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第五章 学園祭。この日を待っていたぜ

第六十八話 予選part2

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◇第三者視点

  学園内Cブロック

  注目選手はなんといっても・・・

「デカすぎね?」
「あれどうしろってんだよ」
「無理ゲーやん」
「おっふ」
「あっ…(察し)」

  とても大きなロボットでした。
  天才たちが作り上げた傑作。国王に頼んで鉱石を大量に手に入れた天才たちは、日本にいた時よりも硬いロボットを作り出した。
  アルトメタルさえあれば、さらに硬くなるのだが、高いなんてもんじゃないくらい高価だし、なにより、どれだけ望んでもこの世界には来なかった。

  戸塚に願ったものの、戸塚が心から欲しいと思っていないので、呼び寄せられなかった。

  そしてもう一つ、注目選手が。
  察してほしい、もうなのだ。

「にゃははは。いやぁ、間に合って良かったにゃ~」

  そういうのはその機械を纏った少女。
  どう見てもロリなのだが、浮いているのだ。体に装着された機械は軽さを意識してか、肩、腕、足、頭部、背中のみに取り付けられており、幼い顔は外から見えるようになっている。
  スカ○ターのような装置をつけており、
「負ける気がしないにゃ~」
  と言っている。
  ちなみにだが、その機械には戦闘能力を測定する力はない。物体の質量や、物体と物体の距離を測ったり、熱感知ができたりといった機能が搭載されている。
  負ける気がしない、と口にした理由は不明である。

『美香ちゃーん。お調子どー?』
「バッチリにゃ~。夕咲にゃんそちらは?」
『大丈夫みたいでーす。動きやすさも改良されてまーす』
「そりゃ良かったにゃ~」

  その姿を開発チームの天才たちは観客席から見ている。

「良かったですね、間に合って」
「あぁ。俺達の仕事はここまで。あとのデータ取りは他のメンバーに任せよう」
「はい。私たちはこれからどうしますか?」
「美香と夕咲の晴れ舞台を見てから、王様に頼まれた銃の量産計画の方を進めよう。車や戦車はダメっぽいが、銃までなら許されるだろうし」
「はい。じゃぁ、ここではゆっくりしましょうか」

  開発者筆頭の天才二人はそう言うと、疲れたように椅子の背もたれにぐでっともたれ掛かった。
  幾人もの天才たちが取り組んだ「勇者ばかり目立ちやがって」計画の初のお披露目はこの学園内予選会。ここから改良を重ね、悪い魔王の討伐の準備をする勇者を横から追い抜いてやろうという計画だ。
  日本にいた時に愛用していた道具やエネルギーをまるまる使えないことが彼らを苦しませたが、ここにきてようやく、人にお見せできるまでになった。

  彼らの快進撃はここからだ。


  ステージにて。

  ひときわ目立つ機械少女と巨大ロボット。
  あまりのデカさと未知の恐怖にほかの生徒達はどうやって早々にこの場から逃げ出そうか。そればかりが頭の中によぎっている。

  正直、これに一般の生徒が勝つというのは不可能ではなかろうか。

ーーゴーン!

  やはりゴングは無情だ。
  対策も何も思いつかないまま、生徒達を戦闘へと導いていく。

  ロボットは足を左右に振るだけで生徒達を場外へと運ぶ。
  それにあたった生徒は抵抗も出来ないままに、吹き飛ばされた。

  機械少女は宙に浮きながら、生徒を掴んで外へポイッ!

  ここまで来るともはや作業である。
  意気込んできた生徒も虚しく場外へ。自ら場外へ出る者もいた。

  結果はおわかりの通り。
  巨大ロボットと機械少女が決勝進出を決めた。



  一般の部Cブロック

  そこにいたのはアルバート・サクリファスと氷河雪。
  お互いをマークしているのか、雪から接触したようだ。

「決勝まで手の内を見せたくない。だからそちらも素早く終わらせて欲しい」

  との事だった。
  アルバートも頷いている。彼的には決勝に行って、自分の主人に認めてもらえたらいいな、なんて思っているだけなので、予選なんぞどうでもいいのだ。

  アルバートと雪。
  異色のコンビだが、最強クラスなのは間違いない。桁違いの魔力量はほかの参加者たちを圧倒している。

  二人はステージを二分する位置に立って、向かい合う。

ーーゴーン!

