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第四章 自由な時間は女帝達と共に

第六十四話 惚れてまうやろ。惚れました

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◇神谷 瞬視点

  や、やばい。この男の人やっばいよぉ!超怖いんだけど!
  目の前には自分と変わらない背丈の男がいる。真っ黒なコートに身を包んだ堂々とした男。

「まぁまぁ。そんなに怯えんなよ。超常の魔王よ。お前の話はよく聞く。ルルエルと仲良くやってんだろ?」

「え、えぇ。まぁボチボチですけど・・・」

「最近は若い魔王が悪さするから困ってたんだ。お前がたくさん潰してくれて助かったぜ。俺も立場上下手に動けないもんでね」

  この人……というよりも魔王は『スケール』というらしく、最強の魔王なんだとか。
  その通りで、魔力量は僕の比じゃないし、威圧感も底が見えない感じでとにかくやばい。

  今ゴブマル君はダンジョンの方に帰省している。なんでも、ダンジョンマスターさんに「やるぞ!デジ○ン進化だ!」と言われたそうだ。……ダンジョンマスターさんって日本人なのかな。
  ゴブマル君は今日には戻るって言ってたけど……。早く帰ってきてくんない?スケールさんが怖いんだよ。いつも助け合ってきたじゃないか。

  今、僕とスケールさんはなぜか居候させてもらっているルルエル家でトランプを楽しんでいる。
  凄く緊張してるけどね。正直、いつ殺されてもおかしくはない。パピーから教えて貰ったスケールさんの能力は『ばちばち』だそうだ。多分電撃かな?でも、多分それだけじゃ無いんだろうなぁ・・・。

「お前が何を考えてるかはわかる。俺のことが気になるんだろう?ハッハッハ俺は魔王の序列一位だ!……だがな・・・。多分最強の魔王は俺じゃねぇ」

「……え?」

  パピーの嘘つき。

「一人。化物がそこにいた。正しく最強だった。いやぁ・・・戦ってみてぇな~。殺されるだろうけど 」

  スケールさんが凄いって言うならもう本当にやばいんだろうな・・・。
  どんな人なんだろうか。僕なんかじゃ足元にも及ばないんだろうな。ん?でもそれじゃぁなんでスケールさんが一位なんだ?

「あ?俺がなぜ一位かって?んなもん決まってんだろ。その女『ナタリア』っつうんだがな、そいつが目立ちたくない。目立ってはいけないってんで、俺が仕方なくトップに立っているわけよ」

  ナタリアさんか~。どんな人かな。女の人だよね。

「んで、そのナタリアが今からここに来るぞ」

「……はい?」

  この人は何を言っているのだろうか。
  ついさっき教えてもらった人が今からくる?は?何言ってるんだ?

「ナタリアが新しい魔王とその相棒に会いたいってな~。俺も適当にあしらえる存在じゃねぇから、仕方なく俺が先に偵察に来たわけよ。いやーよかったぜ。お前が気性の荒い男じゃなくて」

  ……早く帰ってきてゴブマルくーーーん!
  君がいないと無理だって!パピーもルカも今日はお買い物するって出ちゃったし・・・!なぜホームでアウェー感に浸からないといけないのさ!

「あのぉ~ゴブマル君は暫く帰ってこないですよ?」

  まだ少しかかるんじゃないかな。せっかくの帰省だからね。ゆっくりしてるんじゃないかな。うん。でも早く帰ってきて( 涙目 )

「まじか~!まぁいいや。ナタリアはもう来るから、ヨロピコ」

「え、嘘……。もう来るんですか!?」

「まじまじ!もう来るぞ。……あ、来たきた。もう外にいるぞ」

「あ・・・この大きな魔力って……」

「うん、ナタリア、ナタリア」

  ハハハ。もう、こんなのが序列低いとか他の魔王馬鹿じゃないの?

「いや、普通の魔王じゃ魔力とか感じ取れないから」

  心を読まないでくださいスケールさん。

ーーピンポーン

  インターホンが押される。
  ……oh NO

「勝手に上がってこいよぉ!」

  ここパピーの家なんだけど。スケールさんの御宅では無いのですけど。ですけど。

「失礼する!」

  あがっちゃったよ。ナタリアさんも常識がなってないの!?
  パピー!不法侵入だよ!三人とも早く帰ってきてぇ!

