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第二章 王国防衛戦

第三十一話 光は魔物共を喰らう

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  強いな。みんな超強いな。

  でも敵も強い。まさかあんなのまでいるなんてなぁ……。

「あのバカども……。人の国に儂の同種がくるなんて……」

  絶望竜が忌々しげに呟く。
  そう。まさかの竜種のおでましである。
  全て火竜なので、絶望竜とは関係なさそうだが。

「みなまだ若いな。上位の竜に誑かされてやってきたのか……。この魔物の群れには上位竜が絡んでいるかもしれん」

  結構大きいと思ったけどまだまだ未熟なんだな。
  しかし上位竜か……。勇者では無理だろうな。今見えてる竜達ならなんてことはないと思うんだが……。

「どうする楓。上位竜が来たら儂が行こうか?」

  絶望竜がか……。
  それでもいいんだがここは

「こいつらに任せる。絶望竜は俺と一緒に観戦だな」

「む?いいのか?上位竜ともなるとなかなか強いぞ?儂等と比べるとかわいそうだが……」
 
「大丈夫大丈夫。下にいる中で一番強い奴がまだ出てきてないし、未だ見ぬ団長とやらも王国の危機となれば駆けつけるだろ」

「そうか。ならば儂も大人しく見ていよう」

  それがいい。俺やお前が出て、無駄な希望を見せるのも良くないからな。旅に出る前に守護者とかなんとかとか言われたら面倒だ。 
  まぁまずは弱い方の竜を何とかしてもらわんとね。

「さぁ次は誰の番だ?」

  くっくっく。全く、本当に面白いな。

「楓様、ポテートチップスをお持ちいたしました」

「……ありがとう翡翠」

  かっこよく終わりたかったのに……。


◇第三者視点

「まさかあんなものまでいるなんて……」

  王国の姫『ぺネイト・ネクシー』は絶望の色を浮かべた顔でそう呟いた。
  その絶望は次第に広がっていった。 
  戦場の各地で

「終わった」とか
「帰れなくてごめん……」とか
「死にたくねぇな……」とか

  諦めムードが流れている。 
  黒田楓や絶望竜はたいして感じていなかったが、冒険者や普通の兵士からしたら竜を目撃するなんてことは人生で一度あるかないか。いや、ないだろう。
  しかし今その竜が大量に目の前に広がっているのだ。生を諦めたくなるのも分からなくはない。
  戦場で諦めの感情を表に出すのはあまり宜しくない。戦場の士気を下げるからだ。
  その悪い流れを読み取ったぺネイトは内心で失敗したと思いつつ、その場から駆け出していく。民を盾にすることをよしとしないぺネイトは戦争などでも先陣をきる。たとえ自分が死んでも、それで死ぬはずだった一人の民を守れたならそれでいい。自己犠牲の激しい少女なのだ。

  そんな彼女がこの状況を見て、放っておくはずがない。

  走る走る走る。
  王国の姫は民を傷つけないために走り続ける。
  片手には彼女の代名詞となっている一つの白いレイピアが握られている。レイピアを持ってはいるが、彼女は本来召喚士。魔物を使役したり、各地から人を、ものを呼び出すこともできる。最前線に立つことは無いのだが、それを彼女はよしとしない。

  この国の国王が国を守る為に自らの最善を尽くし、死を恐れないように、彼女もまた民を守るために自分の全てを捧げているのだ。

  相棒の『黒狼』を召喚し、その背にまたがる。

「行くよ、クロト……!!」

  黒狼の『クロト』は喉を鳴らし、低い声を返す。

ーーグルル。お嬢、飛ばすぞ。しっかりと掴まっていろ!

  クロトはそう言うと地面を蹴って猛スピードで駆け出して行く。
  飛ばされないようにしっかりとクロトの背を掴むぺネイト。その目は大量の竜を捉えている。一人と一匹で倒せる数でも相手でもない。だが、彼女は退かない。
  彼女が信じているのは自分と父である王のみ。この二人だけは決して裏切らない。王が娘を、民を裏切るはずがない。彼女の父は今も民を守るために思考に没頭しているはずだ。
  ならば自分は今何をするべきか……。
  彼女は一つ上の兄のように頭がいいわけでも、その上の兄のように底なしの馬鹿でもない。

  ただ彼女にある強み。それは魔法であり、戦闘技能である。
  彼女はレオンのように多に広く、それでいて深い能力を持っているわけではなく、一つの力に全ての才能が詰まっているのだ。
  圧倒的な魔力。使い手の少ない召喚魔法。
  兄レオンに嫉妬することもあるが、彼女は自分の道を曲げない。民を救うために戦う力を積み上げていく。

