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39 荒野の町
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麻痺を仕込まれた時点で今晩を無事に乗り切れる可能性はなくなったし、逃げ出す方針に変わりはない。
夜這いも、捕まってそのままアジトヘGO!もゴメンこうむる。
どこかのテレビゲームのような掛け声は気のせいにして欲しい。
いずれにしても行動は夜陰に乗じるのが一番だし、早いに越したことはない。
スーが静かに入口扉で聞き耳を立てると、少なくとも二名は見張りが立っているらしい。
外に出ることは禁じられていないので、少しなら出歩くことはできるだろうが、村の外までは絶対に無理。
ベタでも何でも構わないので、さっさと逃げ出す計画を立てて実行に移した。
まずは俺が腹痛になったと扉を開けさせ、入って来た見張りにはレモンもどき汁攻撃で目潰しののち当身。
もう一人が異変を察して出て行こうとしたところへ、スーが素早く何かを投げつけた。男は躓きながら、建物脇の松明台ともども倒れ込んだ。
いきなり騒ぎになったのはまいったが、好都合だ。火消しに人手が割かれる。
「貢物が燃えないように早く火を消せ‼」
「くっそ、急げ‼ さっさと水を持ってこい!」
俺達は村の出口を一目散に目指した。
村人は、こちらを追うか火を消すかを迷いながらも火消しに走る者が大半だった。
なかには鼻息も荒く走り来る者もいる。統率もされず我先にと争う様は、オスの生存本能というべきか。いいや、単なる性欲だろう。
興奮気味に俺達を追い掛ける村人に煽られたのか、火を消す手を止めてこちらへ来る者が徐々に増え始める。
本当に醜い。前世で俺の性欲が薄かったのは美徳だったかも、などと場違いな感想を抱いていたら、スーは顔を引きつらせている。宴会でモテモテだったから余計に危険を感じているのだろう。
俺達も松明台をなりふり構わずなぎ倒す。この辺りも風が強いようでどんどん近くの家に火が燃え移る。さすがにそれは消さざるを得ないらしい。
俺達は息も絶え絶えになりながら、どうにか村からは脱出できた。
来る時に通った道なのでわかってはいるが、地の利はどうしても追手にある。
何度か囲まれそうになるたび、スーが一人で物陰へ潜むと村人の悲鳴が聞こえた。
この状況では足手まといでしかない俺はひたすら走り続けるが、気がつけばスーが後ろに追いついている。
戻って来たスーと手を繋いでどんどん森を駆け抜ける。追手の声が聞こえなくなってようやく足を止めた。
結局、昨日と同じように木の上に身を隠すことになってしまったが仕方ない。
俺が少し落ち着いたところでスーの手をみると、宴の席で魚が刺されていた串を握っている。即席の投擲武器を晩飯を食べながら作っていたらしい。
これだけ細いと夜では絶対に見えない。まるでアサシン――絶対に敵にしてはならないタイプなのが計らずも判明してしまった。
この場はどうにか逃げ切れたが、捜索の手があることを考えると悠長にもしていられない。
スーの意見に従って朝が明ける前に行動を開始した。わずかな物音がするたびに俺はメイスを構え、スーはショートソードを向ける。細心の注意を払いながら森の中を移動するので歩みは遅くなる。
何とか森を抜けてマットが教えてくれた道へ出たと思われたのは、三日目の昼過ぎだった。
これまで位置関係から考えると、マットに教えてもらった村はあの村で、住人は言うまでもないだろう。
俺が少し感傷的な気持ちを抱いている隣では、スーが鼻歌を歌いながら道端の花を摘んでチョウらしき虫を追いかけている。
生まれ育った環境が違うのだから感じ方もそれぞれだし、薄情なんて言うつもりもない。
もはや街道とは呼べそうにない荒れ果てた地面を数日歩き、久し振りに町らしきところへたどり着いた。
来る途中に焚き火の跡をいくつ見つけたスーが、確信を持って歩みを進めていたのが印象的だった。
俺一人だったら行く方向も決められずに迷っていたと思う。本当にありかたい。
町は荒れ地の中とは思えないほど立派で、周囲を土壁または木枠らしきもので囲われている。入口も分厚い木の両開き扉があり、門番らしき男が二人立っている。
町の名はカケンスと言って、入る手続きを確認をすると銀貨五枚を求められただけで済んだ。
場所によっては通行証やクエストを証明する必要もある。スーは少し身構えていたが、拍子抜けするほど簡単だった。
中ではお決まりの冒険者ギルドを捜したが、それらしきものはない。
辺りを見回すと宿屋や酒場、商店は普通にある。慣れ親しんだ木のプレートだけが見つからない。
ギルドも慈善事業ではない。あんな山賊ばかりの出る場所でクエストをやっても商売あがったりになる。
こちらの世界にまだ馴染んでいない俺的には経済性から理解できる。だがスーは何か納得がいかないらしい。
「この町はおかしいのですっ」
「それって山賊のことか?」
「はいです。村が占拠されたり好き勝手していたら、この町への物資が滞っておかしくないのに、中はごく普通です」
「道は一本じゃないからだろう?」
太陽の向きからすれば、この町は師匠の森から西の方向にあると思われた。