「おお!久しぶりだな。ナタリア~」

「うむ。久しぶりだ。それでそちらは?」

「こいつは『超常の魔王』の『神谷 瞬』だ。なかなかの男だろう?」

「ふっ!そうかそうか!君が神谷瞬か!なるほど。異世界人か!」

  赤髪のお姉さん。物凄く美人だ。や、やばい。動悸が……!これが、恋なのか!?
  あわわわわわ……。

「こ、こんにちは!きょ、今日はお日柄も宜しく、美しい太陽が燦々と輝いておりまするね!」

「ぶふっ!なんだよお前それ!」

「はっはっは!君は面白いな!私にも日本人の友がいるのだが、もっと恐ろしく怖い男だったぞ!」

「えぇ!?ナタリアさんも異世界人なのですか!?」

  う、運命すら感じる!これは結婚するしかない。
  ナタリアさん。結婚しよう。

「そうだね。といっても、君とは違う世界から来た異世界人だけどね」

  そんなものは関係ないよね!異世界ってだけで繋がった感じがするし、結婚しよう。

「アハハ。結婚はまだ早いよ。私達は出会って数分と経っていない仲だぞ?」

  なるほど。心を読まれていたのか。よし、結婚しよう。

「そう思うのならばまず、私を惚れされることだな。私は相手からのプロポーズは全て断っているのだよ」

  なん・・・だと・・・?
  ここからはアピール勝負か。よし、
「いやいや。瞬にそういうのを求めても無理だろ。ひょろいし、まだまだ力に振り回されてるくらいだぜ」
  スケールさん!あんたは余計なことをべらべらと!

「スケールさん!舐めないでいただきたい!僕だってやる時はやるんですよ!」

  女性一人守れないで何が男か!僕がナタリアさんの騎士ナイトになる!

「私の敵って強いよ?神界が消し飛ぶ程度には」

  ……無理かもしれない。い、いや!男神谷瞬!甘えるな!ナタリアさんが遥か高みにいるならば!そこまで追いついてこそ男!愛する女性の為に修行だァ!

「頑張れー。ま、数十年くらいなら待っててあげるよ。だから、早くしてね」

  笑っ!笑った!ニコって!ウオォ!すっごく可愛い!
  よし。今日から毎日ゴブマル君と戦おう。そして、たまに絶望深淵に行こう。必ずナタリアさんに相応しい男になってみせるぞー!

「……瞬はどうしちまったんだ?」

「ハッハッハ。元来人間の男というのはあぁいうものさ!」

「お前の友もか?」

「アレらは例外だ。婚約者のために最高神を無能なゴミに変えたり、女の為に神の軍勢全てを消滅させたりな。私が手も足も出ないような連中だからな!」

  そんな人達には会いたくないけど、そのレベルに立たないとナタリアと一緒になれないのなら、なるしかない!
  ……ダンジョンマスターさんあたりなら強くなる方法を知っているかもしれない!ゴブマル君も初めはただのゴブリンだったって言ってたし!まだまだ可能性はありありだ!

「燃えてるねぇ。私にこんなにも必死になった男は初めて見たよ」

  みんな見る目がないね!
  強くてかっこよくて、可愛くて!スタイル抜群だし!完全に一目惚れだよ!

「俺って邪魔?」

  スケールさん。ぶっちゃけ、邪魔です。

「いいよいいよ。いなよスケール。私も初対面の人と二人きりになるのは厳しいのでな」

「そ、そうか。分かった。それならまだいよう」

  くそ。さっさと帰ってくださいよ。

「あれ?そういえば、ゴブリンの男の子は?」

「ん?ゴブマルか?」

「そうそう。ゴブリンエージェントって言ってたじゃん」

  ゴブマル君……。帰ってこないで!
  もし、万が一にもナタリアさんがゴブマル君の事を好きになっちゃったら僕は自殺する自信がある!くわばらくわばら。

「い、今ゴブマル君なら……」

「帰ったっすよ~。あ、こんにちは」

  ゴブマル君帰宅!
  君はタイミングが悪いなァ!もうもうもう!