  今までずっとそう考え生きてきた。
  その力をいつ使うか。今しかない。この絶望的な状況を打破するために自分が動くしかないのだ。

  彼女の相棒である黒狼と共に空を飛ぶ。
  狼であるクロトがなぜ飛べるのか、それを彼女は知らないのだが、使えるものは使っていこう。そう思っている。

  空を踏みしめるクロトは真っ直ぐ竜の元へと向かう。
  赤い鱗を身に纏う火竜達。
  威圧感があるが、クロトも負けていない。鋭く、獰猛な牙は眼前の竜を噛み砕く準備万端だ。

「クロト、勝とうね。……みんなを助けようね」

  自己犠牲。
  他を助けるために自らを殺す。
  彼女は笑顔だ。誰かを助けることが出来る。そこに充実感があるのか分からないが、彼女は幸せそうだ。
  死を前に、異常とも思える言動をする相棒を心配しつつも、黒狼は声をかける。

ーー……そうだな。俺はお嬢に従う。行こう

  黒狼は素早い動きで、竜達に狙いを付けさせないよう接近していく。
  尻尾や、魔法、ブレスで黒狼を狙う火竜だが、まるで当たらない。黒い狼はひらりひらりと空を舞い、全ての攻撃を避けていく。
  一体一体を確実に仕留めていく黒狼とぺネイト。
  黒狼の闇魔法とぺネイトの召喚魔法による攻撃は火竜達を苦しめていた。

  しかしそれも長くは続かない。
  どれだけ倒してもまだまだ火竜はでてくる。倒しても倒しても数が減っている気がしない。Gもびっくりの数である。

  竜種は他の種族に比べて数が少ない。
  一匹一匹が強い為、生き残るために数を増やすことをしないのだ。けれども見た感じ、全世界の火竜を集めたくらいの数がいる。
  なにかある。そうぺネイトも感じているが、考えている暇はない。

  一匹の火竜の魔法が黒狼とぺネイトを捉えた。
  黒狼の足元で、魔法陣が輝いて見えたが、見えた時にはもう遅い。魔法陣から赤い鎖が現れ、黒狼の体に巻き付く。引きちぎろうとするが、元が火で出来ているのか実体がなく、どうしようもない。
  確かに巻きついている感覚があるのに、触れられない。魔法とは不思議なものである。

  動けなくなる黒狼とぺネイトに向かい、火竜達は大きく口を開け、息を吸う。

  それを見た黒狼は冷や汗をかきながら相棒へと問う。

ーーお嬢まずい。ブレスだ。どうするよ

「……クロトを戻します」

ーー召喚を解くということか?それはダメだ。俺はあんたの相棒。最後の最後まであんたと共にいる。

  固い決意が感じられるが、相棒は首を横に振る。

「ダメだよ。戻ってクロト」

ーーっ!お嬢っっ!!まて……

  そういうと、黒狼の姿が消え、火の鎖で繋がれたぺネイトだけが残された。 

「ここで終わりですか。はぁ……私は間違ってたんでしょうか……」

  諦めを見せたぺネイトに火竜のブレスが放たれる。
  無数の竜から放たれたブレスはぺネイトの四方八方全面を囲み、逃げ場を無くしていく。

  目を瞑り、覚悟を決めるぺネイト。
  今までの人生を振り返り、自分は民の役に立てたのかと考える。愛する国民の顔を思い出し、軽く首を振っていることからまだ彼女の中では足りなかったらしい。

  しかし彼女は長生きをするものだと自分に感心する。
  竜のブレスは強力で、一体のブレスでも当たれば人間の体は軽く消し飛ぶ。
  なのに自分の体には衝撃一つこない。
 
  ぺネイトはゆっくりと瞼を開け、状況を確認する。
  すると……

「あ、大丈夫ですか?ぺネイトさん。一応全ての竜は斬り落としたんですけど」

  自分の知る未熟な金髪勇者がいた。
  彼女はひとり首を傾げる。
  いつのまにか無くなっている火の鎖の行方と、彼の言った「全て」斬り落としたという言葉の意味に……。
  訓練所で見た光の魔法は確かに強そうだったが、時間がかかっていたし、アレで終わったという点からそこまで高くない評価だった。
  そんな彼がどうやって無数にいたはずの竜達を打ち倒したのか。

