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第3話
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屋敷を出てから、数ヶ月が経っている。
私はルザード伯爵家を捨てたけど、国を出ようとはしなかった。
悪いのは全て元妹デーリカなのに、元婚約者オリドスは私を捨てている。
それによるルザード伯爵家の末路は気になっていたから、私は国内で生活することにしていた。
家を捨てた私はすぐに冒険者ギルドへ向かい、冒険者登録をしている。
平民の冒険者シンディとして活躍し、新生活を送ることができていた。
元貴族令嬢でも冒険者登録はできるし、私の力が最も生かせると考えたからだ。
冒険者になれた私は、今まで順調に依頼をこなしている。
問題があるとすれば、ランクが高くなりすぎて他国に行って欲しいと頼まれていること。
そして――貴族達の内情は、平民の冒険者となった私の耳に入ってこないということだ。
私は依頼を終えて、冒険者ギルドのテーブル席に座っている。
食堂も併設しているから少し遅い昼食を食べて、思わず呟いてしまう。
「ルザード家では確実に問題が発生しているはずですが、隠し通せるものなのですね」
何も聞くことができないのは……平民の冒険者で、貴族について知ろうとする人がいないからなのかもしれない。
冒険者としての生活を優先するなら、ルザード伯爵家のことを完全に忘れた方がいい気がしてくる。
もう他国へ行こうかと考えていた時―ー私の前に、1人の美少年が座った。
「冒険者シンディ――同じ名前なのだろうかと思いましたけど、やはりシンディ様でしたか」
黒く長い髪をした美少年が正面にいて、私を眺めて微笑む。
嬉しそうにしている姿を目にすると、その姿に見覚えがあった私は話す。
「貴方は……バルギオ公爵家の、ヨハン様ですね」
「その通りです。シンディ様の事情を、私は知っています」
冒険者シンディは有名だから、そこからヨハンは調べたのかもしれない。
登録する際に別の名前にできたようだけど、そこまでする必要はないと考えてしまう。
それによって、ヨハンは私が家を捨てて冒険者として活動していることを知ったようだ。
バルギオ公爵家のヨハンが、冒険者となった私に何か用だろうか?
思案した私は、真っ先に思い当たることを話す。
「……もう私は、ルザード伯爵家とは無関係です」
デーリカが、何か迷惑をかけていそう。
そう考えて先に話すと、ヨハンは笑いだした。
「はははっ。やはりシンディ様は、ルザード伯爵家が気になったから国内にいたのですね」
「うっっ……そう、ですね」
図星を突かれたことで、私は顔が赤くなってしまう。
デーリカのせいで迷惑がかかっているのなら、ヨハンは笑っていないはず。
どうやらデーリカとは無関係のようだけど、それならここに来た理由がわからない。
困惑していると、ヨハンが私に話す。
「私がここに来たのは、冒険者シンディ様をバルギオ公爵家の屋敷に招待したいからです」
「……えっ?」
「優秀な冒険者を護衛として傍にいてもらう。これは普通にあることで――信頼できるシンディ様に、傍にいて欲しいと考えています」
そう言ってくれるのは嬉しいけど、不安なこともある。
「あの、私が行くと迷惑がかかるかもしれません」
「それについては大丈夫です。数ヶ月前に、オリドスはシンディ様をルザード家から除籍しています」
「そうなんですか?」
それは知りたかったことだけど、ヨハンは調べていたようだ。
思わず私が尋ねると、ヨハンは詳しく説明してくれる。
「はい。どうやらデーリカが、ルザード伯爵家に戻さないようにしたいと話した結果のようです。ルザード伯爵家の領主が気づいたのは、手続きを終えた後だと聞いています」
元父はデーリカの行動を知り、絶望したに違いない。
私がルザード伯爵家と完全に無関係なら、ヨハンの屋敷で護衛になっても問題なさそうだ。
「冒険者になって数ヶ月程度ですが、私でよろしいのでしょうか?」
「シンディ様の活躍は聞いてます。それに……ルザード伯爵家について、シンディ様は知りたいのではないかと思いました」
どうやら私の考えを、ヨハンはわかっているようだ。
