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第五章 学園祭。この日を待っていたぜ
第六十七話 予選Part1
しおりを挟む学園祭二日目。
武道大会は朝から行われるそうで、マリーさんのモーニングコールで目が覚めた。隣で眠っていたマリーはいつの間にか消えていた。服もいつものメイド服に変わっていた。
昨夜は何も無かったです。気づいたら事後みたいなディス的展開は無かったです。
俺達の護衛時間は朝からなので、早速向かうことにする。
『転移』!
「うおっ!?」
あれ?国王の隣に飛んだはずだったんだが……
俺の隣にいるのはハゲではなくフサフサのおっちゃん。ミステラの王様だった。
「す、すごいね。全く感知できなかったよ」
そりゃぁ、遠いところから魔力使わず飛んできたからね。感知はできないだろうよ。
「ん?楓、遅いぞ。マリーさんが先に謝りに来たくらいには遅いぞ」
なんと?
マリーさんが起こしにこなかったなんて珍しいな。そもそもの話をすれば、俺が起きないのが悪いんだけどさ。
(寝顔を見ていて遅れたとは言えないです・・・)
マリーさんが下を向いておられる。
珍しいな。マリーさんが時間に遅れるなんて。遅れたのは俺だけど。
「そりゃ悪かった。今日は真面目に護衛任務につくさ」
「おう、頼んだぞ」
頼まれた。
学校の先生が言ってたな
「頼まれごとは、試されごとぉ!」
って。
割と心に残っていたりする。
「黒田楓です。ミステラ、ジャピンの皆様もよろしくお願いします。先日はお騒がせ致しました」
「楓が敬語使ってらぁ」
俺も使えるわ。正しいかどうかは分からんがね。
エセ敬語みたいなのもあると聞きますから。間違った日本語って怖いよね。・・・ここ異世界だけどさ。
「よし、それじゃぁさっそく、武道大会の方へと向かおう」
ざっざっざ。
俺達が動き始めると、他の場所で一斉に魔力が動いた。
敵意は感じないから専属の護衛ってところかな。俺達がミスった時のフォロー。あとは俺達がやらかしたら首を飛ばすためか。
返り討ちにするけどな。
「武道大会の一日目は学園内の部と一般の部の予選だな」
「予選か。かなり参加者が多いと聞くが、予選はどのように行うんだ?」
「何ブロックかにわけて、二十人ずつ戦っていくって感じだな。予選のうちから誰が強いのか分かるからな。面白いぞ、無双状態だな。んで、勝者2名が決勝へと進むわけだ」
勇者無双が見れそうだな。
一般の部ではうちの眷属と勇者、ディスの無双だな。
俺達は昨日訪れた闘技場の来賓席へとやって来た。
国王が真ん中の椅子に座り、そのサイドにお偉いさん方が座っていく。
俺とマリーさんは立ちっぱです。
既に闘技場は客で満席。立ち見の者も多い。
国王がお客に手を振ると「キャー!」とか「ウオー!」とか聞こえる。大人気だな。人望のみで生きているような男だからな。支持率も馬鹿みたいに高いらしいし。
優秀な王らしいですよ。
「ネメシス国王から見て、注目選手っていますか?」
ミステラのお偉いさん父が国王にそう問いかける。隣の奥さんも興味ありげだ。
「やはり勇者だろうな。学園内では上位にくい込むだろう。一般の部は俺もわからんが、昨日の護衛を担当したアルバート・サクリファスも出場する。他にも別日を担当するバルザック、ディス、ノア達も出場するらしいからな。今年は荒れるぞ!」
気合い入ってるようで、ひたすらに楽しそうだ。
・・・頑張ったって言ってたもんね。
「よし、まずは学内Aブロックだな。出場選手は……うん、たくさんだ」
うわ、てきとー!
