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第2話
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王妃でなくなった私は、ランアス国を守っていた結界を消すことに成功した。
消したといっても結界は目に見えないから、変化に誰も気付けない。
何もできない王妃と言い出したのはそれもありそうだけど、宰相のサウス以外は何もできない王妃と思っていたようだ。
部屋から出た私は、城の中にある兵士達の訓練場へ向かうことにしていた。
魔力が増加しているから結界が消えたのは間違いないけど、確認はしておきたい。
私は訓練場の広場に到着すると、そこには苦しんでいる兵士達の姿があった。
訓練中は体を動かすことにより、結界の恩恵を受けて身体能力が向上している。
それが一気に消えた反動で、兵士達は倒れて動けなくなっていた。
「な、なんだ……? 急に体が重くなりましたけど、何が起きたのでしょうか!?」
「わからん! 敵襲でもないようだが、これは――」
「――私が城の結界を強化していましたけど全てやめたことで、貴方達がその影響を一番受けているからです」
倒れている兵士達の前で、私が何が起きたのかを話す。
人が多い場所は魔法道具で結界を張り守られているけど、私の魔法による結界を重ねることで強化していた。
それを解除した結果は今しか知ることができないから、興味があり私は聞きたいことがある。
一番強い兵士長も起き上がれないようで、私を見上げながら苦し気な声を漏らす。
「エルノア様が城の結界を強化していた? そ、そんなものは存在しないはず!」
「私はもう王妃ではありません。先ほど私が張っていた結界を全て解除し、結界の強化もやめましたけど、それにより一気に尋常じゃない疲れがきたのでしょう」
「うっっ!?」
「訓練場は身体を動かしますから、結界の恩恵で身体能力が強化されたり、疲労が回復したりしていましたけど……反動があったみたいですね」
ここまでの惨状になるのは想定外だったけど、兵士達の反応から間違いない。
結界魔法は珍し過ぎて効力がよくわかっていなかったから、兵士達は参考になった。
兵士長も納得できたのか、私に対して謝罪して頼みだす。
「今まで、申し若ありませんでした……エルノア様! 王妃をやめないでください!」
「なっ!? エルノア様は何もできない王妃じゃないんですか!」
「黙っていろ! 現状からどれほど恩恵を受けていたかわかるだろ! それが全て消えたらランアス国は終わってしまうぞ!!」
兵士が私を馬鹿にしているけど、兵士長だけは結界の力を即座に気付けたようだ。
焦りから他の兵士達も頼みはじめたのを見て、私はドスラから受け取った誓約書の紙を取り出す。
「もう魔法道具の誓約書にサインしています。貴方達が何を言っても変わりません」
「うぐっっ……だっ、誰か! 誰かエルノア様を止めてくれ!!」
動けない兵士長が叫ぶけど、兵士達は誰も起き上がることができない。
数時間経てば回復するだろうから、私は城を出て行くことにしていた。
■◇■◇■◇■◇■
宰相サウスが他国に行った時点で、私は出て行くための準備をしていた。
王妃という立場で公爵令嬢の私は、緊急時の備えでお金を持っている。
そのお金で契約書の魔法道具と馬を購入して、その馬に乗りシーフェス公爵家の屋敷に帰ってきた。
屋敷には父がいて、今日の出来事を報告する。
王妃をやめたと言い誓約書の紙を見せると、父は激怒して叫ぶ。
「ドスラ陛下に従えず王妃をやめただと!? エルノアは今すぐ城に戻り、従うと陛下に頼み込め!」
「私に向かって何もできない王妃と言い続けたドスラの元へ戻りたくありませんし、従いたくもありません」
「お前の意思などどうでもいい! 戻らないというのなら勘当だ! シーフェス家に必要ない!」
そう宣言した父に対し、私は誓約書の魔法道具を見せる。
これはドスラから受け取った物ではなく、私が用意していた家族との縁を切るための誓約書だ。
「わかりました。私は平民となりましょう、この誓約書の魔法道具に署名してください」
前に屋敷に戻った時、私は虐げられていることを家族に話した。
それでも「王妃としてドスラ陛下に迷惑をかけるな。言われた通りにしておけ」としか言ってくれない。
