上 下
6 / 79

第6話

しおりを挟む
 数カ月が経って――私は、小犬となったリオウの分身と一緒に新しい生活を送っている。

 分身の肉体が本体と離れすぎるとお互いの状態を知ることができなくなるようだから、私達は問題ない距離にいた。

 私とリオウは国内の村で、回復魔法使いとして問題なく生活することができている。
 最初は宿に泊まっていたけど……周辺のモンスターをリオウが倒して、私が怪我をした人達を回復魔法で治療していると、庭付きの屋敷を村長から貰うことになっていた。

 貰った屋敷は私とリオウが住むだけだと大きすぎる気がしたけど、村長はそこまで私達に感謝しているようだ。

 屋敷の居間で、私は膝の上に乗っているリオウを撫でながら話す。

「家を出た時はどうなるかと思ったけど、なんとかなったわね」

『そうですね……この村の周囲はモンスターが多かったので、回復魔法使いが必要な場所だと思っていました』

 そうリオウが言ったのは、この村に来たのはリオウの提案だからだ。
 屋敷を出て私達は国内の好きな場所に行けたから、リオウの行きたい場所に向かっている。

 魔界から来たとされる魔力を持った化物「モンスター」に対抗する為、野生動物は魔力を宿すらしい。
 その中で稀に膨大な魔力を宿す動物が生まれることがあって、その動物は聖獣と呼ばれる。

 この村の近くでリオウは生まれたこともあるけど、回復魔法を使う私のことを考慮してくれている。

「モンスターが多いから私の回復魔法が役立って、リオウがモンスターを倒して村は平和になっているわ」

『はい。周辺のモンスターは、私の敵ではありません」

 聖獣リオウはこの国でかなり有名なようだけど、私の膝に乗るリオウは両手で抱えられるほどの小犬だ。

「村の人達はリオウは私が魔法で強化していると思っているみたいだけど、見た目のせいね」

 白くもふもふとした毛玉のような小犬で、今のリオウは物凄く愛嬌がある。
 戦闘では全身を駆使した体当たりでモンスターを一撃で倒すけど、傍にいる私の力だと村の人達は考えているようだ。

『私は体が小さすぎるので、誰も聖獣だと思うことはなさそうです』

 鳴き声も可愛く、リオウの分身体は村の子供達に人気があった。
 リオウと話をして、私は気になっていたことを尋ねる。

「そういえば、本体は大丈夫?」

『問題ありません……ラミダ達は様々な手段を使って私を従わせようとしていますけど、全て無視しています』

 そう言って――私は、リオウから屋敷にいる本体について聞く。

 どうやらラミダ達は、王家や他の貴族達に「今は聖獣の調子が悪い」と言い張って誤魔化しているようだ。

 聖獣リオウはファグト男爵家が有名になった理由でもあるから、誰にも懐かなくても追い出したくないらしい。

 リオウの発言がわかるのは私だけで……リオウの本体に対する発言から、ラミダ達は未だに聖獣は強いだけの動物だと思っていそう。

 高級な食事で懐柔を狙ったけど失敗していて、今では何かに興味を持たないか必死に試しているようだ。

『哀れな連中です……アミリアを捜索する案も出たようですけど、ラミダが却下していました』

「ラミダとしては嘘がバレたくないからね……捜索されたとしても、戻る気はないわ」

 元家族がどんな手段をとったとしても、私を追い出したから聖獣リオウが懐くことはない。

 このままだとファグト男爵家は没落しそうだけど、家を捨てた私には関係なかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貧乏伯爵令嬢は従姉に代わって公爵令嬢として結婚します。

しゃーりん
恋愛
貧乏伯爵令嬢ソレーユは伯父であるタフレット公爵の温情により、公爵家から学園に通っていた。 ソレーユは結婚を諦めて王宮で侍女になるために学園を卒業することは必須であった。 同い年の従姉であるローザリンデは、王宮で侍女になるよりも公爵家に嫁ぐ自分の侍女になればいいと嫌がらせのように侍女の仕事を与えようとする。 しかし、家族や人前では従妹に優しい令嬢を演じているため、横暴なことはしてこなかった。 だが、侍女になるつもりのソレーユに王太子の側妃になる話が上がったことを知ったローザリンデは自分よりも上の立場になるソレーユが許せなくて。 立場を入れ替えようと画策したローザリンデよりソレーユの方が幸せになるお話です。

父の大事な家族は、再婚相手と異母妹のみで、私は元より家族ではなかったようです

珠宮さくら
恋愛
フィロマという国で、母の病を治そうとした1人の少女がいた。母のみならず、その病に苦しむ者は、年々増えていたが、治せる薬はなく、進行を遅らせる薬しかなかった。 その病を色んな本を読んで調べあげた彼女の名前は、ヴァリャ・チャンダ。だが、それで病に効く特効薬が出来上がることになったが、母を救うことは叶わなかった。 そんな彼女が、楽しみにしていたのは隣国のラジェスへの留学だったのだが、そのために必死に貯めていた資金も父に取り上げられ、義母と異母妹の散財のために金を稼げとまで言われてしまう。 そこにヴァリャにとって救世主のように現れた令嬢がいたことで、彼女の人生は一変していくのだが、彼女らしさが消えることはなかった。