◇第三者視点
学内Aブロック出場選手二十名は緊張と興奮から鼓動が止まらない。
最初というのは何事も緊張するものなのだ。
(ふぅ。何だかんだで選ばれてしまいましたね)
そう周りをキョロキョロと見回すのは小学生低学年と変わらない男子。
年少組から選出された『リシアス・ディールファイン』。彼ら年少者は参加せずともなんともいわれないのだが、先生からの強い推薦に負けて出場する事に。
周りの生徒達は皆がたいがよかったり、落ち着いた雰囲気のある男女ばかり。背のちっこいリシアスは嫌でも目立つ。
先程も係員に「迷子ですか?」と聞かれたばかりだ。
誠に遺憾だが、仕方ないとも思っている。
(適当に負けて展示の方に戻ろうと思ってたのですが・・・)
来賓席を見ると、楓とマリーがさり気なく手を振っている。
それにペコリと頭を下げて返す。
そして、観客席の方を見ると
「リシアスくーん!頑張ってねー!」
ユキナがブンブンと手を振っている。
そして、その隣で絶望竜が睨んできている。
(楓さんとマリーさん、ユキナさんの前でボコられるのは嫌なんですよね。・・・やりますか)
闘技場のステージへと人の流れに沿って歩いていく。
リシアスは闘技場の端をとる年上生徒達の間を抜けて、闘技場の真ん中へと行く。半径十メートル以内には誰もいない。ポツンと子供が真ん中に立っているので、観客達からざわめきが起こる。
そこに、一人チビが現れる。
「り、リシアス!こんなに目立ってどうするんだよ!このままじゃ集中攻撃を受けるぞ!」
お坊ちゃまの『フィン・ランドレア』。
誰かと言うと、楓がリシアスのクラスに行った時に現れた反抗的な生徒だった男子だ。
自称リシアスのライバル。今回もリシアスに対抗して出たわけだ。なのだが、こうしてビビってしまっている。
「いえ、ここに来た時点で勝ちですよ。このメンツならば負けるとは思えません」
「ちょっ!バカ!声が大きいって!」
バッとリシアスに睨みを向ける上級生たち。
舐められて黙っていられるほど彼らは大人になれてはいない。内心怒っているだろう。己の獲物を今一度握りしめて、闘技場の真ん中を見つめている。
あわわわわ、と慌てているフィンを尻目にリシアスは集中し、目を閉じる。
ーーゴーン!
ゴングが鳴り響き、リシアスは目を見開いて、他の上級生は武器を手に真ん中へと走る。
そして、その時来賓席にて黒田楓はニヤリと笑い、それを見たマーリンとマリアもその視線の先の少年を見やり、笑う。
リシアスが指をパチンと鳴らし、彼とフィンを青い結界が取り囲んだ次の瞬間。
爆発音がその会場に響き渡った。
爆音と爆風が闘技場を抜けていく。
煙が闘技場全体を満たすが、それ以降一切の音が聞こえてこない。
煙が晴れてきた時・・・そこには二人の幼い少年が。
「ふう。ほら言ったでしょう?負けるとは思えない、とね」
「・・・なんじゃそりゃぁ・・・」
ニコッと笑うリシアスとくたびれた様子のフィン。
その二人が見えた瞬間、超歓声が響いた。
有り得ない結末に観客は湧いたのだった・・・。
絶望竜はポカーン。ユキナは「キャー!」といった感じになっていた・・・。
その頃来賓席では
「ま、当然だな」
「おま、楓・・・お前何した?」
「特に何も?」
国王が楓をジト目で見ていた。
「楓、あれって・・・」
「なるほどな。同じような眼をしている。後継者としては認めてやろう」
「だろ?俺もそう思ってたんだよ。面白いだろ?」
マーリンとマリアは何故か納得していた。
倭国と魔法国家の二人は驚愕していた。
最も驚いていたのは魔法国家の国王。魔法国家の長として魔法に関しては知り尽くしていると思っていた彼だが、魔法の発動や魔力の動き、その形態さえ理解出来なかった。
これにより、ネメシス王国の武力的地位が上昇した。
驚く二人を見てニヤリと笑う国王。楓を縛らず野に放っていた理由がこれだ。他国へと行く危険性があるが、絶望深淵に家がある時点で裏切りはないと見て、自国への利益を願っていたわけだ。
ニヤニヤが止まらない国王。それを見て気色悪いと思う楓であった。
一般の部Aブロック。
勇者内最強と名高い伊野光輝。その男の登場に観客のボルテージは先の戦いのせいもあって急上昇していく。
観客からの黄色い声が光輝の耳に入るが、どうでもいい様子。