そんな家族とは縁を切りたくて――私は平民となり、ランアス国から出て行こう。
消したといっても結界は目に見えないから、変化に誰も気付けない。
何もできない王妃と言い出したのはそれもありそうだけど、宰相のサウス以外は何もできない王妃と思っていたようだ。
部屋から出た私は、城の中にある兵士達の訓練場へ向かうことにしていた。
魔力が増加しているから結界が消えたのは間違いないけど、確認はしておきたい。
私は訓練場の広場に到着すると、そこには苦しんでいる兵士達の姿があった。
訓練中は体を動かすことにより、結界の恩恵を受けて身体能力が向上している。
それが一気に消えた反動で、兵士達は倒れて動けなくなっていた。
「な、なんだ……? 急に体が重くなりましたけど、何が起きたのでしょうか!?」
「わからん! 敵襲でもないようだが、これは――」
「――私が城の結界を強化していましたけど全てやめたことで、貴方達がその影響を一番受けているからです」
倒れている兵士達の前で、私が何が起きたのかを話す。
人が多い場所は魔法道具で結界を張り守られているけど、私の魔法による結界を重ねることで強化していた。
それを解除した結果は今しか知ることができないから、興味があり私は聞きたいことがある。
一番強い兵士長も起き上がれないようで、私を見上げながら苦し気な声を漏らす。
「エルノア様が城の結界を強化していた? そ、そんなものは存在しないはず!」
「私はもう王妃ではありません。先ほど私が張っていた結界を全て解除し、結界の強化もやめましたけど、それにより一気に尋常じゃない疲れがきたのでしょう」
「うっっ!?」
「訓練場は身体を動かしますから、結界の恩恵で身体能力が強化されたり、疲労が回復したりしていましたけど……反動があったみたいですね」
ここまでの惨状になるのは想定外だったけど、兵士達の反応から間違いない。
結界魔法は珍し過ぎて効力がよくわかっていなかったから、兵士達は参考になった。
兵士長も納得できたのか、私に対して謝罪して頼みだす。
「今まで、申し若ありませんでした……エルノア様! 王妃をやめないでください!」
「なっ!? エルノア様は何もできない王妃じゃないんですか!」
「黙っていろ! 現状からどれほど恩恵を受けていたかわかるだろ! それが全て消えたらランアス国は終わってしまうぞ!!」
兵士が私を馬鹿にしているけど、兵士長だけは結界の力を即座に気付けたようだ。
焦りから他の兵士達も頼みはじめたのを見て、私はドスラから受け取った誓約書の紙を取り出す。
「もう魔法道具の誓約書にサインしています。貴方達が何を言っても変わりません」
「うぐっっ……だっ、誰か! 誰かエルノア様を止めてくれ!!」
動けない兵士長が叫ぶけど、兵士達は誰も起き上がることができない。
数時間経てば回復するだろうから、私は城を出て行くことにしていた。
■◇■◇■◇■◇■
宰相サウスが他国に行った時点で、私は出て行くための準備をしていた。
王妃という立場で公爵令嬢の私は、緊急時の備えでお金を持っている。
そのお金で契約書の魔法道具と馬を購入して、その馬に乗りシーフェス公爵家の屋敷に帰ってきた。
屋敷には父がいて、今日の出来事を報告する。
王妃をやめたと言い誓約書の紙を見せると、父は激怒して叫ぶ。
「ドスラ陛下に従えず王妃をやめただと!? エルノアは今すぐ城に戻り、従うと陛下に頼み込め!」
「私に向かって何もできない王妃と言い続けたドスラの元へ戻りたくありませんし、従いたくもありません」
「お前の意思などどうでもいい! 戻らないというのなら勘当だ! シーフェス家に必要ない!」
そう宣言した父に対し、私は誓約書の魔法道具を見せる。
これはドスラから受け取った物ではなく、私が用意していた家族との縁を切るための誓約書だ。
「わかりました。私は平民となりましょう、この誓約書の魔法道具に署名してください」
前に屋敷に戻った時、私は虐げられていることを家族に話した。
それでも「王妃としてドスラ陛下に迷惑をかけるな。言われた通りにしておけ」としか言ってくれない。
そんな家族とは縁を切りたくて――私は平民となり、ランアス国から出て行こう。
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