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4 神様三度

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 話を戻すと、持ち主は残念ながら、つるん・ぺたん・ないんの三拍子揃ったプリーストだ。
 一応女の子なのでプリーステステスとかが正しい呼び方みたいだけど、マイクテステスみたいに呼びにくいので勘弁。
 唯一の救いは、かわいらしい声の若い女の子みたいと言うことくらいか。
 何故そんな曖昧かと聞かれれば、店で買われた時の俺は多分寝ていたと思われ、気がついたら背負われて移動している最中だった。何せ俺の視界があるのは盾の外側だから、いつも見えるのは、ありがたくもないムサイおっさんの顔とか、剣とか槍の先ばかりだ。先端恐怖症じゃなくて助かった。

 俺は持ち主の顔をほとんど見られていないのと、たまに見える服装から男のようなズボンをはいていることくらいしか容姿は知らない。持ち主のつるん・ぺたん・ないんがわかった理由も、ムサイおっさん達の下卑た揶揄からだ。
 俺の元の世界なら間違いなくセクハラ敗訴確定レベルだが、こちらはそんなことを気にすることもないし、もっとお下劣な下ネタも平気で口にしている。その点はとても気に入っている……今の感想は忘れてくれたら嬉しい。

 しかし持ち主の盾の使い方が根本的に間違っているところは、是非とも何とかしてもらいたい。
 どうして俺を尻に敷いて座るのか。更に俺の視界のある方を何故地面へ向けるのか。上向きならまだしも、それがあまりにも不快だ――深い意味はないしダジャレでもない。
 ボンッ・キュッ・ボンッのボンッが乗るならまだしも、つるん・ぺたん・ないんだから、敵から攻撃を受けているわけでもないのに、何か堅い物が内側からも当たって、地味に両面攻撃を受けているように感じてしまう。
 また、ご飯時にはお惣菜プレートにも早変わりさせられる。この時は俺の視界がある方が下なのは救いだ、と言っていいのか?
 他には湯を沸かす時には鍋の蓋にもされるし、雪があればソリにもなる。金属で覆われて浮力がなくなっていなければ、水泳が得意でない持ち主のビート板もやらされただろう。
 まあこれらは持ち主を守る盾の機能の一部……と言えなくもないので無理矢理目を瞑ろう。盾になったお前に目があるかって突っ込みはしないで欲しい。

 だが俺が直すべきと考える極め付けは、何故かこの持ち主は、周囲の人間たちへ話すのと同じように俺へも話し掛けてくる点だ。鉄の盾と会話をする痛いコにしかきっと思われていない。

「だから聞いてよ、カッシー」
(お前がプリーストでプリなんて名前にしているからって、俺にまでおかしな名前を付けるな)
「ネイマールったら、またお尻を触って来たのよ」
(色々な趣味の野郎がいるもんだな。でもお前、俺でしっかり防いでたろう? おかげてムサイおっさんの指紋がべ夕べ夕だ)
「ほんと嫌になるわよね」
(俺もだ)

 こんな感じで不思議と会話はいつも成立している。
 そうしていると、もう一人の痛いコが会話へ入ってくる。

「プリちゃんのカッシーさんは今日も元気そうなのです」
「うん、スーちゃんも遊ぶ?」
「遊ぶのですっ」
「やっぱり重いね」
「はいですっ」

 女の子二人が、意味もなく俺を神輿みたいに担ぎ揚げて遊びだした。これもいつものことだ。
 持ち主に誘われたのは、幼なじみの仲良しスカウトのスーだ。
 短かめの明るい金色の髪が、そのまま性格を現わしているかのようなとても元気な女の子なのだが、このコのほうこそズボンを履くべきではないかと、俺は思っている。

 大きめの目とサクランボのようなぷっくりとした唇をしていて、かなりかわいい容姿でスカウトらしく活発な行動を短いスカートでするから、盾の俺が心配になるくらい下着が見えまくっている。ただし、元の世界のようにレースやらリボンみたいな色気のあるものは履いていないので、そうそう劣情を催すものではないが、目の毒には違いない。
 当然のことと言っていいのかわからないが、セクハラおっさんのお触り攻撃はスーにも仕掛けられるが、スカウトらしくあっさり避けるので成功したのを見たことはない。

 このコの名前も俺の感覚ではおかしいのだが、こちらの世界では普通なのかもしれない。まわりのセクハラおっさん達はどこも疑問に感じていなさそうだし、持ち主とスーもこの冒険者のパーティに、何の違和感もなく溶け込んでいるように思える。
 今は受諾したクエストを完遂させた帰り道の小休止中だが、いい加減疲れた二人が俺を木へ立て掛けたところで、突然神様が現れた。
 当然俺にしか見えていないのだろうが、相変わらず真っ白な長衣で、今回は以前には見たことない木の杖を握っていた。

『待たせたな、そろそろ自我を消してやろう』
(あれから三百年以上経ったらしいですが?)
『そんな細かいことを気にならぬように木にしてやったのだ』
(……おい)
『うおほん、では始めるか』

 ダじゃレを誤魔化すわざとらしい咳払いの後で、神様がおもむろに持ち上げた木の杖が輝き始めた。
 本当に何の前置きもなく始まりそうな雰囲気に、俺は慌ててストップをかけた。

(ちょっと待ってくれ! 自我をなくすってどの時点までのだ?)
『ん? 勿論、今この瞬間までだ。お前が転生したことを覚えている自我など必要ないからな』
(それは困る! 木になってからはせめて残してもらえないか⁉)
『そんな小回りは効かない仕様でな。だが待たせたこちらにも少しは非がある。しばしの猶予をやるから気持ちの整理がついたら私を呼ベ』

 ドロンと音が聞こえそうな消え方をした神様を、俺は茫然と見送るしかできなかった。
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