  ゴングが鳴った瞬間の出来事。
  試合は終了した。

  会場半分では男女関係なしに倒れて痙攣しており、もう半分では抵抗なきまま氷漬けにされている。
  誰もその場を動かずに試合は終わり、二人はそそくさとステージから去るのだった。

  スタッフが考えたタイムスケジュールをなんだと思っているのだろうか。
  みな、簡単に終わらせすぎである。


  学園内の部Dブロック

  男は肩を回し、ため息をこぼす。
(俺も一般の部に出たかったな・・・)
  鍛えぬかれた肉体を持つ勇者『吉岡 貴史』は己の拳を見つめてそう愚痴る。学園内で相手として不足ない者は勇者くらいなもので、他はノーマークだからだ。

  この予選Dブロックも強いと噂の人間などはいない。
  国王の息子、レオンが学園内の部に出てれば、彼も楽しめたのだが、生憎レオンは今頃戸塚と共にこの試合の観戦をしている。
  そして、残念だがこの試合に彼と同レベル、またはそれ以上という者はいない。

ーーゴーン!

  退屈そうな筋肉を置いてゴングが鳴る
  吉岡はその重そうな体を軽やかに動かし、攻撃を避けては反撃、避けて反撃を繰り返す。
  それを繰り返し行うだけで、ステージは彼と二つの剣を持った男だけとなった。



  一般の部Dブロック

  参加者の目はある美しい少女へと向いている。
  その少女はメイド服を着ており、目を瞑っていた。その少女は武器らしい武器を持っておらず、ただそこに立っていた。
  その近くに主らしき者がいる訳でもない。

  そしてもう一人。
  アロハシャツを着たラフな美丈夫。観客の女性はそちらに釘付けだ。その男も武器を持っている様子もなく、ただ目を瞑っている。

  この二人は周りから見ても異様な雰囲気を放っており、謎性が非常に高い。


  その頃一方来賓席にて・・・

「あ、マリーちゃん」
「本当だ。・・・頑張れ」

(まさか絶望竜までいるとは・・・)

「あ、いじめられてた竜だ」
「本当だ。・・・ファイト」

(俺主人なのに一言も教えられなかったんだけど)

  哀れな主人であった。


  ステージにて。
  メイド服とアロハシャツはすべて見えているかのように目を瞑ったままステージへと上がった。

「絶おじゃちゃん頑張ってぇ!」
「絶さーん!頑張ってくださーい!」

  観客席からアロハシャツへと声援が伝わると、アロハシャツの口元はニヤニヤとしだした。何事にたいしても動じない大人なオーラを放っていた美丈夫だったのだが、台無しになってしまった。

  メイド服の少女は来賓席を見ると、ある男から手を振られ、少女も小さく手を振り返す。
  その後女帝と調教師からも手を振られ、それにも苦笑いしながら手を振り返す。
  女帝と調教師がブンブン手を振っていたので、他の王達は何事かとステージを凝視していた。メイド服少女は恥ずかしそうであった。

ーーゴーン!

  もはや恒例となったゴングが鳴り響くと、最終予選ということもあり、参加者たちの気合、怒声が響き、観客もおおいに盛り上がっている。

  しかし、メイドと人の皮をかぶった竜は動かない。
  いや、確かに殴られ斬られしているのだが、まるできいていない。メイド服もアロハシャツも揺れさえもしない。

  二人以外の参加者が次々とギブアップしていくなか、彼らは未だに目を瞑っている。

  しかし、彼らを含めて残り4名となったところで、ようやく目を開いた。
  予選から手の内を晒す気は無いのか、最小限の動きで攻撃を躱し、腹に一発拳をねじ込んで、試合は終了した。