何も問題はなさそうだから、私はヨハンの提案を受けることにした。
私はルザード伯爵家を捨てたけど、国を出ようとはしなかった。
悪いのは全て元妹デーリカなのに、元婚約者オリドスは私を捨てている。
それによるルザード伯爵家の末路は気になっていたから、私は国内で生活することにしていた。
家を捨てた私はすぐに冒険者ギルドへ向かい、冒険者登録をしている。
平民の冒険者シンディとして活躍し、新生活を送ることができていた。
元貴族令嬢でも冒険者登録はできるし、私の力が最も生かせると考えたからだ。
冒険者になれた私は、今まで順調に依頼をこなしている。
問題があるとすれば、ランクが高くなりすぎて他国に行って欲しいと頼まれていること。
そして――貴族達の内情は、平民の冒険者となった私の耳に入ってこないということだ。
私は依頼を終えて、冒険者ギルドのテーブル席に座っている。
食堂も併設しているから少し遅い昼食を食べて、思わず呟いてしまう。
「ルザード家では確実に問題が発生しているはずですが、隠し通せるものなのですね」
何も聞くことができないのは……平民の冒険者で、貴族について知ろうとする人がいないからなのかもしれない。
冒険者としての生活を優先するなら、ルザード伯爵家のことを完全に忘れた方がいい気がしてくる。
もう他国へ行こうかと考えていた時―ー私の前に、1人の美少年が座った。
「冒険者シンディ――同じ名前なのだろうかと思いましたけど、やはりシンディ様でしたか」
黒く長い髪をした美少年が正面にいて、私を眺めて微笑む。
嬉しそうにしている姿を目にすると、その姿に見覚えがあった私は話す。
「貴方は……バルギオ公爵家の、ヨハン様ですね」
「その通りです。シンディ様の事情を、私は知っています」
冒険者シンディは有名だから、そこからヨハンは調べたのかもしれない。
登録する際に別の名前にできたようだけど、そこまでする必要はないと考えてしまう。
それによって、ヨハンは私が家を捨てて冒険者として活動していることを知ったようだ。
バルギオ公爵家のヨハンが、冒険者となった私に何か用だろうか?
思案した私は、真っ先に思い当たることを話す。
「……もう私は、ルザード伯爵家とは無関係です」
デーリカが、何か迷惑をかけていそう。
そう考えて先に話すと、ヨハンは笑いだした。
「はははっ。やはりシンディ様は、ルザード伯爵家が気になったから国内にいたのですね」
「うっっ……そう、ですね」
図星を突かれたことで、私は顔が赤くなってしまう。
デーリカのせいで迷惑がかかっているのなら、ヨハンは笑っていないはず。
どうやらデーリカとは無関係のようだけど、それならここに来た理由がわからない。
困惑していると、ヨハンが私に話す。
「私がここに来たのは、冒険者シンディ様をバルギオ公爵家の屋敷に招待したいからです」
「……えっ?」
「優秀な冒険者を護衛として傍にいてもらう。これは普通にあることで――信頼できるシンディ様に、傍にいて欲しいと考えています」
そう言ってくれるのは嬉しいけど、不安なこともある。
「あの、私が行くと迷惑がかかるかもしれません」
「それについては大丈夫です。数ヶ月前に、オリドスはシンディ様をルザード家から除籍しています」
「そうなんですか?」
それは知りたかったことだけど、ヨハンは調べていたようだ。
思わず私が尋ねると、ヨハンは詳しく説明してくれる。
「はい。どうやらデーリカが、ルザード伯爵家に戻さないようにしたいと話した結果のようです。ルザード伯爵家の領主が気づいたのは、手続きを終えた後だと聞いています」
元父はデーリカの行動を知り、絶望したに違いない。
私がルザード伯爵家と完全に無関係なら、ヨハンの屋敷で護衛になっても問題なさそうだ。
「冒険者になって数ヶ月程度ですが、私でよろしいのでしょうか?」
「シンディ様の活躍は聞いてます。それに……ルザード伯爵家について、シンディ様は知りたいのではないかと思いました」
どうやら私の考えを、ヨハンはわかっているようだ。
何も問題はなさそうだから、私はヨハンの提案を受けることにした。
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