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第五章 学園祭。この日を待っていたぜ
第七十三話 化物への挑戦
しおりを挟むようやっと準決勝か。
長いような短いような。マリーさんと会長には是非とも頑張って欲しいね。
そういえば、俺が参加するエキシビションマッチなのだが、予選のような形態で行うらしい。闘技場の上で殴りあって、最後まで立っていた者の勝ち。
二対二的なものを想像していたが、違ったらしい。
二人のうち、最後に一人でも残っていれば勝ちだそうだ。
吉岡との共闘なら負ける気はせんが、なーんか嫌な予感が。具体的に言うと、あいつらがいそうな気が。
「どうなされましたかか?」
マリーさん。君だけが唯一の癒しだよ。
マリーさんの顔を見ただけで、全ての杞憂が吹っ飛んでしまう。
だが、ここでマリーさんを愛でていて、返事をしないのはアカン。
と、言うわけで
「次は準決勝だな。マリーさんは絶望竜とだ」
「はい。頑張ります」
それだけ言う。
そして、マリーさんはその場から消えた。
・・・相変わらず、意味不明だ。
いつの間にか現れた、突然消える。いや、呼んだり、マリーさんに話しかけるようにすれば、そく現れるだろうけどさ。
ほかの化物もマリーさんに会えば驚くかもな~。
「さてと、俺も少し準備でもするか。」
ある刀を出す。
鈴のついた黒い刀。ある女神から授かった刀。この刀よりも強い武器を持っているが、なぜかこの刀は手に馴染む。吸い付くように手にはまり、動きも軽くなる。
その刀、黒刀『月姫』を右腕を機械のものに変えてから上空に向けて思い切り振るう。
ーーシャン・・・
刀の風圧で青空に残る雲がすべて吹き飛び、突然斬撃が雲のあった場所にはしり、空間を断絶する。
空に無数の空間の狭間が見える。
よし、腕はなまってねぇな。
◇第三者視点
準決勝。
準決勝は学内、学内、一般、一般のような順で、先に学内を済ませてしまうようだ。
これで決勝カードが決まるとあって、なかなかに会場は盛り上がっている。
勝ち上がっちゃった系女子『ユイ』VS根は頑張り屋の機械纏系女子『山内 美香』通称みかみか。
「さぁさぁ!皆さん準決勝ですよ!段々と決勝が近付いてきますね!この勝負で勝った方が決勝へと駒を進めます!先の戦いで実力は百点満点保証付の選手が揃っていると証明されましたからね!私も楽しみですよ!」
「うむ。ここからが本番みたいなものだからな。選手達には頑張って欲しいな!」
来賓席では非常にテンション高い方たちが引っ張っている。
だからか、会場の熱気はおさまることをしらない。
「にゃはははは!吉岡っちが恐れおののき、ギブアップしたこの私に勝てるかにゃ~!」
(いや、勝てるわけないでしょ・・・)
しかし、この二人。会場の中央で相対するこの二人の温度差は凄まじい!
こんなことでいいのか!武道大会!
「さぁ、試合が始まりますよぉ!」
ーーゴーン
「ゴングが鳴るぅ!」
試合開始の合図が告げられた直後。
ーードガンっ!
爆発音が!
ーーズズズッ!
会場中の影から槍が!
みかみかさんは逃げるしかない。
「にゃにゃにゃ!?か、か弱い女の子じゃにゃかったの!?」
ユイは学園の学生ではあるが、あまり攻撃魔法は得意ではない。
しかし、ユイから繰り出される攻撃は凶悪で、いずれも殺傷能力が高い攻撃ばかりだ。みかみかは全身を機械に囲まれている訳では無いため、一撃でも当たれば、HPが削り取られてしまうだろう。
(影宮さんとさっき知り合ったばっかりのリシアス君だよね・・・)
ユイは遠い目をしている。フィンとの戦いを終えて少し話をした時に出会った少年リシアスと仲良くなってしまったユイさん。
ユイさんは現在、身内に優しい過保護な御二方の力を望んでもいないのに、借りている。隠匿性の高い二人の凶悪な魔術と魔法。
みかみかの砲撃を光の壁が防ぎ、影がみかみかを拘束、そして、巨大な影と無数の魔法がみかみかを襲撃する。
なかなか、攻撃が通らない。
そのもどかしさにみかみかは苛立ちを見せるが、ユイからしたら知ったこっちゃない。なにせ防御も攻撃も一切関わっていないからだ。
「にゃにゃにゃ・・・。少女に負けるわけにはいかないのにゃ・・・!」
みかみかも必死になって砲撃、光剣を使って攻めるが、その攻撃はその場から微動だにしない涼し気な少女にふさがれる。
「みんなの・・・!みんなの努力の結晶が!こんな所で・・・!負けていいはずが無いのに・・・!だめにゃ・・・。負けたくない・・・!」
涙目になり、段々と焦りが見え始めるみかみか。
ユイもその涙に同情し、涙が・・・。
ユイの攻撃が止まる。
防御ばかりが展開されていく。
(この人はこんなに頑張ってるのに・・・私は人に頼ってばかり・・・)
ユイは己の小さな手を見る。
まだ。まだだ。相手の少女はそう言いながら、光の壁を突破しようと攻撃を続ける。
(・・・でも・・・でも、ここまで来て負けたくない。罰ゲームでも、不正行為で勝ち残っていても、負けるのは悔しい・・・!)
