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第一章 召喚されたからって勇者はしない

第十七話 終わりと始まりの一日 part3

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◇神谷瞬side

  ここはどこだろうか・・・。教室で見た魔法陣と同じものが出てきて強制的に飛ばされたはず。流石にもとの世界に戻ってきたって言うのはないと思うけど……。
  ここはダンジョンの中なのだろうか。あの転移トラップがダンジョン内限定だったら伊野くんや吉岡くんが助けに来てくれるかもしれないけど……。そうでないのなら詰んだも同然だよね。

  さてどうしようか……。テンプレ的に言えば僕はここで強い魔物に襲われて覚醒するって感じだけど。そんな上手くはいかないよね。

  まずは階段を探そう。上に戻ればなにかあるだろう。

  ……無い。階段がどこにもない。何故だ。上に行くものも下に行くものもない。ここはどこなんだ?本当にダンジョンじゃないのか?

ガタ

  うわっ!?か、壁が動いたぞ。どうなってるんだ?
  一体何が……。
  横にずれた壁。そこから一体の大柄な熊が出てきた。
  ……僕死ぬかもしれないです。

「あ、あの!誰か助けてください!!」

  壁をドンドンと叩くが全く反応がない。その間にも悠々と熊は近付いてくる。獲物を絶望へと陥れるのを楽しむようにゆっくりとゆっくりと迫ってくる。

「誰か!!誰かっっ!!ひっ!こ、殺される!!」

  ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ

――グルル・・・ガウッッッ!

  ……痛い。痛い。痛い痛い痛い痛い痛い痛い。腕がっ!足がッッ!!ひぃ!なんで・・・なんでお前が僕の腕を持ってるんだよ!!
  やめろ!くるな!!やめてくれ……!!

「お願いだ・・・もう・・・やめてくれ・・・。ぐはっ。お願いします。もうやめてくだ……」

――グルァァァ!!!

  あぁ・・・終わったみたいだ。僕は死ぬんだな……。そりゃそうだ。テンプレみたいに都合よく覚醒なんかしない。
  僕の首は熊に噛みちぎられた。宙を舞い床に落ちる。ころりころりと転がりやがて静止する。
  意識が遠のく……でも人間って意外と生きているもんなんだな……。胴体と離れたのにまだ生きてるなんて・・・。はは・・・こりゃ死ぬ前に大発見したかもな……。

  あれから何時間たったのか……意識が薄れた状態のままだ。頭と胴体が離れたのにも拘らず、僕はまだ死ねない。ただただ痛みだけが体を支配している。離れた胴体とも感覚だけは繋がっている。だからといって動かせる訳では無いので迷惑なだけだ。
  あぁ……早く殺してくれよ。早く。早く。……あぁもう寝てしまおう。そうすればいつの間に……

――起きろボケコラァァァ!!

  いったぁぁ!!そろそろ死んだと思ったらなんか蹴られたんだけど!
  あ、あれ?僕まだ生きてるのか?……はぁもうそろそろ寝かせてくれよ。

――死ぬなや。起きろボケナス。お前が死んで怒られんのは俺なんだぞ!

  また蹴られた。……。

「あんたなんなんだよさっきから!!!人を散々蹴りつけてくれやがって!!」

  怒りの余り怒鳴ってしまった。いかんいかん。早く死なないと。

――あ、あれ?また死にかけてる!?まずい!しゃーないやるか!傷を癒し、生を宿せ!!『エクストラヒール』!

  まだ何か言ってるよ。本当にうるさい人だな。一発殴りに行こう。
  僕は立ち上がって、はぁはぁ言ってる黒い変な人を平手打ちする。

――いって!てめぇ命の恩人になにしとんじゃボケェ!

「知るか!お前がうるさいからだよ!!僕をさっさと死なせてくれ!」

――お前はもう死なねぇよ!?立って話してんじゃねぇか!気付けよ!!

  あぁ?……あー。うん。立ってる。足ある。平手打ちした。腕ある。
  ええっ!?生きてるぅぅぅ!?!?

「は!?なんで僕生きてんの!?」

――俺が助けたっつったばっかだろーがァ!

「……まじすか」

――まじです

  や、やったァァァ!!!生きてたぁぁぁ!

「やった!やったよ!!誰か知らないけどありがとう!!」

――はぁ。ようやく理解出来たか……。あるお方からお前を助けてやってほしいと言われてな

  あるお方?勇者の誰かだろうか……?

「伊野くんとか?」

――誰だよ。悪いが名前は言えない。このダンジョンのマスターとだけ言ってやろう。無茶苦茶強いから敵に回さない方がいいぞ

  ここはやっぱりダンジョンだったのか・・・。ははは結局誰も助けてくれなかった訳だ。ダンジョンマスターさんは助けてくれたみたいだけど。

「あのぉ……出来ればここから出してほしいなぁ……なんて……」

――え?無理無理。俺にそんな権限ねぇよ。

  まじかぁ!!ダメかぁ……。また殺されるのかな・・・。

――あ、でも一つダンジョンマスターからプレゼントがあるぞ?

