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18 相棒はお人好し
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俺のジト目に焦りながらもディーノは弁解を続ける。
「お二人の身辺には細心の注意を払っていました。宿も貸切で、先程の味方全員が泊まっているところに案内する予定だったのです! それなのにこちらが準備していた宿をマットが通り過ぎるから、大慌てで追い掛けて来たんです!」
「宿のおかしな空気を感じた俺が、余計な気を回してしまったってことか」
「いえ、こちらこそ先に伝えておけば良かったのにすみませんでした」
「しかし何故俺達と言うか、スーが狙われたんだ?」
「それは――『フォートレス中が苦しんだ病を自力で回復した女の子がやって来て、その方法を伝授するから、安心してイチヨを手に入れても大丈夫』とシルビアで少しだけ宣伝したのです」
「……そういうことか」
ディーノが申し訳なさそうに、俺やスーをチラチラと見ながら打ち明けた。
こいつらは、寄ってたかってスーを囮にしたってことだ。いくら周囲を護衛してくれていたからと言って、知らない間に危険な目に遭わされていたなんてとんでもない。
冒険者ギルドには囮になるクエストもある。宝石や重要な金属を運ぶ時などに、大きく喧伝をして目立つ隊商を立てるが、実はその数日前に本物は出発していることなどだ。
俺達は知らない間に囮クエストをさせられていたことになり、破格の報酬はそれ込みだったことになる。
食欲同様、もともとその手の欲は前の世界でも薄かったので、金額をどうこう言うつもりはない。しかし違う内容のクエストをやらされているのであれば、クラスを上げたがっているスーのために、その実績は積んだことにして欲しいと思った。
それにスーだけは怒る権利があると思う。しかし先程から黙って立っているので、俺は言わずいられなかった。
「ディーノさん、俺達の成したことは記録に残してもらえますか?」
「それは?」
「シルビ公爵、フォレスト伯爵、冒険者ギルドの依頼に基づき囮役を見事成し遂げたことです」
「プリちゃんっ、それはすごいのですっ‼ いい考えなのですっ‼」
「お、おお、だったら自分で言わないとダメだろう? スーが一番の被害者なんだから」
困惑するディーノを押し退けて、感激の収まらないらしいスーが俺に抱きついた。
喜んでくれるのは嬉しいが、本来はスーが自分で交渉すべきことだ。
「スーは被害者なのですか?」
「……だろう?」
「イチヨのことは己の未熟さを知れたのです。今回の襲撃も、あのまま走って逃げ切れたと思います。だから被害はないのです!」
目の前でニッコリと笑ったスーに、言葉を失った俺の肩をマットが優しく叩いた。
「人の良いもここまでくれば本物だ。お前がしっかりしてやらないとな」
「――やはりそうなるのか」
「そうなのです、プリちゃんはしっかり者なのですっ。でも貴族からのクエストはポイントが高いので、スーもしっかり者になるのですっ」
「そのくらいは俺達も協力しようじゃないか。なあディーノ?」
目を爛々と輝かせたスーの視線の先にいたディーノは、マットにも肩を組まれて居心地の悪そうに頷いた。
俺達は用意をされた宿へ向かい、ギルドが取ってくれていたのはその日だけだったが、勝手に滞在を延ばして泊まっていると、ディーノが三日目の昼過ぎに姿を現して首尾を報告してくれた。
依頼側に引け目があるので、二つの大貴族とギルドが共同で依頼をした囮クエストを成功させたとの記録は問題なく処理された。もちろん今日までの宿代もギルド持ちだ。
マットも当然だと頷いていたが、彼がわざわざ俺達と一緒に待っていたのはこれだけのためではない。
襲ってきた人間がどこの者だったのか、生きたまま捕えた男のロを割らせた結果を聞きたかったのだ。
俺達も少なからず関係者なので、聞く権利があると思わないでもない。しかしかなりのトップシークレットだと思うので、知ってしまったらこの厄介事に巻き込まれる可能性が高い。
俺はスーへ目くばせをしたが、スーは聞く気満々らしく身を乗り出して大きく頷いている。
諦めた俺も腰を落ち着けて、ディーノとマットの話へ耳を傾けることにした。
あの夜に捕まえた男達は、ダグレス帝国の人間ではなかった。
帝国西端にあるイチヨ産地の山岳部族を名乗る者から、スーの誘拐を請け負ったならず者の集団だった。もし例の腹痛の効果的な治癒法が確立されれば、産地としては何の遠慮もなく果物を流通させられる。要はフルーツも売って薬も売る、欲の皮の突っ張った連中が黒幕というのが、取り調べ結果らしい。
しかし誘拐の依頼者は帝国内の者だ。その点にはマットだけでなく俺も引っ掛かる。
ディーノが話を終えると、マットは俺に顔を向けた。
「どう思う?」
「一応筋は通っているみたいだが、乱暴な話だな」
「同じ意見だ。俺の見立てと違うから言うわけではないが、無条件ではとても信じられない。ギルドはどうなんだ?」