「どうやったのか、ですか?」

  軽く人の心を読んでくる伊野光輝。
  ぺネイトは顔に出ていたかと慌てて顔を隠す。それと同時に自分の今の状況を理解し、赤面する。

  お姫様抱っこ。

  この世界に来た者達はお姫様抱っこが大好きらしい。
  恥じらいもなくお姫様抱っこを使っていく彼らに拍手を送りたいところだ。

  その状態のまま、伊野光輝はニッコリと微笑むとぺネイトの疑問に答えた。

「魔力ですよ。僕は違う世界の魔力に慣れすぎてしまっていて力が入らなかったんですよ。ですが、やっとこの世界の魔力と僕の魔力とをうまく合わせることができました。ここからは向こうの世界と同じように魔術が使えるよくになりました。僕って結構強いんですよ?」

  異世界の魔力との適合。それは非常に難しい。
  雪は愛の力という謎の力によって、一瞬で適合を終えた。
  しかし謎の力を持たない伊野光輝は苦労した。元々膨大な魔力を持つ伊野光輝はその分適合が遅かったのだ。
  MPが爆発的に増え、ようやく思い通りに魔術を使えるようになったのだ。

「空中の敵は全て駆逐したので、次は下ですね」

  伊野光輝が手を掲げ、手に魔力を集める。
  以前見た時とは比べ物にならない密度と量。
  爆炎の魔女よりもっと濃密な魔力にぺネイトは驚愕する。侮っていた。異世界の勇者とはこれ程なのかと。
  戸塚義樹は論外だが、雪や吉岡もまだまだ切り札を残しているだろう。ぺネイトはそう確信した。

  ぺネイトの思う通り、彼らの本気はこんなものでは無い。
  それもそうだ。能力者が殺し合う異世界の戦場はこんなに生温くはなかったのだから。
  裏切りやスパイ行為はよくあった。共に戦う者達が味方とは限らない。魔物なんてものが存在しなかった世界だ。知恵ある者同士で殺し合う。凄惨で、壮絶な戦場だった。
  死ぬ直前まで切り札を残し、誰にも悟られることなく、最後の一撃を放つ。そう死線をくぐり抜けてきたのだ。簡単に手の内を晒すような真似はしない。

  勿論伊野光輝もそれに含まれる。彼も無数の切り札を持っている。今から使う魔術も彼が扱える中ではレベルの低い魔術だ。彼にとって低いのであって、他の者からしたら恐怖の対象にもなり得る魔術なのだが……。

  彼が手に集めた魔力は巨大な魔法陣をいくつもつくり重ねていく。次々と作られていく魔法陣は青い空を覆っていき、人々の注目を集めるようになった。
  その異常な光景に口を開いて、目を点にするものが続出。
  勇者組は「相変わらずすげぇな~」くらいの感覚で魔物討伐を再開していく。
  全ての魔物と兵士達が真上に視線を向ければ魔法陣が見える。それ程までに大きくなった魔法陣は怪しく光り、その存在を示す。
  しかしそれらは伊野光輝が開いた手を握り直すとその拳に吸収されていく。そこに更に魔力を詰めていく。そしてまた開く。すると高速で先程の位置まで魔法陣が展開されていく。展開された魔方陣は激しく光だし、そこから彼の魔術の正体が現れた。

  空を覆う魔方陣からは眩しく輝く十字架が降り注いだのた。

  魔物に当たった十字架は光となって、その魔物を飲み込む。そして魔物とともに消え去った。
  十字架は大量に降ってくる。降り注いでくる。
  だが、範囲内には兵士達がいる。
  上から見ていたぺネイトは兵士達に十字架が当たることに気が付き、伊野光輝に顔を向ける。しかし伊野光輝はなにも心配がないとぺネイトに笑顔を返す。

  伊野光輝の言う通り、兵士達にはなんの被害もなかった。
  むしろ彼らの傷を癒し、MPを回復させていた。
 
  魔物達の大半は十字架に消され、生き延びた魔物達も回復した兵士達に殺された。
  理不尽すぎる魔術だ。敵に消滅を与え、味方に癒しを与える。
  これだけみれば最強の魔術なのだが、これにはいくつか欠点がある。
  まず一つ目は時間が掛かりすぎること。
  二つ目は魔法陣により、居場所が特定されること。
  三つ目はあの戦場で戦う個の戦力に、この程度の消滅効果ではまるで意味が無いことだ。
  今回のように知性なき魔物のような存在にしか使えないのだ。
  だから戦場ではあまり力を発揮できない魔術だ。