光の壁が消える。
みかみかの砲撃がユイに迫る。
「私は・・・負けないっっっ!!」
彼女は魔法が使えない。
たまたま手に入れた力だけで彼女はこの学園生活を送ってきた。力なんて使う気はなかった。それに、この場で使ってもあっという間に負けるだろうと思っていた。
だが、そのまま、誰かに頼ったままに勝つことは許せなかった。
己の弱さに!己の醜さに!己の貧弱さに!
ここで負ける訳にはいかない!
己に打ち勝つために!目の前で涙を流す機械少女の本気に応えるために!
手を叩く。
合わせられた小さな手からバチバチと電気がほとばしる。魔力が目に見えるように。
「私が使える唯一の力!力を!力を!私が!〈求めるは主を守り、対象を打ち倒す力〉!『創造錬成』っ!!」
何も無いところから生まれる盾と剣。
魔力と物質を交換。簡単に出来ることではないし、魔力の消費も凄まじい。実践ではまず使えない死に能力だが、彼女にとっては唯一無二のオリジナルスキル。使うのも、使えるのも彼女だけ。
宙に浮いた盾は自動で動き、みかみかの砲撃からユイを守る。剣は盾が受け損ねた全てをたたき落とす。
(うぅ!きつい~!魔力もう無い!もう無理!負ける!あー!)
いつの間にか援護射撃は終わっていた。
さすがにリシアスも影宮も空気を読んだみたいだ。
突然光の壁や影の追尾がなくなり、動揺するみかみかだが、この好機を逃すわけにはいかない。
みかみかは最後のエネルギーまで使い切る勢いで光線を放つ。
空を覆うほど大量の光線はまっすぐユイに向かう。
(んっ!死ぬ!)
その瞬間。
ユイを取り囲む光線がなにかに打ち消された。
「あ、あ・・・。・・・」
みかみかはエネルギーを使い果たし、落下する。
気絶しているようで、抵抗なく自由落下は加速していく。
「みかちゃん!」
「みか!」
客席から彼女の仲間達の声が聞こえる。叫びともとれるその声に反応して、一人の男が飛び出した。
危なげなくみかみかをキャッチしたのは深くフードを被った男。見たことありそうで、その記憶には記録されていない者。
科学者『サイエン』であった。
「この少女達には強い意志とそれに見合った力がある。こんな所で失うには惜しい」
そう言い残して、みかみかを抱き抱えたサイエンはその場を去ったのだった。
ユイや観客はポカーンとしている。
色々起きすぎたのだ。謎の力が働きすぎである。
来賓席にて・・・
「マーリン・・・」
「悪かったとは思っているが、反省はしてないぞ」
「・・・あの子重要?」
「戦力は多いに越したことは無い。それに、勇者の手で死人を作るわけにはいかん」
光線を全て打ち消したのはマーリンの魔導だった。
「……仲間うちの殺し合いは厳禁。おーけー?」
「分かってるよ。あちらから仕掛けてこなければ、私がなにかしようとは思わない」
「・・・それでいい。」
選手控え室にて・・・
「あそこで助けちゃうんですね」
「仕方ないだろ。勇者を殺すのはよくない」
サイエンはみかみかを長椅子の上で寝かせる。
その付近には線の細い少女と筋骨隆々で上裸の男。
「はっ!お前いつからそんなに優しくなったんだ?」
上裸の男は笑う。古い仲のようで、ここで初めて会ったというわけではなさそうだ。
サイエンは面倒くさそうに答える。
「さぁな。知らぬ間に人目を気にするようになったんだろ」
「はい、ギルティです」
「嘘つくなよ~。どうせあの元男に見て欲しいからだろ?」
「図星ですね~」
散々言われ、もう聞かないようにしたサイエン。
無視である。無視。無視を決め込むのだ。
準決勝第一戦はユイの勝利。
ユイは勝ち上がってよかったのかと頭を抱えるが、勝ってしまったのは仕方ない。やれることだけをやろうと決める。
「国王様!続きまして~サイエン選手VS天才少年リシアス君ですよ!リシアス君可愛らしい顔してますよね。この数日でファンクラブまで設立されたそうです!私も入ってますけどね!グッズ販売してまーす!」
