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第七章 勇者するより旅行だろ・・・?
第九十七話 ネメシス王国
しおりを挟む◇第三者視点
ネメシス王城。
十年前に始まった戦争から今まで前線に立ち続ける勇者の国。数年前に王が代わり、そこから軍部拡張、農地開拓など長期の戦争で生き残る術を実践し続けてきた。
しかし、そのネメシスにも問題が出始めた。
「食糧が足りない・・・」
現王『戸塚義樹』が一人愚痴る。
その側近である『レオン』と執事の『セバスチャン』も同じようなことを考えていた。国を預かる者として、食糧事情は大切。今はそれが過去稀にあるレベルの危機を迎えていた。
広げた農地。幾つかある農地域の一つで感染症が流行ってしまった。人の症状は回復魔法で治せたものの、農作物は別だった。
戦場では休みがない。兵士達は毎日三食食べる。得る量が減ったが、供給はそのまま。枯渇するのは時間の問題だ。
「食糧問題は深刻だ。戦争で得られるとはあまり考えられない。今はどこかしこも食糧難」
「いかがなされますか。兵士の分を確保するとなると、都や各地に流す数が減ります」
「それだけはダメだ。民あっての国。私の分を限りなく減らし、なんとかして届かせろ。私は昔から飢えを感じにくい体質なんでな。安心したまえ」
王城の分を減らしたところで、街一つを補えるはずもない。早急な対策が必要だった。
「新たな農地の開拓。感染した土地を浄化できる魔法を早急に開発。この二つはすぐに取り掛かれ」
「はい」
「動物から魔物まで、食料になるものは高額で買い取り、冒険者に食糧は金になると分からせろ」
この世界は広い。人間の立ち入っていない未開の地も多い。少し危険な地に行けば、食糧は転がっているだろう。しかし、命を落とすこともある。ならば、冒険者に頼るしかない。確定した戦力でない冒険者の命は国から見れば軽い。使えるものは使う主義の戸塚は冷徹でなければならない。食糧事情が解決するまで彼らには犠牲になってもらうしかないのだ。
戸塚が珍しくも追い込まれているのには理由がある。
「はぁ・・・勇者はどこに行ったんだ・・・!」
そう、勇者のうち数名が十年前から姿を消したのだ。あの学園祭を皮切りに事件は立て続けに起こった。黒田消失から始まり、生徒会長と黒田のメイドが城に戻ったと思ったら旅に出て、伊野光輝も彼が契約した竜とともにいなくなった。吉岡貴史とその恋人も旅立ってしまった。それだけではない。ネメシスに滞在していた超越者である英雄達が忽然と姿を消し、学園長である英雄の師までもいなくなった。
戸塚義樹の力により今までは何とかなってきたものの、前線主力となっていた勇者や超越者の失踪はネメシスにとってかなりの痛手となった。
更なる問題として、各地に超人達が出現したこと。
発見された瞬間から超越者と同じ待遇を受けている人間達だ。あるものは風魔法で山を消し飛ばし、海に住まう海竜をそこら一帯の海ごと蒸発させたとか。あるものは未開の森にある木をすべて伐採し、そこに住む上位の魔物達を狩り尽くした。小国の一つが蜘蛛の巣のような状態で発見され、そこに住む全ての人間が糸で全身を巻かれ死亡していたりも。
究極能力の影響だろうか。各地で異常事態が続いているのだ。それの調査をしないわけにもいかず、国に残れる兵は減っていった。
「どうするか・・・セバスや義経達にも限界がある・・・」
「勇者の捜索範囲を広げますか?」
「・・・そうするほか――」
ーーバンっ!