光輝は勇者であるが、皆の勇者ではない。ぺネイト・ネクシーの勇者。彼女が求めるならば悪をも押し通す。
それほどぺネイトにぞっこんなのだ。そのぺネイトはと言うと・・・
「あ、光輝さん!頑張ってくださいねー!応援していまーす!」
観客として光輝の勇姿を期待していた。
だから出たのだ。以前、ぺネイトを勇者らしく救出した時から少しづつ仲良くなりつつあるので、ここで更に畳かけようというわけだ。
その大人気の男を羨ましいね、と見やるのは冒険者『バルザック』。
担いだ戦斧は黒光りしており、強者のオーラを放っている。楓との死闘を終えたあと、爆炎の魔女の元で清き冒険者活動や新人育成などをしたおかげで、新しい斧を買えるまでになったのだ。ちなみに、この斧は最近巷で有名なキールの作品だ。素材は楓から流れてくるので、最高級の状態のものを使っている。斧の価値は払った金額以上ある。
安定した新人育成の仕事を得て、ギルドからの信頼も得た、そして彼は彼女を得た。
実は意外と楓と戦って良かったと思っていたり。
光輝とバルザックはお互いを睨みつける。
二人共自分の雄姿を見せたい女性がいる。お互いの存在が邪魔すぎる。ここにいる者の中で恐らくぶっちぎりで強いこの二人は、もはやお互いしか見えていない。その状況に少し他のものも戸惑っている。
やめてあげて欲しい。
しかし、いつなる時もゴングは無情である。
どうすればいいか分からない参加者達を無視して、ゴングはその音を響かせる。
ーーゴーン!
音を聞いて、ハッとなった時にはもう遅し。
バルザックはその場に戦斧を叩きつける。
「衝撃波っ!」
叩きつけただけで広がる衝撃波に足がすくみ、そこから吹かれる爆風によって体を場外へと運ばれる。
その後、バルザックは斧を突き刺したままにして、格闘で他の参加者を外へ外へと吹き飛ばしていく。唐突の鬼ごっこ開始である。
一方光輝はというと……何もしていない。
光魔術によって自分の姿をみえなくしている。光の屈折というやつだ。
そうして他の人が勝手に減っていくのを見ているのだ。
数分後、バルザックが闘技場にいる参加者を見える限り全て放り投げた時、虚空から光輝が現れた。
二人の参加者が残ったので、スタッフが終了を告げようとした時
「まぁ待てよ。俺とそいつが決勝行きは決まった。だが、盛り上がりが足りねぇだろ!」
「だね。ここで終わりというのもつまらない。次の試合のためにも盛り上げ役を買ってでよう!」
なんとも勝手な二人である。
スタッフがオロオロしていると、来賓席にいた国王から声がかかる。
「好きにするといい!決勝は二人で出ればいいが、ここでお互いの力を確認する程度なら問題あるまい!」
時間の計画なんてクソくらえ。どうせ戦闘終了が早すぎて時間が余っていたのだから丁度いいと国王自ら「やれやれ!」と戦闘を促している。
それでいいのか、国の長よ。いや、このラフさが支持率の高さの理由なのか。
国王がそう言ったから。
二人の男は二人きりとなった闘技場の上で己の武器を振るう。
光輝は能力で作り出した光の剣。
バルザックは愛用の戦斧。
「勇者だかなんだかしらねぇがな!あんまし冒険者をなめるなよ!」
「そちらこそ!学生だからといって舐めていたら痛い目を見ますよ!」
ーーガンッ!
バルザックが力任せに戦斧を振り抜くと、光輝は体を浮かせて一度下がる。そして、いつの間にかあったいくつもある光の玉から光線が飛んでくる。
「はっ!無駄無駄無駄ァ!」
光線を戦斧を振り回して薙ぎ払う。
バルザックが光線を処理している間に光輝はバルザックへと近付く。だが、光輝の光線は撃つのをやめない。
光輝の光剣と光線の両方を処理していくバルザックだが、次第に処理が追いつかなくなる。
「もらった!」
バルザックの戦斧を剣で弾き、懐へと侵入。
その剣をバルザックへと振りぬこうとした時……
バルザックは不敵に笑った。
バルザックが地面を踏み抜きその地面が不自然に陥没する。
光輝の足を地面が捕らえる。だがその一瞬、バルザックは光線の嵐、光輝の光剣の連撃から逃れ、背後へ飛ぶ。
取り逃した、そう光輝は舌打ちをして足元の拘束を切り裂く。
「ふっ!なかなかやるな、勇者様」
「こちらの世界の人間も存外侮れませんね」
ーーうぉぉぉぉ!