  今回の防衛戦では見事に決まり、残りの魔物も全て駆逐できたので、彼的にはまんぞくしたようだが。

「では帰りましょうかぺネイトさん」

  魔術の力で滞空していた伊野光輝は光の階段を作り出し、国王達の元へと帰っていく。

  こうして、王国の危機は異世界の勇者と超越者達の活躍により、救われたのだった。


◇楓視点

  うわぁお。どこから現れたのか知らないが、さすがはヒーロー。タイミングの良すぎる登場だぜ。
  それにあの様子だと元の力を取り戻したみたいだな。これなら本当に大丈夫そうだ。

  いよいよ本格的に旅に出るとしようか。
  まずは王国にある他の街を回ってみよう。この大陸にある他のダンジョンにも興味がある。次こそは歩いていってみようかな。今までは何だかんだで楽してきたからな。
  守護者も防衛戦が終わる頃には完成しているだろう。
  あ、まだ防衛戦終わってないからね?
  竜も魔物も全て倒し終わったけどまだ終わってないよ?今高速でこっちに向かってきてるやつがいる。
  
  下の連中で気づいてるのは五人ってとこか。
  さっき一緒になって戦っていた超越者二人と、伊野と戸塚。それから国王の近くにいる若く見えるおっちゃん。
  伊野と戸塚は気付いてるはずなのだが、王国の方へと帰っていった。ん?どういうことだ?

  超越者の二人も王国の方へと帰っていってしまった。
  あれ?みんな壁の向こうへ行ってしまった……。
  おっちゃんだけ取り残されてるぞ?

  そして何故か隣にいる絶望竜が変な顔してるし。
  謎は深まるばかりである。

「どうした?絶望竜」

「あいつこの国にいたのか……」

  もう訳が分からん。なぜ引きこもりのお前があのおっちゃんを知ってんだよ。しかもなんでそんなブサイクな顔してんだよ。折角のイケメンが勿体ないぞ。

「なんだ?知り合いか?」

「まぁな。戦ったこともあるぞ。人間にしてはかなり強かったな」

  はぁ?絶望竜と戦ったことがある?しかも生きてる?
  あれがマクベスってやつなのか?いやそれはねぇか。どう考えても団長って感じじゃないし。鎧とか着てないし。団長って鎧着てるイメージあるのって俺だけ?

「楓は知らないんだな。奴は『ディス・テラシウス』。王国において『英雄の師』として崇められる人間だ。『マクベス・アリアル』は王国最強と言われているが、ディスとどっこいどっこいって感じだな。人類最強クラスの化物に入ってる一人だな」

  ふーん。

「じゃぁ俺も人類最強クラスの化物ってか?」

「お前はただの化物じゃろ」

  ひでひ。
  俺の渾身のギャグをマジレスで返してきやがった。無慈悲すぎるぜこの爺さん。
  
  しかし人類最強クラスの一人か。
  マクベスにも興味があったが、ディスってやつも面白そうだな。頭をポリポリとかいてる姿は中年のオヤジを連想させるが、本当に強いのだろうか。

  おや?来たっぽいぞ。
  超速ですっ飛んでくる変なやつ。あの速度のまま王国に突っ込む気か?壁が壊れるぞ。……まずいか?

  俺がひとり危機感を感じているが、絶望竜は余裕の表情だ。
  
  超速でやってきた魔物の親玉的なやつが急に動きを止める。
  そして、やってきた方向に吹き飛ばされた。

  ディスが魔法で勢いを殺し、自分の目の前で止めて、思いっきり拳を顔に当てたのだ。
  それだけで親玉は元の方へと帰っていった。

  すげぇな。相手の速度を完璧に理解してないとできない芸当だぞ。おっちゃんの追尾速さも人間とは思えんくらい速い。
  なるほど、これは人類最強クラスも頷けるわ。

  俺達もこの戦いを見ていこうか。
 
「絶望竜追いかけるぞ」

「分かった」

  面白い戦いを期待しているぜ『英雄の師』様。
  よし、『転移』!



ーーーーーーー
はたつばです。
日数を伸ばしたおかげで何とかかけました。伸ばしてよかった。
ありがとうございました。

自分で一度すべて読み返して見たんですが、凄いですね。人類の強さがとどまることを知らないって感じです……。
今回の話で元の世界の戦争のことに触れましたが、個の力で戦う戦争ってやっぱり恐ろしいんだろうなと思いました。

次回も三日後に更新させていただきます。
次回二十六話も宜しくお願いします!!
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