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58 第三の使い魔?

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 討伐クエストは辺り一帯を水浸しにしてほぼ完了した。
 俺のメイスにひっついたチビスライムをどうしたものか。
 スーが魔道バッグから衣服を取り出して着替えている間に、ポン吉が見張っているところへと向かった。

「どうなった?」
「ワワン。ワン(赤子。寝てる)」
「何だって⁉ お前、こいつのことがわかるのか?」
「ワワン(ベビースライム)」

 フレアバードの例もあるから、こちらの世界の狼はこんなものかと思い込もうとしていたところもある。
 それでもここしばらくの常軌を逸した行動には引っ掛かりがあった。まして語彙とは似ても似つかぬ博識ぶり。単なる森林狼ではない気がする。
 大樫にされて大ざっぱになって、おまけにスーにも影響を受けているせいだろう。
 カッケーとか、かわいいーとか安直評価でポン吉をずっと見て来た俺も大概だな。これまで色々見落としていた可能性も否めない。

「ポン吉、お前、本当は何者だ?」
「ワワン(主の番狼)?」
「どうして疑問形なんだ……」
「ワン(知らない)」

 俺の方が正しく理解できていないと、意思不疎通が原因で回復不能な致命傷になるかもしれない。
 時と場合を考えて話を聞くことにしようと思うが、ベビースライムはわかっていそうなので教えてもらおう。

「どうして俺のメイスにくっついているんだ?」
「ワン、ワン(冷たい、気持ちいい)」
「こいつらって俺達の体を融かすよな? 銀は大丈夫なのか?」
「ワン。ワワン、ワンワン(大丈夫。体違う、水分吸収)」

 革製のグローブくらいは溶かせるけど銀はできない。酸は攻撃だけでなく、水分吸収のために対象の細胞壁を融かしていると言いたいのか。

「そもそもメイスからは水分吸収はできないぞ」
「ワンワワン。ワンワン(今いらない。冷たければいい)」
「つまりこのチビは、体を冷やしたいのか?」
「ワン(そう)」
「冷えたら水分補給もしなくて済むと?」
「ワン。ワワンワワン(そう。でも大きくなる時は必要)」

 基本は水冷式冷却だけど、冷えさえすれば水分補給はいらない。一種の空冷式も併用とは、見た目によらずハイブリッドな作りらしい。だけど急に動きだして腕から水分を取られるのも困るし、やっぱ潰すしかないのか。
 メイスを引き抜こうにも握りの部分にスライムがいるので、俺はとりあえず皮手袋のままつついてみた。
 身の危険を感じたスライムは、鈍い動きですぐ傍にあったポン吉の頭の上へ見事に着地する。
 柴犬の立った耳の間に収まり良く水色の物体が動いている。

「ポ、ポン吉っ、大丈夫なのか⁉」
「ワン(何が)?」
「溶かされるだろう!」
「ワンワワン(戦う気ない)
「俺でもポン吉とは戦いたくないから、そうかもな」
「ワワンワン(溶かす力弱い)」
「そんなものなのか?」
「ワン。ワンワワン(そう。頭冷やっこい)」

 ポン吉は、気持よさそうに目を細める。
 中心核も一円玉くらい。蓄えている酸の量も知れているだろう。うまく酸を遮ることができれば、氷枕みたいに使えるかもしれない。
 妙な組み合わせを俺がじっと見ていると、チビスライムはまたメイスヘと飛び移った。
 そんなに気に入ってるのか?
 しかしこのままでは俺が持てない。
 どうしたものかと頭を悩ませていると、準備を整えたスーがやって来た。

「プリちゃん、スライムもティムしたのですか⁉ ズルいのですっ。でもポン吉はあげないのです!」

 ポン吉が少し首を傾げているが、俺にはその発想はなかった。
 さすがスー。悪くないかもしれない。

「ポン吉、こいつの気持ちがわかるのか?」
「ワン(どんな)?」
「そうだな、ここから逃げたいとか、俺達に危害を加える意思があるとか」
「ワン(ない)」
「は? ホント?」
「ワワンワン(冷たければいい)」

 逃げる気もないとは驚きだ。見た目通りに単純明快な生き物らしい。
 ポン吉は嘘を言わないので信用できるし、害がないならこのままでもいいか。
 水の塊が装備品の一部になると考えたら、水魔法とかエルフの秘薬とか準備しなくて済むかもしれない。
 既にベアトリスが動いてくれているので、いらないと伝えるにもポン吉を向かわせることにはなるのはしようがないだろう。
 チビスライムの犠牲のもとで俺の安全が成り立つ考え方は何とも言いづらいけど、手元に水の塊を常備できるようになったのは望外だろう。獲らぬ狸の皮算用かもしれないが。

「ポン吉、難しいかもしれないけど、チビスライムに俺達へ危害は加えるなって言っておいて」
「ワン(わかった)」
「あと、チビスライムって言いづらいから、スラスラって名前にするな」
「ワン(わかった)」
「プリちゃんのティムしたスラスラなのです!」
「……俺はティムできないから」

 嬉しそうなスーヘ俺は苦笑いを浮かべる。相変わらずひどいネーミングセンスだ。これも大ざっぱ化の影響だろう。
 ポン吉がスラスラに鼻をくっつけ牙を見せて唸る。スラスラが水色の表面にさざ波を立てた。
 見ようによっては、怯えて震えたようにも思えるけど気のせいにしておこう。

「ワンワンワン(主と名前を伝えた)」
「ありがとう。メイスの握るところからも少し離れるようにも言って」
「ワン(わかった)」

 ポン吉が再び顔を寄せる。表面を大きくさざ波立てたスラスラは大慌てで移動をする。
 本当に意思疎通ができている。ポン吉、恐るベし。
 スライム討伐も適当に終わらせた俺達は、予定どおり大きなポン吉の背に跨り屋敷跡を目指した。
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