上 下
40 / 57
:冒険を始めましょう

40:

しおりを挟む
途中でアイテムポーチから布と水を取り出して血で汚れた体を拭く。

防具とかについた血は今はどうしようもないから落ちるだけ落としておいた。



今まではテントでの野営でも全然問題なく寝ていたのに。
今夜はテントに戻って横になってもなかなか寝付くことが出来ず、ごろごろしてたら空が白み始めてきた。



仕方なしにテントから出て、簡易調理セットで気分転換に調理を開始した。
しばらくすると皆がテントから起きだしてきた。


「おはようございます。うわー! いい匂いがする! 」

「おはようございます~」

「おはようございます、メグルさん」

「おはよ」


ルーイはと思ったが、彼は寝起きが悪いらしく出発ギリギリまでいつも寝ているようだ。
出てきた皆に薬草スープ(名前の割にはほうれん草のポタージュみたいな味がして美味しい)とバードリのオムレツ、パンを振る舞った。

なかでもオムレツは卵が見つけにくく希少らしい。バードリ自体はよくいるせいかランク自体はBランクだったけど。
レア度と品質ランクはちょっと意味が違うみたいで入手難易度とかはネット情報を頼りにしてたからこの世界での基準はどうなっているかわかんない。

卵自体がなかなか食べることが出来ないようでこれまたトムとマイクが朝から取り合っていた。

バードリをマップで探していたらたまたま巣を見つけられたけど、確かに結構見つかりにくい所ばっかりだったかも。


しばらくするとルーイも起きてきてポーチに入れてあったサンドイッチを渡してあげると、トムとマイクがまだ食べたそうだったから二人にもあげた。

ペルはいい加減にしろって怒っていたけど、まあ可愛いもんだよね。


焚火を消して、テントをアイテムポーチに仕舞って(これにも4人は驚いていた)出発する。

【コソン火山】から【サトゥの街】に続く森は山を囲むように群生していて【薄暗い森】に比べるとフィールド自体はあまり大きくはない。
でもモンスターはLv.11~14と強くなっているから油断していると死に戻りで【セドルの街】に戻る冒険者も少なくないという。




なんて心配してたけど、この4人は大丈夫みたいだ。

ルックルーという植物系の大型モンスター(Lv.13)が出現した時も、マイクが先陣を切って敵の正面に入り込み背負っていた剣で切りかかる。

マイクがモンスターに駆けて行くと同時にルーイは魔法詠唱を開始、ペルは右側に移動し矢を番えてマイクに当たらないように打ち込む。

トムはペルとは逆サイドからルックルーに近づき背後へと回り込み、切り落とせそうな大きさの蔦や枝を切っていく。



ルックルーがトムを攻撃しようとするとマイクがヘイトスキルを使ってルックルーの意識を引きつけ、その間にペルとトムの攻撃が続く。
ペルの矢が当たったところが若干溶けているような気がするけど毒とかを矢に付与しているのかな?

いくらマイクやトムと連携を重ねているとはいえ、あれは相当命中率がよくないと仲間に当たったらやばいやつだと思う。
当たると弓の攻撃分のダメージにプラスして、時間と共にHPが減っていく状態異常の毒効果がつくだろう。
もしかしたら実際にはもっと酷いかもしれない。

それを他の皆が気にせず戦っているあたりペルの射撃の腕をかなり信用していると思う。



「皆!距離をとって!」

戦闘が開始してから魔法詠唱していたルーイが詠唱を終えたようで3人に声をかける。

3人共一斉に距離をとったときルーイの手から放たれた火の玉がルックルーに当たり火柱があがる。


あれは魔法使いの初級魔法のファイアーボールだと思うけど、植物系モンスターは火が弱点になっているから初級魔法とはいえ相当なダメージを受けたようだ。
火が燃え尽きるころにはルックルーは炭のようになっていて動かなかった。



戦闘が終わって感心した。

パーティーでの連携攻撃として初心者の冒険者ながらこの4人はかなり連携が取れているほうだと思う。


私はいままでソロばっかりでパーティーの戦闘を見たことがないけど、例え野良パーティーを組んだとしてもゲームだと味方に攻撃は当たらないようになっているし、背後に回ったり撃つ場所を変えたりと細やかな連携はできなかった。
せいぜい敵の攻撃範囲内から避けるだとか、スキルのクールタイム確認、チャットでターゲティングのやりとりくらいしかしなかった。





私一人だと弓を1回引くだけで終わってしまうような戦闘だったと思う。

でも、なんというかレベルが低くても連携さえ取れていれば各上相手にも引けを取らない、パーティー内で絶対的な信頼関係があって安心して背中を任せて戦える仲間を少し羨ましく感じた。


その後もルックルーのような大型からウビットよりも少し大きめのウサギ型のモンスター、5,6匹の群れで行動するようなカピバラくらいの大きさのネズミ型モンスターとの戦闘を繰り返した。

結構な頻度で襲われたが、4人共危なげなく倒すことができてHPやMPが減ってきたらこまめに休憩を挟んだりとペース取りもしっかりとしていた。


途中マイクが急いで先に進もうとしたところをルーイが注意して口論になり、しばらく見守っていたペルが場を収めるのもしばしば。
トムは大体マイペースに二人を口論を見届けている。 ......いや、見ない振りをしていると言った方が正しいな。

何やかんやこのパーティーはこれが常のようだった。


結局、野営地を出発してから途中休憩を挟み森の中を移動したけど、4人の戦闘に関して私が手を貸すことはなかった。




森をしばらく進むと昼過ぎには門番が立つ門が見えてきた。
これが第2の街と言われる【サトゥの街】の入り口だ。

門番にギルドカードを見せて街に入ると入口から【セドルの街】以上に賑わっているのが分かる。


「ついたーー!!」

マイクが握りこぶしで両手を挙げて喜んでいる。
マイクだけではなく、初めて【セドルの街】以外に来た他のメンバーも街中だから大っぴらにはしゃぎはしないが目が輝いているのが分かる。

4人の行動が可愛く思えて、いつの間にか口元が緩んでしまっていた。



「じゃ、無事に街に着いたことだし、僕はここで失礼するね」


私の言葉に4人の視線が一気に集まる。

4人との少しの間の冒険は楽しかったが、元々【サトゥの街】に到着するまでという約束だったし。


メグルさん...とペルは悲しそうな声を出したが、いつまでも4人と行動するわけにもいかない。

あまりにもレベル差がありすぎるし、昨日の夜からずっと考えていたけど今の私は冒険を続けるモチベーションがほとんどなくなっていた。

白銀狼との戦闘でここがゲームとは違う現実と再認識した今、無理にケガを負ってまで冒険を続ける意味を感じなくなってる。

始めは綺麗な景色を見たいとか、強くなりたいとか、新しい錬金や調理のレシピを集めたいって目標があったけど、あくまでゲームの延長線上の話で痛みを負って始めてそこまでして叶えたいことなのかなって疑問を持った。

その疑問は森を抜ける間ずっと考え続けていたけど、その答えはまだ見つからない。


ペルは同じハンターという職業のせいか私を憧れている節があるから、こんな姿を新人冒険者には見せるべきではないと思っている。
憧れの人が無気力だったなんて残念にもほどがあるよね。



「それじゃあね」

笑顔で4人が何か言う前に手を振り背を向けると足早に宿泊街へと歩を進めた。





しおりを挟む

処理中です...