  希望きた!このプレゼントに賭ける。これがダンジョン脱出用アイテムだと嬉しいな。

――ダンジョンから抜け出したいと言ったらこれを渡せって言われててな。ほいよ

  そういうと黒い人はおもむろに一つのネックレスを差し出してきた。
  ……なにこれ。

――効果は付ければわかるってよ。んじゃ俺はまだほかの仕事があるからもう行くな!

  最後にあばよ!と言って消えた。
  にしてもつければ分かる……か。まぁ騙されたと思って付けてみようかな。効果なければ捨てればいいし。

  装着!!

  んー?あんまり違いがわからなっっ!!!痛い!!
  体が痛い。あぁもう!!またか!!折角生き残ったんだからこれも耐えてやるよっ!!



  あー痛い。超痛い。と思うでしょ?そうでもなくなりました。
  新しいスキル『痛覚無効』を手に入れてしまいました。それからはただひたすらに待っています。痛覚無効の効果が発揮され続けているので、まだ地獄(笑)の時間は続いているはず。ダンジョンマスターさんのお茶目なイタズラなのだろうか・・・。ネックレスにより何か得られた気はしない。
  ただ若干肌が黒くなっているくらいなものだ。
  幸いと言うべきか、あの熊みたいなやつは来ていない。ネックレスを貰ってから二、三回寝ているのでここにはめったに来ないということだろうか。

〈個体名『神谷瞬』の進化が終了しました。お疲れ様でした。只今より神谷瞬の脳内へ情報を送ります。〉

  進化?なんのことだろうか。あれかな?苦難を乗り越えたのでめちゃくちゃ強くなりました的な。
  それはないか。あってもダンジョンマスターさんが何かしたって事だよね。
  それに進化は終わったらしいけどネックレスの仕事は終わってないらしい。さっきからひっきりなしに僕の脳へとこの世界の情報が流れ込んでくる。常識からちょっとした裏事情まで。深くいった知識はあまりなさそうだが、生活には苦労しないだろうね。
  痛覚無効がなかったら凄く痛いんだろうな……。頭がかち割れるみたいな痛みとか。
 
〈個体名『神谷瞬』への情報提供が終了致しました。神谷瞬は変化した肉体の確認と変化したステータスをご確認ください。我が主人より神谷瞬へのプレゼントは神谷瞬のスキル『無限収納空間』に入っております。……あと十秒ほどでこのネックレスは小爆発を起こします。離れてください〉

  What?小爆発?今首につけてるんだけど? 
  ……やっばっ!ポイッ!!
  付けていたネックレスを放り投げる。すると

ドガンッッッッ!!!

  ネックレスを軽く投げただけで、かなり飛んでいったのには驚いたが、それ以上にこの爆発はなんだ?小爆発?大爆発の間違いだろ・・・。
  なんなんだ一体……。ダンジョンマスターさんは命の恩人だが、これは殺しにきてるだろ。

  あ、そういえばステータスだっけ?あと無限収納空間。
  進化の影響で少しくらい強くなっててほしいんだけど。

ステータス形
名前 神谷瞬    Lv.463
種族 魔王
職業 超常の魔王
ステータス

HP  300,000
MP 900,000

〈固有魔法〉
魔力操作  空間支配  

〈魔法〉
時空魔法Lv.8  

〈スキル〉
痛覚無効Lv.10  無限収納空間Lv.10

〈無効化・耐性〉
  無効化(痛覚)

〈恩恵(不可視)〉
超能力

〈称号〉
超常の魔王  迷宮支配者の加護  死を乗り越えし者


  ……なにこれ。変わりすぎでしょ!?
  強くなる分には問題ないんだけどね!?やりすぎじゃないですか!?魔王って!魔王って!!
  ダンジョンマスターさん頑張りすぎだよぉ!!

  あぁそういえば無限収納空間のなかになにか入ってるんだっけ?

ガサゴソ

  ……。

神器『魔神剣』
神器『魔闘のローブ』
神器『幸運の腕輪』

  ……神器三点セットって……しかも前半二つはかなり禍々しいぞ……。
  ダンジョンマスターさん……一体僕に何をしろと・・・?
  こうして僕の人としての生は終わり、魔王としての生活が始まったのだった。はぁ……。



ーーーーーーーー
はたつばです。

ついに出てきまし神谷瞬。魔王となった彼の戦いもいずれ書くことになると思います。おたのしみに。
次話。やっと主人公に戻ります。ちょっとばかり時間がたった後の話ですね。
大晦日になにをしているのか……。今年も一人で笑ってはいけないなんとやらを見て寂しく緑のそばを食べたいと思います。
来年もよろしくお願いします
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