「……!」

  あ、ナタリアさんが固まってる。……ははは。僕の恋路もここで終わりかえ・・・。

「……へぇ。あの人もこっちに来たんだね。君からはあの化物を感じるよ」

「……誰っすか。その様子だとボスの事を知ってるみたいっすけど。名前を出さなかったことだけは感謝しとくっすよ」

  あ、あれ?なんか思ってた未来と違う。
  なんか剣呑な雰囲気が……。てか、ゴブマル君また強くなってるね。黒い肌が人間の肌になってる。でも、左腕だけは真っ黒のままだ。なんか魔力、というよりは存在か格かが増して、有り得ないくらい強くなってる。

「いやなに、君のボスとは仲間なんだ。彼がこの世界に来たことに少し驚いてね」

「なーんだ。仲間だったんすか!いやぁ、敵かと思って警戒してしまったっすよ」

「はっはっは。悪かったね。懐かしい力を感じたものでね。その左腕。大切にするといい。並のものが手に入れられるものでは無いからね」

「?了解っす!任せるっすよ!」

  左腕……黒い左腕か。僕も左腕を黒く塗ってみようか……。
  ……僕は馬鹿か。

「ゴブマル君。私と一つ、手合わせをお願いできないだろうか」

「お、いいっすよ~!俺もまだ力の使い方を分かってないんで、探り探りの状況っすけどね」

  ナタリアさんの実力が見れるのか!
  ゴブマル君もどれくらい強くなったのか……。楽しみだね。



  場所は変わり、パピー宅からなるべく離れた場所に。
  なんでも、近すぎると巻き込んで吹き飛ばしてしまうとか。怪獣大戦かな。

「それじゃ、ゴブマルっす。よろしくお願いします」
「これはご丁寧にどうも。私はナタリア。神を討ち滅ぼす堕天の神なり!」
「なら俺は、原星たる鬼なり!参るっす!」

  同時に姿を消し、中間地点で殴り合う。
  しかし、ゴブマル君の拳がナタリアさんを捉えることはなく、ナタリアさんの持つ剣のみがゴブマル君の体に触れる。その瞬間、ゴブマル君の体は黒い左腕のみを残し、綺麗に弾け飛ぶ。そして、左腕も砂状になって風に流されていく。

  死んだ?

  と思ったが、黒い砂がナタリアさんの後ろで集まると、ゴブマル君が現れる。
  そして、殴打。
ーーズガンッッ!!
  およそ人と人では決して鳴らないであろう衝撃音が鳴り、ナタリアさんの体は軽く飛ばされる。ナタリアさんは山にぶつかり、止まる。
  しかし、ナタリアさんはすぐにたちあがり、ゆっくりと歩いてくる。
  その姿は先ほどの凛々しいままで、怪我もなければ汚れの一つも付いておらず、髪も一切乱れていない。

「いや~強い強い。覇王やゴリ蔵君と戦っているようだよ」

「……あの剣やばいっすね。まともに当たってたら間違いなく消されてたっす」

「はっはっは!私の自慢の力だよ。私が主から頂いた最高の力でもある!」

「それなら俺も負けられないっすね……!主から頂いた力というのなら、俺も最高の力を貰ったっすッ!」

  二人の姿がブレ、さっきよりも速く衝突する。ナタリアさんの持つ剣と盾。その二つはゴブマル君を寸でで逃すが、ゴブマル君の拳を盾はすべて受けきっている。
  ナタリアさんが振るった剣をギリギリで躱すと、剣の持ち手を狙って左腕を動かす。が、その拳は盾によって流され、ゴブマル君の脇腹に素早い蹴りが入る。