「手が早いな・・・」
グッズ販売
勇者ロボット 2,000P
リシアス人形 1500P
リシアスの写真(非公式) 一枚500P
勇者の光剣(レプリカ) 1200P
勇者のマント 3000P
勇者のブレスレット 1600P
などなど・・・
早くも利益が出ている。
人気者のグッズはバカ売れなのだ。
「売れ行きによっては、第二弾が出るかもですので!皆さんよろしくぅ!」
「おい、宣伝もいいが、試合を進めるぞ」
「おっと、これは失礼しました!それでは行きましょう!学内の部準決勝第二戦!」
ーーゴーン
「スタートでぇす!」
フードを被った男サイエンと幼い姿のリシアス。
「子供を襲うのは趣味じゃないんだがな……」
「正直僕は勝ち上がる気がないので、軽く負けようと思うのですが・・・」
「女か・・・」
「・・・えあ、まぁ・・・。そうなんですが・・・」
「俺は強いぞ~」
「ですよね。僕が手に入れたこの力も、知ってる側の人ですか?」
「まぁな。そいつを作った女と共に戦場に出たこともある」
「なぜそんな方が、武道大会、しかも学内の部に紛れ込んでるんですか・・・」
「運が悪かった。本当はエキシビションマッチに出たかったんだがな。ジャンケンで見事に負けてな。仕方ないから学内の部に」
「一般の部で良かったのでは?」
「つまらんだろ」
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しかし、その考えに異を唱えようとも、圧倒的力量差の前では声に出ない。
「・・・とりあえず全力でやりますか」
「それがいい。俺も決勝でまけるならまだしも、ここで負けるのはかっこ悪いから嫌だ。だから、それなりに力を使わせてもらうぞ」
リシアスは今まで通り素手。
サイエンは焔の剣を。
サイエンは本来のスタイルではないが、ある程度の力を使うこと本当だ。その手に持つ焔は触れればいかなるものも瞬間的に蒸発するだろう。
焔に当たれば終わり。それはリシアスの眼では簡単にわかる。その焔がどのような原理で造られているかも。その焔が持つ凶悪な能力はすべてお見通し。対応するのは難しくない。
「ちっ。その眼、厄介だな。あいつと同じか。俺もその眼があれば、もっと楽な人生だったろうな。羨まし」
軽口を叩きながら、サイエンはその場から瞬間的に移動し、リシアスの背後に。
(速い!なるほど、影宮さんよりも速いとなると・・・!この世界の人間の基準で考えていては瞬殺されますね。ならば・・・!)
リシアスの眼が光る。
そこからリシアスの動きは変わる。これまで戦ってきた時はほぼ動いていなかったし、動いてもゆっくりとした動きだけだったが、今は違う。
右側から柔らかい衝撃を自分に当て、反応できない身体を無理やり動かす。
さっきまでいた場所に焔の剣が振り下ろされる。
その直後に体に打ちまくった刻印の力で強化されたその肉体で会場の逆端まで逃げる。
焔の剣が会場のステージに触れると、その周辺一体から焔が噴き出した。
「まじか・・・。そんなの未来予測と同じじゃねぇか」
(危なかった。あの人、殺しに躊躇いがない。やっぱり楓さんと同じ類の人か!)
未来予測。
無数の未来からある一つを導き出す能力。
しかし、リシアスの力は少し違う。
彼が行ったのは、単なる読み取り。その焔の力と肉体の動きを見て、少し先を推測して動いただけ。未来予測と違って、そこに至る確率がわかるわけでも、無数の可能性を見るわけでもない。
リシアスがその眼を持っていたから未来予測になっているだけで、彼以外なら出来はしない。
「処理しきれない量の能力を使って勝つのが裏技であり、正攻法なんだろうが・・・」
手に持つ焔の剣の火力が上がる。
「それじゃぁ、つまんないよな」
目に見えない速さで構えられたその焔の剣。
リシアスは眼に反応して咄嗟に刻印による障壁を大量に張る!
ーーゴウッ!
