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第一章 召喚されたからって勇者はしない

第十二話 楓vs漆黒竜

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〈全長は約五十メートル。個体名は『漆黒竜』レベルは2600です。成竜となった竜種五体のうちの一体ですね。出来れば殺さずペットにしたいところですね〉

  レベル2600か……。すげーな。向こうの世界でも類を見ない化物じみた殺気。まさか異世界生活二日目でこんな同類に出会えるとはなっ!
  世界眼!こいつ服従させるぞ。俺のペットに相応しいじゃねぇか。

  走って会長のもとへと向かい、肩を叩く。
  俺を見て驚いていたが、そんなことに反応してるほど俺は暇じゃない。

「会長。少しの間この子を頼む」

「え、あ、うん・・・?」

  気絶したマリーを会長に受け渡し、後ろに下げさせる。こっからは俺も本気。久々に殺らせてもらおうか。

  戦闘系恩恵シリーズ『反射』『肉体強化』『神威』『血液操作』
  便利系恩恵シリーズ『変身』を使う。

  『神威』肉体や恩恵の力を昇華させる。使った後は割と疲れるのであまり使わない。
  『血液操作』体内、体外にある血液を操作できる。体外の血液ならば自分のものでなくても動かせる。

「『神威』『反射』『肉体強化』『血液操作』」

  神威と肉体強化により肉体強度は極限まで上がっている。その状態で血液操作を使う。体内に流れる血液循環速度を爆発的に上げるためだ。

「さぁ……始めようか。蜥蜴野郎」

  まずは伊野を回収する。モグモグされているが癒し手にもなれる伊野なら生きているはず。
  超速で漆黒竜の顔の横に移動。そのまま思いっきり殴る。俺の存在に気付きながら反応出来なかった漆黒竜は驚愕し、伊野を放した。
  地面スレスレで伊野を回収し、会長のもとに戻る。

「光輝くん!!!」

  伊野の取り巻きが一人。音才『音科真紀子』love伊野光輝代表者。強い弱いといった力ではないが、伊野への愛はぶっちゃけ怖い。伊野をクラスの中心にまで持ち上げたのも音科だ。

「音科。伊野を頼むわ。再生を使ったが暫くは目を覚まさないだろう。んじゃ看病よろしくちゃん」

  伊野を音科にポイして漆黒竜に向かう。

「ありがとう・・・黒田くん」

  はいはい。どいたまっせ。
  少しあいつらとも話したいし、漆黒竜には少しの間退場してもらおうか。
  異空間の創造。なにもない世界の創造。その世界への入口をやつの後ろに設置。そして高速キック。吹き飛ばして異空間へととばす。

「んじゃ、俺行ってくるわ。会長その子返して」

「え?あ、うん。はい。」

  よしいこうか。本気の勝負やで!!!

「ま、待て楓!」

  吉岡さんよぉ……普通呼び止めんのは会長じゃろがボケェ!
  お前に言われても俺は戻る気がおきねぇよ!

「実は一人別場所に転移されたみたいなんだ。何度もすまんが回収してきてくれないか?」

  止めるわけじゃねぇのかよ!!ちょっと期待した分恥ずかしいわ!
  そういえば伊野、吉岡、会長、音科、影の薄い影宮。うん五人しかいねぇ。六人って聞いたから確かに足りないな。

「どっかいったのって誰?」

「……お前名前言ってもわからんだろ。学校あんまり来ねぇし」

「念のためだよ」

「……『神谷瞬』」

  なるほど、わからん。知らねぇよそんな人。名前的に男だとは思うがそれ以外の情報がでてこねぇ……

「うん。わかった。いたら回収してくるよ」

「なんか心配だが……頼んだわ」

「んじゃお前らはもう戻れ『転移』」

  俺がそう言うと五人の姿は消えた。戸塚の所に転移させた。ここはあいつらにはまだ早いだろうしな。あいつらにはキマイラよりちょい弱いぐらいが丁度いいだろう。
  さて漆黒竜を倒しにいきますか。ペット化したいから殺さないよ?
  バフ状態のまま腕を横に薙ぐ。空間に亀裂が走り、その先にある世界への門が開く。実際は丸い穴みたいなもんだが。

  中では先の漆黒竜がこちらを見据えてまっていた。

「待たせたな。黒蜥蜴」

  マリーを床に寝かせておく。何重にも守護をかけて。過保護くらいが丁度いいのさ。

――何者だ貴様。その威圧感、やつらに似ているが違う。なぜだか、異界の匂いがする。勇者か?その割には強すぎる気がするが。

「すごいなお前。そんなことまで分かるのか。だが俺は勇者じゃない。巻き込まれ民だよ」

――そうか。異界の者ではあるのだな。貴様は本当にやつに似ているな。異界最強の巻き込まれ民とやつも言っておったわ。

  漆黒竜はグハハと笑っているが、俺から言わせれば「で、なに?」って感じだ。こいつの話についてけない。

「その巻き込まれ民は知らんが、取り敢えず戦おうぜ。こちとらくそ雑魚としか戦ってなくて地味にイラついてんだよ」

  これまで戦った盗賊も、キマイラも弱い。弱すぎた。この世界への期待が薄れてくるぞ。

――そうかそうか。悪かったな。この世界のものは極端でな、弱いやつは本当に弱いんだ。それにしても貴様相当強いな。儂も殺されそうだ。

   またもグハハと笑う漆黒竜。こいつ頭おかしいわ。殺されそうだグハハはおかしいだろ。
  だが安心しろよ漆黒竜。

「殺しはしないさ。半殺しにするだけだ」

――面白い。いくぞ人間。貴様の力をみせてみよ!!