  先ほどとは立場が変わり、ゴブマル君が山へとぶつかる。衝撃波は先程よりも大きく、山と同時に地面をも振動させる。

  だが、ゴブマル君もまた無傷。

「なかなか勝機が薄いっすね・・・」

「そうかい?惜しいところだと思うけど」

「ナタリアさんは俺よりも数段上にいることはさっきの打ち合いで分かってるっす。けど、その盾くらいは壊してみせるっすよ」

「へー。私の盾は何者も壊すことのできない盾って言うのが謳い文句なんだけど?……壊されたこと結構あるけどね」

  舌をペロッとだナタリアさんまじ可愛いっす。

「ふぅ。力を貸して欲しいっす、原星さん。……いくっすよ」

  ゴブマル君がそう言うと、体が以前の真黒な体へと戻っていく。
  しかし、以前とは少し変わり、赤い血管が怪しく光っており、全身を赤と黒が彩っている。なんというか、僕よりも魔王っぽいよね。
  服装も変わり、上半身は裸、下半身は真っ黒な軍服のようなズボンに、赤と黒の腰巻を付けている。
  まさに筋肉悪魔って感じですね。はい。

  ゴブマル君は黒い瘴気をあげ、拳を握る。

ーーバンッ!

「へぇ。やるねぇ」

  ナタリアさんの肩が吹き飛ぶ。
  ……見えなかった。まるで動きが追えない。

  と、いうわけで、ここから先は後で聞いたナタリアさんとゴブマル君の証言によりお送りしまーす。

◇第三者視点

  ゴブマルの拳はナタリアの肩に命中し、その肩を軽く吹き飛ばす。
  しかし、ナタリアも動じない。吹き飛ばされた肩は瞬く間に再生し、剣を握る。

  二撃目はその硬い盾に阻まれ肉体を捉えることこはできない。
  体制を崩すゴブマルにすかさず剣を斬り込む。が
「それくらいな、まだ受け止められるっすよ」
  刃に触れないように指と指で掴みとり、横から膝蹴りを加え、その剣を破壊する。

「む!ふむ。ならば・・・」

  ナタリアは仕方なしと剣を手放し、盾をゴブマルにぶつける。ゴブマルはそれを背で受け止め、回転し、回し蹴りをナタリアに打ち込むが、ナタリアもまた効かないと言わんばかりに少しも動かない。

「私の力の一つを教えてあげよう。私のコレは『絶対なる守護者主を守る壊れぬ盾』と言ってな、私の持つ全てのものの耐久力、防御力を極限までに高めるものだ。故に、君の力は私には通じない」

  ニヤリと笑うナタリアはゴブマルの体を強引に盾で引っぱたく。

  再び吹き飛ぶゴブマルの体。さきよりも敵の手を知ることは出来たが、それでもまだ、足りない。自分の力の無さを心の中で遠くにいる主に謝罪する。

(これは・・・勝てないっすね。せめて盾の一つでもと思ったんすけど、予想以上に硬い。体を蹴った時も感じたっすけど、『すべてのもの』ってのは自分も含まれるってわけっすね。こりゃぁキツそうっすね)

  諦めかけているゴブマルに一つ声が掛かる。

「ゴブマル様!頑張ってください!応援してまぁぁぁす!」

  瞬とスケールの隣にいるのは、さっきまではいなかったルルエルとルカ。
  大声で叫ぶその様は大戦のラストを思い浮かべるが、これは殺し合いでもない手合わせである。

  しかし、それでもゴブマルのヤル気はぐっと上がる。
(はぁ。これはちょっとでもカッコいいところ見せないといけないっすね・・・)
  立ち上がる。さっきとは違いボロボロの体を起こす。少し力を出しただけのナタリアに手も足も出ない。その事にショックを受けているが、それも一度リセット。

  傷も治す。精神も治す。

「来い…雷神…原星……」

  雷を纏う。それだけではなく、体を薄い光が包み込む。
  色味は虚無の男に似ている。だが、ゴブマルの光はそれよりも薄い。量もすくない。

  一つ。
  ゴブマルは歩みを進める。

ーーバギッ!