一薙
そのたった一撃でステージは真っ赤に染まった。
「……訛ったかな」
これでもなお、満足していないようだ。
そこに飛んでくる。
なにが、焔でできた特大の剣が。
「解析完了・・・。美味しい能力をいただきました」
「おいおい・・・。まさか俺の力をコピーしたとかそういうことか?」
焔の特大剣をサイエンは避けることなく、謎の液体をかけてその場から消滅させる。
「ちっ。厄介だな。コピーされるんじゃ下手に能力は使えないし・・・」
サイエンはどうしようもなくなってしまったことに悩んでいる。
しかし、リシアスも同様に混乱していた。
(分からなかった?なんでしょうかさっきの液体は・・・。見えると思った瞬間に僕自身が見えなくした・・・?分からない。危険物質的ななにかですかね)
「はぁ・・・。どうしたもんかねぇ・・・。・・・大人げないけど、やってみるか」
その言葉にリシアスは身構える。
今までの戦闘で只者でないことは分かっている。余裕に見えるように振舞っているものの、その実ギリギリであった。体力面で特に。
サイエンは注射器を取り出した。
回復魔法が主流なこの世界でその器具は知られていない。細い針に液体が入っている。それしか分からないだろう。
そしてその針をサイエンは自らに刺したのだった。
「なっ!?」
この光景にはリシアスだけでなく、それを見ていた観客も驚いていた。
彼を知る化物たちも「そこまでするか?」と思っに違いない。この世界で、それも幼い学生相手に使う代物ではない。なにが彼をそこまで駆り立てるのかは分からないが、冷静でないことは確かだろう。
「ぐぅっ!」
彼の体からフサフサの体毛が伸びてくる。
それは彼を包み込み、彼を獣のように見せた。
「あぁ・・・しんど・・・」
先ほどとは見違えるほど筋肉が膨張し、威圧感も増している。
「ははは・・・馬鹿げてますね・・・」
リシアスは驚愕と軽い絶望を感じていた。
体力面で厳しい状況にあった、リシアスに対して完全肉弾戦ともとれる姿をしているのだ。どれだけ魔法に関して桁外れの才能があったとしても体は子ども。土俵が違うのだ。
一体一の状況。
武術の達人と魔法・魔術の達人で戦えば、初手の速度で武術の達人が勝つ。魔法・魔術は対多数戦で最も実力を発揮する。その時点で勝てる道理はない。
なのにも関わらず、相手は前に立つことすら許されないような覇者。
格が違いすぎる。
「本当はここまでする気はなかったんだがな・・・。愛する者の前で少しばかり気分が上がっているらしい」
爆発音がする。それはリシアスの得意とする爆破魔法ではない。ただ、その獣が地面を蹴っただけである。
空気の層を破り、光速に至らんとするその化物じみた速度に神を超える、化物から授かった眼では見えていても、体が反応しない。
「・・・っ!」
その獣の一撃はリシアスの肉体に穴をあけんとする。
ーーパァンッ!!
しかし、そんなものは幻想でしかなく、実際には暴風が防御結界を吹き飛ばしたに過ぎなかった。
「おいおい、イっちゃん。学生相手にやりすぎだぜ?」
守護
その能力を持つ最強の化物がサイエンこと『カール・システール』の獣の拳を受け止めていたのだった。
◇楓視点
「・・・楓か。俺はてっきり愛すべき未来の嫁マーリンが来るかと思ってたんだがな」
いっちゃんの愛すべき女性マーリン。
・・・マーリンってさ、元々男なんだぜ?今は性別がなくなって、色々と動きやすい女性の姿をしてるが・・・男だぞ?
「だからこんなオーバーキルみたいな真似を?」
「そういうことだ」
「マーリンの事情を聞いてないのか?」
マーリンは今や一国の長。それも、魔導師としての活動は影に隠れた場所で行っているようだ。
そんな女帝がいきなり化物の拳を受け止められるわけがねぇだろ。
いっちゃんは疑問符を浮かべている。
・・・こいつ、この世界のこともまるで調べることなくこの武道大会に参加したのか・・・?アホすぎる・・・。このままでは天才科学者(笑)だ。
「そのへんは後で本人に聞け」
「残念ながら今の俺は一介の学生。来賓にいる彼女に会うことはできないと思うが?」
「ここまでやっといて、今更なんだよ・・・。お前が学生として参加してるってことは木下ちゃんの差金だろ?なら簡単だ。力を借りればいい」
「あまり貸しを作りたくないのだが・・・」
「知るか。俺はもう戻るぞ。今日の夜、俺のところに来い。いいな?」
「……」
「いいな?」
「・・・わかったよ」
少し威圧を込めてお願いしたら頷いてくれた。やっぱり、心が大切だね。
さて、まだ準決勝は一般の部が残されている。
くっくっく。ここから先は荒れるぞ~!
転移!
ーーーーーーーーーーーー
はたつばです。
なんかこの章長い・・・。当初の予定ではササッと、スパッと終わる気ではあったんですけどね・・・なんというか、はたつばがはたつばの厨二病的なにかを抑えきれませんでした。
なのでもう少し続きます。お付き合いを
楓さんが戦いたいって言ってます。
次回更新は八日土曜日です。よろしくお願いします
頑張っちゃうぞ~
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