  決勝進出者はメイド服とアロハシャツ。
  そして、それをよろこぶこともなく、当たり前のようにその場を去っていく。


  その頃一方来賓席では

「いやぁ、圧勝だな、マリーちゃんは」
「ん。マリーちゃん強い」

(この二人に強いと認めさせるマリーとは一体・・・)

  化物の中でメイド服の謎がさらに深まったのだった。


  えー、ここで、黒田さんちの楓さんにお返しいたします。


◇楓視点

  ありがと、誰かさん。

  マリーはいつの間にかステージにいたのだが、マリーを見失ったと思ったら、もう既に隣にいた。
  なに、相変わらずだけもどーなってんの?

「いやぁ、予選にしてはなかなか面白かったぞ」
「ん。むそーじょーたい」

「でしたね。しかし、ネメシスの力を思い知らされました」
「がっはっは!そうだな!これは決勝が楽しみだ!」

「明日からはもっと白熱するぞ。力を温存していた進出者の本気が見れるからな」

  それにかんしてはどうだろうか。
  アルバートとディスの戦いとか、絶望竜とマリーの戦いあたりはかなり白熱しそうだが、他は軽く突破しそうだよな。

  ん?一番見たくない試合?ははは、もう知ってるだろ?
  会長とマリーの戦いだよ。
  俺は泣きそうだよ。

「私たちミステラは魔法国家と言われて、魔法関係には詳しいつもりでしたが、分からない事だらけでした。勉強になります」
「がはは!俺は学内のあのいい筋肉を持った男と話がしたいな!素晴らしい肉体であった!」

  ミステラと倭国はネメシスに逆らうことは無いだろうな。いや、逆らったとしても戦争はしたくないだろう。
  今回の件で実力者が出てきたからな。

「計画していたよりもだいぶ早く終わってしまったか。」

「どうする気だ?」

「んー。どうするかな・・・。」

  何もこの後の予定を決めていなかったごようす。
  俺も実際はもっと長くなると思ってたんだけどね。各ブロックにうまいこと人がばらけちまったからな。無双が可能となって閉まったわけだ。

  来賓席にて回る椅子に座ってグルグルと回る国王と、一心不乱にクッキーを食べる各国の重鎮たち。
  ふっ。他国の者もマリーのクッキーの前では皆平等よ。
  だからそこ、魔導を使って自分のクッキーを確保しようとするな。欲が出すぎだアホ。

「あー、ならアレだな。今日は自由行動にするか~」

  なんて適当な王なんだろうか。

「おい待て。俺とマリーだけでは四国も守れんぞ」

  ブラック労働反対。

「なら他の護衛人たちも呼ぶしかねぇな」
「自由か」
「一応国王だから」

  一応って言うなよ。
  ほら、宰相が自覚を持ってくれって言いながら目にハンカチを擦り付けてるぞ。アレ号泣だよ。

「まぁ、呼ぶのはいいとしても、誰が呼びに行くんだ?あいつら暇じゃないかもしれんぞ」
「最低一人でも来てくれれば、俺以外は守れるだろ?一人くらいいるだろ」
「お前はどーすんの?」
「義樹のところに行ってくる」

  一番安全かもね。
  いや、一番安全だわ。確実に。

「む、それなら私達もその義樹にあってみたいな」
「・・・同じく」

  マーリンとマリアは戸塚に会いに行きたいみたいだ。
  マーリンが参考にしている女帝像も戸塚の王様モードらしいからな。

  ちなみにだが、戸塚は日常モードと王様モードとを使い分けて、他の人たちに自分を遠い存在だと思わせないようしているらしいのだが・・・たまにごっちゃになってるんだよな・・・。
  宜しくないことに、それに気づいてないし。