観客からの大歓声。
冒険者ギルドで実力者と認められたバルザックと勇者伊野光輝の戦いは戦闘大好きな異世界人さんたちの心をグッと掴んだようだ。
国王は立ち上がり、こう言った。
「この二人の戦いはここまでだ!決勝では更に熱い試合が行われるだろう!皆の者!楽しみにしておくが良い!!」
ーーうおおぉぉぉぉぉ!!
先程よりも大きな歓声が上がる。
だが、この場最強の男はこう思っていた
(ここで引っ張るんかいっ!)
と。
というわけで、一般の部Aブロック終了!
そして、興奮冷めぬうちに学園内Bブロックへと!
学園内Bブロックには暗殺者、影宮が出場することに。
それ以外に目立った選手はいない。はっ。地味ですね。
「……」
スススと影宮は闘技場に吸い込まれていく。
何をどうしてるのか、彼の足が動いているようには見えない。それなのに闘技場へと移動していく。謎。
影の薄さでは異世界人トップ。この男を認知することは並のものでは出来ない。
どよめきや大歓声が起こるわけでもなくして、ゴングが鳴らされる。
ーーゴーン!!
なると同時に、気絶して倒れる生徒が続出。
他でもない影宮の仕業だ。素早さと影の薄さを利用して、首筋を手刀を使って的確に捉えていく。
その時、ようやくどよめきが起こった。
しかし、それはリシアスの時の驚きとは違うどよめきで、「何が起こってるんだ?」という疑問だった。
一分も経たないうちに、その場には黒いコートを着た暗殺者しか残されていなかった。
決勝戦進出者は影宮と最後に手刀をうたれた少女に決まった。
少女を最後にしたのは、彼なりに女の子をドスッとやるのは気が引けたのだろう。任務以外の時はわりかし情深い男なのだ。
一般の部Bブロック
例の如く、闘技場ステージへと入る前。太陽にあたる場所で少年少女は伸びをする。
「だー!やっと僕達の出番だね」
「だな。負けねぇからな、ノア」
「あはは、僕だって、本気でやるから覚悟してねイーバ」
ノアとイーバ。
それから、当学園学園長であり、普通のおじさん代表ディス。
ディスは学園でもあまり表に出る訳では無いし、その顔も普通のおじさんなので、あまり冒険者や民衆には知られていない。
英雄の師という名だけがひとり歩きしており、彼自身を見たものは少ない。
なので、普通の人からしたらノーマークの人材だ。
(・・・こんなおじさんが出ていいのだろうか)
彼は出る気など無かったのだが・・・
「あなたー!頑張ってねー!」
彼の妻、爆炎の魔女はそうは許してくれなかった。
一般の部では賞金が出る。ディスの給料は少なくないが、学園と妻に吸収され、彼の取り分はほぼ無い。
お小遣いも雀の涙ほど。どれだけねだっても、爆炎の魔女は耳を貸さない。仕方なし、今月のお小遣いのために出場しよう。そうなった訳だ。
つまり何が言いたいかというと、尻に敷かれていると言うことだ。
彼は例え優勝しても、妻が見ている以上、彼に賞金など入ってこないことをまだ知らない。
ノアとイーバは初めから暴れるき満々のようで、闘技場ステージの真ん中に立っている。
ディスはおじさんとして、冒険者などの中で一般人と化している。
ーーゴーン!