  盾は粉々に砕け散る。

「へぇ。これはまた。ビックリだよ」

  二つ。
  ゴブマルはその場で意識を失った。



◇神谷瞬視点

  まるで分からなかった。
  インパクトのみが伝わってきた。

「ゴブマル様!」

  ルカが走ってゴブマル君の元へと向かう。気絶してるけど、大丈夫かな。
  僕も行こう。

「おっと、ルカちゃん、今はゴブマル君に触れない方がいい」

「え!?」

「この子のから出てるこの光の粒子は普通の者からは刺激が強すぎる。暫くは私が抱えていよう。収まったら任せてもいいかな」

「は、はい!お任せあれ!」

  僕でも触れたら危険そうだ。魔力なら別に問題ないのだけど、なにか別のものに感じる。僕には異物にしか見えないが、恐らくなにか価値あるものなんだろうね。
  これが『デジ○ン進化』か。確かにただのゴブリンではなくなったね。あ、それは前からか。

  僕らは合流したパピーとルカと共に家に帰ることにした。

「ルカちゃん。もう触っても大丈夫だから、この子をベッドに寝かせてあげるといい」

「はい!よっと……大丈夫ですか、ゴブマル様・・・」

  ルカはゴブマル君が借りている寝室にゴブマル君を連れていった。
  筋肉モリモリマンだから相当重いと思うんだけど・・・愛の力って凄い。

「ふう、瞬すまない。君の相棒を傷つけてしまった」

「あ、いえ。大丈夫ですよ。最近歯ごたえないって言ってましたし、本人的にもいい起爆剤になったんじゃないですか?」

  ナタリアさん優しいなぁ。

「それよりも、ナタリアさんは大丈夫ですか?」

  ゴブマル君は不死身みたいなところあるから大丈夫。
  けど、ナタリアさんは!

「大丈夫大丈夫。さっきのだってまだ5%も出してないから」

  ナタリアさん化物や。
  僕この人に追いつける日なんてくるのかな?

「お前はヤベェな。やっぱり俺じゃ勝てねぇわ」

  最強の魔王スケールさんがそんなことを言っている。
  ですよね。僕もそんな気がします。誰も勝てないでしょこんなの。

「あはは。さっきも言ったけど、私が手も足も出ない連中というのは本当にいるぞ。彼の主、君で言うダンジョンマスターもその一人だぞ!」

  えぇ!?ダンジョンマスターさんが!?はわわわわ。や、やばい人と知り合いになったものだ……。懇意にしてくださってありがとうございます!
  ダンジョンマスターさんにはいつもお世話になりっぱでござる。力も頂いて、ゴブマル君と度に出させてもらって・・・。いつか、強くなって恩返ししに行きます。ナタリアさんと一緒に。

「はっはっは!あの者はそこまで考えて行動してないぞ!多分君に力を貸したのも、ゴブマル君を同伴させたのも、娯楽のためだろう!」

  いやぁ、それでもありがたいですよ。
  ダンジョンではぐれて、一人になって熊にボコボコにされて・・・。命を救われましたから。

「そうか。ま、あの者も感謝されて不機嫌になる阿呆でもあるまい。困った時は助けてくれると思うぞ!やる時はやる、頼れる男なのだ!」

  あれ?ダンジョンマスターさん恋敵説ある?

「ないぞ。あの男は今、色恋沙汰に浸るほど心に余裕があるわけではないからな。それに、私も私でそんな多くの男に手を出す女ではない。今は君のことを待つと言ったろ」

  にへらぁ……。
  はっ!つい、にやけてしまった。
  ふふふ、待っていてくれるのか・・・!ならば、頑張らないとね!まずは腕立て二千回からだ!・・・腕が弾きれそうだね!

「そんな事言うと無理しすぎてしまうぞ、ナタリア」

「私たちの境地に至るのはそこまで簡単じゃないのさ。死ぬ覚悟で挑まねば消滅させられてしまう」

  そう言って身につけていた右手のグローブをはずし、そのままの右手を見せてくれる。

「私なんか返り血を浴びすぎて落とせなくなってしまったくらいだ」

  その右手は真っ赤に染まっており、それが生き物の血であることも分かった。
  僕にそこまでの覚悟があるのだろうか。人や生き物を殺すことに抵抗はほとんど無くなった。魔王になってからだと思うけどね。

  ……でも、覚悟は決めよう。僕もいつかは覚悟を決めないといけなかっただろうしね。なーんか、嫌な予感がするんだよね~。
  いい機会だし、ナタリアさんのためにも頑張るぞー!