「なんだ?女帝様は義樹のことを知っていたのか?」
「あぁ。楓から話を聞いたんだ。優秀な男なのだろう?」
「おうとも!俺の中では時期国王最有力候補だな!」

  ・・・それは困りますぅ。
  あいつは原典の王に戻らないといけないんですけど・・・。

  どうしたもんかと考えていると・・・

  世界が止まった。

  そして・・・

〈おーい!かえでー!〉

  どこからか声が聞こえる。
  ・・・どちら様でしょうか。

〈ははは、忘れるなんてひどいね、僕だよ僕僕〉

  詐欺には引っかからないようにしてるんですけど。

〈世界だよ、世界〉

  知ってるわ。
  世界。原典含めた全ての世界を管理している者。

〈あ、説明ありがと。〉

  何してんだよ。世界眼の回線に無理矢理入り込みやがって。マーリンでももう少し丁寧にやるぞ。

〈仕方ないじゃないか、それ以外で君となんて滅多にコンタクト取れないし〉

  元の世界でも話しかけてはこなかったろ。

〈必要なかったからね〉

  今回は重要だと?

〈まぁまぁ重要かな。さっき君が考えてたでしょ?義樹がこの世界で王になるのはまずいってさ〉

  あーその話ね。
  それで?どーすんの。お前的にも王が消えれば後継探ししないといけないのだろ?

〈そーなんだけどね。でもさ、義樹は僕と君とがその場しのぎのために運命をねじ曲げてまでその役目を押し付けたわけでしょ?これからは自由にしてあげようかとね〉

  力の回収をして、ほかの者にまた押し付ける気か?

〈それも考えたけど、義樹の人生が終わるまではそれはしない。世界王の選定なんて100年しなくても別に問題は無いしね。多少世界全体がザワつくだけだし〉

  分かった。
  今の俺にどうこうする力がある訳では無いし、任せるよ。そのかわり、他の化物への通達は自分でやれよ?

〈情報操作のプロに頼もうかな〉

  木下ちゃんのこと?
  あの子はやめとけよー。王様への執着心がやべぇから。世界がうっかりでも王様のこと悪く言ったら本当にキレるぞ?

〈うーん。それはやだな~。木下ちゃんが相手だと僕もあんまし強くでれないんだよ〉

  木下ちゃんは最強説あるからな~。
  あの子の場合はもう本当に・・・!マリアの超厄介版みたいな感じなんだよね。能力は全ての情報、意識、認識、常識全てを書き換えることの出来るやばい子。
  化物の中で、誰が誰に最大の嫌悪を抱いている、的なことも変換できるので、俺と覇王&翔太なんていう最悪な戦争を生み出すことも出来るわけだ。

  木下ちゃんが書き換えられないのは、俺と世界の脳だけ。

  悪女とかではないので、滅多なことでは怒らないし、能力も使わないのだが、戸塚に土下座されてからは戸塚のことしか頭にないみたいで、戸塚に何かあれば例え俺や世界相手でも喧嘩を売ると思う。

〈楓言っといてくれない?〉

  なに?木下ちゃんももうこっちにいるの?

〈一応ね。全世界のシステムにそう命令したからね。今頃は義樹目掛けて歩いてるんじゃない?〉

  あー木下ちゃんってば戦闘系の能力ないから徒歩なのか。
  迎えいった方がいい?

〈行ってくれる?ついでに、言ってるくれる?〉

  お前が行けるならいけよ。

〈仕方ない、覇王に頼もうかな〉

  あの人ももういんの?

〈いや、まだ覇王は来てないね。でも、『颯馬』と白金は来てるから、もう覇王だけだよ〉

  颯馬さんと白金か。
  あの人たちも来てるのか。いつものメンバーで残りは覇王だけだな。

  んじゃぁ、覇王きたら覇王に頼んどいて。

〈ハイハイわかりました。・・・義樹のこと頼んだよ〉

  分かってるよ。被害者だからな。
  戸塚の好きなようにさせればいいんだろ?

〈うん、よろしく〉

  あいよ。

  そしてまた、時は動き出す。
  騒がしさが戻ってきた。

「二人の息子はどうするのだ?」

  あ、時期国王の話してたんだっけか。
  世界のせいで忘れてたわ。

「バホカアは王には向いてないし、レオンもやりたくないって言ってるからな」

  消去法じゃねーか。

「そうか・・・。ならば、やはり時期国王を見に行くとしよう」
「それがいい」

  マーリン、無理やり理由付けて行こうとしてないか?

