上 下
18 / 71

18 相棒はお人好し

しおりを挟む
 俺のジト目に焦りながらもディーノは弁解を続ける。

「お二人の身辺には細心の注意を払っていました。宿も貸切で、先程の味方全員が泊まっているところに案内する予定だったのです! それなのにこちらが準備していた宿をマットが通り過ぎるから、大慌てで追い掛けて来たんです!」
「宿のおかしな空気を感じた俺が、余計な気を回してしまったってことか」
「いえ、こちらこそ先に伝えておけば良かったのにすみませんでした」
「しかし何故俺達と言うか、スーが狙われたんだ?」
「それは――『フォートレス中が苦しんだ病を自力で回復した女の子がやって来て、その方法を伝授するから、安心してイチヨを手に入れても大丈夫』とシルビアで少しだけ宣伝したのです」
「……そういうことか」

 ディーノが申し訳なさそうに、俺やスーをチラチラと見ながら打ち明けた。
 こいつらは、寄ってたかってスーを囮にしたってことだ。いくら周囲を護衛してくれていたからと言って、知らない間に危険な目に遭わされていたなんてとんでもない。

 冒険者ギルドには囮になるクエストもある。宝石や重要な金属を運ぶ時などに、大きく喧伝をして目立つ隊商を立てるが、実はその数日前に本物は出発していることなどだ。
 俺達は知らない間に囮クエストをさせられていたことになり、破格の報酬はそれ込みだったことになる。

 食欲同様、もともとその手の欲は前の世界でも薄かったので、金額をどうこう言うつもりはない。しかし違う内容のクエストをやらされているのであれば、クラスを上げたがっているスーのために、その実績は積んだことにして欲しいと思った。
 それにスーだけは怒る権利があると思う。しかし先程から黙って立っているので、俺は言わずいられなかった。

「ディーノさん、俺達の成したことは記録に残してもらえますか?」
「それは?」
「シルビ公爵、フォレスト伯爵、冒険者ギルドの依頼に基づき囮役を見事成し遂げたことです」
「プリちゃんっ、それはすごいのですっ‼ いい考えなのですっ‼」
「お、おお、だったら自分で言わないとダメだろう? スーが一番の被害者なんだから」

 困惑するディーノを押し退けて、感激の収まらないらしいスーが俺に抱きついた。
 喜んでくれるのは嬉しいが、本来はスーが自分で交渉すべきことだ。

「スーは被害者なのですか?」
「……だろう?」
「イチヨのことは己の未熟さを知れたのです。今回の襲撃も、あのまま走って逃げ切れたと思います。だから被害はないのです!」

 目の前でニッコリと笑ったスーに、言葉を失った俺の肩をマットが優しく叩いた。

「人の良いもここまでくれば本物だ。お前がしっかりしてやらないとな」
「――やはりそうなるのか」
「そうなのです、プリちゃんはしっかり者なのですっ。でも貴族からのクエストはポイントが高いので、スーもしっかり者になるのですっ」
「そのくらいは俺達も協力しようじゃないか。なあディーノ?」

 目を爛々と輝かせたスーの視線の先にいたディーノは、マットにも肩を組まれて居心地の悪そうに頷いた。
 俺達は用意をされた宿へ向かい、ギルドが取ってくれていたのはその日だけだったが、勝手に滞在を延ばして泊まっていると、ディーノが三日目の昼過ぎに姿を現して首尾を報告してくれた。

 依頼側に引け目があるので、二つの大貴族とギルドが共同で依頼をした囮クエストを成功させたとの記録は問題なく処理された。もちろん今日までの宿代もギルド持ちだ。
 マットも当然だと頷いていたが、彼がわざわざ俺達と一緒に待っていたのはこれだけのためではない。
 襲ってきた人間がどこの者だったのか、生きたまま捕えた男のロを割らせた結果を聞きたかったのだ。

 俺達も少なからず関係者なので、聞く権利があると思わないでもない。しかしかなりのトップシークレットだと思うので、知ってしまったらこの厄介事に巻き込まれる可能性が高い。
 俺はスーへ目くばせをしたが、スーは聞く気満々らしく身を乗り出して大きく頷いている。
 諦めた俺も腰を落ち着けて、ディーノとマットの話へ耳を傾けることにした。

 あの夜に捕まえた男達は、ダグレス帝国の人間ではなかった。
 帝国西端にあるイチヨ産地の山岳部族を名乗る者から、スーの誘拐を請け負ったならず者の集団だった。もし例の腹痛の効果的な治癒法が確立されれば、産地としては何の遠慮もなく果物を流通させられる。要はフルーツも売って薬も売る、欲の皮の突っ張った連中が黒幕というのが、取り調べ結果らしい。
 しかし誘拐の依頼者は帝国内の者だ。その点にはマットだけでなく俺も引っ掛かる。
 ディーノが話を終えると、マットは俺に顔を向けた。

「どう思う?」
「一応筋は通っているみたいだが、乱暴な話だな」
「同じ意見だ。俺の見立てと違うから言うわけではないが、無条件ではとても信じられない。ギルドはどうなんだ?」

 厳しい表情をしたマットの問い掛けに、ディーノは少し声を落として口を開いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?

伽羅
ファンタジー
 転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。  このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。  自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。 そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。 このまま下町でスローライフを送れるのか?

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

処理中です...