厳しい表情をしたマットの問い掛けに、ディーノは少し声を落として口を開いた。
「お二人の身辺には細心の注意を払っていました。宿も貸切で、先程の味方全員が泊まっているところに案内する予定だったのです! それなのにこちらが準備していた宿をマットが通り過ぎるから、大慌てで追い掛けて来たんです!」
「宿のおかしな空気を感じた俺が、余計な気を回してしまったってことか」
「いえ、こちらこそ先に伝えておけば良かったのにすみませんでした」
「しかし何故俺達と言うか、スーが狙われたんだ?」
「それは――『フォートレス中が苦しんだ病を自力で回復した女の子がやって来て、その方法を伝授するから、安心してイチヨを手に入れても大丈夫』とシルビアで少しだけ宣伝したのです」
「……そういうことか」
ディーノが申し訳なさそうに、俺やスーをチラチラと見ながら打ち明けた。
こいつらは、寄ってたかってスーを囮にしたってことだ。いくら周囲を護衛してくれていたからと言って、知らない間に危険な目に遭わされていたなんてとんでもない。
冒険者ギルドには囮になるクエストもある。宝石や重要な金属を運ぶ時などに、大きく喧伝をして目立つ隊商を立てるが、実はその数日前に本物は出発していることなどだ。
俺達は知らない間に囮クエストをさせられていたことになり、破格の報酬はそれ込みだったことになる。
食欲同様、もともとその手の欲は前の世界でも薄かったので、金額をどうこう言うつもりはない。しかし違う内容のクエストをやらされているのであれば、クラスを上げたがっているスーのために、その実績は積んだことにして欲しいと思った。
それにスーだけは怒る権利があると思う。しかし先程から黙って立っているので、俺は言わずいられなかった。
「ディーノさん、俺達の成したことは記録に残してもらえますか?」
「それは?」
「シルビ公爵、フォレスト伯爵、冒険者ギルドの依頼に基づき囮役を見事成し遂げたことです」
「プリちゃんっ、それはすごいのですっ‼ いい考えなのですっ‼」
「お、おお、だったら自分で言わないとダメだろう? スーが一番の被害者なんだから」
困惑するディーノを押し退けて、感激の収まらないらしいスーが俺に抱きついた。
喜んでくれるのは嬉しいが、本来はスーが自分で交渉すべきことだ。
「スーは被害者なのですか?」
「……だろう?」
「イチヨのことは己の未熟さを知れたのです。今回の襲撃も、あのまま走って逃げ切れたと思います。だから被害はないのです!」
目の前でニッコリと笑ったスーに、言葉を失った俺の肩をマットが優しく叩いた。
「人の良いもここまでくれば本物だ。お前がしっかりしてやらないとな」
「――やはりそうなるのか」
「そうなのです、プリちゃんはしっかり者なのですっ。でも貴族からのクエストはポイントが高いので、スーもしっかり者になるのですっ」
「そのくらいは俺達も協力しようじゃないか。なあディーノ?」
目を爛々と輝かせたスーの視線の先にいたディーノは、マットにも肩を組まれて居心地の悪そうに頷いた。
俺達は用意をされた宿へ向かい、ギルドが取ってくれていたのはその日だけだったが、勝手に滞在を延ばして泊まっていると、ディーノが三日目の昼過ぎに姿を現して首尾を報告してくれた。
依頼側に引け目があるので、二つの大貴族とギルドが共同で依頼をした囮クエストを成功させたとの記録は問題なく処理された。もちろん今日までの宿代もギルド持ちだ。
マットも当然だと頷いていたが、彼がわざわざ俺達と一緒に待っていたのはこれだけのためではない。
襲ってきた人間がどこの者だったのか、生きたまま捕えた男のロを割らせた結果を聞きたかったのだ。
俺達も少なからず関係者なので、聞く権利があると思わないでもない。しかしかなりのトップシークレットだと思うので、知ってしまったらこの厄介事に巻き込まれる可能性が高い。
俺はスーへ目くばせをしたが、スーは聞く気満々らしく身を乗り出して大きく頷いている。
諦めた俺も腰を落ち着けて、ディーノとマットの話へ耳を傾けることにした。
あの夜に捕まえた男達は、ダグレス帝国の人間ではなかった。
帝国西端にあるイチヨ産地の山岳部族を名乗る者から、スーの誘拐を請け負ったならず者の集団だった。もし例の腹痛の効果的な治癒法が確立されれば、産地としては何の遠慮もなく果物を流通させられる。要はフルーツも売って薬も売る、欲の皮の突っ張った連中が黒幕というのが、取り調べ結果らしい。
しかし誘拐の依頼者は帝国内の者だ。その点にはマットだけでなく俺も引っ掛かる。
ディーノが話を終えると、マットは俺に顔を向けた。
「どう思う?」
「一応筋は通っているみたいだが、乱暴な話だな」
「同じ意見だ。俺の見立てと違うから言うわけではないが、無条件ではとても信じられない。ギルドはどうなんだ?」
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