呟いた。


目頭が熱くなって涙が出そうでギュッと唇を噛みしめる。

違う、この人は何も悪くないのに。
俺が考えなしに戦って、勝手に危なくなって助けてもらって、挙句の果てに逆ギレした俺に優しくしてくれて……



「じゃ、僕はもう行くね」

ゆっくりと頭を撫でていた手が離れていく。
近くにいた足音が徐々に遠ざかる。



「あのっ! ありがとうございました!! 」

せめてお礼だけは伝えなきゃと思って顔をあげて、大きな声でお礼を言った。

目線の先にいた男の人は振り返るとふわりと笑い、頑張ってね。と言うとそのまま行ってしまった。



男の人が見えなくなるまでその場に立ち尽くしていた。
今ので自分の実力不足は嫌でもわかった。

帰らなきゃ。
男の人が歩いて行った街の方向に向かって俺も歩き出す。


ナイフを持って戦っていたということはあの人はシーフなんだろうか。
俺が目を瞑っていた一瞬で近くまで来てバードリを倒したことになる。


ん? それってすごくないか?

俺が攻撃される前までは多分近くにいなかったはず。
それなのに俺が攻撃される前にバードリを戦闘不能にして、しかもあの血の量なら最小限の攻撃で仕留めたはず。







師匠っ!!!!

思わず鳥肌がたった。
なんだあの人、凄すぎるだろう!


自分の無礼な態度を思い返すと申し訳なくなるが、目標とするべき人と出会えた。

次に会うことがあれば、絶対弟子にしてもらおう!!




俺の初めての実践は惨敗だったけど、師匠と呼びたい人に巡り合えた瞬間だった。

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