妹が嫌がっているからと婚約破棄したではありませんか。それで路頭に迷ったと言われても困ります。

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるラナーシャは、妹同伴で挨拶をしに来た婚約者に驚くことになった。 事前に知らされていなかったことであるため、面食らうことになったのである。 しかもその妹は、態度が悪かった。明らかにラナーシャに対して、敵意を抱いていたのだ。 だがそれでも、ラナーシャは彼女を受け入れた。父親がもたらしてくれた婚約を破談してはならないと、彼女は思っていたのだ。 しかしそんな彼女の思いは二人に裏切られることになる。婚約者は、妹が嫌がっているからという理由で、婚約破棄を言い渡してきたのだ。 呆気に取られていたラナーシャだったが、二人の意思は固かった。 婚約は敢え無く破談となってしまったのだ。 その事実に、ラナーシャの両親は憤っていた。 故に相手の伯爵家に抗議した所、既に処分がなされているという返答が返ってきた。 ラナーシャの元婚約者と妹は、伯爵家を追い出されていたのである。 程なくして、ラナーシャの元に件の二人がやって来た。 典型的な貴族であった二人は、家を追い出されてどうしていいかわからず、あろうことかラナーシャのことを頼ってきたのだ。 ラナーシャにそんな二人を助ける義理はなかった。 彼女は二人を追い返して、事なきを得たのだった。

なんでも思い通りにしないと気が済まない妹から逃げ出したい

木崎優
恋愛
「君には大変申し訳なく思っている」 私の婚約者はそう言って、心苦しそうに顔を歪めた。「私が悪いの」と言いながら瞳を潤ませている、私の妹アニエスの肩を抱きながら。 アニエスはいつだって私の前に立ちはだかった。 これまで何ひとつとして、私の思い通りになったことはない。すべてアニエスが決めて、両親はアニエスが言うことならと頷いた。 だからきっと、この婚約者の入れ替えも両親は快諾するのだろう。アニエスが決めたのなら間違いないからと。 もういい加減、妹から離れたい。 そう思った私は、魔術師の弟子ノエルに結婚を前提としたお付き合いを申し込んだ。互いに利のある契約として。 だけど弟子だと思ってたその人は実は魔術師で、しかも私を好きだったらしい。

妹に全てを奪われるなら、私は全てを捨てて家出します

ねこいかいち
恋愛
子爵令嬢のティファニアは、婚約者のアーデルとの結婚を間近に控えていた。全ては順調にいく。そう思っていたティファニアの前に、ティファニアのものは何でも欲しがる妹のフィーリアがまたしても欲しがり癖を出す。「アーデル様を、私にくださいな」そうにこやかに告げるフィーリア。フィーリアに甘い両親も、それを了承してしまう。唯一信頼していたアーデルも、婚約破棄に同意してしまった。私の人生を何だと思っているの? そう思ったティファニアは、家出を決意する。従者も連れず、祖父母の元に行くことを決意するティファニア。もう、奪われるならば私は全てを捨てます。帰ってこいと言われても、妹がいる家になんて帰りません。

婚約者と妹が運命的な恋をしたそうなので、お望み通り2人で過ごせるように別れることにしました

柚木ゆず
恋愛
※4月3日、本編完結いたしました。4月5日(恐らく夕方ごろ)より、番外編の投稿を始めさせていただきます。 「ヴィクトリア。君との婚約を白紙にしたい」 「おねぇちゃん。実はオスカーさんの運命の人だった、妹のメリッサです……っ」  私の婚約者オスカーは真に愛すべき人を見つけたそうなので、妹のメリッサと結婚できるように婚約を解消してあげることにしました。  そうして2人は呆れる私の前でイチャイチャしたあと、同棲を宣言。幸せな毎日になると喜びながら、仲良く去っていきました。  でも――。そんな毎日になるとは、思わない。  2人はとある理由で、いずれ婚約を解消することになる。  私は破局を確信しながら、元婚約者と妹が乗る馬車を眺めたのでした。

幼い頃、義母に酸で顔を焼かれた公爵令嬢は、それでも愛してくれた王太子が冤罪で追放されたので、ついていくことにしました。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 設定はゆるくなっています、気になる方は最初から読まないでください。 ウィンターレン公爵家令嬢ジェミーは、幼い頃に義母のアイラに酸で顔を焼かれてしまった。何とか命は助かったものの、とても社交界にデビューできるような顔ではなかった。だが不屈の精神力と仮面をつける事で、社交界にデビューを果たした。そんなジェミーを、心優しく人の本質を見抜ける王太子レオナルドが見初めた。王太子はジェミーを婚約者に選び、幸せな家庭を築くかに思われたが、王位を狙う邪悪な弟に冤罪を着せられ追放刑にされてしまった。

婚約破棄の翌日に謝罪されるも、再び婚約する気はありません

黒木 楓
恋愛
 子爵令嬢パトリシアは、カルスに婚約破棄を言い渡されていた。  激務だった私は婚約破棄になったことに内心喜びながら、家に帰っていた。  婚約破棄はカルスとカルスの家族だけで決めたらしく、他の人は何も知らない。  婚約破棄したことを報告すると大騒ぎになり、私の協力によって領地が繁栄していたことをカルスは知る。  翌日――カルスは謝罪して再び婚約して欲しいと頼み込んでくるけど、婚約する気はありません。

処理中です...