「頑張ってな、瞬」

  はい!
  あと、ナタリアさん心読みすぎ。

「ルルエル。俺達場違いか?」

「だろうな。瞬の若さについていけない」

「はぁ。俺もわけぇ頃は・・・」

  スケールさんが何かを語り出した。
  若い頃の武勇伝を延々と続けている。物凄くどうでもいいので割愛。僕はナタリアさんを見つめていよう。

  スケールさんの話が生後438歳の武勇伝が始まったその時……

「パパ!大変よ!第二位が戦争を始めるって!!」

  戦争が始まった。

「む、どうしたルカ。『コウセン』が喧嘩早いのはいつもの事ではないか」

  パピー、そういう事ではないと思うよ。
  それと、ルカのおかげで武勇伝地獄から解放されたので、今は感謝しかない。
  ナタリアさんなんて寝ちゃったよ。

「違うのよ!さっき街にゴブマル様用の簡易食を買いに行った時に!コウセン様が亜人の大陸、ラドレアに対して宣戦布告をしたって!」

  !?本当の戦争じゃないか!
  それと、僕ら分の夕食は作ってくれてないんだね。お腹ペコペコなんだけど・・・。話長すぎて作りにすら行けないんですけど!

「ほぉ。コウセンの野郎。俺の断りもなく戦争だァ?舐めたことを・・・!」

「スケール、休戦協定はどうしたよ」

「あれを結んだのは俺とその配下だけだ。コウセンの野郎は含まれてねぇ」

  へぇ、戦争やるんだ~。

「ルルエルはどうするつもりだ?龍神とも仲はいいんだろ?」

「昔からの仲だからな。ま、加担するならラドレアサイドだな。勿論ゴブマル君と瞬も連れていく!」

  ニカッと笑うパピー。
  ぶん殴りたい、その笑顔。

「待ってよパピー!なんで僕まで戦争に参加しなきゃいけないの!?関係ないじゃん!」

「そんなもの、うちに居候してるんだから当たり前だろ。家賃だよ家賃。あと、パピーやめ」

  今まで一度も家賃なんて請求したことないくせに!この鬼畜!悪魔!……あ、この人魔族か。
  って!そうじゃなくて!

「スケールさんに頼めばいいじゃん!スケールさんがいれば百人力でしょ!?」

「あ、俺戦争には参加出来ねぇんだわ。悪いな、瞬。超越者の方も俺も、自分のとこの防衛と仕返ししかしちゃいけねぇんだわ。大昔からの約束事でそうなってる」

「と、いうわけだ。」

「ええ!?」

  くそう!僕関係ないのに!何でこんなことに! 嫌な予感はこれか!?
  無意味な殺傷はしないんだよ!

「それに、ナタリアもお前の活躍を見れば認めてくれるやもしれんぞ?」

「任しといてよパピー。僕が狩り尽くしてあげるよ!」

  んー!関係ないとか思ってたけど、パピーからの頼みじゃ仕方ないね!
  僕も心を鬼にして戦争に参加するとしよう!いやぁ、心苦しいけど、正義に犠牲はつきものだよね!

「掌返しが凄まじいな」

「だな。今のはさすがにビビったわ・・・」

  よーしやるぞぉ!

「戦争はいつ!パピー!」

「さぁな~。まずは神龍に連絡してみて、それからだ」

  ん?あれは・・・

「パピー、外みて。あれ何?」

  外を見ると、遥か遠く先に燦々と輝く太陽が・・・。

「あれは人の大陸側か?いやだが、今太陽は逆方向に・・・」

「アレは太陽なんかじゃねぇよ。色もおかしいだろ。アレは魔法かなんかで作られた炎球だ。つっても、魔力を一切感じねぇが・・・。どーよ瞬」

  確かに魔力を感じない。でも、そんな秘術なんて・・・
  あれ?白の炎・・・?まさかっ!

「石川君・・・?」

「石川?川の名前か?国の名前か?」

「人の、僕らと同じ異世界人だよ。石川 怜。炎を操る超強い人だよ・・・」

  でもなんで、石川君が?確か旅に出たって言ってなかった?王様が。
  人の大陸にいるのは何となくわかるけどさ、でもなんであんなに大きな炎球を……?

