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第一章 召喚されたからって勇者はしない

第十話 あれ行こう。あれあれ

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  カーテンとカーテンの隙間から入る光が瞼の奥で光る。眩しい。
  ショボショボする半開きの眼を擦り、目を抉じ開ける。ベッドから体を起こして伸びをする。はっきりとしない頭をブンブンと振り、頬を叩いて今日一日の気合を入れる。

  廊下を走り回るマリーのパタパタという足音が聞こえる。早く起きて、色々してくれていたのだろうか。
  旅中でお供が出来なければ戦時中と同じようにこの広い一軒家で一人暮らし状態だっただろう。
  誰かが朝の用意をしてくれるのは平和の日々を送れるのだという安心感を与えてくれる。

  一人幸せな時を感じているとコンコンコンとドアがノックされる。

「ご主人様ー!起きてますか?朝ご飯が出来ましたよ~」

  マリーだ。やはり朝の準備をしてくれていたらしい。

  しかし今の俺は裸だ。いきなりだが、俺は寝ている間に服を脱ぐ習性がある。このまま部屋を出るのはあかん。あかんでぇ!先日も言ったがアダルティはあかんよ。男の朝にはアレがあるのだ。見られるわけにはいかんのよ。
  まぁ馬鹿な話は置いといて、さっさと服を着よう。

「起きてるよ。少し待っててくれ着替える。終わったら食べに行くよ」

「はーい。冷めてしまうのでなるべくお早めに」

  適当に返事をして、タンスに詰められた服を着る。戦時中によく使っていた物が詰まっているので、タンスの中身は軍服が多い。黒を基調とした服が多く、所々に赤や金の刺繍が入っている。厨二感がただようが、気にせず着る。なにせ俺自身厨二が入っているからな。格好よくない?こういうところだけはあの軍も評価できる。

  ちゃちゃっと着替えた俺は部屋を出てからそのままダイニングに向かう。
  四人家族用くらいのテーブルに二人分の食事が置いてある。一つは色彩豊かで、皿の数も多く豪華な料理が並んでいる。しかしもう一方はかなり質素だった。皿は一つでその上には豚から回収したレーションとキャベツ1枚。
  なんだこの差は・・・。学校でなら俺は後者を食べることになるだろうが、今回は前者だろうな。
  これがこの世界にある奴隷と主人の格差か。マリーの場合は『元』がつくけどな。ひとつ賢くなりました。
  でも、

「マリー今すぐこの皿を回収しろ」

  レーションののった皿を指さして怒気を孕めた声でいう。
  マリーが「アワワワ」と焦ったように皿を回収する。
  俺は許さない。俺は前の世界でもこの世界でも差別を好まない。必要なものは認めるが、こういったものは認めない。少なくともマリーは俺に対して不利益を与えていない。寧ろ利益ばかりが生まれている。そうなるとこの待遇はおかしいだろう。

「マリー。君は俺の奴隷ではない。従者、メイドだ。俺は働かざるもの食うべからず。これは徹底するつもりだが、利をもたらす者には銭を惜しまない。マリーは俺にとって利だ。君の待遇は俺と同じ。最高の待遇にしろ」

  マリーはもっと質素なものにしろとでも言われると思っていたのか、先ほどの皿の上に土を載せた状態で固まっている。

  土て……。まじか……。
 
  昨日は同じような料理だったのになぜ今日はこんな差が?昨日はテンション上がって気にしてなかったとか?今日から気合を入れたとか?

「す、すみません……。すぐに取り替えます。以前の癖でつい……」

  以前の癖……。あの豚か。豚野郎は見た目も中身も醜悪って訳か。
  豚と同じだと思われるのは正直癪だが、仕方ない。昨日初めて会ったのに俺に合わせろというのは無理な話だろうしな。

  急いで作り直したマリーが自分用の皿をテーブルに置いて、椅子に座る。
  その光景を見て俺は一人幸せな気分になった。ちっちゃな女の子があたふたしてると可愛いですよね。

  よし!料理も揃ったことだし、頂くとしますかな。

「いただきます」
「い、いた・・・だきます?」

  日本人恒例のあの呪文を唱え、料理をつっつく。
  やはり旨い。伝説級の料理は最高だぜ。この世界の料理はもう食えんだろうな。これ以下はもう考えられん。

「ふぅ。食ったわぁ。朝から結構食ったな。ごちそうさん。ありがとうなマリー」

「はい!お粗末さまでした!!」

  さて今日はどうしようか。昨日は初盗賊討伐をしたし、今日も刺激的な一日になればいいなぁ。旅の中で奴隷達も出来れば回収していきたい。豚のようなやつがいないとも限らんからな。
  どうしたもんか……。世界眼、近くになにかないか?