「私達は娘の行きたいところに行かせていただきますね」
「おう、楽しんでいってくれ、ミステラの王よ」

「俺達は兵士達の話を聞きに行こう!」
「・・・はいはい」
「はっはっは!皆優秀な兵士ばかりだ、いい話が聞けるかもな!」

  なんでこの世界の王達は自由なんだ!
  ちと自由すぎやしないか!?周りと合わせることを学ぼうぜ!?

「ご主人様、お気を確かに」

  え、なに?俺がおかしいの?
  俺なの?
  あとさ、何気に心を読むのはやめようか。大好きか、心読むの。

「おーい、楓いくぞー。ここの守はマリーちゃんに任せておいて、俺とお前とで護衛で動いてくれるやつを探しに行くぞ」

  おい、うちのマリーを汚らわしい男がちゃん付けすんな。ハゲ散らかすぞこら。

  マーリンとマリアにアイコンタクトを送っておく。マリーを頼むってね。
  万が一にも二人がいれば問題にはならんだろ。いざとなったら親衛隊もくるはずだし。

「分かったよ。ノア達ととバルザックあたりなら受けてくれるだろ」

「あー。ディスもアルバートも隣にはいつも女がいるからな。女の恨みは怖いって言うし、大人しくその二組に会いに行くか」

  爆炎とミーナあたりにびびったとみた。
  ヤンデレ基質があるもんな、あの二人。会長もだけど。

  俺と国王はマリーとお偉い様方を来賓席に置いて、まずはバルザックの方へと向かう。
  お偉い様方はマリーのお菓子でもあげておけば、満足するだろ。予選中に飯も出たしな。

「楓、バルザックのいる所ってわかるか?」

  世界眼さーん!

〈・・・〉

  ・・・世界眼さーん!

〈・・・〉

  ……世界が・・・。
  休暇中だったわ。完全に忘れてた。世界眼さんがいないと使い方がよく分かってないから、索敵機能は使えないんだよな~。
  世界眼さんはできる女らしいからな。いないと苦労するぜ・・・。いつもありがとう、世界眼さん。

  というわけで、
「知らん」

「そうかー」

  しらみつぶしに探していくことに。
  仕方ない。行くしかないか。

「アテは・・・ないよな……」

「あるわけねぇだろ。男同士のデートなんてとっとと終わらせて、早くあの楽園に帰ろうぜ」

  楽園て・・・。

「あぁ?女帝様に、その親戚の娘さん、ミステラのとこの奥さんに娘さん、倭国の奥さん、マリーちゃんも。この男二人の状況よりは遥かにマシだろ?」

「……確かに・・・。いや、人妻はいかんだろ」

「俺はいけるけどな」

「戦争になるぞ……」

「おじちゃんのお茶目なジョークだよ」

  ぶん殴るぞハゲ。そのドヤ顔をやめろ。
  おじさんのドヤ顔は見ていてきつい。二人きりの状況では余計な。

「さて、とりあえずは闘技場の下層だな。さっきの予選からまだ帰ってねぇかもしれない」

「りょーかい」

  闘技場来賓席のある二層から、一層へと降りて、控え室付近からバルザックを探す。

  人が多すぎて誰が誰だか分からん・・・。

「ここにはいねぇな~」

  よく分かるな国王。
  予選終わりで、疲れを癒すものや、怪我の治療にあたるもの、知り合いに遭遇して話し込むもの。百人近くの大人子供が入り乱れるこの場所で、たった一人の人間を見つけるのは難しい。てか、世界眼さんなしじゃ俺は無理。
  いやぁ、さすが国王!

「入口の方に向かってみるか・・・。バルザックは若い冒険者から人気だから、人に囲まれてそうだ」

  ふむ。改心したようでなによりだ。
  爆炎を付けたのは正解だったみたいだな。この国のためになったってんなら、あの場で殺さなくてよかったわ。

  よし、この国を一番わかってるのは国王だからな。この男について行けば問題なさそうだ。さっ、行きますかね。

「ん?あれか?」

  ん?どれだ?