ゴングが響くと、ノアの見えない手が冒険者達をステージ外へ投げ飛し、イーバの炎が冒険者達を巻き上げる。
冒険者達も若いのに負けられるかと躍起になって戦うので、会場から大きな歓声があがる。
ここまでの間、ディスは何もしていない。
「このまま行きましょう!」
「おうともさ!二人で決勝進出だ!」
「世の中そんなに甘くないと教えてやらァ!」(モブ1)
「そーだ!子供に負けるほど優しくねぇぞ!」(モブ2)
「てーい!」(モブ3)
モブ終了枠終了。
ステージ各地で激戦が起こり、会場の熱気は増すばかりだ。
ちなみにだが、ここまでディスは何もしていない。
ノア、イーバ、冒険者数名、おじさん。
が残され、ようやくおじさんの姿が見え始める。しかし、現実は非情だ。客席各地から
「誰あの人?」
という声が聞こえる。
残っているメンバーは冒険者ギルドに加入している者ならばそれなりに知っている有名人ばかり。
おじさんの影は悲しそうである。
その頃一方、来賓席では・・・
「学園長は一般人すぎるんだよなー」
「ディスってあんなに目立たない人間だっけ・・・」
国王と楓さんは容赦がない。
他の来賓者が口に出さなかったことを平気で言ってのける。
ミステラのお嬢さんだって空気を読んでマリー特製クッキーを食べているというのに……。
しかし、ハゲとヤバイ人代表の二人がそれを口に出してしまったことで、ある化物が口を開いた。
「あの男、それ相応に強かろう?なぜ動かない」
大魔導士マーリン様だ。
神々をまるで紙切れのように扱い、悪魔を無理やり浄化するこの大魔導士は楓さんの次に空気が読めない。
「はっはっは!女帝様よ、あいつは強いんだが、なるだけ民を傷つけまいとしているのだよ」
「ただ、自分が動くまでも無いだけだろ」
「ふむ。決勝が楽しみだな」
決勝に行くことは彼らの中では確定しているらしい。
それはミステラの王も倭国の将も分かりきっているらしく、わかりやすく頷く。やはり頂点だけあって、目立たなくても、強さは伝わってくるらしい。
「一度手合わせ願いたいものだな」
マーリンがそう独り言のように呟くが、やめておいた方がいい。
大魔導士から逃げる方法は無いし、攻撃を当てたくば、楓のように化物の中でも規格外の力を持つか、翔太のように全てを無にするか、覇王のように限界を消すかしなければまるで歯が立たない。
だから何度でも言おう。やめてくれ、自由な化物共よ。
マリアさん、クッキーを食べながら似つかない凶悪な笑顔を浮かべないでください。
彼は決しておもちゃではない。
ステージにて・・・
ディスは来賓席から感じる異様な気配を感じ、バッとそちらを振り向くと、楓と国王が手を振っていた。
(呑気な人たちだな~)
戦闘中に一般人に紛れる男には言われたくはないと思う。
ディスはそんなことを思いつつも、ゆらりゆらりと攻撃を躱していく。
いつの間にか三人になっていた。イーバ、ノア、ディス。
イーバとノアは化物の眷属に教えられた極意を駆使し、冒険者を撃退した。
二人での決勝進出を目指す彼らはディスを狙っているのだが、先程から一切攻撃が当たっていない。
しかも、よそ見までしている。
少しだけイライラしている。
「クソ当たんねぇ・・・!」
「イーバ落ち着いてください。勝ちを急いではいけません」
ノアも咎めるが、何気に当たらなすぎてイライラしている。
イーバの炎の拳も、ノアの不可視の弾丸もすべて当たらない。
(んー。この子達には悪いけど・・・。僕も勝たないと賞金がな~)
ふと爆炎の魔女に視線を移すと・・・
口をふくらませて、腕組していた。
(あ、あかん。これ勝たないと後でボコされるやつだ)
心の中で謝罪しつつ、ディスは自分の足に力を込める。
ヒュンっと姿が消え、どこに行った?とノアとイーバが周りを探した瞬間。
ーーぐにゃり
ノアの目の前の空間がネジ曲がる。
そこからディスが現れ、空間を掴んで、ノアを場外へと投げ飛ばした。
「ノア!」
イーバが救いに行こうとするが、イーバは金縛りにでもあったかのように体を硬直させる。
ノアも同じ状態のようで、一切変わらない姿勢のまま宙を舞って場外へと投げられていった。
(よし、僕の勝ち)
ノアが場外についた時、審判から試合終了の合図がなされ、決勝進出はイーバとディスに決まった。
普通のおじさんがすごいサイキッカーとして認識された瞬間だった。
彼の能力をはっきり理解出来たのは来賓席のあの方々だけだ。
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