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第4話
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翌日――私は今日からただの平民で、辺境伯の婚約者となる。
馬車がやって来て……中から、1人の青年が降りていた。
馬車に乗っていた1人の好青年が、私達に対して一礼する。
執事らしき身なりをした短い黒髪の美青年で、柔らかそうな微笑みを浮かべて挨拶する。
「はじめまして……私は執事のワンドと申します」
「挨拶などいらん! さっさとそこの女を連れていけ!!」
「恐れながら申します……シーラ様はこれから辺境のファールア領に向かいます。それが別れの挨拶でよろしいのですか?」
お父様の発言に対して、ワンドと名乗った執事が冷静に聞き返す。
早く私に消えて欲しいお父様は、怒りながら叫んだ。
「構わん! もう一生会うこともないだろう!!」
激怒するお父様の隣には、嘲り嗤うお母様と妹ソフィーがいる。
お父様が叫んでから――お母様が、楽しそうな笑みを浮かべて呟く。
「契約書の内容は把握しておくべきだったわね――そう、ゼロア様にお伝えください」
「憐れなお姉様……いいえシーラ! 貴方とはもう二度と会うこともないわ!」
「かしこまりました……シーラ様、行きましょう」
勝ち誇った様子でソフィーが叫び、元家族たちの笑い声が聞こえる。
私はワンドに案内されて馬車の中に入り――馬車が動き、窓から屋敷が見えなくなっていた。
■◇■◇■◇■◇■
――馬車の中で私が不安になっていると、溜息を吐きながら執事ワンドが呟く。
「なんなんだあの一家は……おっと、失礼致しました」
思わず本音が漏れたようだけど、私は頷く。
もう家族の縁を切られたただの平民に、畏まる必要はどこにもない。
「気にしないでください……あの、これから私はワンドさん、そしてゼロア様に言わなければならないことがあります」
私はこれから――ホトルクス家の無茶苦茶な考えを、ゼロア様に話さなければならない。
先に執事のワンドに聞いてもらいたかったけど、彼は微笑みを浮かべて話す。
「私のことはワンドとお呼びください。言い辛いのであれば、私に言う必要はありませんよ……ホトルクス家の反応から、察することはできています」
「……えっ?」
まったく動じていない様子のワンドに、私は驚いていた。
そういえば……ホトルクス伯爵家の行動を見ても、引いているだけで一切怯んでいなかった。
あそこまで冷静な対応を見ると――まるでこうなることを、予想していたようだった。
そう考えてしまうと、ワンドが私を眺めて話す。
「ゼロア様は領民達のことを考え……契約書の内容を全て知った上で、シーラ様と婚約致しました」
そしてワンドは「ここまでゼロア様の予想通りになるとは……」と、主に感心している様子で呟いている。
発言を聞いた私は、一番の不安が消えたことに安堵していた。
そして――危険な辺境伯だと噂になっているゼロア様に、会いたいと想うようになっていた。
馬車がやって来て……中から、1人の青年が降りていた。
馬車に乗っていた1人の好青年が、私達に対して一礼する。
執事らしき身なりをした短い黒髪の美青年で、柔らかそうな微笑みを浮かべて挨拶する。
「はじめまして……私は執事のワンドと申します」
「挨拶などいらん! さっさとそこの女を連れていけ!!」
「恐れながら申します……シーラ様はこれから辺境のファールア領に向かいます。それが別れの挨拶でよろしいのですか?」
お父様の発言に対して、ワンドと名乗った執事が冷静に聞き返す。
早く私に消えて欲しいお父様は、怒りながら叫んだ。
「構わん! もう一生会うこともないだろう!!」
激怒するお父様の隣には、嘲り嗤うお母様と妹ソフィーがいる。
お父様が叫んでから――お母様が、楽しそうな笑みを浮かべて呟く。
「契約書の内容は把握しておくべきだったわね――そう、ゼロア様にお伝えください」
「憐れなお姉様……いいえシーラ! 貴方とはもう二度と会うこともないわ!」
「かしこまりました……シーラ様、行きましょう」
勝ち誇った様子でソフィーが叫び、元家族たちの笑い声が聞こえる。
私はワンドに案内されて馬車の中に入り――馬車が動き、窓から屋敷が見えなくなっていた。
■◇■◇■◇■◇■
――馬車の中で私が不安になっていると、溜息を吐きながら執事ワンドが呟く。
「なんなんだあの一家は……おっと、失礼致しました」
思わず本音が漏れたようだけど、私は頷く。
もう家族の縁を切られたただの平民に、畏まる必要はどこにもない。
「気にしないでください……あの、これから私はワンドさん、そしてゼロア様に言わなければならないことがあります」
私はこれから――ホトルクス家の無茶苦茶な考えを、ゼロア様に話さなければならない。
先に執事のワンドに聞いてもらいたかったけど、彼は微笑みを浮かべて話す。
「私のことはワンドとお呼びください。言い辛いのであれば、私に言う必要はありませんよ……ホトルクス家の反応から、察することはできています」
「……えっ?」
まったく動じていない様子のワンドに、私は驚いていた。
そういえば……ホトルクス伯爵家の行動を見ても、引いているだけで一切怯んでいなかった。
あそこまで冷静な対応を見ると――まるでこうなることを、予想していたようだった。
そう考えてしまうと、ワンドが私を眺めて話す。
「ゼロア様は領民達のことを考え……契約書の内容を全て知った上で、シーラ様と婚約致しました」
そしてワンドは「ここまでゼロア様の予想通りになるとは……」と、主に感心している様子で呟いている。
発言を聞いた私は、一番の不安が消えたことに安堵していた。
そして――危険な辺境伯だと噂になっているゼロア様に、会いたいと想うようになっていた。
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