「アレアレ。あれだよ。若い兄ちゃんの集団の真ん中にいるじゃねぇか」

  ・・・おお。
  200メートル先くらいにバルザックがいたわ。

  この人混みで、200メートル先の囲まれたバルザックを見つけるその目に感服致しました。

「行くか?」
「おう。俺は分身なんて出来ないから行くしかねぇだろ」
「お前にも出来ないことなんて存在するんだな」

  当たり前だ。
  俺も万能だった過去はあるが、今はそんなに自由にできないからな。

「おーい、若い衆ちょっといいか?」

「ん?おっさん、どうした?」

  ソフトタッチな不良みたいなやつだな。
  若い人間×5名とバルザックが楽しげに雑談しているところに割って入る国王。こいつはこいつで、空気読めないよな。

「あー、すまんな、そこのバルザックに用事があってきた」

「こ、こんにちは国王様・・・。ほんじつはお日柄もよく・・・」

  かたっ!てか、ぎこちなっ!?
  嘘だろ!?俺とやりあった時は超脳筋系だったのに、敬語が使えるなんて・・・。

「大丈夫だバルザック。お前がそのへんの敬語が苦手なのは知ってる。楽な口調で構わん」

  民衆の目のある場だが、いいのか、国王。

「そうっすか。せめてこれで。それで、なんの御用で?」

  お前も乗るのか、バルザック。

「うむ、今から護衛の仕事やってくんね?」

  直球だな。世間話的なものは挟まないのかよ。

「いいっすよ?あ、でも給料はもらいますからね?」

「もちろんだ。すまないな、よろしく頼む」

「はい」

  交渉終了。
  早すぎだろ・・・。まさか一発目から了承するとは思わんかった・・・。

  まぁいい。これで護衛は揃ったってことでおーけー?

「せっかくだから、若い衆も連れていけ。現場で学ぶこともあるだろ」

「いいんすか?」

「おう。半分くらいの給料なら出してやるから、頼むぞ」

『あざーっす!』

  なんだこれ。
  この世界の人間って単純でいいな。腹黒世界とは大違いだぜ。管理人の頭がおかしいんじゃないか?

「楓、これで終わりでいいか?」

「おう。マリーが女帝たちにつけて、バルザックたちを倭国につけとけ。倭国の将は武芸に関してはとても優秀だろう。丁度兵士のところへ行くらしいからな。体験としては満足いくだろうよ。ミステラの三方の護衛は俺がやるから安心しろ」

  倭国の将軍はすごいぞ。
  なかなかに鍛えられている割に、関節の動きがしなやかだ。実戦で鍛えたんだろう。この国の兵士も学ぶといい。ついでに、武蔵の骸骨騎士たちもね。

  ミステラに関しては、傷をつけるわけにもいかんからな。間違いなく今相手にしたらまずいのはミステラだ。ミステラの国王は魔法のプロ。翡翠に並ぶくらいの魔力は持ってる。優しそうな顔からは想像出来ないけどな。

  あ?ロザリア?あの二人がでばってきたら、俺が出るよ。
  それで解決。

「んじゃま、一旦戻ってから護衛開始で!ヨロピコ」

  だから、そのヨロピコ俺のだから。
  とらんといて。俺が日本から持ってきたものなんだから。 

  そんなこんなで一日を過ごし、学園祭二日目は終わりを告げた。







ーーーーーーーーーーーーー

はたつばです。

ぶっちゃけ、後半いる?
かなり書いてから気付きました。・・・予選が思いのほか簡単に終わってしまったのよ・・・。

次回!本戦!ここからは白熱するから!ホントだよ!
本戦がどーなるか。・・・どーなるかな。・・・ふっ。ノリと気合い。

次回更新は同じく土曜日になります。よろしくお願いします!
……本戦頑張ろ。
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