「そのセリフ、種族だけ変えて返してやる!!」

  手始めにさっきと同じくらいの速さ、強さで漆黒竜に拳を向ける。
  漆黒竜はさっきのはなんだったのかと思わせるほど軽く身を翻らせ、避ける。その状態のまま、尻尾を俺に叩きつける。
  普通ならそのまま叩きつけられてさようならなのだが、そこはやはり俺。異常な肉体強度と守護を持つ俺はそれを受け止めつつ、反射で力を倍以上にして返す。

  反射により漆黒竜の尻尾は弾け飛んだ。

――ぐっ!!

  一瞬苦悶の表情を見せたが、すぐさま態勢をととのえ牽制の黒いブレスを放ってくる。
  流石は竜種。ますます気に入ったぜ。

  俺は放たれた黒ブレスを分解しようとする。だが、かなり強いらしく、分解の力が弾かれた。ならば戦闘系恩恵シリーズ『消去』!

  『消去』なにもかもを消し去る。消すものに制限はなく、星だろうと、世界だろうと消してみせる。一日の使用可能数は三回まで。それ以上は体の一部を代用すれば使用可能。

  あと二回。ちょいブレスはやばいな。今の威力で守護を抜けるとは思えないが、これ以上の可能性も考えられる。

「面白い!面白いぞ漆黒竜!!」

――貴様は本当に強いな人間!!よろこべ!今のに対処してみせたのは貴様で三人目だ!!

  本気で強いぞこの蜥蜴。久々だわこの感じ。人生の中でも五本の指に入る争いだわ。楽しくて仕方がない。

  昨日世界眼に使い方を聞いたあれも使ってみるか。こいつはそれに値する!

「呼び声に応えろ黒刀『月姫』!!」

  召喚されたのは一本の刀。刀身が黒く、柄の端にある頭の部分には鈴が付けられている。
  俺が武器を使うのは珍しいのだが、この刀はかなり有能らしい。一つはこの刀はその刀生の中で浴びた血の量により斬れ味が増す。二つ目は刀で空を斬ると

シャラン

――ガッッ!

鈴の音が聞こえた敵を切り刻むのだ。 
  目に見えない攻撃。音を聞けば否応なしに切り刻まれる。
  さぁどうする漆黒竜。

――貴様…その刀なにかあるな。刀は一度しか振っていないのに儂は今二十六回斬られた。

「ヒントをやるよ蜥蜴」

  俺はもう一度刀を振るう。
  また切り刻まれる漆黒竜。

――ぬぅ。わかったぞその刀、音を頼っておるな。ならばーー

  そう言って漆黒竜は自分の耳に指を入れ、爆発を起こした。鼓膜を耳ごと吹き飛ばしたのだ。

  ……まじかこの竜・・・やべぇはこいつ。二度目で気付くとは思わなかったし、なによりこいつ躊躇なくいったな。ん?でも待てよ?こいつ俺の声聞こえないんじゃ・・・仲間に引き込めないんじゃ……

「おい!聞こえるかクソ蜥蜴!」

――なんだ貴様。急に儂をクソ呼ばわりしよって。年長者にたいして失礼じゃぞ

「聞こえてんのかい!!耳どうした!?」

――耳なら吹き飛ばしたろ。お前の表層心理を読んどんじゃよ。お前の話す内容くらいなら儂でも読める

  なんだそれ!?もう完全にファンタジーじゃねぇか・・・。
  ・・・ここ異世界か・・・。諦めるしかないか。

――そんなことはよい!避けろよ人間!

「チッ!魔法か!!」

  四方八方から槍状の黒い塊が飛んでくる。
  月姫ここで壊したくないし。あれを使おう。

「はっ!クソッタレがッッッ!!!『神威』!!」

  神威の二つ目の使い方(応用編)。なんかよくわからんけどオーラっぽいやつを出し操る秘技。黒いオーラをぶん回して全ての槍を落とす。

――今のも落とすか。貴様なかなかに化物よのう。だが、そろそろ本気を出してくれんか?

  あれ・・・もしかして俺今煽られてる?……むっかつくわ。
  ええよええよ。やったろうやんけ。

「言っちまったなら覚悟しろよ。蜥蜴」

  一度俺にかかっている全ての恩恵の力を解く。

「肉体にかかっている全ての制限を解除。作られた人間の皮も別空間に隔離」

  顔を除く右半身の皮が全て剥がれ、機械となった部分が顕になる。
  左半身は腕から徐々に黒くなっていき、やがて左半身全てを覆った。

  ある戦いで右半身を失い、改造を繰り返した機械仕掛けの右半身。
  ある者から受け継いだ人でない左半身。

――貴様本当に人間か?まるでそれでは……むっ!

  漆黒竜が何か言っているが、どうでもいい。俺の姿と漆黒竜の姿が消える。
  俺は漆黒竜のいた場所に立ち、漆黒竜は遥か後方に吹き飛ばされていた。

「立てよ。久々のフルパワーだ。加減を間違えたらすまんな」




ーーーーーーーー
はたつばです。

なんか最終話みたいな雰囲気ですけどまだ二日目ですからね。
まだまだ続きます。なんか二人とも強すぎーになりました。
バトルを書いてると厨二病の血が騒ぐのです
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