〈すぐ近くにダンジョンがあります。訪れてみてはいかがでしょうか。全100層構造になっています。人間は50層構造だと思っているようですので、それ以下は未開の地となっております。楓様にみあう良きペットがいるかもしれません〉

  成程ダンジョンか……。
  いいねぇ。異世界っぽいじゃねーか。刺激的な一日になりそうだ。それにペットってのも面白い。戦闘狂の血が騒ぐねぇ。

  よし!

「マリー!今日はダンジョンに行くぞ!!最寄りのダンジョンだ!マリーのレベル上げもするぞ!!」

  急にテンションの上がった俺にマリーがビクッとした。
  驚かせてすまない。しかし元軍人の俺からすれば無限に敵が湧くダンジョンは餌にしか見えんのだ!これは行くしかなかろう!?

「ご主人様……。レベル上げは宜しいのですが、最寄りのダンジョンですと『初心のダンジョン』ですよ?ご主人様と私ではあまり上がらないと思うのですが……。」

  ……らしいぞ?世界眼。

〈マリーの言い分は正しいです。ですがそれは人間の知る部分だけの話です。50層よりも下に進めば難易度はこの世界で三本の指に入ります。ダンジョンの正式名は『絶望深淵のダンジョン』です〉

  絶望か・・・。俺が絶望するほどの場所なのかな!

「いくぞマリー!!初心のダンジョンの奥底は財宝(敵)が眠る地だそうだ!!能力で調べた!」

「本当ですか!?財宝(お宝)ですか!?行きましょうご主人様!!売り払いましょう!!」

  すごい気合だなマリー。そんなに絶望レベルの敵が恋しいか。俺の影響かもしれないがよい傾向だな。

楓(欲を言えば神獣くらいのペットが欲しいな)
マリー(お宝ゲットで美味しい食材を沢山買います。御主人様を唸らせるほどの料理を作るのです!)

楓・マリー(フフフフフ……)

  マリーが悪い笑みをしている。お主も悪よのぉ。

「早速行きましょう!善は急げ!です!!」
「あぁ!行くぞマリー!」

「初心のダンジョンへ!」
「絶望深淵のダンジョンへ!」


  話中に洗い物を片したマリーを携え、世界眼を元にダンジョンへと向かう。
  ちなみにだが家は俺が創造した空間にぶち込みました。これでいつでも取り出し可能です。なぜ今までしていなかったかって?思いつかなかったからさ。
  今までは能力でピチュンってしてましたね。

  家からダンジョンまでは歩いて一日かかるそうだ(世界眼調べ)。一日か……一日……長くね!?無理だわ。車に慣れた現代系日本人には無理よ無理無理。足がもげる。あとそんなにマリーと話す話題がねぇ。沈黙には耐えられん。私はコミュ障なのだよチミ達。

  というわけで、例の如く恩恵頼みでいきます。使うのは一度登場したあれ!便利系恩恵シリーズ『変身』ですよ。
  足の速いフェンリルさんに変身。
  これだけでも速いのだが、更に恩恵を追加。
  戦闘系恩恵シリーズ『肉体強化』
  不思議な力で己の肉体を強化する。人間の限界を軽く超えるほどの上昇効果がある。この恩恵だけで吉岡とタイマンを張れる自信があるほどだ。

  フェンリルを見たマリーはもう驚かない。呆れ顔をされただけだ。家を空間にぶん投げたことの方が驚きが大きかったと思う。
  悟り顔をしているマリーをフェンリルの背に乗せる。しかしこのまま走るとマリーがバラバラになる恐れがある。速さに体が耐えられない。
  ということで三つ目の恩恵。便利系恩恵シリーズ『守護』を使う。
  簡単に言うと守護結界のようなもので、守護の範囲にいるものはいかなるダメージも通さない。というものだ。俺自身には常時かけている。駄女神やトラックの攻撃を反射なしでも受けられる自信はこれから来てたりする。私日本でも常時狙われてるんですよ奥さん。

  守護をマリーにつけて準備万端。
  フェンリルの脚力+肉体強化の上昇効果。この強さで地面を蹴る。爆発じみた音をだし、その場から姿を消す。わかっていると思うが、えぐい速い。伊野のレーザーより速いんじゃないかと思う。

「わぁ・・・景色・・・見えませんね。色のついた線が横を通っていくようにしか見えません」

  放心状態。マリーさん目が死んどるえ。

「そのへんは許せ。あと着いたぞ。マリー降りてくれ」

  数秒もかからず着いた。やっぱり速いな・・・速すぎるわ。

  変身をといて目の前にあるダンジョンを見る。横にある看板には『初心のダンジョン』と書いてある。間違いないだろう。

  そこで俺は驚愕した。
  目の前で口を開くダンジョン入口。下へ向かう階段をみて。



「……しょっぼいわ!!」

  初心のダンジョンに似合った小さな洞窟。狭い幅に急な階段。
  これは本当にしょぼく見えるわ……



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はたつばです。

会話が少ない……いつも説明回みたいなってしまう。
次回!ダンジョン入ります!久々(初かも)に戦闘したいな。
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