王城執務室のドアが無造作に開け放たれ、血相を変えた兵士が入ってくる。
「ゆ、勇者様がご帰還なされましたっ!」
「なに!?誰だ!誰が帰ってきた!」
戸塚義樹がガタッと立ち上がる。
「光の勇者様です!光輝様がお帰りになられました!!」
光の勇者、伊野光輝。竜に乗り、武者修行に出た男。愛すべきネメシスのお嬢さまを城に残し、世界を回っていたのだ。
「今すぐ連れてこい!」
色々聞き出さなければならない。現王戸塚義樹は希望の光を見つけた。今のところ、現状を打破できる唯一の道だ。
「失礼する」
入ってきた金髪の男。目は鋭くなり、城を出た時よりも装備がしっかりとしている。体躯も十年前よりも遥かに良くなり、30手前で威厳も増している。
「・・・よく帰ってきてくれた」
「あぁ。十年ぶりだな」
「・・・何をしていたんだ・・・連絡くらいよこしてくれ」
「この世界の果てに行ってきた。色々見れたよ。僕以上を幾人も見てきた」
伊野光輝は動かない。
セバスチャンが多少殺気を飛ばすが、それをものともしていない。何があったのか。彼の見てきた真実がセバスチャン、戸塚の目でも見えてこない。
「十年経って、ようやく満足できる自分を手に入れたよ」
「そうか・・・疲れているだろうが、早速一つだけしてほしい仕事がある。その後はしばらく自由でも構わない」
「分かったよ。その仕事は引き受ける。だけど、療養期間もくれよ?」
「私だけではなく、光輝も大変だったのだろう。急ぎのものは出てもらうことになるが、それ以外は自由に過ごしてくれ。・・・ぺネイトも会いたがっていた」
ぺネイトの名前を聞いただけで、不動だった伊野の体が少し揺れる。目元には涙が溜まっている。
「そうか・・・やっと僕は帰ってこれたんだね・・・良かった・・・」
幸せそうだが、どこか複雑な表情を浮かべて光輝は執務室を去った。
仕事は次の日。部屋は十年前と同じ。ぺネイトがずっと同じ状態で保管させていたのだ。掃除はぺネイト自ら行い、今まで守り続けてきた。ぺネイトも歳をとり、貴族にしては乗り遅れだ。貴族達は婚期を逃した悲しい姫と呼ばれた。調子に乗った貴族は「貰ってやろうか?」という始末だ。もちろんすべてお断りしている。
「よしよしよし・・・十年越しにようやくご都合主義が発動されたな。私自身の力を疑っていたが、良かった・・・」
これで感染した土地を浄化できる。
十年間、どれだけ過酷な日々を過ごしてきたのかは計り知れない。伊野光輝の目は据わっていた。十年前の甘っちょろい高校生の目ではなく、死地を抜け、幾つもの生あるものを裂いてきた修羅の目だった。
「セバスチャン。レオン。どんな手段を使ってもいい。貴史を見つけ出せ。他国に取り込まれる前にな」
「かしこまりました。・・・雪様はいかがなされますか?」
「会長のことはほっておけ。あの人は多分戻らん。彼女はおそらく深淵隊との接触を図っている。私たちが前に来ても邪魔者としか見てくれないだろう」
厄介なことにな、と。
この世界で勇者という存在は強大だ。原典の戦争を生き残ってきた根性と生への執着心は並ではない。しかも、勇者達全員がこの世界での生活を望んでいる。当初は返して欲しいと言い続けていた彼らだが、原典に比べてここは平穏すぎる。
文明が進んでいないため、苦労することも多いが・・・それでも命に変えられない。戻ること自体が恐ろしいと感じてしまう。
この世界の住人にとっても、勇者達としてもwin-winの関係というわけだ。
しかし、それはネメシスにとってだけでは無い。他国の人間、魔族、亜人たちにとっても同じことが言えるのだ。
この世界の戦争は個の力が重要視されるようになった。そのせいで、力あるものの争奪戦になっているのだ。
そして、各地で勇者召喚ラッシュが起きている。召喚魔法を開発した国が次々に召喚している。
敵は既に、魔人や亜人だけではないのだ。
「まずは魔王だ。その後亜人と和解する。被害は最小限に・・・」
王は頭を働かせていく。
戦争の指揮はあまり得意ではないのだが、彼は民のために死力を尽くす。
「私がこの世界に革命を起こす」
「「王の御心のままに」」
――――――――――
はたつばです。
最近、別視点ばかり書いている気がします。あれ、主人公は?と思う方がいるかもしれませんね。・・・はたつばたちも「あれ?」って言ってます。
ほほほほほ、楓視点をどんどん追加していきたい。頑張ってカクヨー
これからもよろしくお願いします!
もう一方で書いている作品なのですが、そちらを担当しているメンバーが諸事情により少しばかりいなくなるので、停止します。
しばらくして、戻ってきたら再開します!本当に申し訳ございません。
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