俺たちの歩いた道は東西に続いている。この先にも人が住む町はあるだろう。山賊達のいない方向からの隊商も来ると思ったのだが、スーの考えは違った。
夜這いも、捕まってそのままアジトヘGO!もゴメンこうむる。
どこかのテレビゲームのような掛け声は気のせいにして欲しい。
いずれにしても行動は夜陰に乗じるのが一番だし、早いに越したことはない。
スーが静かに入口扉で聞き耳を立てると、少なくとも二名は見張りが立っているらしい。
外に出ることは禁じられていないので、少しなら出歩くことはできるだろうが、村の外までは絶対に無理。
ベタでも何でも構わないので、さっさと逃げ出す計画を立てて実行に移した。
まずは俺が腹痛になったと扉を開けさせ、入って来た見張りにはレモンもどき汁攻撃で目潰しののち当身。
もう一人が異変を察して出て行こうとしたところへ、スーが素早く何かを投げつけた。男は躓きながら、建物脇の松明台ともども倒れ込んだ。
いきなり騒ぎになったのはまいったが、好都合だ。火消しに人手が割かれる。
「貢物が燃えないように早く火を消せ‼」
「くっそ、急げ‼ さっさと水を持ってこい!」
俺達は村の出口を一目散に目指した。
村人は、こちらを追うか火を消すかを迷いながらも火消しに走る者が大半だった。
なかには鼻息も荒く走り来る者もいる。統率もされず我先にと争う様は、オスの生存本能というべきか。いいや、単なる性欲だろう。
興奮気味に俺達を追い掛ける村人に煽られたのか、火を消す手を止めてこちらへ来る者が徐々に増え始める。
本当に醜い。前世で俺の性欲が薄かったのは美徳だったかも、などと場違いな感想を抱いていたら、スーは顔を引きつらせている。宴会でモテモテだったから余計に危険を感じているのだろう。
俺達も松明台をなりふり構わずなぎ倒す。この辺りも風が強いようでどんどん近くの家に火が燃え移る。さすがにそれは消さざるを得ないらしい。
俺達は息も絶え絶えになりながら、どうにか村からは脱出できた。
来る時に通った道なのでわかってはいるが、地の利はどうしても追手にある。
何度か囲まれそうになるたび、スーが一人で物陰へ潜むと村人の悲鳴が聞こえた。
この状況では足手まといでしかない俺はひたすら走り続けるが、気がつけばスーが後ろに追いついている。
戻って来たスーと手を繋いでどんどん森を駆け抜ける。追手の声が聞こえなくなってようやく足を止めた。
結局、昨日と同じように木の上に身を隠すことになってしまったが仕方ない。
俺が少し落ち着いたところでスーの手をみると、宴の席で魚が刺されていた串を握っている。即席の投擲武器を晩飯を食べながら作っていたらしい。
これだけ細いと夜では絶対に見えない。まるでアサシン――絶対に敵にしてはならないタイプなのが計らずも判明してしまった。
この場はどうにか逃げ切れたが、捜索の手があることを考えると悠長にもしていられない。
スーの意見に従って朝が明ける前に行動を開始した。わずかな物音がするたびに俺はメイスを構え、スーはショートソードを向ける。細心の注意を払いながら森の中を移動するので歩みは遅くなる。
何とか森を抜けてマットが教えてくれた道へ出たと思われたのは、三日目の昼過ぎだった。
これまで位置関係から考えると、マットに教えてもらった村はあの村で、住人は言うまでもないだろう。
俺が少し感傷的な気持ちを抱いている隣では、スーが鼻歌を歌いながら道端の花を摘んでチョウらしき虫を追いかけている。
生まれ育った環境が違うのだから感じ方もそれぞれだし、薄情なんて言うつもりもない。
もはや街道とは呼べそうにない荒れ果てた地面を数日歩き、久し振りに町らしきところへたどり着いた。
来る途中に焚き火の跡をいくつ見つけたスーが、確信を持って歩みを進めていたのが印象的だった。
俺一人だったら行く方向も決められずに迷っていたと思う。本当にありかたい。
町は荒れ地の中とは思えないほど立派で、周囲を土壁または木枠らしきもので囲われている。入口も分厚い木の両開き扉があり、門番らしき男が二人立っている。
町の名はカケンスと言って、入る手続きを確認をすると銀貨五枚を求められただけで済んだ。
場所によっては通行証やクエストを証明する必要もある。スーは少し身構えていたが、拍子抜けするほど簡単だった。
中ではお決まりの冒険者ギルドを捜したが、それらしきものはない。
辺りを見回すと宿屋や酒場、商店は普通にある。慣れ親しんだ木のプレートだけが見つからない。
ギルドも慈善事業ではない。あんな山賊ばかりの出る場所でクエストをやっても商売あがったりになる。
こちらの世界にまだ馴染んでいない俺的には経済性から理解できる。だがスーは何か納得がいかないらしい。
「この町はおかしいのですっ」
「それって山賊のことか?」
「はいです。村が占拠されたり好き勝手していたら、この町への物資が滞っておかしくないのに、中はごく普通です」
「道は一本じゃないからだろう?」
太陽の向きからすれば、この町は師匠の森から西の方向にあると思われた。
俺たちの歩いた道は東西に続いている。この先にも人が住む町はあるだろう。山賊達のいない方向からの隊商も来ると思ったのだが、スーの考えは違った。
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