「あ、地面に当たった」

「火柱がたったな」

「すげぇ。天を突き刺すが如くってやつだわ」

  夕焼け空を照らす大きな火柱。
  白と黒の火柱はスケールさんの言ったように天を突き抜けるように伸びていった。

「人の大陸でもなんかあったみてぇだな。・・・てか、異世界人ってのは頭のおかしい連中ばかりだな。あんなのが何人もいるわけだろ?」

  あの人は戦闘系だけどね。
  でも、石川君と付き合ってた篠崎さんは治療の名手・・・。
  ・・・敵に回したくないなぁ。間違いなく負けるよ。篠崎さんがいれば無限に回復できるのに、それとプラスして石川君でしょ?僕一人じゃ手に負えないよ・・・。

「これは世界全体を巻き込む可能性あるか?」

「人の大陸でも同じような動きが起きているのならな」

  で、でも弱気なことは言ってられない。
  ナタリアさんのためにも・・・ってあれ?

「ナタリアさんは?」

「あ?ナタリアならそこで……寝てないな」

「いつの間に」

  あぁ、僕の天使が……。
  天使~!ナタリアさーん!戦争頑張りまーす!応援よろしくお願いしまーす!




◇第三者視点

(はぁ。戦争か。マリア様はなんて言うだろうか) 

  ナタリアはルルエル家の城の頂上とんがった部分に一人立ち、人の大陸から上がる火柱を見る。

  彼女の主である惰王マリアは今現在人の大陸におり、つい最近ロザリア帝国のマーリンの元で世話になっていると聞いている。
  ナタリアは主マリアの元を離れ、単独行動をしている。新たなる親衛隊を探すためだ。日々強い信者を増やすため各世界に飛び回っている。数十年前にこの世界に訪れてからは、ここを拠点として世界へと飛んでいる。

  今日はスケールから「面白いのがいる」と聞いて、親衛隊候補として見に来たのだが、神谷瞬とゴブマルからなぜか期待を感じていた。
  親衛隊にはならないだろう二人。だが、気になる。その後を見ていたいと思った。

(こんなのは初めてだな。ふふ、なぜだろうか、彼からの好意も悪くない。私に追いついて来て欲しいね)

  瞬の隣にナタリアがいる。
  そんな瞬の妄想もあながち的外れとも言いきれないかもしれない。

(その為にも、瞬とマリア様が敵対する事だけは避けないと。楓やマーリンは動くだろうか。あの二人は遊ぶからな・・・あはは、私も頑張るとしよう)

  なんとしてもラドレアとロザリア帝国の戦争だけは避けねばならない。そうなった時、ナタリアはマリアの身を必ず守り通すだろうが、瞬やゴブマルを殺さねばならなくなるかもしれない。
  それは彼女的にNGのようだ。
  矛盾王ナタリアは己の道のためならば己を殺す。最強の剣と最強の盾を作り出すナタリアは絶対なる主の意のままに

(悪人だろうが、善人だろうが、全員纏めてぶっ殺す!)

  異世界人というのは強者ばかりだ。だが、それらは皆、人の常識を捨てた者達だ。




ーーーーーーーーーーー

はたつばです。

やっと、戦争の導入ですね。でもなんででしょうか。書く順番を間違えた気がします。
ははは、気にしないでいこうと思います。
次回楓視点に戻ります。第五章ですね。よろしくお願いします。
宜しければ登場人物紹介もどうぞ。長いし、余談ばかりですけど……
 
六十三話が短かかったのと、平日に休みをもらうという神イベントのおかげで二話分上げることになりました。
次回更新は六十三話でお伝えした通り、また土曜日に更新になります。




あと少し宣伝を……
はたつばとtattsu君(+はたつばの友人共)でネタを出し合ったネタ作品があります。そちらの方もよろしくお願いします!
バトルな好きだけど、少し刺激が欲しい方のための話です。
出し合ったネタが下ネタばかりという変わった作品です(保身のために少しとは言わない)
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